第9話 球技大会編 〜その2〜
3組の野球部、剛力君に因縁をもたれ勝負をふっかけられてから数日。
球技大会当日がやってきていた。
今日までの間、剛力君は何かとぼくに絡んできていた。
その度に姉帯さんと新妻さんに撃退され、涙目になりながらも、捨て台詞を言うのを忘れず、ぼくは罵倒される日々を送っていた。
まだ梅雨が明けきっていないこの時期。あいにくの雨天であり、屋外競技は早々に中止になっていた。
そうすると暇になった屋外競技の参加者が体育館に応援にやってきて、かなりの人口密度になっていた。
「うわぁ 雨と人で湿気すごいね。」
「弟月くん、しっかり水分補給しないと危ないよ。はい、お水。」
姉帯さんがペットボトルを渡してくれる。優しいなぁ。
「ありがと、、」
「弟月くん、スポドリの方が早く身体に吸収されるんだってよ。こっちをどうぞ!」
姉帯さんからペットボトルを受け取ろうとすると、ズイッと新妻さんが割って入ってきた。
「スポドリの方がいいんだ。新妻さんは物知りだね!」
「あ、いや、そんな 普通だよぉ。」
「結〜! わ、私のお水が、負けた…。」
姉帯さんが崩れ去っていく。
ぼくは新妻さんから受け取ったスポドリを飲もうとして、あることに気づいた!
これ、少し減ってますよ。
あれ、新妻さん。これもう少し飲んでる?
それだと ぼくが飲むと間接キスになってしまいません?
新妻さんを見てみると、飲まないの?とでも思っているように首をかしげる。なんてかわいいんだ!
じゃなくて!間接キスは気にしてないみたい。
それなら、とスポドリを飲ませてもらう。
ぼくだけ気にしてると何か変だからね。
グイッと一口飲み、新妻さんへボトルを返す。
「ふぅ、ありがとう新妻さ、、」
「あ〜あ、お姉さんと間接キスして欲しかったなぁ。」
「っ、ゴホッゴホッ…。」
「ちょっと明日香! って弟月くん大丈夫⁉︎」
耳元で囁かれた姉帯さんの言葉に思わずむせるぼくを新妻さんが背中をさすってくれた。
「チッ、そうやっていつも女子に面倒みてもらってるのか?恥ずかしいヤツだな、見てるだけでイラつくぜ!消えちまえよ、マジでさ。」
どこかで見ていたようで剛力君がからんできた。
「あ、はい、すみません。それじゃ。」
「チッ、意気地なしなヤツだな。」
ぼくがすぐに立ち去るのを見て何故か不満そうな剛力君。
キミが今消えろって言ったからなのに何が不満なのか?
とりあえず ぼくの後ろですごく怖い顔をなさっている おふたりを連れて、そそくさとその場を離れるのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「頑張れー!姉帯さん!新妻さん!」
応援を聞いたふたりが一瞬こちらを見たような気がした。
次の瞬間には新妻さんが動き出し、相手のスパイクを華麗にレシーブする。
クラスメイトがあげたボールを身長の高い姉帯さんが相手のコートに打ち込んでいた。
競技が始まってから、ぼくは自分のクラスの女子バレーの応援に来ている。姉帯さんと新妻さんの応援だ!
初めて知ったが、ふたりともかなり運動神経がよく、ふたりの活躍で女子バレーチームは準決勝までコマを進めていた。
スポーツでの動きだけでなく、ふたりの容姿がかなりの注目を集め、決勝の試合はかなりの人だかりができていた。
新妻さんが横っ飛びでボールを拾う!その瞬間ジャージがめくれてお腹が見える。男子の注目が集まる!
姉帯さんがスパイクで宙に飛ぶ!その時、豊満な胸が激しく揺れる。男子の熱い視線が集中する!
