第10話 夏服って素晴らしい


球技大会から数日。

梅雨も明けてカラッとした晴れわたる青空の下、ぼくは高校生活始めての夏服に袖を通して学校へ向かっていた。


まぁ夏服と言ってもほぼ変わりはない。

ブレザーを脱いでワイシャツが半袖になっただけだ。


それでも、それだけのことだが、気分が少し明るくなる。

周りにも白いワイシャツに身を包んだ生徒たちが歩いている。

青空の下、夏服を着て学校に向かうぼくは これから来る夏にうきうきしていた。

夏にいい天気だと、無意味にテンションが上がってしまうのです。

少し歩くスピードを上げて学校に向かうのだった。





「あ、弟月く〜ん!おはよー!」

「おはよう、今日も暑いね。」


後ろから声がかけられる。

振り向く前に声で誰かはすぐにわかった。

クラスメイトのギャル 姉帯あねたい 明日香あすかさんと 新妻にいつ ゆいさんだ。


その派手な容姿から元々クラスの男子からかなりの人気があった彼女たちは、つい先日の球技大会で大活躍し、学校中の主に男子から人気が爆発的に上昇していた。


曰く、ふたりとも抜群にスタイルがいい。

曰く、ギャルなのに学校行事も真面目に参加してる。

曰く、いつもある地味な男子生徒と一緒にいる。


などなど、ふたりに関する話題は学校中から聴こえていた。


そんなふたりは、高校生活が始まってすぐ起きた ある事件から、地味で目立たないぼくと仲良くしてくれていた。

お優しいふたりなのです。


「おはよ……。」 ふたりに向かって振り向いたぼくは、挨拶の途中でフリーズしてしまった。




なぜなら…。



そう!ふたりが夏服になっていたから!


