第30話 水時計
一方、マスラはと言えば……
(ここはどこだぁ……)
本棚の後ろに隠れ潜みながら竜人の様子を窺っていた。
どうも書物保管庫に入ったようで、辺りは図書館のように本棚がずらりと並んでいて、ぎっしりと本が詰まっている。
(こんな時で無ければじっくり拝みたいのだが……)
楽園時代の書物はほとんど残っておらず、子供の落書きですら高値が付くほどだ。
のこっていても大半が写本の写本の写本で、その時々の時代背景を反映しているので、オリジナルの要素はほとんど残っていない。
(一応、持てるだけは持ったが……)
この状況では何冊持って帰れるかはわからないだろう。
「どこへ行ったぁ? 」
竜人の死霊はきょろきょろとあたりを見渡している。
だが、時折、体が薄くなったりもしていた。
(やばい!戻られる! )
マスラは焦った!
死霊は時間が経つと元の場所へと戻る。
折角、仲間から遠ざけたのに、下手をすると仲間と出くわす恐れがある。
(仕方ない! )
本棚から一冊取り出してそれをなるべく遠くに放り投げる。
ガタン! ドササ!
本棚が倒れて本が雪崩のように落ちる。
すると、竜人は音がした方に振り向いた!
「そこかぁ! 」
ボゴォ!
竜人が吐いたブレスで本棚が跡形もなく消える!
(ああ! 貴重な本がぁぁぁぁぁ!!! )
少しだけ涙を流しながらマスラはそそくさと逃げる。
そして腕時計で時間を見る。
(そろそろ全員が最初の部屋に辿り着いている頃か……)
まだ数分しか経っていないが、屋敷自体は広くても最短距離で走るとなると、それほどではない。
ましてやタイムリミットが近付いているこの状況なら全員がすぐにでも外に出ようとするだろう。
(そろそろ頃合いか……)
マスラも逃げる準備をしなければならない。
それもこいつを引き付けながらである。
(どうするべきか……)
竜人は部屋の入口のまえに陣取っている。
彼をどうにかして動かさないと出られないだろう。
ジョボボボボボ
先ほどまで水滴だった雨漏りがとうとう水道の蛇口のように落ちるようになった。
まだ、親指程の太さの水流だが、困ったことに地下の奥深くでこれなのだ。
(地下で親指程の水漏れがある時は水没から逃げるギリギリのライン……)
たかがこれぐらいでと思うかもしれないが、これがすぐに腕の太さに早変わりし、水が膝程まで浸かる。
そうなると今度はドアなどの板状の物がどかしにくくなり、水流が早いため、坂道や階段を上がれなくなる。
つまりは逃げ道から逃げられなくなるのだ。
水で一杯になると死ぬ故に、洞窟での水の滴りは『水時計』と揶揄されている。
(どうする? )
マスラはどうにもならない現状に焦り始めた。
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