なんて正直な視線なんだ。
まぁぼくも思わず目で追ってしまっていますが、、
第一セットを取り、休憩タイムに入るとふたりが応援席にいる ぼくのところまで来てくれた。
「弟月く〜ん!どお?お姉さんの活躍はぶりは?すごい?」
「すごいかっこよかったよ!姉帯さん!身長高くてプロのバレー選手みたいだったよ! 」
ふふん、と満足そうに胸を張る姉帯さん。
大きなお胸が激しく主張し、周りの目を引く。
「新妻さんも!かなり活躍してたね!思わず見惚れちゃうようなプレーだったよ。」
「そ、そうかな。 ありがと。」カァー
少しうつむいて赤くなっている新妻さん。一瞬天使かと思った。
そこで、周りの視線が自分たちに集中していることに気づいた。
「おい、あのちっちゃいヤツ誰だ?」
「あのギャルたち、まっすぐにアイツのとこに行ったよな。」
「新妻さん、お綺麗だ。」
「姉帯さん胸でけ〜。」
それはそうか、今や学校中の男子から注目されている姉帯さんと新妻さんが、ふたりでぼくのところに来てくれたのだ。周りの男子からしたら気になるだろう。
なんだか怨念ごもった視線が怖くなってきたので早々に立ち去ることにする。
「ふたりとも第二セットも頑張ってね!あ、でも怪我しないように気をつけてね。」
「ん、ありがと 大丈夫だよ。」ポンポンッと頭を撫でてくれる新妻さん。
やだ、イケメン。
「お姉さん、優勝したら何かご褒美が欲しいなぁ。」
後ろから姉帯さんが抱き着きついてくる。
身長差もあり、ぼくの頭は丁度姉帯さんの大きな胸に包まれる形になり、運動していたからか、姉帯さんはいつもより身体が火照っていた。
姉帯さんの火照った柔らかな感触と、周りの男子からの凍るような視線にあたふたしながら何とか聞き返す。
「ご、ご褒美?」
「うん!ご褒美!」
「えっと、何がいいのかな?」
「う〜ん。 デートとか!お姉さんと結ね、今欲しいものがあって、お買い物一緒にどう?」
「それくらいならお安い御用だよ。」
「やった!約束だよ。弟月くんに選んでもらおうね、結!」
嬉しそうな様子でハイタッチしたふたりは、すごい気合いの入った表情でコートに戻っていった。
ぼくが選ぶ?単なる荷物持ちじゃないの?
若干の謎はあったが、男子バレーもそろそろ開始の時間だ。
ぼくも意を決して男子バレーのコートに向かうのだった。
「よぉ、逃げずに来たか。バカだなぁ。仮病でも使えばいいのに、人前で恥晒す方がいいんだな、なぁ。」
「はぁ、すいません。あのね剛力君、実はぼく…。」
「見るからに運動できなそうだもんなぁ。よしよし、潔くボコボコにしてやるよ。安心して情けない姿を晒すんだな。それを見たら姉帯さんだって俺を…ふっ。」
やはり剛力君はぼくの話をまったく聞く気がないようで、自分だけで一方的に話をしてくる。
「お前もついてないなぁ。すぐ俺のクラスとあたるなんて、他のチームなら少しは加減してくれたんじゃないか、まぁお前、運動できなそうだし、結局は無様に負けたかな、はは!」
酷い言われようだった。
「それじゃあ各チームのメンバーはコートに入って、試合始めるぞ。」
審判係の教師の合図でそれぞれ準備を始める剛力君のクラスとぼくのクラス。
剛力君は俺が主役だ!とでも言わんばかりにセンターの位置についていた。
運動神経もよく、身長も高めの彼は向こうのクラスの主軸なのだろう。
一方ぼくは…。
コートから出てベンチに座っていた。
「ちょ!ちょっと待て!お前!なんでベンチなんだ⁉」
「だからぼくは運動が苦手だって何度も言ったじゃないですか。」
「な、でも勝負って言ったじゃないか⁉」
「ぼくも何度も補欠だって言おうとしたんだけど、剛力君、話聞いてくれないから…。」
唖然として口をあけたまま固まる剛力君。
なんだか悪いことをしてしまった気になるが、ぼくは悪くない…。と思う。
クラスで球技大会の種目を決めるが、丁度全員が出場できるように種目が決まるわけではない。
人数と選んだ種目次第では、あまる人がどうしても出てしまうのだ。
そうなった場合、メンバーはやはり運動が出来る人から決まっていく。
つまり、ぼくは最初から補欠要因だったのだが剛力君はその辺まったく考えていなかったようだ。
「そこ、うるさいぞ!試合始めるからなぁ。」
審判の教師に注意され唖然としたままポジションに戻る剛力君。
そのままゆるゆると試合が始まった。
ぼくのクラスのメンバーはバレー経験者が多く、いい調子で点を重ねていった。
なんだか普通に勝ちそうな勢いである。
ベンチで応援していると、突然、後ろから誰かに抱きしめられる。
「おっとずきく~ん!試合勝ったよー!」
「あ、姉帯さん⁉」
背中が柔らかい何かの感触をもろに感じている。
これだけ密着すると姉帯さんの汗と香水の混じったような香りが、はっきりと漂ってくる。
「私も頑張ったよ、弟月くん!」
「に、新妻さんまで⁉」
いつの間にか隣に座っていた新妻さんが僕の手を取って自分の太ももの上に置いていた。
なんというスベスベ感!手に神経が集中しそうになってしまう。
気を紛らわせるために、とりあえず話をするぼく。
「お、おめでとう、ふたりとも!次は決勝だね!」
「ありがとう弟月くん!お姉さんご褒美のために張り切っちゃうからね!」
「この後すぐに決勝が始まるんだ。それでね、弟月くんに応援に来てほしいんだけど…ダメ、かな?」
上目遣いでぼくを見つめてくる新妻さん。
効果は抜群だ!
