ことのはしずく

 それは朝方の森のよう。灌木を分け入った場所にある湖畔の霧のように、広く、深く浮かんでいます。目にしたもの。耳にしたもの。食べたもの。触った感触、触られた心地。そして心が、体が感じたあいまいで、捉えどころのない何か。


 その何かが、うっすらと白く、時にはほんのりと赤く、青く、光を受けて色を変えながらゆらりと揺蕩う場所は心。弊社の職人が胸を焦がすほどの火を入れると、その何かはにわかに揺らめき、そしてぐるりと対流し始め、天井へと貼りつきます。


 天井はすり鉢型に仕上げられており、その貼りついた何かは、ゆっくり、ゆっくりとすり鉢型の一番下、つまりはへと集まってきます。ほら、だんだんとでっぱりの先端が膨らんできました。ぐぐぐ……と盛り上がる透き通った液体。これが「ことのはしずく」です。


 少しずつ集まったことのはしずくは、やがて、ぽたっと天井を離れます。そして、カップの中へぽたり。一滴ずつ、ゆっくりと時間をかけて、ぽたん、ぴちゃんと落ちていきます。


 心の中のもやもや。なんとなく「こうじゃないかな」と感じていたこと。憧れや好きや、嫌いやそねみかもしれない何か。ぼんやりと気づいていた事や、気づかない振りをしていたそれらは、ことのはのしずくになって初めて、ああ、これだったんだと分かるようになるのです。他人はもちろん、自分にとってさえ。


 一滴のしずくは微々たるものですが、それでも心のもやもやを抽出ドリップしたものですから、しゅん、と染み渡ります。時にはあっというまに全身ずぶぬれになるゲリラ豪雨のように急激に。時には岩を穿つ雨の水滴のように、時間をかけてゆっくりと。


 弊社の職人は、そんなことのはしずくを、じっくり時間をかけて、一滴一滴丁寧に、大切に、ときにはちょっと投げやりに(すみません)集めては、ひとつひとつのビンに詰めているのです。


 そんなことのはしずくで淹れたコーヒーを、あなたもぜひ召し上がれ。毎朝のエンジンをかけるためのきっかけになる一杯としてお勧めです。今ならお求め安くなっていますよ。さあ、お試しにこちらをどうぞ。それでは今日も一日、始めて行きましょうか。

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