第8話 球技大会編 〜その1〜
~校舎裏~
「俺と付き合ってくれない?キミとつり合う男子は俺しか、」
「え、ごめんなさい。付き合えません。」
「い……。」
「という、話だったよ。いきなり何かと思ったけど、、」
「こ、告白だね。付き合わなかったんだ?」
「うん、ああいう言い方はちょっと、あとお姉さんのタイプじゃなかったかな。誰かも知らないし。」
朝、教室で姉帯さんと新妻さんと話をしていると、男子生徒が訪ねてきた。
確かあの人は3組の剛力君だ。中学の頃から野球部で活躍し、1年で野球部のレギュラー候補と話題になっているのを聞いたことがある。
剛力君は姉帯さんに話があると言って誘っていった。
その後、すぐに戻ってきた姉帯さんは特に何でもないことのように話してくれた。
ぼくからすると告白されるなんて、かなり大ごとなんだけど…。
「明日香は、モテモテですね~。何回目よ?」新妻さんが笑いながらからかうように聞く。
「さぁ、ていうか結ももう何回も告られてるでしょ。」ため息をつきながら返す姉帯さん。
そうか、このふたりからすると、それほど大ごとじゃないのか。
最近、ふたりが仲良くしてくれているから忘れそうになっていたが、この人たち男子からの人気がかなり高い。
それはもう、一緒にいるだけで、周りからの視線が気になるほどだ。
「ふ、ふたりともすごいね。話聞いたらぼくがドキドキしちゃった。」
「ふふ、初心だねぇ弟月くんは」 チョンッと新妻さんがほっぺをつついてくる。
「あぅ。」
その様子を見ていた姉帯さんが後ろから抱き着いてくる。すごく柔らかい感覚に背中が包まれていた。
耳元で囁かれる。
「お姉さんは、弟月くんみたいな可愛い子がタイプだなぁ。」
「ありがとうございます!」
いろんな意味でとっさにお礼を言うぼくだった。
「……。」ギリッ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
事件が起きたのは、その日のお昼休みだった。
「あ、弟月くん どこに、」
「待て!そこの目立たたなそうな地味男!」
ようやく、午前の授業が終わり、一区切りついて束の間の解放感に満たされた教室。
足早に学食へ向かう者 友人同士で机を寄せ合う者
それぞれが、動き出す中 ぼくは昼食より先に委員会の用事を済ませようと思い、教室から出ようとしていた。
その時!新妻さんの呼びかけを遮り、先ほどの声が聞こえてきたのだ。
思わず足を止める。
名前を呼ばれたわけではないが、地味男なんて絶対ぼくだという自信があった。
だって地味だもの、うん。
振り向くと、教室のもう一つの入り口に、今朝姉帯さんを呼び出した男子生徒が立っていた。
3組の野球部、剛力君だ。
ぼくが振り向いたのを見て満足そうな様子の剛力君。
「そうそう、お前だ 影薄そうなお前。名前知らないけどな。」そう言いながら近づいてくる。
「あん?」
「はぁ?」
教室の2か所から殺気を感じたが、剛力君は気づいていないようで、そのままぼくの前までやって来る。
「お前、最近調子に乗ってるそうだなぁ。聞いてるぜ、女子に面倒見てもらって嬉しいか?」
「……。」
「一人では何もできないのか?情けないなぁ。それでもついてるのか?」
「……。」
「だんまりか、まぁ無理もないよな。根暗そうだし面と向かって人と話せないか。」ポンッとぼくの肩を叩いて、ぼくをあざ笑う剛力君。
「あんた いい加減にしろよ。」
「え⁉」
新妻さんが剛力君の肩を掴んで無理やり振り向かせていた。
あまりにいきなりの出来事に剛力君は目をパチパチとさせている。
まぁ無理もない、いつもはあんなに優しくて可愛い新妻さんがメンチ切っていた。