新妻さんの可愛さに、どうにかなってしまいそうなぼく。
「でも、今は男子の試合も途中で…。」
「別にいいじゃん!お姉さんたちと一緒に行こ!」
「あわわ、姉帯さん⁉」
「絶対ウチら勝つから、近くで見てて!」
「新妻さんまで⁉」
ふたりに手を引かれて半ば強制的に女子バレーのコートへ連れていかれるぼく。
コートからすさまじい形相でほくを見ている剛力君がいた。
一応、彼にも悪いかなぁ。勝負って言ってたし…。
「あの、姉帯さん、新妻さん。一応ぼく剛力君に勝負って言われてて。試合には出れないんだけど…。」
ぼくの言葉に一旦足を止めるふたり。
剛力君もそれを見て少し安堵の表情を見せる。
するとふたりは…。
「誰それ?お姉さん知らないなぁ。私、弟月くんにしか興味ないし。」
「勝負なんてどうでもいいじゃん。そんなことよりウチらと一緒に楽しもうよ。」
わざとらしく大きな声で体育館中に響くように言うふたり。
そうしてまた、ぼくの手をとって歩き出した。
最後にチラっとコートを見ると、膝をつき項垂れる剛力君が見えた。
どうやら、ふたりの言葉に心が折れてしまったようだ。
南無。
心の中で合掌し、そのままふたりに連れられていくぼくだった。
〈ピピー 勝者一年一組!
かなりの盛り上がりを見せた女子バレー決勝は、姉帯さんと新妻さんの活躍で一年一組の優勝で幕を下ろした。
周りはふたりの話題で持ち切りになっている。
「あのギャルたちヤバいな、彼氏いんのかな?」
「ああいう子でも、しっかり学校行事やるんだな。」
「どっちもスタイルいいなぁ。」
改めて感じたけど、ふたりの人気は凄まじかった。
その話題のふたりが試合が終わってすぐに こちらに向かって駆け寄ってくる。
「弟月く〜ん!」
姉帯さんにガバッとそのまま抱きしめられる。正面から豊満な胸の感触に包まれ、少し汗の匂いがする姉帯さんの感触は、なんだか天国に登ってしまいそうなほど甘美だった。
「明日香!離れなよ、弟月くん苦しそうだよ。」
本当に天国に行ってしまう前に新妻さんが姉帯さんを離してくれた。
「ふたりともすごかったね!優勝おめでとう!」
「あ、ありがとう!弟月くんが応援してくれたからだよ。」
「えぇ、そんなことないよ!新妻さんすごい頑張ってたもん!」
「弟月くんの応援があったからで、その…。」
顔を赤くしてゴニョゴニョと声が小さなっていく新妻さん。 尊い。
「弟月くん、お姉さんも頑張ったんだけどなぁ。」
「もちろん!姉帯さんもすごかったよ!スパイクたくさん決めてたね!」
「あ、そうだ弟月くん。また変なのに絡まれたらウチらに言ってね。ウチらが守ってあげるから。」
新妻さんがぼくの手を握り、すごく優しい声で囁いてくる。
「そうだよ、変なヤツが絡んできたらお姉さんと結があしらってあげるから。このまま一緒にいよう。ね?」
姉帯さんもぼくの頭をなでなでしながら耳元で優しく語りかけてくれる。
ふたりが心から心配してくれていることが伝わってくる。
「ふあぁ、わ、わかりましたぁ。」
手をにぎにぎ、頭をなでなでされたぼくは、トロトロになってそのまま流されて返事をしていた。
まぁ、もう剛力君も心が折れてたみたいだったから大丈夫だと思う。
ちなみに後から聞いたが、男子バレーはウチのクラスが勝ったそうだ。
みんなすごい。
「弟月くん、ご褒美忘れないでね。お姉さん楽しみにしてるんだから!」
「あ、そうだったね。お買い物だよね?何を買うの?」
「それはまだ秘密かな。弟月くんにも選んでもらおっと!」
「弟月くんとデート、デート、デート…。」
「あれ、新妻さん?帰ってきてー⁉︎」
もうすぐ 夏がやってくる!
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