第20話 初めてのお泊り
夏休みが始まり一週間ほど経ったある日。
ぼくは制服を着て学校に来ていた。
そう、今日は姉帯さんの補習の日だ。
期末テストで赤点を取ってしまった姉帯さんは、夏休み中の補習を受けなければならなかった。
ぼくと新妻さんは何とか赤点を回避したが、姉帯さんが寂しそうにしていたので、一緒に学校に行く約束をしていたのだった。
教室に行くと、すでにふたりは到着していた。
ぼくを見るなり声をかけてくる姉帯さんと新妻さん。
「弟月くん、おはよ。」
「今日はお姉さんのために、ありがとう。」
「おはよう、姉帯さん、新妻さん。」
ふたりも当然だが、制服だった。
夏休みが始まって、まだそれほど経っていないが、ふたりの制服姿が懐かしく感じる。
うん、やっぱり制服はいいものだ。
「弟月くん、海に行ってちょっと焼けたよね。」
「うん、最初は赤かったんだけど、黒くなってきたよ。でも…。」
確かにぼくは日焼けしたけど、ぼく以上に焼けている人がいる。
「まぁ明日香ほどじゃないでしょ。」
「うんうん。姉帯さん、真っ黒だもん。」
「お姉さんは最初から焼くつもりだったから。」
姉帯さんは日焼け止めなど一切使っていなかった。
その結果が、これだ。全身がしっかりと小麦色に焼けている。
まるで毎日、外で部活動でもしているかのようだ。
日に焼けた肌は健康的で、普段から目立つ姉帯さんだが、今は より人の注目を集めそうだ。
「あ!そうだ、弟月くん。ちょっとこっち来て。これ見て!」
ちょいちょいと、姉帯さんに手招きされてホイホイと近づいていくぼく。
一体何を見せてくれるのか…。
「これ、ビキニのところだけ焼けてないの。色の違いすごくない?」
そう言って姉帯さんは胸元を広げて大きな谷間を見せてくる。
何を見せてくれるのか気になっていたぼくはバッチリとのぞき込んでしまい、慌てて目をそらすのだった。
大きな胸の途中で白と黒の境界線がしっかりと引かれていたのはバッチリ見ました。はい。
「どうだった?お姉さんもちゃんと白かったでしょ?」
「う、うん。とっても。」
ぼくには刺激的な光景すぎる。あまり思い出さないようにしよう…。
「に、新妻さんは全然焼けてないね!」
「うん、かなり気を遣ったからね。焼きたくなかったし…。」
そう言って自分の腕や脚を眺める新妻さん。
確かに、海でも日焼け止めをしっかり塗って対策していたな。
透き通るような白い肌は健在だ。
「弟月くんも塗ってくれたもんね。あんがとね。」
「あ、いや、こちらこそって言うか…。何言ってんだぼく。」
海で新妻さんに頼まれ、彼女の背中に直接手を触れて日焼け止めを塗ったことを思い出す。
あの背中のスベスベした感触と、ぼくが触れると反応する新妻さんの声…。
あかん、ダメです。これ以上は思い出してはいけない!
