9月の朝は魔法のコーヒー
緋色の鈍い光を放つ銅のメジャースプーンを、豆の中に突っ込んで摺り切り1杯分取り出し、ミルのカップの中に流し込む。豆たちはからからと音を立ててカップの中を撥ね周り、ある者はそのまま穴の中に収まり、またある者はふんばって穴の手前に留まる。
左手でハンドルをぐっと握り、右手で本体をしっかり押さえて豆を挽く。初めはガリガリという荒い音に、それなりの手ごたえ。ふわっと漂ってくる珈琲の香りに、耳の後ろあたりがぞくぞくと喜びだす。そのままぐるぐるとハンドルを回すと、やがて手ごたえはすんなりした物となり、カラカラとミルが空回りする音へと変わっていく。頃合いだ。
コーヒーメーカーのドリッパーを取り出し、紙のフィルターの端を折ってからセットする。ミルのボディをくるくると回して外すと、中の粉をフィルターの中にざっと入れる。最後にトントンとカップの端にぶつけ、全部の粉をフィルター内に移す。
ウォーマーに、コーヒーグラス1杯分の水を入れ、それを本体の給水口へとどぼどぼと入れる。最後にウォーマーの上にドリッパーを乗せ、コーヒーメイカーにセットすれば下準備は完成。あとはスイッチを入れ、コーヒーが抽出されるのを待つだけだ。
毎朝、コーヒー1杯を飲むために、この儀式めいた手順を繰り返す。いや、儀式めいているからこそいいのだ。この手順は私にとって、ヒーローものの変身シーンと同じだ。おきまりの手順で、おきまりの長さで、少々めんどくさい手順を踏んで辿り着く。その1手順1手順ごとに、だんだんと私は寝ぼけた私から、お仕事をする私へと切り替わっていく。1パーツ1パーツバトルスーツを身にまとうヒーローのように。
朝のコーヒーは、私にとって、そういったスイッチなのだ。
そしてすっかりお仕事ライダーに変身した私は、ダブルウォールのグラスにコーヒーを注ぎ、その色と香りを楽しみながら、おっかなびっくりちびちびと飲むのだ。猫舌なので。
そんな変身シーンを経て、今日も1日はりきって行ってみましょう。
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