オカマの佐知代ちゃん
実は私、「サウナ探偵」なる、サウナでととのうと事件を解決するという迷探偵のお話を書いているのですが、今朝は、そのうちサウナ探偵のお話に登場させようかなあ、どうしようかなあ、と思っているキャラクターのスケッチを書いてみようかと思います。まるで脈絡のない内容で恐縮ですが、ウォーミングアップですしね。好きに書き散らすのだぜ!
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♨:承前情報
佐知代ちゃん(46):オカマバーの元・ママ。ムキムキマッチョ
龍二と竜太郎が、犯人がホストのうちの一人という事件を解決し、佐知代ちゃんが営むお店にて一杯やっている、というシーン。
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龍二はカウンターに腰掛け、ビールを煽った。
「それにしても、なんであいつらはホストになったんでしょうね」
「それねー。
「そうなんですか」
「うん。あの子たちは、『今の自分じゃない何か』になりたかったんだと思うのよね。要するに、変わりたかったのよ。私みたいに。それがたまたまホストという世界ってことね。で、あんなことに」
佐知代ちゃんは困り顔で笑うと、上腕二頭筋をぐっと収縮させてショットグラスの中のテキーラをくいっと煽った。
「フフ。思い出すわあ。私がオカマの世界に入った頃。水龍ちゃん、私って、高校生の時、そこそこ虐められてたの」
「ママが……ちょっと信じられないですね」
「あはは。今でこそこんなガチムチだけどね、当時はセンが細くて、物凄く自分に自信が無くて。おかげで周りの自分に自信がない連中の体のいいターゲットになって、いろんな事をされてたの」
「そうだったんですか」
「うん。とにかく逃げ出したかった。学校はもちろん、家からも。ウチの両親は『逃げたら負けだ。もう少し頑張れ』という方針でね。イジメられてることなんて、とても言い出せなかった。その頃の私ってば、『超』のつくマジメでね。メガネかけて、学生服はピシッと着こなす男の子で。フフ、懐かしいわね」
佐知代ちゃんは自分でショットグラスにテキーラのおかわりを注ぎ、一気に煽ってて櫛切りのライムを噛むと、くしゃっと顔を歪めてすっぱい顔をした。
「それでね、なんとか静岡の大学に潜り込んだんだけど、そこでバイトを探している時に、両替町のオカマバー『シャイ・ガイ』に出会ったのよ。たちまち私は夢中になったわ」
「そ……そうなんですか」
龍二は話の展開の突飛さに少々戸惑いつつも相槌を打つ。
「ええ。そこで働いているママのいい加減さ。キャストの皆の好き勝手さ。全然綺麗じゃないのに、むしろ、いびつなのに力強く自分を肯定している図太さ。そういうのに、魅了されてしまったの。すぐに私はバイトに応募して、バーテンとして雇って貰ったわ。それが私のオカマとしての第一歩だったの」
「いわゆるゲイとか、LGBTとかの世界ですか。先進的ですね」
佐知代ちゃんは首を振ってフフフ、っと笑った。
「違うの。全然違うのよ。今のLGBTの活動をしている子達はね、自分の性衝動というか、一般的なジェンダーに比した自分の認識のズレと偏見を解消するために活動してるわけじゃない? 私は違うの。私はね、純粋に、『今の自分じゃない強い何か』になりたかったの。その強さに、自由奔放さに、物凄く憧れただけなの。自分もそうなりたいって。だから、ジェンダーとか何も考えずに、口紅を塗って、スカートを履いただけ。言ってみれば、生きるのが辛い現状から逃げだしたくって、オカマの傘の下に隠れただけなのよ」
龍二はなんと言っていいか分からずに、隣の竜太郎を見る。だが、竜太郎は何事も無かったかのように、平然とぶどう酢のサワーを飲んでいるだけだ。佐知代ちゃんは、そんな2人の様子には頓着せずに続ける。