まぁ今日から夏服なので、考えれば当たり前なのだが、ふたりの夏服に衝撃を受けたぼくには、そんなこと考える余裕はなかった。


「お姉さんすぐ汗かいちゃうんだよねぇ。学校着いたら着替えようかな。」手で顔を扇いでいる姉帯さん。

いつもは着ていたカーディガンは今日はなく、ワイシャツに短いスカートのみの、かなりの軽装だった。

それでも、この暑さでところどころに汗でシミができているのが目を惹く。

ワイシャツのボタンは大きすぎる胸を押し込めているようで今にも弾け飛びそうだ。

ブラジャーもパッツリしているワイシャツからしっかり透けている。



ピンクです。



「日差し強いからね、弟月くん 熱中症になっちゃうよ。これ、頭に乗せてみて。」そう言って新妻さんが自分のタオルを頭に乗せてくれる。

新妻さんも真っ白なワイシャツと短いスカートだけだか、姉帯さんと違って汗をかいているようには、見えなかった。

白い肌に長いサラサラの金髪、風が吹くとたなびく髪をおさえる新妻さんは、爽やかすぎて高原に立つお嬢様に見えた。


綺麗だ。


「あ、ありがとう新妻さん。姉帯さん、よければこれ使って。」ふたりの夏服姿に見惚れていたが、はっと我に帰り姉帯さんにハンカチを渡す。


「お、ありがとう弟月くん!ハンカチ持ってるなんてさすがだね。お姉さんは感心しました。」

「う、うん!役に立ってよかったよ。」

「…弟月くん、私も汗かいてきた。」

「え、ごめんね。タオル新妻さんに借りちゃたもんね。返さないと、、」

「いや、タオルは使ってて!返さなくて大丈夫だから。もっと、小さいのでいいから。」

「結〜 はっきり弟月くんのハンカチが、借りたいって言わないとダメじゃん♪」

「ちょっと!明日香⁉︎」


ぼくの後ろに隠れる姉帯さんと追いかける新妻さん。ふたりと一緒に賑やかに登校した。




教室では思ったとおり、ふたりの夏服姿が男子の注目を集めていた。


「姉帯さん、む、胸ヤバ。」

「新妻さん。お綺麗です!」

「……。」ダラダラ

「うお⁈ お前鼻血⁉︎」


そして、最近ふたりと一緒にいることが多く、ついには一緒に登校してきたぼくへのヘイトも溜まっていた。


「あいつ、ついに今日は同伴登校かよ。」

「くそ、姉帯さんと新妻さんの夏服を間近で、羨ましい!」

「ウラヤマシイ、ウラヤマシイ、ウラヤマ…。」



…そこで会っただけなんです。許して、、、





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





「さて!水着買いに行こっか 弟月くん!」



ガタッ

ガタッ

ガタガタッ


放課後。

授業が終わって緊張の緩んでいた教室は、姉帯さんの放った一言で騒然としていた。

主に男子が!


「な、なに?み、水着、だと…。」

「へ?水着ってなぁに、わかんなぁい。」

「おい!しっかりしろ!あまりの衝撃で幼児化してやがる。」



何しろ言われた本人であるぼくも、状況がよくわかっていなかった。


「姉帯さん?水着って?」

「ほら、球技大会のご褒美!買いに行きたいものがあるって言ってたでしょ♪」


あぁ、球技大会のご褒美。


つい先日行われた球技大会でウチのクラスの女子バレーは優勝していた。

その時、優勝したらご褒美として、姉帯さんと新妻さんのお買い物に付き合うことを約束していたのだ。


「買いたいものって水着だったんだね。」

「そ、もうすぐ夏でしょ 新しい水着で気合い入れてかないと!せっかくの夏だしね。」


おぉ〜 さすがギャルだ!

夏への気合がハンパないです!なんかカッコいい!


「弟月くん好みの水着、選んでね♪」

「…ん?ぼくの好みで選ぶの?」

「もちろん!お姉さん、弟月くんに見てもらうために水着買うんだもの。」



ブハッ…

グアアァア!

ニクイニクイニクイ…


周りからきこてくる男子たちの呻き声。

ぼくの周りの体感温度が一気に下がったように感じた。


「お姉さん試着頑張っちゃうから!あ、あと あっちでちょっと赤くなってる結の水着も選んであげてね。」


姉帯さんが指差した方を見ると、新妻さんが赤みがかった顔でこちらを見ていた。





「わ、私、明日香より胸ちっちゃいけど、頑張るから 選んでくれる?」


はい、ぼくは今死にました。新妻さんのかわいさで死にました。


ぼーっとしていると姉帯さんに頬を突かれる。


「弟月く〜ん だいじょぶ?」ちょんちょん

「は、はい!一生懸命選びます!」


かろうじて我に返ったぼくは、なんとかそれだけ叫ぶ。


「じゃ さっそくしゅっぱーつ!期待しててね!」

「胸以外で勝負、足かな…。」ブツブツ


そのまま姉帯さんに腕を組まれて買い物に出発するぼくを、クラスの男子が殺意のこもった視線で見送ってくれた。







こ、これはかなりヤバい…。


姉帯さんと新妻さんに連れられて水着を買いに来ているぼくは今、場違い感をハンパなく感じていた。


周りを見てみると、姉帯さんや新妻さんみたいな派手な女の子たちがいっぱいで、華やかな空間だった。


ぼく、かなり目立ってないかな?ここにいて大丈夫?


「弟月くん、これなんてどう?かわいくない?」

「お姉さん、こっちの大胆なのでもいいかも…。」


一人で不安になっていると姉帯さんと新妻さんが戻ってきてくれた。

この安心感、迷子のときにお母さんを見つけたような。


「弟月くん的には、どれが良さそう?これ?こっち?」


両手に持った水着を見せてもらう。


「う〜ん、姉帯さんはモデルみたいに身長高いから こっちのちょっとカッコいい感じの水着がすごく似合うと思う。新妻さんは綺麗な金髪と白い肌に、この赤を基調とした水着が映えると思う。思うんだけど、どうかな?」


「これにします!」×2

ふたりから即答が帰ってくる。


「でも、いいの?ぼく、こういうの初めてで、大丈夫かな?」

「弟月くん初めてなんだね!お姉さん安心しちゃった。大丈夫だよ!自信もって!」

「私が弟月くんの、初めて…。心配しないで弟月くん!私に任せて!」

「は、はい…?」

「ちゃんと試着してみるから大丈夫ってこと。さ、結!弟月くんに水着姿を見てもらうよ!」


そう言ってふたりは試着室に入っていく、ぼくは試着室の前で所在なさげに着替え終わるのを待つのだか、落ち着かない。


試着室の中から服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえてくる。

今、ふたりはこのカーテンの向こう側で一枚、また一枚と服を脱ぎ、は、は、裸に…。





いやいや!考えるなぼく!

