第3話 タバコ事件⁉ ~その1~
となりの席のギャルに名前を覚えてもらっていたという
嬉しい出来事から、数日。
地味系男子こと ぼく
相変わらずの高校生活を送っていた。
あの日からクラスのみんなへ続けている挨拶運動の成果は、なんと!
友達数:0人
進展なしである。
…めげないぞ。
今は放課後、すでにクラスメイトたちは部活に行ったり、
友達同士で遊びに行ったりと教室に残っている人は、ほぼいなかった。
そんな中 僕はというと、クラス担任の先生から頼まれた仕事をするため、一人でもくもくと作業をしていた。
近々ある球技大会の資料作成で、何ページもある書類を
ページごとの束にして、順番どおりに重ねていく。
単純な作業なのだか、一人ですると時間がかかる。
何せ教員全員分をまとめなければならないのだ。
普通こういうのはクラス委員とかがやることだと思うんだけど…。
もちろん ぼくはクラス委員ではない、クラス委員なんて存在感のある役職には
ぼくは向いていない。
先生も単純に断らなそうで頼みやすいから、なんて素直に理由を言っていかなくてもいいのに…。
と、心の中では先生へのグチを言いつつも書類作成をもくもくと行っていると、
「弟月くん、大変そうだね?手伝おっか?」
なんとも優しい人がいたものだ、
ぼくが作業をしていても特に目立つこともなく、みんな部活など それぞれの予定に向かっていってしまったのに、
作業をしている僕に気づくだけでなく手伝ってまでくれようとするなんて…。
あれ、というかそもそも僕の名前覚えてる人なんていないはず、と思いながら顔を上げると
目の前に大きなお山がふたつあった。
状況が分からず、止まること数秒。
「…ふわっ⁉︎」
それが何かわかり、慌てて後ろに身を引く。
大きな二つのお山の持ち主は、
ぼくの隣の席の女の子。
モデルのような長身、他の女子たちよりかなり発育のよさそうな身体は茶色のカーディガンの上からでもはっきりとわかるほどだ。
短いスカートからはかなり際どいところまで見えてしまいそうだ。
彼女は
どこからどう見てもギャルだ。
「明日香近すぎじゃない、弟月クン引いちゃってるよ。」
そして もう一人。
サラッとした長めの金髪が目を引く
紺色のカーディガンと髪の色とのコントラストが一層彼女の存在を際立たせていた。
このクラスのもう一人のギャルだ。
彼女たちはかなり目立つ
その派手な容姿もあいまってクラスの男子の間では、よく話題に上っていた。
クラスでも地味で、未だにクラスメイトから名前も覚えてもらえていないような ぼくとは、まるで関わることのないような二人だが、姉帯さんが隣の席だからか、ぼくの名前を覚えていてくれたのだ!
日々、勇気を出して挨拶だけでもしておいたかいがあったというものである。
そして、今 目の前にその二人がいた。
教室には、他にはもう誰もいなくなっていた。
「え?そんなことないでしょ それより弟月くんは何をしてたの?」
いや、充分すぎるほどに近かったよ 姉帯さん。
「これはね、もうすぐある球技大会の資料だよ。先生に頼まれちゃって」
とりあえず動揺を隠しつつ姉帯さんの疑問に答える。
というか、なんか今 ぼくクラスメイトと普通に会話してる⁉︎
なにこれ!すごくない⁉︎
放課後の教室でクラスメイトとお話ししてるって、これもう友達って言っても過言じゃない!
〜過言である〜
しかも、相手は地味なぼくとは普通ならまったく関わりのなさそうなギャルの姉帯さんと新妻さんだ。これはもう今月の運勢をかなり使ってしまっている気がする。
「へぇ でもこういうことってクラス委員とかがやるものなんじゃないの?」
ごもっともな疑問を新妻さんが言ってくれた。
やっぱりそうだよねー。
「なんか、お前には頼みやすいからって先生がね…。」
ガクッと肩を落とす。我ながら情けない姿です。
「え〜⁉︎酷くないそれ⁉︎ よしよし、わたしが手伝ってあげるからね、元気だして」
ぼくの情けない姿を見かねたようで、姉帯さんがナデナデして励ましてくれた。
高校生活でこんなに優しくしてもらったの初めて、
もう何もこわ…おっと死亡フラグだった。
「え、いいの? でも悪いよ。何か予定があったんじゃ…。」
「いいの、いいの! 遠慮しないでお姉さんに任せなさい!」
姉帯さんがドンッと、その大きな胸を張って言った。
ブレザーのボタンが、はじけ飛びそうだった。
ていうか、お姉さんって、ぼくたち同い年なんですけど…。
「わたしも手伝うよ、その方が早く終わるでしょ。」
その長い金髪を指でくるくるしながら新妻さんも手伝おうとしてくれていた。
天使だ ここに天使がおふたりもいらっしゃる
おっと、いけない!
