第5話 タバコ事件⁉ ~その3~


放課後

クラスは今朝のタバコ事件から落ち着きを取り戻していた。


落ちていた吸い殻については、まだ誰のものか、はっきりとしていない。

もし、犯人が自ら名乗り出てこなければ明日全校集会を開くことになるそうだ。

学校としては、放っておけないことだと思うが、全校集会なんかしても犯人が自分から出てくるとは思えなかった。


こんなときでも日常は進んでいく、クラスのみんなは部活やら遊びになど、それぞれの予定に向かって教室を出ていく。

そんな中、ぼくは教室に残っていた。

もちろん、タバコの本当の持ち主を見つけるためだ。


いつもなら、ぼくのことを気にもせずに教室から出ていくクラスメイトたちだが、今朝のことがあったからか声をかけてくれる人もちらほらいた。

今まで、存在感の希薄だった身からすると嬉しい変化だ。


「今朝、すごかったね。よく立ち向かったよ。」

「頑張ったなー、…お前!」

「今日ウラヤマに来い」


…最後のは気にしないようにしよう うん。


さて、真犯人探しだけど 実は当てがあった。

今朝、教師にタバコの吸い殻を見せられたとき、どこかで見覚えがあると思ったのだ。

放課後になるまでは、どこで見たのか思い出せなかったけど、一日中考えていたおかげで思い出すことができた。

あとは それが事実なのか証拠をつかむだけだ。


一人で作戦を考えていると ほっぺをぷにっと冷たい指で突っつかれた。


「ほぁああ⁉」


びっくりして変な声を出してしまった。突かれた方を見ると、隣の席の姉帯さんだった。


「ん~そんな反応もカワイイね、弟月くんは♪」

「あ、姉帯さん ビックリしたよ。」

「あんまり弟月くんをからかわないでよね、明日香」


知らぬ間に新妻さんもぼくの席の前に座っていた。


「新妻さんも、ふたりともどうしたの?」

「どうしたの?って今朝の犯人捜しだよ!弟月くん犯人探すんでしょ?」

「そうだけど、、、」

「ウチらも手伝うよ。」

「え⁉ いいの?」

「もちろん、私らも迷惑してるし早く潔白を証明したいからね。」


今朝の件では、ふたりとも生徒指導の教師にも真犯人にも迷惑をかけられている。

早く見つけて疑いを晴らしたいようだった。


「新妻さん、姉帯さん ありがとう!」

「いやいや、お礼を言うのはウチらのほうだよ!」

「そうそう、今朝は庇ってくれてお姉さんは嬉しかったよ。」

「それは どういたしまして」



えへへー と三人で笑いあったあと、身を寄せ合って話をする。


「実はね、今朝タバコの吸い殻を見せられたとき 前もどこかで見た気がしたんだ。」

「マジ⁉ 学校の中でってこと?」

「うん、確かにそうだと思う。」

「すご~い!お姉さんがエライエライしてあげるね。」と言って姉帯さんがナデナデしてくれた。

幸せ…。


「それで、どこで見たの?」

「実はね……ゴニョゴニョ」






「ああああああ!!」と ぼくの話を聞いたふたりも見たことがあったようで、ふたりとも驚きながら、そうだそうだと頷きあっていた。


「確かに、最近あそこ通るとタバコ臭い気がしてた。」

「吸い殻見えて汚いなって思ってたんだよね。」

「ね、きっと同じ人だと思うんだよ。」


学校でも、タバコを普通に持っている人はいる。

生徒が持っていると問題になるが、持っていても問題にならない人もいるということだ。


「じゃあ さっそく先生に言いに行こうよ!」

「待って、まだ言わないほうがいいかも…。」

張り切って立ち上がる姉帯さんを一旦止める。


「どうして?弟月くんの考えきっとあってると思うよ。」

不思議そうにしている新妻さんと姉帯さんに理由を説明する。


「ぼくも正しいとは思うんだけど、確実な証拠が欲しいんだ。」

「証拠…?」

「そう、あの生徒指導の教師、あんなめちゃくちゃな理由で姉帯さんと新妻さんを犯人に決めつけていた。僕たちが真実を告げても、何かしらの理由をつけて否定してくるかもしれない。だから、証拠が欲しい。」



