第7話 梅雨はびしょ濡れに~
高校生活が始まって、二か月が経とうとしていた。
ここ数日というもの雨の天気が続いている。
季節的にもそろそろ梅雨。雨続きでも何もおかしくはなかった。
梅雨だもの、ね。
ただ、今日は!
今日は朝、家を出るときは雨が降っていなかったのだ。
久しぶりの雨ではない天気、喜びのあまり油断もするというものだ。
やったー!今日降ってないよ!傘いらないね!ヒュー!
なんて、少しおかしくなっていたのだ。
その結果が…。
〈ザーッ
「……。」ビッチョリ
これである。
学校までまだ半分ほどの道のりで降り出してきた雨は次第に激しさを増し、学校に着く頃には しっかりと制服の中まで濡れてしまっていた。
濡れた衣類が重く肌に張り付き 鬱陶しい。
靴の中にもしっかり水がたまっており、歩くたびにベチャっと嫌な感触がまとわりついてくる。
あぁ これだから梅雨は…。
かなり憂鬱な気持ちになりつつも、ここまで濡れてしまっては しょうがない。
残りの道のりを急いで学校に向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
……ない。
なんとか学校にたどり着いたぼくは、教室に入る前に廊下にある自分のロッカーに向かった。
制服はびしょびしょで、さすがに着替えないという選択肢はなかったからだ。
が! ないのだ。いつもロッカーに入れているジャージがない!
それもそのはず、昨日体育の授業で使ったから持ち帰っていたのだった。
もちろん、今日は持ってきてない。
…だって、体育今日はないから。
「はぁ…。」思わずため息が口から漏れ出る。今日はついてないのかなぁ。
着替えがないとどうしようもない、このまま過ごすしかないが湿った髪からは、まだ水滴が垂れてくるし、服も見るからに肌に張り付いていて濡れているのが、まるわかりだ。これでは、付近の人にも迷惑かもしれない。
なんとかしなければならないが、いい案もなく、とりあえず教室に入ることにする。
教室にはすでに登校していたクラスメイトたちが何人かおり、ぼくと同じように濡れたのかジャージ姿の人もチラホラといるようだった。
教室に入ったぼくを見るなり、慌てて駆け寄ってくる人がいた。
「お、弟月くん⁉ すごい濡れちゃってるじゃん!」
派手な金髪の長い髪もサラサラのままで、いつもの制服姿だった。
今日も短いスカートから伸びる細い脚は男子の注目を集めているようだ。
「新妻さん、おはよ 傘持たずに家出ちゃって…。」
「こんなに濡れちゃって、風邪引いちゃうよ。」と言って新妻さんはポケットから取り出したハンカチで何の躊躇いもなく顔を拭いてくれる。
とても可愛らしいハンカチで、ぼくのために使わせてしまい恐縮だったが、ついついそのまま身を任せてしまう。新妻さん、優しさハンパないです。
「服もすごいね、着替えないとダメじゃない?」
「実は、今日ジャージ持ってきてなくて、さっきこのまま乾くのを待つしかないと覚悟を決めました。」
「ダメだよ!風邪引いちゃうよ! ……そうだ ちょっと待ってて。」
何かを思いついたのか、新妻さんは廊下に出て行った。
少し待っていると新妻さんはすぐに戻ってきた。手には女子生徒用のジャージを持っている。
「はい、これに着替えて」
「え?これ女子生徒用のジャージだよ?」
「そうだよ、私のジャージ。いつもロッカーに入れてるから、今日体育ないし弟月くん使ってよ。」
……ん?
新妻さんのジャージ? ぼく 使う? ん?
戸惑っているぼくを見て、不思議そうにしていた新妻さんだったが何かを閃いたようで口を開く、、
「大丈夫だって~、ウチらの身長同じくらいじゃん。きっとピッタリだよ。」
違う、そうじゃないんだ新妻さん。
ぼくが気にしているのはそこじゃないのです。
え?だって女の子の服だよ。借りていいの?