一瞬ふたりの優しさに思考がトリップしていた。
あぶない、あぶない。
せっかくふたりが手伝ってくれるんだ。
ちゃんとお礼を言わないとね、こういう時はしっかり相手の目を見てはっきりと!
よし!
「姉帯さん、新妻さん! ふたりとも優しいんだね、手伝ってくれてありがとう」 ニコッ
「……。」 ゾクゾクッ
「……。」 カァー
あれ、なんか無言に
変だったかな、若干キョドッてしまったのが分かられちゃった⁉︎
ヤバいヤバい、気持ち悪いーとか思われちゃう⁉︎
と、一人テンパっていると
顔中が柔らかい何かに包まれた
ふかふかぁで、なんだかいい香り
温かい何かにつつまれながら、状況もわからないままにその心地よい感覚に流されていると
「か、かわいい ー!」
姉帯さんの声がやたらと近くで聞こえてきた。
「弟月クン可愛すぎ!ちょっとゾクゾクしちゃった」
そこでようやく自分の状況を理解する。
姉帯さんに抱きしめられて、その豊満な胸に埋もれていた。
「ちょ、ちょちょちょっと⁉︎姉帯さん⁈は、離れて!」
慌てて離れようとするもガッチリキャッチされていて抜け出せない。
男子と女子だが、モデルのような長身の姉帯さんと、並の女子より低いかもしれないほど低身長のぼくとでは勝負にならず、情けないが自分では脱出不可能だった。
こうなったら、恥を忍んで助けを求めるしかない!
こうしているうちにも、柔らかい何かに押しつぶされそうになる。
「に、新妻さん!姉帯さんを何とか離れてもらうように言ってくれないかな⁉︎」
なんとか新妻さんに向けて助けを求めるも、肝心の新妻さんは微動だにせず、その場に立ったままだった。
ちょ、割とかっこ悪いけど この必死のSOSに無反応とは、些か酷いのではないですか?
せめて俯いてないで、こっちを見て…?
よく見ると新妻さんの顔が赤いように見えた。
そしてブツブツと何か言ってる?
「……え、何あれ、かわいい、何あのニコッて可愛すぎ……」ブツブツ
「あの、新妻さん? 新妻さん!ちょっと!帰ってきてー⁉︎」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「いや〜ごめん、ごめん。私ってかわいいもの好きでさ、ついテンション上がっちゃった。」
ホクホク顔の満足そうな様子の姉帯さんが、テヘッて感じに謝ってくれた。
……かわいい。
「弟月くんってさ、前髪で隠れててわかんなかったけど、女の子みたいなかわいい顔してんね。」
ズイッと新妻さんが目の前まで顔を寄せてくる。
ひぃ〜ち、近いです。
恥ずかしがっているとそのまま前髪を指でそっとあげられる。
前髪ガードがなくなった今、目の前には新妻さんのキレイな顔があった。
切れ長の目は鋭い印象もあるが、瞳はとても優しい色。
サラサラの金髪が流れて行く様子はとてもキレイで見惚れてしまいそうだった。
自分でも今、顔が真っ赤になっているだろうことがわかる。心なしか、見つめる新妻さんの頬も赤みがかっているように見えた。
たぶんそれは気のせいだか、こんな近距離で見つめないで!と叫びたかった。
知らぬまに見つめ合うような感じになっていたのだろう。
「結!ず〜る〜い〜!そんなに見つめ合っちゃて!私が先に弟月くんの可愛さに気付いたんだからね!」
グイッと姉帯さんに引き寄せられる。
なんだかオモチャになった気分である。
「…ダイジョウブ、ダイジョウブ、ワタシのココロは平静…。」
新妻さんはカタコトでぶつぶつ呟いていた。
とりあえず、男子の尊厳として可愛いは否定しておこう!
「かわいいって、ぼくは男だよ?かわいいっていうなら新妻さんだよね。きれいな長い髪に優しそうな目がとってもかわいいよね!」
「……。」ボンッ
新妻さんが止まってしまった。あれ?なんか変だったかな?