今考えてもちょっと理由が雑すぎる気がした。

まるでふたりを犯人にしたいみたいだった。考えすぎかもしれないけど…。


「確かに、あの教師ならやりかねないかも…。」

「ウチら入学式のときから目つけられちゃったもんね。」

「そうだったの?」

「うん、髪とか制服とか注意されてね。 まぁそのままにしてるけど、、」


サラサラの金髪を指でくるくるさせながら新妻さんがサラッと新事実を教えてくれた。

うん、なんか理由がわかったかも…。


「まぁ そんなわけで証拠があれば、さすがに大丈夫だと思うんだよね。」


「証拠かぁ、あ!あのタバコがあるじゃん!」ピキーン!と閃いた姉帯さんが立ち上がる。

「あれを持って行って一致したら証拠になるんじゃない?」

「でも、あのタバコは生徒指導の教師が持ってるじゃん。貸してくれないでしょ。」


新妻さんの冷静な意見に ズーンという感じで姉帯さんが撃沈されていた。


「実際に、タバコを吸ってるところを見ればいいんじゃないかな?」

「それは確実だけど、どうするの?」

「きっと真犯人は また放課後の遅い時間に教室に来る。…それが仕事だからね。だから隠れて待ち伏せするんだ。」




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「……で、どうしてみんな同じところに隠れちゃうかな」


「え、だって他に場所ないし」右耳のすぐそばから新妻さんの声が聞こえる。声というより、吐息が耳にあたって新妻さんが息をするたびにゾクッとする。


「それに、バラバラに隠れてたら話ができなくてつまらないじゃん。」今度は左から姉帯さんの声がした。顔面の左側はとても柔らかいいい匂いのするものに包まれていた。




状況を説明しよう!

今僕たちは教室のロッカーに3人で詰まっていた。 


そう まさに詰まっていた。


扉の隙間から写真を撮るため、ぼくが真ん中で右に新妻さん、左に姉帯さんが入っている。

うちの教室のロッカーは両開きタイプで普通のものよりは大きいのだが、高校生3人が入るのは、かなり厳しいものがあった。


無理に入ったおかげで、僕たちの体勢もめちゃくちゃだった。

左右から柔らかい感覚に包まれ、違いはあるが、両サイドからいい香りが漂ってくる。

証拠をつかむ前にどうにかなってしまいそうだった。


「弟月くん、何か見えた?」

姉帯さんも隙間から外を見ようと、一層身体を寄せてきた。

姉帯さんとの身長差で、ぼくの顔の左側は、その豊満な胸に埋もれそうになっていた。

ただでさえ密着していた大きな胸がギュムッと形を変えるほど顔に押し付けられる。


「あ、姉帯さん!ちょっと近すぎ」

「ごめんね、でもこうしないと外が見えなくて」まったく気にしていないようで、姉帯さんは誤りながらもこちらに身体を押し付けてくる。

ひぃ~意識するな!ぼく!


「ちょっと、明日香!弟月くんが狭くなっちゃうでしょ、スペース考えて」新妻さんが気を使って姉帯さんを戻してくれようと動いた。その瞬間…。



「ひゃん⁉」


ぼくの口から情けない声が漏れる。


「うぇ、ご、ごめんね。弟月くん 私の足が、ちょっと……。」

新妻さんがモゾモゾと体勢を変えようと動く、だが、その度に彼女の足がぼくの大切な部分に当たってくる。

「ひゃ、に、新妻さん、ちょっと」

「あ、あぁ、ご、ごめん⁉わざとじゃなくて、、」


ぼくの様子に慌てる新妻さん、すぐに体勢を変えようとするが、それが余計に刺激になってしまう。

上と下からのダブルの刺激で、もう…ダメだ… と諦めかけた その時!








