好きなだけじゃ駄目かな2
さあ月曜日になりました。早いもので8月も最終週です。気分も新たにやっていきましょう。まずは指慣らし……と思ってブラウザを開いて驚愕です。先週金曜の私、「続く」て。無責任にもほどがないか。来週の私(つまり、今の私)に丸投げで週末にビールとか飲む気満々じゃねーか。おいしかったけど。あのやろう。でも、続くと書いてしまったからには仕方ありません。続きをひねり出していきましょう。
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王都に到着し、謁見を申し込む。なんでも今回の荷は内密の親書めいたものであるようで、直接王に手渡し、受け取りのサインを貰ってきて欲しいとの事だった。面倒だが、これも仕事だ。
しばらく待たされたあと、男だけが謁見の間に通された。赤い絨毯が敷き詰められ、豪奢な照明器具が吊り下げられた高い天井。その広い部屋の奥にある、一段高く設えられている玉座に、ナ=カタジマの王がどっしりと座っていた。男は恭しく荷物を捧げ、王はそれを無造作に掴んで目を通す。
「ふむ。配達人よ。この荷物はカワ=ワからの物らしいが、割符はどうした」
「割符……? 添えられていませんか?」
「今受け取った中には無い。配達人の荷物の中に紛れていないか」
男は首を振る。荷物を取り出す際、袋の中身はきっちり確認した。以前、似たようなトラブルにあった事があり、ルーティン的に確認する癖をつけてあるのだ。取り出し忘れた、などという事はあり得ない。そう告げると、王は眉根を寄せて顎髭をしごく。
「ならば、この荷物は受け取れんな。偽物の可能性を捨てられん」
「そんな! 俺は依頼されたとおりに荷物を運んだだけです。せめてそれを証明するための受け取りのサインだけでもいただけないでしょうか」
「いや、駄目だ。そのサインが口実となって、何か諍いを起こされるかもしれん。配達人、これは、そういう内容の書簡なのだ」
王はそう言うと、パチンと指を鳴らした。すると、どこに控えていたのか物々しい装備に身を包んだ一団が男を取り囲む。衛兵だろうか。
「そして配達人よ。お前は今、カワ=ワと我が国を陥れようと偽の書簡を持ってきた犯罪者ではないかという疑いがかかっている。少々、話を聞かせてもらうぞ」
やれやれだ。とんだ1日だ。苦労して砂漠を超えてきた仕打ちがこれだ。思えば、朝からツイていなかった。妙な連中に絡まれるわ、変な女に付け回されるわで散々だ。久しぶりに暖かい風呂に柔らかなベッドにありつけるかと思っていたが、どうやらそうはいかないらしい。こんな事なら、あの女の浴槽に思いっきり浸かっておけば良かった。両手を上げたままの男がそう思っていると、ひとりの人物が謁見室内に入ってきた。
「王よ、お待ちください」
凛とした声のその主は、あの女だった。相変わらず露出の多い水着のような恰好のまま、背筋を伸ばし、胸を逸らせて真っすぐ王を見つめている。
「なんだ、そなたは」
「その配達人の同行者です。王よ、その者は信頼できます。今朝、暴漢に襲われそうになった私を助けてくれたのです。割符は、その際に落としてしまったのでしょう」
「ふむ。それを、相わかった、と素直に信じろとでも? そなたのようなどこの馬の骨ともわからぬ輩の言う事を」
「我が国の名誉にかけて誓います」
そう言うと、女は髪をすっとかき上げ、うなじの辺りを王に見せた。
「そ……その紋章は! まさかそなた、アクトの姫!?」
王は玉座を降り、女の前に跪くとその手を取って押し頂いた。男を取り囲んでいた衛兵たちも、一斉に女に向けて膝をつき、礼を取る。困惑する男を他所に、女はにこやかに笑みを浮かべたまま手を取られるままにしている。
「姫、ナ=カタジマの砂漠はさぞ堪えたでしょう。すぐに沐浴の手配をさせます。オアシス由来の水風呂で、存分に涼を取りお休みください」
「ええ、ありがとう。それで、親書の件ですが」
「承知いたしました。割符が無いのは疑わしいですが、姫が保証されるというのであれば、この者への受け取りはすぐにでも発行しましょう」
男がわけがわからず戸惑っているうちにあれよあれよと話は進み、受け取りは発行され、女は恭しくどこかへと案内されていった。
「王よ、ひとつ伺ってよろしいでしょうか。あの女は何者なのですか」
「なに、そなた知らんのか。あの方は、アクトの国の姫だ」
「アクトの……。しかし、アクトと言えばそれほど大きくもない辺境の国と聞いています。なぜその国の姫に、大国ナ=カタジマの王であるあなたが……」
「国の大小の問題ではない」
「では、個人的な繋がりでしょうか」
王は目を丸くして笑うと、首を振った。
「そなた、本当に何も知らんのだな。アクトの民のことを」
「アクトの民……ですか」
「かの地方の民は、他の種族とは異なり、肌を露出させる服装を好む。なぜだかわかるか」
「さあ? 好み、ではないですよね」
「もちろんだ。かの民は、皮膚呼吸をする種族なのだ。そのため、肌を露出させておかないと、息苦しくて生きてはゆけぬのだ」
皮膚呼吸をする種族。男はそんな種族がいることを初めて知った。
「そんな種族の者が、砂漠を渡ってくるというのがどういう事か分かるか。熱や砂を防ぐ服を着れば呼吸はできん。かといって着なければ、その身を焼かれ、砂は肌に纏わりついて呼吸を邪魔する。命がけなのだ。そこまでして我が国にわざわざ来るなど、よほどの事だ。本当に私は驚いているのだよ。そんな事ができるのか、とな。かの姫は、たとえ姫でなくとも、敬意をもって接するに値する御仁だ」
それで女はあんなに頻繁にシャワーを。男は納得すると同時に、王と同じように女に対するある種の畏敬の念を抱いた。
その夜、王宮では男と姫を歓迎する宴が饗された。部屋に戻った男は、姫に尋ねずにはいられなかった。
「なあ、姫、あんた、なんでまた命を懸けるようなマネまでして俺に着いてきたんだ。率直に言って、無謀すぎるぜ」
「あら、言ったでしょ。あなたの事が好きになったからだって」
「またそれか、なんなんだよその好きってのは、わけがわかんねえよ」
「好きは好きよ。好きなだけじゃ駄目かな? 理由を説明しろと言われると、むやみに考え込んで長くなっちゃいそうだけど。ええと、そうね、例えば、こんな感じで……」
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と、いうわけで、8月最終週の月曜日も行ってみましょう。
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