これまで女友達ほぼゼロのぼくは、その辺気にしまくっていた。
「ほらほらぁ 早く着替えないとホントに風引いちゃうよ。はい、どうぞ。」
新妻さんにジャージを手渡され、更衣室まで送ってもらったぼくは、無心になりながら新妻さんのジャージに袖を通した。
それはもう、無心だ。長年の修行の賜物である。
新妻さんのジャージは いい匂いがした。
なんだこれ、あまぁい匂い。時々新妻さんと密着すると感じるあの匂い。
まるで新妻さんと常にピッタリくっついてるみたいな感覚になる。
無心にはなりきれていなかった。
着替えて戻ったぼくを見て新妻さんは ウンウンと頷いていた。
「やっぱり、サイズは丁度いいみたいだね。よかった。」
「ジャージをお貸しいただき誠にぃありがとうございます。この御恩は必ず!」
「なんで敬語?」
とりあえず、新妻さんのおかげで風邪をひくのは避けられそうだ。
新妻さんのジャージを着れるなんて、梅雨もそう悪くないかな、なんて思ってしまう。
けれども、新妻さんのジャージを着て教室に戻ったぼくは、それはもう男子生徒たちの視線を集めることになってしまう。
「な、なんであいつが新妻さんのジャージ来てるんだ⁉」
「くそ、女子に服貸してもらうとか、なんだそれ夢か?」
「びしょ濡れになればオレだって、オレ、外に出てくる!」
「た、田中!よせ、やめるんだー!」
高校生活が始まって1か月くらいは誰にも覚えられていなかったぼくだが、最近は男子にはよくない覚えられ方をしているような気がしてならない。
「……。」ジー
「?どうしたの新妻さん?」
「ん、女の子の服着れちゃうなんて、弟月くんは小っちゃくてかわいいなって…。」カァー
と段々と赤くなり俯きながら話してくれる新妻さん、あなたのほうが可愛いです。
始業の時間が近くなってきたころ このクラスのもう一人のギャルが登校してきた。
「おっはよぉ 結 ちょっと見てこれ、雨ひどくない? あ、弟月くんおはよ♪」
聞こえてきた声にぼくと新妻さんは振り向く、そこでぼくは言葉を失った。
やってきたもう一人のギャル
姉帯さんも派手に雨に濡れたようだったが、その姿が問題だらけだった。
いつもは来ているカーディガンは今日は腰に巻いていた。
そのせいで、上はワイシャツのみ 雨で湿ったワイシャツはピッタリと彼女の豊満な身体に張り付いている。大きな胸を隠しているブラジャーがくっきりと見えていた。
黒だった。
短いスカート大胆に見える太ももを しずくが滴っていき、なんだかイケないものを見ている気分になる。
クラス中の男子が注目していた。
「明日香、あんたスッケスケ。ブラ、見えてるし、、」
「途中から降ってきてもうずぶ濡れ、弟月くん お姉さん風邪ひいちゃうかも。」
「え、大変だよ!早く着替えないと!」
「そうなんだけど、服が濡れてて脱ぎにくいの。手伝ってくれる?」
て、手伝うって何⁉ どうやって⁉ どうやって脱ぐの手伝うの⁉
「スカートのホック 外してくれる?」
そういって姉帯さんは後ろを向いてぼくの方にお尻を突き出してきた。
スカートのホックは丁度 脇腹のあたりにあった。
ワイシャツが短いせいかそのままお腹まわりの素肌が見える。
目の前に突き出されたお尻も短いスカートがなんとか隠しているが、かなり際どいラインまでみえてしまっていた。
ここで、ぼくはフリーズ。あまりの状況に脳が限界を迎えました。
「はいはい、私が脱がせてやるから、更衣室行くよ。」
「ちょ、結! 今いいとこなのに!あ、 弟月く~ん!」
新妻さんがズルズルと姉帯さんを引きずって行ったのにぼくが気付いたのは、かなり時間がたってからだった。
放課後
結局のところ今日は一日中新妻さんのジャージを着て過ごしていた。
女子生徒用のジャージを着ていたことで、事情を知らない人から何度も見られたが新妻さんと姉帯さんが一緒にいてくれたから、特に何かを言われることはなかった。
先生にもふたりが説明してくれ、何事もなく、女子生徒用のジャージで一日を過ごしてしまった。
今日は朝から雨でずぶ濡れになってしまい、運がないと思っていたが、そのおかけで、新妻さんともっと仲良くなれたような気がする。
ジャージを貸してくれた彼女のおかげで、風邪もひかずに済んだ。
ぼくの制服は一日中干していたおかげで、もう乾いていた。これなら帰りは制服で帰れそうだ。
新妻さんにお礼を言わなくちゃね!
「新妻さん、今日はありがとう!ジャージ貸してくれてたおかげで風邪引かなくて済んだよ。今度何かお礼するね。」
「そんな気にしなくていいよ、私が無理に着せたみたいなとこあるし、、」
「そんなことないよ、朝、かなり落ち込んでたけど新妻さんのおかげで元気になれたもん。ホントにありがとうね!」ニコッ
「あぅ どういたしまして…。」カァー
俯いてしまった新妻さん、少し頬が赤いけど どうしたのかな、、
「そうだ、ジャージ洗って返すね。ぼくが着て汚くなっちゃったから。」
「いや、そんなこと……。」
「…?」
「いい!洗わなくていいです!」
突然の大きな声にビクッとなる。
「あ、ごめん。でも洗わなくていいよ。そんな気にしないで、ね。」
「え?でも一日中着ちゃってたよ?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。そろそろ持って帰るつもりだったから、ホントに気にしないで。」
「そ、そう?何から何までごめんね。」
「いいのいいの!ほら、制服に着替えて来なよ、明日香と待ってるから!」
「うん!ありがとう!」
今日は新妻さんにお世話になってばかりだったなぁ。
制服に着替えながら、お礼は何がいいかと考えを巡らせるのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
~新妻家~
<ジャージ
「……。」ジー
「……。」クンクン
「……って何やってるんだ私!!」
その日の夜、弟月くんに貸していたジャージをベッドに広げ、その前で悶絶している新妻さんがいたそうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます