第32話 駆けつける者


 一方、マスラはと言えば……


(いよいよヤバい! )


 膝まで水に浸かり始めるマスラ。


 いよいよ外へ出る見込みが薄くなり始めた。


(ええい!ままよ! )


 マスラは一気呵成に飛び出した。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」


 呼吸で気を練り上げて集中する!

 一方、竜人もマスラの姿を見て嬉しそうに嗤った!


「そこに居たか! 」


 そう叫んでブレスの準備をする竜人。


(そう来るよなぁ! )


 マスラは気を刀へと集中させる。

 刀に気が纏わりついて強く輝き始めた!


 一方、竜人も大きく息を吸い込む。


(だが、こっちの方が速い! )


 マスラは思いっきり刀を振り上げる!

 竜人は口が開き始めた!


 ゴパァ!


 竜人の口から炎が噴き出してマスラへとまっすぐ進む!

 だが、マスラは刀を思いっきり振り下ろした!


『壁立! 』


 どぱぁ!


 元々膝まであった水が刀の衝撃で水柱として高く上がる!


 ボシュゥ!


 水と炎が当たって辺りは瞬く間に水蒸気で覆われてしまう!

 マスラがにやりと笑う。


(これで良し! )


 水煙によって一寸先も見えない状態である。

 これで竜人も自分が見えないはずである。


「ぐぅぅぅ!見えん! 」


 案の定、右往左往する竜人の声が聞こえる。


(後は出口から逃げれば! )


 そう考えてマスラが部屋の出口から出ようとしたその時だった!


 どん


 何か壁のように固いものに当たるマスラ。

 よく見ると竜人の貴族服であった。


(えっ? )


 マスラには少しだけ見えた。

 入り口を完全にふさいでいる竜人を。


 竜人も部屋から出ようとしていたのだ。

 こともあろうか、かちあってしまった。


(しまった! )


 竜人はにやりと笑い、そのゴツゴツとした腕でマスラを掴む!


 ギュムゥ!


「ぐがぁ! 」


 あまりの力に悲鳴をあげるマスラ。

 掴んだだけで腕が折れそうなのだ。


「ようやく捕まえたぞ! 」

 

 そう言って竜人がマスラの腕を引っ張った!


 するん


 その瞬間、マスラは自分に掛かっていた力が一切なくなって、たたらを踏んで廊下へと出る。


(……えっ? )


 突然の事で呆気にとられるマスラ。


(何だ? 俺は万力みたいな竜人の腕で捕まったんだよな? )


 だが、どう見てもマスラの腕には竜人は掴んでおらず、ただ、触った跡が赤くなっている。

 おもわず辺りを見渡すマスラ。


 すると、ある人物の姿に目が止まる。

 

 目の前には奴隷服を着た透明な青年が居た。

 それを見た竜人が顔をゆがめた。


「き、きさまぁ! まだ居たのか! 」


 悔しそうな竜人の声にマスラが驚いてそちらを振り向く。

 竜人はいつの間にか部屋の中へと戻っていた。


(一体何が……)


 混乱するマスラに青年はにっこりと笑った。


「君に聞きたい。この大陸の人間を解放する気はあるかな? 」


 マスラは死霊青年の場違いな言葉にきょとんとした。


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