「ふたりとも シッ 誰か来たよ。」上の隙間から外を見ていた姉帯さんが誰かを見つけたようだった。


体勢はそのままだが、みんなでジッとして息を潜める。


隙間から外を除くと、思っていた通りの人物が教室にやってきた。




その人は、巡回の警備員さんである。


昨日の放課後、ぼくは部活動の生徒が帰るような時間まで教室にいた。

あの後から教室に行く生徒など、偶然忘れ物をした人くらいだろう。そうでなければ、この時間、生徒はわざわざ教室には戻ってこない。

この学校には警備員が常駐していた。最近物騒な事件が多いからであろう。もちろん放課後の巡回も仕事になっているはずである。

そして、警備員が常駐する守衛室は学校の正門付近にある。

毎日通る場所なので、あまり気にしたことはないが、なんとなく覚えていた。

守衛室の付近を通ると感じるタバコの匂い、部屋の中にチラっと見えた吸い殻。


そして今、教室に入ってきた警備員はポケットからタバコを取り出して窓を開けて吸い始めた。


まさに今朝、教室に落ちていた吸い殻のタバコだった。


ここ1-1教室は最上階にあり、下の階から見回りをしてくると丁度最後の折り返し地点になる。

さらに窓の外には体育館の裏側の壁があり、外からも見えにくくなっていた。

そのため、ここを休憩地点としてタバコを吸っていたのだろう。そして、昨日はそのまま吸い殻を落としてしまったに違いない。


1本吸い終えると警備員はまた巡回に戻っていった。

もちろん、吸っている瞬間は撮らせてもらった。


警備員が去ったあとで、ロッカーから転がり出る。

なんというか柔らかさといい匂いと刺激で生き地獄を味わった気分だった。


「やったね結!これで私たちの疑いも晴れるじゃん!」

「そだね、あの生徒指導の教師にもガツンと言ったれるし」


証拠をゲットしたふたりは嬉しそうにハイタッチしていた。

まぁ ふたりが嬉しそうなら苦労したかいもあったと思う。


「ありがとうね、弟月くん。ウチらのためにここまでしてくれて」新妻さんが、ちょっと恥ずかしそうにしながらもお礼を言ってくれた。


「そうだね、お姉さんは嬉しいよ偉い偉い!」姉帯さんもナデナデしてくれ労ってくれた。なんだか撫でられるのが自然になってきている気がする。


「今度、何かお礼をしないとね」

「いや、でも始めはふたりが作業を手伝ってくれたから、ぼくがお礼をするほうで、甘いものおごるよって話だったよね。」

「じゃあ、弟月くんのは私らが奢るよ!奢りあい、いいんじゃない?」

「そうしよう、明日香、お店のリサーチ進んでるよね?」

「もちろん♪」


そのまま少しの間、教室でふたりとスイーツ☆の話で盛り上がった。





その後はというと、

ぼくが撮った写真を担任の三和先生に見せて姉帯さんと新妻さんの潔白を訴え数日がたった。

三和先生はすぐに動いてくれ、教室に落ちていたタバコと警備員のタバコが一致した。

しっかりとした証拠と三和先生の素早い動きで、何か言いたげにしていた生徒指導の教師も何も言えずに、悔しそうに引っ込んでいった。


今回、教室でタバコを吸っていた警備員は、どうやら入ったばかりのバイトのようで、先輩警備員からしこたま怒られていたそうな。もしかしたら、もっと大事になっているかもしれないけど、三和先生からは気にしないように言われた。


クラスの雰囲気も少し、変わっていた。

姉帯さんと新妻さんの疑いが晴れたことで、前より他の女子たちと話をしていることが多くなったようだった。

ぼくも、他の人から話かけられることが増えたと思う。


「よう、おはよう」

「すごいね、真犯人を見つけたんだ!」

「ウラヤマ」


一部男子からは違う意味で覚えられそうである。


もちろん、姉帯さん、新妻さんとは一番仲良くなれたと思う。


今度、美味しいスイーツを食べに行く約束をしてしまった。

これって、もう友達って言ってもいいんじゃないかな!


とりあえずはスイーツが楽しみな ぼくだった。



~タバコ事件  解決!~

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