白雪姫に必要なのはキスではなくサウナ
毎朝、いっちょやってやるかの気持を作り、意識的に指を動かすことで「書く」という行動の準備体操やリズムづくりをしているわけですが、書くための核(疲れているのでダジャレがキツい)が無いと、書き出すのに困ってしまいます。
ラジオ体操のように決まった物を用意し、それをタイプするだけでもいいのかな、とも思いますが、せっかくですので新しい何かを書き散らしたいものです。と、いうわけで、PCに向かっている間に、テキストの核になりそうなトピックを思いついたら、とりあえずちょこちょこメモしています。朝になったらそのメモを見て、思いついた事を肉付けしながら書いていくわけですね。
ところがこのメモ、本当にただの思い付きなので、あとから見ると意味不明な事があります。あの時の私、これ何? という奴が。今日のメモもそれで、「白雪姫 寒い」とだけ書かれていました。どういう事なの。「雪」の字に引っ張られたのかな。とか思いつつも書き始める事にしたのです。
寒い。きっと寒いはずだ。そうだ。思い出してきました。白雪姫が毒リンゴを食べて昏睡している時の絵って、だいたい森の中に突然ベッドが置いてあり、そこに横たわっています。あれ寒いですよね。絶対。
という事は、白雪姫が目を覚まさないのは、毒のせいではなく寒さのせいの可能性があります。野生動物のように冬眠状態にあるか、もしくは、張り切って運動をしすぎ、うっかり布団をかけずに寝てしまった日の翌朝のように、筋肉痛と冷えが同時に襲ってきて体がバッキバキで動かない可能性が。
そんな姫にキスをしても、体が動くようになるわけがありません。王子が用意すべきは自らの唇ではなく体を温める何かだ。しかし白雪姫はベッドに寝たまま動かせません。ならばそうだ。ここにサウナを建てよう。
王子と7人の小人は白雪姫のベッドを中心に、サウナテントを張ります。耐熱性に優れた布で仕切りを作り、サウナストーブを設置します。なんと薪式です。さらに、天井部分には煙突用の穴を開け、サウナストーブの煙突を通します。
サウナストーブの上には鋼編みの籠を置き、その中には手ごろな大きさの石を山盛りに置きました。その傍らには、森のアロマをたっぷりと含んだハーブ水が湛えられたバケットと、そして、少し柄の長いラドル(
7人の小人は大騒ぎで薪を用意し、サウナストーブにくべては燃やします。王子はどこから調達したのかふいごを使って火勢を強め、テント内の温度を上げていきます。小人の一人は、指揮を執るかのように、ヴィヒタ(
テント内の温度が80℃に達し、湿度が15%程に下がってきた頃、白雪姫のひたいに玉の汗がぽつり、ぽつりと吹き出し始めました。生きている。彼女は確かに生きている。王子と7人の小人は、その様子に俄然勢いづき、さらに温度調整に励みます。王子も7人の小人も、もう汗だくです。
そして5分ほど経った時、王子がすっくと立ち上がり、バケットとラドルを手にしました。その慈しむような視線の先にあるのは姫ではなく石。熱せられたサウナストーンです。王子はそっと歩み寄ると、アロマ水をかけました。
ジュワアアアア……。誰もが憧れる夢のようなロウリュ。たちまちテント内に檜の香りを含んだ蒸気が広がり、一気に体感温度が上がります。雪のように白かった白雪姫の頬も、すっかり薔薇のように赤く染まっています。そして、ついに、その目がぱっちりと開きました。7人の小人は大喜びで跳ね回り、ヴィヒタで互いの身体をパシパシと叩き合って健闘を称えあいます。
「私……長い夢を見ていました。フィンランドのサウナで蒸されている夢を。ドリンクバーも併設されていて、りんごジュースがあって……」
「ふふ、おはよう姫。私は王子。目が覚めて本当に良かった」
「王子、ありがとうございます。私、何と言ってお礼をすればいいのか……」
「いいんだよ。姫。それは後だ。今は熱で解されたバキナキの身体を労わるのが先だよ。もうしばらく蒸されてなさい」
「はい。でも、もう充分です。ガッチガチだった首回りも快適です」
「じゃあ、行こうか」
「はい」
王子が白雪姫の手を取ると、2人並んでテントを出ました。幸せそうでホカホカの2人が向かう先は、もちろんお城ではなく水風呂だ。森の天然水が流れる川に、そのまま直行して水浴びです。羨ましい。なんなんだ朝から君たちは。けしからん。私も野外サウナでととのいたい。いつか行ってやる。
……などと、メモを元にお話を書き散らかしつつ準備体操を終えるのです。さて、今週も遂に金曜日(13日の金曜日!!)。週末へと思いを馳せ、今日も一日行ってみましょう。
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