必死に頭を振って脳内の光景をかき消そうとするぼくだったが…。
「…また塗ってね。弟月くん。」
耳元で囁かれ、撃沈するのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ていうか、明日香。補習は大丈夫そうなの?」
「まぁね。昨日かなり勉強しました!」
「一夜づけかい。」
姉帯さんは二教科補習になっている。
たしかどちらの科目も期末テストのやり直しで8割以上が合格だったはずだ。
科目によっては、一日中補習講義を受けなければならないものもあるので、楽な方ではある。
「昨日は勉強頑張ったんだね。寝不足じゃない?大丈夫?」
「…あぁツライ、寝不足でちょーツライ!昨日二時間しか寝てないわー。」
「おい。」
急に具合が悪そうになる姉帯さん。
「え、姉帯さん?大丈夫?」
「弟月くん、お姉さんこのままだと倒れるかも。」
「ええぇ⁉ 大変だよ!どうしよう⁉」
「大丈夫、ちょっと横になれたら平気だから。」
「そ、そう?よかった。でも横になれるところなんて…。」
「はい!お姉さんにいい考えがあります。弟月くんが膝枕をですね…。」
「私の膝を貸してあげようか?」笑顔なのに笑ってない目の新妻さん。
「あ、大丈夫。お姉さん元気。」
「姉帯さん、ホントに大丈夫?」
「明日香の冗談だから大丈夫よ、弟月くん。」
「あ、でも勉強はホントに頑張ったんだよ!」
姉帯さんはフンッと大きな胸を張る。
なんだか褒めて欲しいとでも言わんばかりの視線を送ってくる姉帯さん。
「え、偉いね!勉強頑張ったんだね!」
「えへへ、でしょ? だから弟月くん!お姉さん、補習が終わったら頑張ったご褒美が欲しいなぁ。」
「明日香ぁ、あんたはまたそうやって…。」
「まぁまぁ新妻さん。それくらいならぼくは全然大丈夫だよ。」
「やった!約束だよ!」
「うん、約束…ていうかご褒美って何を…。」
「じゃ!もう時間だし、お姉さん行ってくるから!」
会話も途中に走って行ってしまう姉帯さん。
「弟月くん、軽く約束しちゃったけど、大丈夫?」
「た、たぶん…きっと。」
ご褒美って結局何をすればいいんだろう?
若干の不安を覚えつつも補習が無事に終わるのをおとなしく待つしかないぼくと新妻さんだった。
バンッ!
生物:86点 世界史:81点
「……。」ドヤァ
「……。」
「お、おめでとう!姉帯さん!」
少しの間、教室で待っていると、すごいドヤ顔の姉帯さんが戻ってきた。
手には合格点をとった補習の二科目の解答用紙。
無事に補習は終えられたようである。
「しっかり勉強頑張ったんだね。」関心するぼく。
「いや、弟月くん。この補習の答え、期末の問題とまったく一緒みたい。」
「え、そうなの⁉」
よく見てみると確かにそうだ。
見覚えのある回答が続いている。
補習と言っても本当に形だけのだったようだ。
「ま、まぁそれでもすごいでしょ?一発合格はお姉さんだけだったんだから。」
「はいはい、すごいすごい。」
「あー!結!全然心がこもってない!」
何にせよ、無事に終わったのだ。めでたしめでたしである。
「そうだ!弟月くん、ご褒美!」
「あ。そうだね、というかご褒美って何をすればいいの?」
「パジャマパーティー!」
「パ、パジャ、え?」
「パジャマパーティー!」
「パジャマパーティー。」
…え?
「今日、ウチでパジャマパーティーしようよ!お泊り女子会!」
「え、えええええ‼ 姉帯さんの家にお泊り⁉」
「うん!楽しそうでしょ?結もいいよね?」
「私は大丈夫だけど…。」
パジャマとか下着とか可愛いのを、とか何とか考え込んでしまう新妻さん。
「で、でもいいの?ぼくがお泊りしても?」
「?全然オッケーだよ! 夏だし怖い映画とか見よっか?」
「あ、じゃあ何か借りに行こうよ、明日香の家の近くにあったよね?」
「うんうん!ついでにお菓子とか買って…。」
どんどん話が進んでいってしまうが、本当に大丈夫なのだろうか?
だって女の子の部屋に行くのも初めてなのに、お、お泊りって…。
お泊りってどうするんだ。
戸惑うばかりのぼくを置いて計画はまとまったようである。
姉帯さんも新妻さんもすっかり乗り気で、今更何を言っても無駄な様子だ。
「じゃあ、一回帰って準備してから駅集合でいいよね?」
「それで! じゃあ今日は補習お疲れ様の女子会!夜通し盛り上がってこー!」
「おー!」×2
「お。おー!」
「あ、あとぼく男だからね。女子会じゃないから。女子会じゃないから。」
ここだけは言っておきたかったのである。
大事なことなので二回。
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