「え?いや、俺は、この地味男に言ってただけで、、」
「サイテー、マジ無理だわ。」
いつも間にか、ぼくを後ろから守るように抱きしめている姉帯さんがつぶやく。
「そ、そんな、姉帯さん…。」それを聞いた剛力君はひどい顔をしていた。
落胆したようだが、すぐに自棄になったように叫びだす。
「そ、そうやって、女子に守ってもらうのかぁ!随分と情けないな、おい!」
「はぁ…すいません。」
「弟月くん!謝る必要ないよ、こんな奴に!」
「こ、こんな奴って、姉帯さん…。」
こんな奴呼ばわりされて顔が引きつる剛力君。
少しの間かたまっていた剛力君は、プルプルと震えだして叫んだ。
「おまえ!勝負しろ!」
「勝負ですか?なんの?」
「球技大会だ。そこで俺と勝負しろ!」
球技大会 今月末に予定されている学校行事だ。
新しい学期が始まってすぐの時期にあり、そこでクラスの団結を深めようという趣旨らしかった。
種目は、いくつかあり団体競技から個人競技まで選べる。
生徒は自分の所属している部活以外の種目なら何にでもエントリーできる仕組みだ。
前に先生に頼まれて資料作成をしたから少しは知っている。
「どうして勝負なんて?」単純な疑問だ。いきなり罵倒されたり、勝負を挑まれたり、理由がわからない。
「お前をそこでボコボコにする。これ以上ないほど情けないお前を見れば姉帯さんも目を覚ましてくれるだろう。」
あぁ、そういう。
「……。」姉帯さんは何言ってんだコイツって顔で剛力君を見ていた。
剛力君は朝姉帯さんに振られた理由をぼくのせいにしたいようだ。というか怖いなぁこの人。今ので好きになってもらえると思う思考回路が謎すぎる。
「えっと、でもぼく運動が得意じゃないから…。」
「は!そう言って言い訳して逃げるつもりだろ!」
「あ、そういうわけじゃなくてね…。」
「いつもそうやって女子に守ってもらってるのかぁ!俺にはその手は通じねぇぞ!」
剛力君はぼくの話をまともに聞く気がないようで、一方的にまくし立てる。
「もう来週が球技大会だ。種目は決まってるはずだろ?教えろよ。」
「一応バレーなんだけどね…。」
「その身長でバレーなんてな、よほど人材不足なクラスなんだな!俺もバレーに出るからな!逃げんなよ!」
「あ、いや、ちょっと待って…。行っちゃった。」
剛力君は言いたいことだけを一方的に言うと足早に教室から出て行ってしまう。
「大丈夫⁉︎弟月くん? あんなの相手にすることないのに。」
「そうだよ!ていうかごめんね、お姉さんのせいで…。」
「あ、姉帯さんのせいじゃないよ!気にしないで、ね!」
「う、うん。」
あわわ、姉帯さんが落ち込んでる⁉︎
な、なんとか元気になってもらいたい、こういう時は…。
「えっと、よしよし。」ナデナデ
「あ、弟月くん?」
「姉帯さんも、よくナデナデしてくれるし、ど、どうかな?」
姉帯さんを慰めたくて頭をナデナデしてみる。
これ、自分でやっておいて大丈夫か心配になってきた。
「えへへ〜」
大丈夫そうです。
「いいなぁ 明日香いいなぁ。」新妻さんがすごく見てくる。
この状況どうしよう。
剛力君はすっかりぼくと球技大会で勝負するつもりになっているみたいだった。
剛力君がバレーに出るのはいいんだけど…。
彼、まったくこちらの話を聞いてくれなかったからなぁ。
当日大丈夫かなぁ。
一抹の不安を抱えながらも姉帯さんをナデナデさせてもらうぼくだった。
「いいなぁ明日香は…。」ジー
結局、新妻さんも少しだけ、なでなでさせて頂きました。
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