第21話女の子の部屋っていい匂いがするんですね


姉帯さんの補習が終わったその日の午後。

ぼくは制服を着替えて学校の最寄駅に来ていた。


カバンには、着替えや洗面用具などのそれなりの荷物。


これからぼくは…。




女の子の家にお泊りするのである!


これ夢じゃなかろうか。

頬をつねると痛い。

女の子の友達の家に遊びに行くことを伝えると両親も同じように頬をつねっていた。

何気にひどいと今更ながらに思う。


まともに友達と呼べる人がいなかった手前、お家に遊びに行くことなんてなかった。

しかも、お泊りまで!女の子の家に!


よくよく考えると凄い事なのだが、現実味がなさ過ぎて実感がわいてこないままボンヤリとふたりが来るのを待っているのだった。




「あ、弟月くん!お待たせ。」


声をかけられた方を見ると、私服になった新妻さんがやってきた。

新妻さんは背中が大きくあいた服に下は短すぎるホットパンツ姿で、その辺を歩いている男性陣の視線を集めていた。

まぁ、刺激的だから、2度見くらいはしちゃうよね。


「ごめんね。待たせちゃった?」

「ううん、ぼくも今来たところだよ。」


そう答えると、少し固まってから顔が赤くなる新妻さん。


「あ、あれ、どうかした?」

「いや、なんかデートの待ち合わせみたいだな、って…。」

「た、確かに…。」


急に意識してぼくも顔が赤くなる。

少しの間、嬉し恥ずかしい雰囲気に包まれる。


「じゃ、じゃあさっそく明日香の家に行こっか?」


耐えきれなくなったようで、新妻さんが歩きだす。


「あれ、姉帯さんは駅にはこないの?」

「明日香、部屋汚いから。掃除してるって。」


笑いながら教えてくれる新妻さん。

うん、確かに前もそんな話をしていたっけ…。


そんなことを考えていると、不意に手を握られる。

驚いて顔を上げると、先ほどより顔を真っ赤にした新妻さんの横顔が見えた。


「だって!今の時間は人が多いから!はぐれると大変だから!」

「う、うん!ありがとう新妻さん!」


ぼくの方を見ずに言い訳のように話始める新妻さんにお礼を言い、そのまま手を繋いで歩き出すのだった。





姉帯さんの家は学校の最寄駅の一つ隣の駅から徒歩数分のところにあった。

落ち着いた雰囲気の場所にあり、お家も綺麗で立派だ。


「す、凄いね姉帯さんのお家…。」

「住んでるのは明日香だから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。」


新妻さんに手を引かれるまま玄関まで行きチャイムを鳴らす。

すると、すぐに足音が聞こえてきて玄関が開かれた。


「いらっしゃ~い!弟月くん!待ってたよ!」

「私もいるんだけどなぁ。」

「も、もちろん結もね!」

「あはは、今日はお邪魔します。」


姉帯さんに招かれるままに、上がらせてもらうぼくと新妻さん。

そこで、何かに気づいた姉帯さんから鋭いツッコミが入る。


「って!なんで手を繋いでるの⁉」


「あ、そうだった。」

「こ、これは弟月くんとはぐれないようにしていただけで…。」

「もうお姉さんの家に着いてますが?」


慌てて手を離すぼくと新妻さん。

新妻さんの手が気持ちよくて自然に手を繋いだままでいてしまった。けど新妻さん、大丈夫だったかな?


「ちっ、明日香め、目ざとい。」

「ふふ、お姉さんの目が黒いうちは…。」


大丈夫そうだった。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




そこは、まるで異世界だった。

こ、これが女の子の部屋!

なんか可愛らしいし、すごくいい匂いがする。


この空間に一晩なんて、いろんな意味で大丈夫だろうか…。


姉帯さんに案内され、彼女の部屋に入ったぼくはそう思った。

なにせ、こんなことは始めてなのだ、なんでこんないい匂いがするの?なんなの?


「まぁまずはくつろいでよ。今日はまだまだ長いからね。」

「はいはい、コンビニとかには後で行こっか。」


慣れたようにクッションを取って座る新妻さん。

ふたりは以前から友達だからお互いの家でもなんども遊んでいるのだろう。


一人でオドオドしていると、姉帯さんが声をかけてくれる。

「弟月くんも座りなよ、ほら。」ポンポンと自分も座っているベッドを叩く姉帯さん。



ベッドだ。


姉帯さんのベッドだ。


いつも姉帯さんが寝ているであろうベッドだ。




「こ、ここでいいですぅ。」

へにゃへにゃと新妻さんの隣に腰を落とす。ベッドに座る勇気はぼくにはない!