勝手に想像が膨らんでくる脳内情報を素数を数えて邪魔をする。


試着室前で頭を抱えていると、、




グイッと肩を引かれ試着室に引き込まれた。





一瞬何がなんだかわからなかったが、


目の前にビキニ姿の姉帯さんがいた。


ほとんどが素肌で、胸とお尻しか布で隠れているところはなかった。

いつもは見たことのない、滑らかなお腹、柔らかそうな太ももがはっきりと見える。


当たり前だ ビキニだ。



「…え?…え?」

「どう?弟月くん お姉さんの水着姿は?似合ってる?」


そう言って前かがみになる姉帯さん。

目の前に肉感たっぷりの胸が押し出され谷間が強調される。

ぼくの目は恥ずかしいほどに、大きな胸に集中していた。



「弟月くんになら、内緒でもっと際どい水着、着て見せてもいいよ。」そう言って、今度はお尻を前に突き出すようにポーズを変える姉帯さん。

ビキニで大切さな部分だけが隠されたお尻を顔の目の前で突き出され、ぼくについに限界がくる。


「に、似合ってます!この水着!すごい似合ってます!」


それだけを叫ぶように言って、試着室から飛び出した。


はぁはぁと肩で息をして気持ちを落ち着かせていると、、





またもグイッと肩を引かれ、隣の試着室へ引き込まれる。




「あ…。」


目の前にはビキニ姿の新妻さんがいた。

真っ白な素肌と長い金髪に赤を基調としたビキニがよく似合っていた。

色白な素肌がとても綺麗で思わず声が漏れる。


「き、綺麗…。」

「うぇ⁈ あ、ありがとう。」顔が一気に赤くなる新妻さん。今はビキニ姿なので身体の方まで赤くなっているのが、よくわかった。


「新妻さんって色白で素肌がとっても綺麗なんだね。」


見惚れながら少しおかしくなっていたぼくは、思ったままの感想を口からたれ流していた。


「お、弟月くんになら…。もっと見せてもいいよ?」


そう言って新妻さんは背中にあるビキニの結び目をほどく、今やビキニの布は腕で押さえられているだけで胸を隠していた。

姉帯さんほどではないが、大きく形のいい胸が腕に押されて形を変えているのがわかる。




「…見たい?」


優しく囁かれた声にゾクゾクッと限界を迎えたぼくは、


「だ、大丈夫です!水着似合ってまーす!」


と言ってまたもや試着室から飛び出すのだった。





〜帰り道〜


「いい水着があってよかったよね、結!」

「うん、弟月くん 似合ってるって言ってくれた。」


嬉しそうに水着の入った袋を持つふたり。

対してぼくは、心労でぐったりぎみだった。

ぼくなんかが ふたりの水着姿を見れるだけで奇跡のような出来事なのに、試着室での出来事は刺激が強すぎた。



「一緒に海に行くの楽しみだね♪」


うきうきした様子の新妻さんに顔を除きこまれる。


「うみ?海?」

「今年の夏は三人で海行くぞー!計画はお姉さんに任せて!もちろん、今日買った水着、楽しみにしててね。」


どうやら、ふたりの中ではすでに海に行く計画が進行しているらしい。


海で水着姿の姉帯さんと新妻さん…。


ぼくはいろんな意味で生きて帰ることができるだろうか。


「どったの?海よりプール派だった?」

「う、ううん、海!楽しみだよ!」

「今年の夏は いーっぱい 楽しもうね!」




心の中ではいろいろと思いつつも、純粋にふたりとの夏が楽しみなのだった。


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