第31話 志


 一方、オットー達はと言えば……


「早く逃げろ! 」

「でも……」

「良いから!子供ごと死にたいのか! 」


 エミナの体を押して穴へと押し込むオットーが居た。


 すでに巨乳美人と子供は先に穴に入っている。


「トルパスどうだ! 」

「まだです! 」


 廊下でマスラの到着を待つトルパス。


 とりあえず、子供とエミナは逃がすことにして、巨乳美人も逃がすことにした。


「すぐに救助するから! 」

「急いでくれよ! 」


 そう言ってオットーは槍でその辺のものを壊してバリケードの準備をする。

 死霊は視界に入らないと相手を確認することが出来ない。

 そのため、死角を増やすと逃げやすくなるのだ。


(あいつが来たらすぐに逃げられるようにしねぇと! )


 その辺のもので幾重ものバリケードを作ると同時に這いまわりながら穴に入る道を確保する。

 こうするとあっさりと死霊から逃げられるのだ。


バキバキバキバキ


 色んな物を壊してバリケードを作るオットー。

 すると何やら後ろに気配を感じた。


「大変だね」


ダシュッ!


 おもわず飛び退って、後ろを見るオットー。

 すると先ほどの奴隷服を着た青年の死霊が居た。

 先ほど同様に穏やかな笑みを浮かべている。


「何の用だ」


 少しだけ焦りながらオットーは尋ねる。

 死霊はなにがしかの未練があるゆえに残っている。

 それは基本的に生者にとっては有害なことが多い。


(こんなことやってる場合じゃないのに! )


 焦るオットーに向けて青年は尋ねた。


「さっきの彼はどこだい? 」


 それを聞いて訝しむオットー。


(一体何を考えているんだ! )


 訳が分からないが正直の答えることにした。


「あいつは竜人と戦っているよ」


 それを聞いた青年は少しだけ悲しそうな顔になった。

 

「ひょっとしてこの屋敷の主と戦っているのかい?なんでだい? 」

「知らねーよ。ただ、あいつは俺達を逃がすために囮になってくれたんだ。だから俺たちはあいつを待っているのさ」


 それを聞いて青年は目を丸くさせる。

 死霊なのに何故か表情豊かだ。


「仲間を開放するために犠牲になっているのか? 」

「そんなところだ」

 

 オットーは慎重に選んで答えた。

 すると青年は嬉しそうに言った。


「彼は僕の志を受け継いでくれるかもしれない……」

「……志? 」


 訝しむオットー。

 すると、青年は笑顔で言った。


「この大陸から人間を開放するのが僕の夢だった。僕は志半ばで倒れたけど……意志を継いでほしいんだ」

「それは別に構わんが、あいつはもう死にかけだぞ? 」


 さらっと酷いことを言うオットー。

 すると青年が驚いて叫んだ。


「助けなきゃ! 」


ヒュン


 声だけ残して消えてしまう青年。


「一体何なんだよ……」


 オットーは困り顔で辺りを見渡した。


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