「お、やっぱり弟月くんは私の方がいいよね?」笑顔の新妻さんに肩を引き寄せられる。


顔を上げると、すぐそこには新妻さんの顔。

少し気障っぽく笑う彼女。

やだ、イケメン。


ていうか前もあったな。これ。


「ちょいちょい!ちょい!ズルいよ結!」姉帯さんがぼくの手を引き寄せる。


「むぐっ!」そのまま姉帯さんの胸に飛び込む形になり、柔らかい感触に包まれる。



ここは、天国かもしれない。


「はいはい、弟月くんがここがいいって言ってました!」今後は新妻さんに引き寄せられる。

「いやいや、見なさい弟月くんの顔を!お姉さんの胸の方が幸せそうでしょ!」


は、恥ずかしい…。




「ちょっと~明日香?結ちゃんでも来てるの?」

三人でワイワイとやっていると、姉帯さんの部屋に誰かが入ってきた。

そういえば、まだご家族に挨拶してなかったと思い、慌てて姿勢を正す。


「ちょっとお姉ちゃん!また勝手に入ってきて~。」

「あ、お姉さん、ども~。」

「いいじゃん、姉を敬いなさい。結ちゃんいらっしゃ~い!」


入ってきた人は大学生くらいの女の人だった。

セミロングのゆるふわヘアーは明るめの茶色。

姉帯さんよりも大きく見えるお胸とお尻。

みんなの会話からさっすると、どうやら姉帯さんの姉らしい。姉帯さん(姉)だ。

ぼくもしっかり挨拶しないと!


「あの、初めまして、お邪魔しています。」

「え…。」

「あ、ぼく姉帯さんのクラスメイトの弟月といいます。」

「弟月くん⁉ 弟月くんじゃん‼」

「ええ?あれ、どうしてぼくのこと?」

「明日香から写真見せてもらってたからさ、会いたかったよぉ。」


何故かいきなり姉帯さん(姉)に抱き寄せられるぼく。


こ、これは!

今まで何度か姉帯さんに抱きしめられたことがあるぼくだが…。

この胸の大きさ、柔らかさ、お姉さんヤバい。いろいろとヤバいです!


「もう!弟月くんを離して!」


姉帯さんによって解放されたぼくは、それはもうフニャフニャした顔をしていたと思う。


「いいじゃん、ちょっとくらい、明日香ぜんっぜん紹介してくれないんだもん。」

「紹介するわけないでしょ!弟月くんを誘惑すんな!」

「弟月くんも幸せそうな顔してるじゃん。」

「私の胸でもしますぅ!」



や、やめてください。死んでしまいます。



「はいはい、もう出てって出てって、私たち三人で遊ぶんだから。」

「ケチな妹ね。結ちゃんと弟月くん今日泊まっていくんでしょ?」

「はい、いつもすみません。」

「あ、あのよろしくお願いします!」

「気にしないでくつろいでね。弟月くん、夜は私の部屋に来てもいいからね。」

「ええ⁉」


「退場!姉!退場!」


強引にお姉さんを押し出す姉帯さん。

お姉さんは笑顔でぼくに手を振って出て行った。


「な、何というか親しみやすいひとだね。」

「姉のことは忘れて、私のお姉さんキャラが揺らぐから。弟月くんにとってのお姉さんは私!いいね?」

「は、はい。」

「明日香も必死ね。」



「そういえば、ご両親は?挨拶しておかないと不味いよね?」

お姉さんと会って今更ながらご家族に挨拶をしていないことが気になったぼくは、姉帯さんに尋ねてみた。





「大丈夫だよ。今日ウチの親出かけてるから!」

「…え?」

「ウチらとお姉さんだけってこと?」

「そう!だから気にしなくて大丈夫。夜通し楽しもうね!」



ご両親いないの?

この家、ぼく以外は姉帯さんと新妻さん、姉帯さん姉だけ…。


魅力的な女性陣とひとつ屋根の下なんて、大丈夫だろうか?

友達の家にお泊りという初体験に喜びつつも不安をぬぐえないぼくだった。


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