何故か真っ赤になった新妻さんを見て姉帯さんがもっと引き寄せてきた。
「あら〜めずらし、ていうか弟月くん!わたしは?かわいいのは結だけなの?」
「もちろん!姉帯さんも可愛いと思うよ!目立たないぼくの名前を覚えてくれてるし、なんだか優しいお姉さんって感じがするよ。同い年なのになんか変だね。でも覚えてくれてありがとう!嬉しかったよ。」ニコッ
「……。」ゾクゾクッ
よく考えると、恥ずかしいことを言っているような気もするけど…。
ふたりの明るさと、いい意味での遠慮のなさが、ぼくの緊張を、ほぐしてくれたようだ。しっかりと自分の気持ちを伝えることができている気がする!
他の人とちゃんと話が出来ていることに嬉しくなり、そこまで気にしなかったが、ここであることを思い出した。
「そうだ⁉︎先生に頼まれてた書類があったんだった。早めに完成させないと」
「あ、ウチらも手伝うよ。」
正気に戻った新妻さんが書類をまとめてくれた。
「あ、ありがとう!でもいいの?ふたりとも帰るところだったんじゃ?」
姉帯さんも手伝い始めてくれていた。
「気にしない、気にしない!それに、私前から弟月くんと話してみたいなって思ってたんだ。せっかく隣の席になったんだから、もっと仲良くしたくない?」
「ぼくも!姉帯さんともっと仲良くなりたかったんだ!でもなかなか話しかける勇気がなくて…。話しかけてくれてありがとう!」
なんだか嬉しいことを言ってもらえたので、こちらも素直な気持ちで感謝を伝えてみることにした。
「す、ストレートなボクっ子…。恐ろしい子。」
なんだかまた、姉帯さんが俯いて固まってしまった。
でもふたりも人手が増えて、これならすぐにまとめ終わりそうだ。
「それじゃあ、ふたりともよろしくお願いします。」ぺこり
作業も一人でもくもくとするより、賑やかなふたりと一緒だと格段に楽しくなっていた。
数十分後、、、
「終わったー‼︎」×3
一人で始めたときは、帰りはかなり遅くなるのを覚悟してたけど、思っていたより早く終わらせることができた。
「ありがとうね、ふたりとも!おかげでかなり早く終わったよ!何かお礼を…。」
「別にそこまで気にすることないって、ウチらも楽しかったよ、あまりこんなことやらないから。」
「結はお礼いらないっていうけど、私は待ってるからね!弟月くん♪」
「いや、あんたも遠慮しなさいよ」
はぁ とため息をつく新妻さんを見て「冗談だって~」と姉帯さんが笑っていた。
仲の良いやり取り、尊い。
「お礼はふたりに、ちゃんとするよ。何が好きかわからないけど、甘いものとかどうかな?」
「お!もちろん甘いもの好きだよー!」
「わたしも好きだけど、ほんとに気にしなくていいのに」
「ふふ、よかった。新妻さんも遠慮しないでね。今日はこの書類を先生に提出しにいかなきゃだから、また今度でいいかな?ふたりが時間あれば」
「いいね!三人で甘いもの食べに行っちゃいますか」
「弟月くんが、いいなら ちょっと明日香どこに行くかリサーチしとくよ」
ハハ、喜んでもらえたのはよかったけど、なんか二人の目が本気に見えたのが少し心配だ。
今日はそのままふたりと別れて先生に書類を提出した。
先生は軽く書類をチェックしてから、「見つからないように食うんだぞ」と飴を一つくれた。なんとも微妙な労いである。
帰り道で一人、今日の出来事を思い返す。
放課後に先生から雑用を頼まれたときは、なんとも言えないやるせなさで内心いっぱいだった。
しかし、途中からクラスのギャル 新妻さん 姉帯さんが作業を手伝ってくれた。
高校生になってから、まだ友人がおらず、一人でいることが多かったぼくは、ふたりのおかげで他の人と話しながら何かをする楽しさを久しぶりに味わった。
これぞ、青春!
しかも、今考えると何気なく 今度どこかに甘いものを食べに行く約束までしてしまった。
これって もう友達なのでは?
お父さん お母さん ぼくにもようやく友達ができそうです。
話をしていたふたりの様子もなんだか楽しそうに見えて、それが余計に嬉しく感じた。
どんなお店を調べてるのかな ぼくも甘いもの好きだから楽しみだな
女子しか知らないオシャレなお店も知ってそう
あ、でも あまり高いのは ちょっとまずいかな、はは…。
なんて一人で浮かれながら、その日は家に帰った。
次の日に、大変な事件が起きるとも知らずに…。
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