第29話 囮


「食らえぇ! 」


 マスラが叫びながら竜人の首へと刀を振り下ろす!

 その刀は狙いたがわず竜人の首へと当たり……


ぐに


 そこで止まってそれ以上は刃が入り込んでくれなかった。

 一撃を食らった竜人がきょとんとした顔になる。


(こんなに固いのかよ! )


 その硬さは機人の如く

 その魔力は魔人の如く

 その強さは修羅の如く

 

 大陸全ての種族が戦っても簡単に勝てないとされた種族でもある。

 竜人はきょとんとした顔をしたまま、くるりとマスラの方を向いた。

 マスラは恥ずかしそうに言った。


「こんにちは」


 それを聞いた竜人は無表情に口を開いた。


ボゴォ!


 口から放たれた炎がマスラの居た場所を通り過ぎる!

 

「あぶねぇあぶねぇ! 」


 間一髪避け切ったマスラが転がりながらも、入って来た穴から屋敷に向かう。


「ほら! こっちにこいよ! 」


 そう言ってマスラが屋敷の方へと走りだす!


「下郎が! 我が屋敷を荒らすか! 」


 そう言って竜が猛々しく吠えるとマスラを追って走り出した!


ドドドドドドドドドッ!


 土煙だけ残して立ち去る竜人。

 トルパスたちがひょこひょこと廊下へと出てきた。


「な、なんなのよあれ……」

 

 エミナが震えながら呟く。


「竜人の死霊が現れるなんて……」


 トルパスも呆然としている。


「とりあえず、マスラが引き付けている内に早く逃げるぞ! 」


 そう言ってオットーは改めて子供抱きかかえる。


「ちょっと! 彼はどうすんのよ! 」


 狐耳の巨乳美人が抗議の声を上げる。

 それを聞いて訝しむオットー。


「いや、お前敵だろ? 」

「敵だったけど、メモくれたからもう敵じゃないわよ。それにあのメモ燃えちゃったし」


 ばっさりと答える巨乳美人。

 それを聞いてあきれるオットーだが、巨乳美人は言った。


「それに今は争ってる場合じゃないでしょ? 」

「確かにな」


 巨乳美人の言葉にオットーはぼやく。

 一番ヤバい敵が現れたのでそれどころではなくなっている。


ピチョンピチョンピチョン


 そこかしこから雨漏りのように水が垂れてきているのを見てトルパスも焦った。


「早く行こう! 雨が本格的に降ってるみたいだ! 」


 トルパスが先を急がせるが、オットーは冷静に言った。


「どのみち、今の装備じゃ竜に勝てねぇ。まずはこの子の安全確保だ。それからあいつの救出策を考えよう! 」

「具体的には? 」

「最初の屋敷の奥の部屋にまずは向かって子供から順番に逃がす。それから俺はあいつを助けに行く」

「それでいいわ」


 こうしてとりあえず結託して先に逃げることに決めた。


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