第22話夏の定番と言えば…。



姉帯さんの補習終了のお祝いでお家にお泊りにきたぼくと新妻さん。

ぼくは女の子の部屋に緊張し、姉帯さん(姉)にもドキドキして早くも心臓が疲れていた。


そんなこんなで、今は外に出ているぼくたち。

今日は映画でも見ながら夜通し語り明かそう!

という趣旨のもと、夜のための食糧調達とレンタル店に行くためである。


姉帯さんの家は駅からそう遠くなく、レンタル店も駅の近くにあったのを来たときに見つけていた。


「ふたりは何か見たいのあるの?」

レンタル店に着いたが、女の子と映画なんて見たことのないぼくは素直に聞いてみることにした。


「それはもちろん!夏と言えば定番のあれかな!」

「夏の定番?」

「ホラー映画だと思うよ。でも私も明日香苦手じゃ…。」


新妻さんが言いかけた言葉を遮るように姉帯さんが口をふさぐ。

そのままぼくには聞こえないように、ふたりはコソコソと話をはじめた。


「結!これはチャンスなんだよ!」

「チャンス?なんの?」

「いい?弟月くんは見るからに怖いのは苦手そうでしょ?」

「…まぁ確かに。」

「私たちがちょっと我慢すれば、怖がって震える弟月くんに、あんなことやこんなことまで…。」

「…いい、かも。」



「あ、あのふたりとも?ホラー映画借りるの?苦手なのに大丈夫?」

「夏の定番だからね!当然!お姉さんはホラー映画楽勝なんですけどね。」

「私も得意だから問題ないよ、夏の夜はホラーだよね。」

「す、すごいねふたりとも!ぼくはあんまり得意じゃないけど、ふたりと一緒なら大丈夫かな。」



こうしてぼくたちはホラー映画を借りて帰ることにした。

それぞれで怖そうな映画を選んでみるぼくたち。


まず姉帯さんが選んだのは『小学校の怪談』

どうみても子供向けの映画だ。ぼくに気を遣ってくれたみたいだけど、さすがにこれでは怖くない。


「姉帯さん、ぼくに気を遣わないで選んで大丈夫だよ?」

「そ、そう?お姉さんはこれでも怖いと思うけどなぁ。」


新妻さんが選んだのは『トイレの〇子さん』

うん、子供向けのアニメーションだ。どうやら新妻さんもぼくに気を遣ってくれたらしい。


「い、一応弟月くんのことを考えてね、これにしただけで、ホラー映画は得意なんだよ。」

「ご、ごめんね。ぼくに気を遣わせてちゃって…。」


姉帯さんと新妻さんは怖い映画が見たいのに、ぼくが得意じゃないと言ってしまったから…。

こうなったらぼくが、ふたりが満足するような怖い映画を選ばないと‼


「よし!じゃあぼくはこれにするよ!」

「お、どんな映画?」

「なんかハロウィンが舞台の映画みたい。確かネットでも評価が高かったはずだから面白いと思うんだ!」

「ハロウィンかぁ。なんか楽しそうだね!」

「ハロウィンもパーティーしたいねぇ。三人で仮装しよっか?」



こうしてぼくたちはホラー映画を借りて姉帯さんの家に戻ることにした。

ぼくが選んだ映画、ふたりも満足してくれるといいなぁ。


帰り際にコンビニでお菓子や飲み物を買う。

みんなでこうして、泊まりの準備をしていると段々テンションが上がってくる!

お泊り初体験のぼくには楽しいことだらけだ。







補習の後に一旦家に帰ってから集まったので、姉帯さんの家に再び着く頃にはすでに外も暗くなり始めていた。


「ただいま~。」

「お邪魔しま~す。 あれ、なんかいい匂いしない?」

「ホントだ。いい匂いだね。」


「お。おかえり~。夕飯作ってたよ。みんなで食べない?」

リビングからエプロンを付けたお姉さんが出てきた。


というか、エプロンで隠れている部分以外は素肌で、他に何も着ていないように見える。


「ちょっと!なんて格好してんの⁉」」慌ててぼくの前に立つ姉帯さん。

「なにが?」

「裸エプロンじゃん!服着て!弟月くんの目に悪い!」

「ちょ、ひど!っていうか服もちゃんと着てるけど?」


そう言って、くるっと後ろを向くお姉さん。

手で目を覆いながらも、すきまからしっかり見るぼく。


背中を向けたお姉さんはしっかりと服を着ていた。

ノースリーブとホットパンツでエプロンの上からは見えなかっただけのようだ。


「紛らわしい!」

「ていうか、お姉さん夕飯作ってくれたってウチら分もですか?」

「もちろん、せっかくだから弟月くんも結ちゃんも一緒に食べない?」


お姉さんに連れられてリビングに行くと、そこにはすでに人数分の料理が並んでいた。

綺麗に盛り付けられたサラダにメインのハンバーグ、いい匂いのするスープまである。


「うわぁ、美味しそうですね!」

「ありがと、遠慮しないで食べてね弟月くん。」


「くっ、ここぞとばかりに女子力アピールを…。」

「ふふ、明日香、これができる女というものなのだよ。」


悔しがる姉帯さん。

いつも大人っぽい姉帯さんも、本当のお姉さんの前では年相応で微笑ましかった。



四人での食卓は賑やかで楽しかった。

家族以外とこうして食事をするのは新鮮だ。


お姉さんは大学生で、家から近くの学校に通っているそうだ。


「お姉さんって料理上手だったんですね。意外でした。」

「ゆ、結ちゃん。意外はいらないかな。」

「確かに、料理は上手いよねぇ。一見できなそうなのに。」

「明日香も褒めてるのそれ?」


確かに、かなり美味しい。ハンバーグ最高である。


「でも、ホントに美味しいですよ!」

「ありがと~弟月くん!私の気に入ってくれたかな?」

「はい!ぼくハンバーグ好きなんです。スープも美味しいですし!」





「弟月くん、私と結婚したら毎日食べられるよ。」

「ふぇ⁉ け、結婚⁉」


お姉さんに囁かれて、見るも絶えないほど動揺するぼく。


「はい!今のイエローカード!次、弟月くんに手を出したら退場してもらうからね。」

「くっ、妹が邪魔をしてくる…。」



終始賑やかな食卓だった。


食事を終えたあとは、みんなで洗い物や片付けをしてから部屋に戻った。


夜も更けてきた。そろそろホラーにはいい時間である。


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