忙しい時に運転中ボーっと外を見るのは危ない

 薄々感づいている方もいらっしゃると思うのですが、只今、絶賛修羅場中なのです。忙しいのです。でも、忙しい時ほど余計な事したくなりますよね。このテキストみたいに。景気づけというか、準備体操な所も多分にあるのですけど。


 こういう忙しい時には、車の運転も気を付けなくてはいけません。なにせ、頭の中はちょっと変な回転をしているからです。ついついボーっとして事故でも起こしたら目も当てられません。無防備で、注意散漫状態で何も考えずに外を眺めて運転してしまいがちです。


 そんな時に、ふと、何かしらいつもとは違う物が目に入ってしまったら大変です。スイッチが入りっぱなしの頭が、勝手な事を考え始めます。


 例えば、証明写真を撮影するボックスから、体のサイズに合わない事務服を着た、高校生くらいの女の子が目に入ったとします。


 明らかに学校の制服ではありません。ダボダボのワイシャツにこれまたサイズの大きいグリーンのベストに野暮ったいスカート。肩先まであるだろう髪は、うなじの辺りでバレッタで一つまとめにしています。そんな恰好で証明写真ボックスからでてきて、ちょっと下を向いてとぼとぼ歩いています。


 時間は午前9時。なぜ、彼女はこんな時間にあんな格好で証明写真を撮っていたのでしょうか。私の脳は考えます。


 勝手な想像ですけど、彼女は親が倒れ、今すぐにでも仕事を探さないといけない境遇になってしまったのではないでしょうか。ひょっとしたら父親は既に他界し、母親は、彼女と幼い弟と妹を女手一つで育て上げているのかもしれません。この決して給料が高い地域とは言えない小さな町で。


 そんな一家の大黒柱である母親が倒れ、彼女は当惑したものの決心したのでしょう。私が働かなくてはならない、と。そして妹のお世話を不安がる弟に任せ、母親の制服を着て証明写真を撮りに来たのです。私は働けます、と、精いっぱい取り繕うために。


 しかしやはり不安なのでしょう、そして、辛いのでしょう。彼女はスマホを持っていません。母が勧めても、興味が無いからと言って断って来たからです。本当の所は欲しいに決まっていますが、家計的に負担になるのが心苦しかったのです。そんな彼女が、インターネットカフェで就職関連情報を調べて、付け焼き刃の知識で証明写真を撮り、これから履歴書に向かいます。


 初めての事だらけなのに教えてくれる人は周りにいない。逃げ出したい気持ちと、家族の為に自分がやらなければという気持ちが鬩ぎあい、ダブダブの制服の中の小さな体は、張り裂けそうになっています。しかし分かっているのです。やるしかない、と。


 いえ、本当の所は分かっていないのかもしれません。自分がやらなければならないというのは思い込みで、周りを見れば、求めれば、手を差し伸べてくれる人がいるという事を。あの不安げな、それでいて、止まることなく真っすぐと歩む足取り。今の彼女は、自分がやらなければならない、その一念を心の支えにしてしまい、折れそうになる心を奮い立たせているのは疑いようがありません。


 頑張れ、彼女。いい勤め先が見つかるといいなあ。なんなら従業員は私とお掃除ロボットルンバ君しかいないうちの事務所で働くかい? いや、でも給料はそんなにたくさん出せないんだ。ごめんね、もっと頑張って働くから。なんでもっとちゃんとしてないんだ私は。私のバカ!


 ……などと勝手な妄想を産み出しつつ運転する羽目になるのです。本当にすみません彼女。実際は、夏休み中になんかのイベントのバイトでもするんでしょうね。良い夏休みになるといいね、そのイベントというのはたぶん……


 と、不毛なループから抜け出して、今日も今日とて進めていきましょう。さあ、それでは今日も行ってみましょう。

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