第12話:混乱
<<ロックの堕天使に騙されるな>>
三年くらい前に何度か食わせてもらったけど、あんな淫乱フェラ好き野郎が天使とか呼ばれててマジ草だわww だって俺が知る限り、当時は毎晩別の男と寝て貢がせてたんだからw
あ、でも身体はヤバかったね! 乳首責めるとすぐイッてたよww 俺ももうちょっと金持ってたらヤレてたんだけど、あいつの目当ては金だけだったからwwww
とにかくね、俺は警告したいわけよ、あの堕天使に騙されてる可愛そうなファンに。
あんなクソビッチ野郎に日本のロック任せていいのか? ってね。
っていうかあいつ、『音楽で食べていきたい』とかいう夢語ってさ、すげえ苦労人みたいにネタにして、それでパパたちの同情引いて結局ヤって金搾り取ったら次のパパに行ってたから、それでメジャー行くとか、普通に笑えねー。
関係者はちゃんと身辺調査とかしねーのか? 洗えばすぐ出てくるぜ。
つかさ、あいつの被害に遭った人いたらマジで訴えねえ? 負ける気がしねーww
レコ社の偉い方々、今自分たちが契約しようとしてるバンドのフロントマンがどんな詐欺師か調べた方が、って言いかけたけどアレか、どうせ契約も枕で取ったんだろうなw
この文書がネット上の大手SNSや掲示板などに、一斉に書き込まれたとのことだった。
そしてツクリテが契約していたレーベルのお偉いさんたちには、この文書と、件の画像付きでメールが届いた、と聞いた。
ツクリテはパニックに陥り会話も覚束なくなっていたから、俺が一時的な代理人として話を聞き、文書の内容は一部事実ではないが、宿がない時期があり、仕方なく、ということを、ツクリテの許可を取って伝えた。事務所に来いと言われたが、ツクリテはとても外に出られる状態ではなかった。すると、しばらくしてコージとアカシが、二人の関係者と共にウチに来た。
コージは激昂していた。久々に顔を合わせる俺には会釈したが、居間のソファでいまだ震えているツクリテには、開口一番叫んだ。
「何だよ、アレは!」
ツクリテがまた涙を流しながらビクつく。
「どうして……、言ってくれなかったんだよ……!」
コージは眼に少し涙をためていた。
「俺ら、同じバンドのメンバーって以前に友達だったろ?! なんで、せめて俺とアカシだけにも、そういう過去があったって言わなかった?!」
「だって……言ったらみんな、逃げる、から……」
「要するに俺らを信頼してなかったんだろ!」
「落ち着けコージ」
アカシが冷静な声で制した。
「過去の話をしても仕方ない。上層部が契約をどうするか、おそらく明日にでも決めるだろう。リキッドでのライブは、すでに出演キャンセルにされた」
「え……?」
「あれ?」
俺が間抜けな声を出したのでツクリテ以外の四人がぱっとこちらに振り返った。
「あの人は? トシさんだっけ、マネージャーの。おまえら一緒じゃねえの?」
素朴な疑問として聞くと、コージとアカシがクッと表情を強ばらせた。
「……こいつの過去を暴露したのはトシさんだよ。もう連絡が取れない」
ツクリテが愕然として顔を上げる。一緒だった事務所の男性のひとりが一歩前に出た。
「まだ100%確定したわけではないけど、ほぼガチだ。文字通り失踪した。例の文書がネットにアップされる直前にだ。固定電話も携帯も通じないし、マンションの部屋も空になってた」
「すみません」
俺は思わず挙手して言った。
「そいつ探し出してぶっ殺していいですか?」
「おっさん、俺らもそうしてえよ。でも今は、今後のことを考えないと」
コージが言う。怒りを必死に抑えている声だった。
ツクリテはまた俯いてしまい、肩が震えだした。そして右手を何度か前に出して何かを探っているような仕草をした。俺は即座にソファのツクリテに歩み寄り、その手を握ってやった。
「あー、皆さま申し訳ございません。こいつ、これ以上この状況にいると死にます。俺が落ち着かせますんで、改めてもらってよろしいでしょうか」
「俺とアカシもか?!」
「残念ながらそうだよ、コージ。こいつの根っこはおまえらが思ってる以上に深いところまでやられてる。こいつの代わりに俺ができることがあれば何でもやるけど、今は、ちょっと落ち着かせてやってくれないか?」
事務所の男性二名は顔を見合わせ、その後頷いたが、コージは憮然としていた。
「コージ、おそらく今はおっさんの意見を優先させた方がいい。触られるとキレるとか、去年の握手の一件はおまえも覚えてるだろ? 相当な……トラウマがあるんだろう。それに俺たちにもできることが他にあるはずだ」
アカシがそう説得すると、コージは俺を睨むように見遣った。
「本当にあんたに任せて大丈夫なのか?」
「当然だ。アカシが正しい。おまえら二人が、こいつのために今何ができるか、それを考えて実行して欲しい。この通りだ」
俺は頭を下げた。
「じゃあ任せるからな、頭上げてくれ」
「よろしくお願いします」
四人を玄関まで見送り、俺はすぐリヴィングに戻った。相変わらずソファの上で両膝を抱えているツクリテの頭を軽くぽんと叩いた。
「よう、ツクリテ殿下」
俺はツクリテの正面に腰を下ろした。
「ひとつ、伝えたいことがある。眼、開けろ」
「……めん、おっさん、ホントごめん、ごめんなさい……」
「いいから眼を開けろ! 俺を見ろ!」
ツクリテは不安げに俺の眼に焦点を合わせた。
「いいか、俺は何があってもおまえとおまえの作る音楽を護るぞ。絶対に。それだけは忘れるな」
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