「だからね、こないだ水龍ちゃんが『LGBTの活動とかよく見かけるようになりましたけど、参加しないんですか』って言ってたじゃない? あれに私が参加しないのは、そのせいなの。だってさ、根っこが違うじゃない? 私がああいうのに参加したら、味方したら、活動の大事な所がブレちゃうと思ってるのよね。下手したら、私たちが参加したことで、今の子達が頑張っている活動にケチをつけられかねないの。私たちの、ううん、少なくとも私がオカマになった動機は、ああいった活動とは違う、ある意味真逆の打算的な行動だからね。オカマになった子達の衝動ってのは、人それぞれで、オカマの数だけ理由があるのよ。十把一絡げでなく。そこから言うと、私があの活動にいっちょ噛むのは、正しくないわ」
佐知代ちゃんが少し寂し気に笑うと、それまで黙って話を聞いていた竜太郎が、にこにこと笑いながら口を挟んだ。
「現状を変えたかったという点では一緒なんじゃないのかな。少なくとも、間違っている、なんてことはないよ」
「
佐知代ちゃんは、目頭を押さえるふりをすると、竜太郎の手を取った。すると、竜太郎は悪い顔になって付け加えた。
「まあ、それでも佐知代ちゃんがいたら、ビジュアル的にはケチが付くかもしれないけど」
「ちょっと! 誰のビジュアルが反社会的だってのよ! 明日からご飯作ってあげないからね!」
「ごめんごめん。佐知代ちゃんはいいブスだよ」
「いいブスって何さ! まあ、しっくりくるのが悔しいけど!」
そう言って、2人は声を上げて笑った。ひとしきり笑うと、佐知代ちゃんは龍二の方へと向き直った。
「まあ、そういうわけで、ああいう活動には何も口を出さないの。小説や、コンテンツにもね。『頑張ってね』という心からの気持ちもあれば、無縁のくせに新しいおもちゃみたいな感覚でキャッキャッと騒いでる連中に対する嫌悪感もある。最近では、誰かを攻撃する口実や、話題や人気取りのためだけに使っている連中に対する憤りもあるわ。でもね、だからといって私たちがでしゃばると、まぎれちゃうのよね。私が自分の事を『ゲイ』だとか『女装家』だとか、『性同一障害』だとか言わないのもそういったわけ。私は『オカマ』なの。『オカマ』で十分で、それ以上でもそれ以下でも無いの。それでも頑張ってる子はなんとかしてあげたいから、名前は出さずにお金だけはガンガン出してるんだけどね。私みたいなずるいオカマが本気でやってる子達に出せるのは、お金と、それと■■■だけなのよ。オカマだけに」
そう言うと、佐知代ちゃんはわざとらしく口を大きく開けてしまったという顔を作ると、両手で頬を挟んだ。
「やだー。ごめーん。結局下ネタになっちゃうのよね。これだからオカマは」
「佐知代ちゃん、そういう所だぞ。昔、両替町のお店に刑事局長を連れて行った時も、局長の時計を■■■に■■■■■して」
「お義父さん?」
「覚えてるー。だってあのハゲ煩いんだもん。そのまま■■■■でぐるぐる回して■■■を■■■■■して■■したうえにトドメに■■■■■■したのよねー」
「そうだよ。おかげで私は■■■■を■して■■■■■するはめになったんだよ」
「もしもし? 2人とも。この話は全年齢対象だし、現職の刑事がここにいるんですけど?」
「ごめーん水龍ちゃん。これだからオカマってやーねー」
そう言ってまた、佐知代ちゃんと竜太郎は声を上げて笑った。龍二はそんな2人を見て、ため息を吐いた。まったくどううしようもない。半分は飽きれたのだが、もう半分は、そのどうしようもなさが、微笑ましく、羨ましくも思えた。
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と、こんなシーンを妄想しています。どうしようかしらん。ううむ。
でも、それよりなにより、まずはサウナに絡めたトリックを考えなくては新しい話は始まりません。そちらはどうしましょう。などと考えつつ今日も今日とて始めていきましょう。
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