第43話 お祭りは準備が楽しい法則


 会議でクラスの出し物が執事・メイド喫茶に決まり、ぼくたちのクラスも文化祭に向けて動き出していた。喫茶店のメニュー、執事・メイドの衣装、装飾品と準備しなければならないものは山積みだ。


 文化祭が近づいてきたこともあり、ぼくたちのクラスだけでなく学校中が準備で盛り上がっている。こういうお祭り前の準備というのは楽しいもので、みんな表情が明るく、活気があり、この雰囲気だけでもわくわくしてくるようだ。けれど……


「ぼくもコスプレしなきゃいけないのは、ちょっと恥ずかしいな」

「大丈夫だって弟月君、お姉さんも一緒にコスプレするから、ね!」

「明日香、それ別に励ましになってないと思う。まぁ元気出して弟月君、私も一緒にコスプレするから!」


 初めはメイド喫茶だけの話だったのに、どこで話がおかしくなったのか、最終的には執事まで追加されていて、当日はぼくも執事の格好をすることになってしまっていた。


 それもこれも姉帯さんと新妻さんの猛プッシュと、他の男子の押し付けにより半ば強制的に決まってしまったのだ。内心嘆いてる僕だけど、そんな気持ちを知ってか知らずか、姉帯さんと新妻さんは、かなりテンションが上がっている。


 まぁなんだかんだ言って、ふたりの楽しそうな姿を見ていると、ぼくも楽しくなってくる。だんだんと悩んでたことも大したものじゃないように思えてきた。


「ありがとうふたりとも、元気出して買い出し行こっか!」

「「お〜!」」


 今日のぼくたちの任務は、近くのホームセンターに備品の買い出しに行くことだ。何故ぼくたちだけ買い出しに出ているかというと、それには深い事情がありまして、初めぼくたちは教室で装飾の作成を担当していたんだけど……



「う、う〜ん。昨日身長が縮んじゃったから届かないなぁ。何時もの身長なら届くんだけどなぁ」

「お、弟月君……私が代わるから、弟月くんは危ないことしないで」


 壁の高い位置に装飾をつけようと机に上がったぼくだったけど、それでも元々の身長が低いせいで、後数センチ高さが足りないという、なんとも居た堪れない事態に、見かねた新妻さんがぼくの代わりに机の上に登ったんだ。


 姉帯さんほどではないけど女子にしては高めの身長をしている新妻さん。脚はスラッと細くて綺麗だ。さらにスカートが短すぎて、机という高い位置に登った新妻さんは、ぼくの位置からだと完璧にスカートの中が見えちゃってます⁉︎


「に、新妻さん⁉︎ 降りて降りて‼︎ す、スカートの中見えちゃうから‼︎」

「「「な、なんだってー⁉︎」」」by男子


「結、狙ったでしょ」

「何のことだか」



 ハプニングはそれだけじゃなくて、何着かだけ先に用意できた衣装のチェック、誰が着るかで真っ先に手を上げた姉帯さん。そこまではスムーズでよかったんだけど……


「弟月君、お姉さん届かないから背中のホック閉めて〜」

「ちょっ⁉︎ 背中! 背中見えちゃってるから! 早く隠して!」

「「「な、なんだってー⁉︎」」」by男子


「弟月君これ見て、このメイド服胸元開きすぎてて、お姉さんの谷間モロ見えちゃうんだけど」

「んぁああ⁉︎ か、隠して! 隠して‼︎」

「「「弟月! お前だけズルいぞ‼︎」」」by男子


「明日香、あんたこそ確信犯でしょ」

「まぁね〜」


 と、主に男子を引きつける事象が原因で、教室をかき乱してしまった結果。


「弟月君、新妻さんと姉帯さんを連れて買い出しに行ってきて、貴方達がいると男子が使い物にならないから」by委員長


 我がクラスの最高司令官から特命を受けたからなのでした。


「でも委員長っていい人だね、いつも真面目で注意ばっかりしてくるけど、お姉さんちょっと誤解してた」

「ね、ウチらだけにしてくれるなんて、ウチらの仲を応援してくれてるってことじゃんね! いい人!」

「あ、単純に厄介払い……いや、何でもないや」


 知らないことが幸せなこともある。そう思ったぼくは黙って買い出しに出たのでした。

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