第26話 主の亡霊


「あそこだ!あの穴に足跡が向かってる! 」


 そう言ってマスラが指さした先は屋敷の廊下の奥にあった大きな扉が崩れて出来た穴だった。

 早い話が元々玄関だった場所である。


「まだ先があるのかよ……」


 オットーが嫌そうに呟く。

 トルパスも嫌そうだ。


「わざわざ奥まで行くかなぁ? 」


 不思議そうなトルパスの言葉にマスラが困った顔になる。


「確かに変だな……」


 不思議そうに穴へと通じる足跡と今まで来た道の足跡を確認する。


「何が変なの? 」

「子供はまっすぐにこの穴へ向かってんだけど……足の大きさにしては歩幅が大きすぎんだよな」


 オルの言葉に答えながら不思議そうに歩幅をみるマスラ。


「さっきの部屋もうろうろしてたみたいだが、何故か知らんがタンスの中に入ったりしてる」

「かくれんぼしてたんじゃない? 」

「一人でか? 」


 あきれ顔で答えるマスラ。


「最初の部屋は割と色んなものを見てるし、廊下に出た後も色んな所を見て回ってる。なのにこの辺に来ると急に足跡が一本道になってる」

「変だね? どういう意味だろ? 」

 

 不思議そうなトルパス。

 するとオットーが足跡を見て顔を歪ませる。


「こいつは……何かから逃げてるな」

「……まずいな……」


 子供が逃げてるということは何らかの危険な生き物が居るということだ。

 子供の危険がさらに高まっている。


「場所柄、恐らく蛇だろうが毒を持っていたらヤバいな」

「急ごう」


 マスラは慌てて穴の中へと入っていった。



 一方、マスラからメモを奪った連中は廊下を走っていた。

 魔人のおっさんが機人の上に乗りながら嬉しそうに巨乳美人に話しかける。


「上手くいきやしたね姉御! 」

「全くだよ。いつもこんな感じなら良いのにねぇ! 」


 そう言って廊下を走る三人だが、機人の一人が声を上げる。


「時間にも余裕があるみたいだから、これ持って言ったらどうだ? 」


 そう言って手に取ったのは竜の銅像である。

 やや大きいが持っていけないこともない。


「そんなこと言ったって、あたしらは『スィーパー』だよ? 売りさばく先があるの? 」

「『泥棒市』と繋がってる奴を知ってる。そこに売れば良い」


 巨乳美人の言葉に機人が静かに答える。


 『スィーパー』は別名掃除屋で早い話が裏の何でも屋である。

 裏の仕事をなんでも引き受ける連中で、同じアリトーからも嫌われている。

 それを聞いて巨乳美人は上機嫌で答えた。


「そいつは良いね! じゃあ、一人一つずつ持って行こう! 」


 そう言って一人一個ずつ竜の銅像を持つ。


「よし行くよ! 」


 そう言って再び走りだそうとした美人の動きが止まる。


 目の前に1人の男が現れたからだ。


 薄く髭を蓄えたの中年男性で中肉中背でいかにも貴族と言った服を着ており、憤怒の顔で三人を睨んでる。

 それを見て巨乳美人が首を傾げる。


(うん? 死霊か? )


 死霊とは成仏できなかった霊魂で生前と同じような能力を持つ悪霊だ。


 その強さはピンキリで生前の強さも元より、怨念の強さによっても変わってくる。

 男の死霊は睨みながら言った。


『貴様ら。何故にこの屋敷に踏み入った!? 』


 そう言って叫ぶが巨乳美人は余裕をもって答えた。


「お宝を貰うためだよ! 」


 そう言って美人は狐耳と尻尾を尖らせて手で印を結んだ!

 すると狐耳と尻尾と手が輝き始めて光があふれる!


「六根清浄! 」


 そう言って光を死霊に当てる!

 巨乳美人は悠々と言った。


「あたしは死霊相手を得意とする仙術が使えるのさ」


 巨乳美人は『九尾族』と呼ばれる亜人で『仙術』が使える。

 手の印を結ぶことで『実体のない』ものへの攻撃を得意とし、幻術などを使う。


「死霊如きがあたしに立ち向かおうなど千年早い」


 そう言って巨乳美人は前に出ようとしてピタリと止まる。


「ふん! 中々こざかしい真似をするな! 」

「うそ……でしょ……」


 死霊は全然平気だった。

 せせら笑う死霊に焦る巨乳美人。


(六根清浄で成仏しない死霊が居るなんて……)


 効かなかった可能性を一通り考える巨乳美人。

 そしてあることに気付く。


(……使……)


メキメキメキメキ


 死霊の体が突然歪み、段々と大きくなっていく……


(……そして、


メキメキメキメキ


 どんどんと大きくなる死霊。

 

「あわわわわわわわ……」

「アネサン! 」


 魔人と機人の二人も恐怖に震え始める。

 そして巨乳美人は震えながら呟いた。


だから効かなかったのね……」


 もはや死霊は完全に竜人の姿に変わっていた。


 頭は完全に竜の頭をしており、五体はとりあえず人間の形はしているが、鱗がびっしり覆われており、爪も長く鋭い上に太い。


 震える三人に竜は思い切り炎のブレスを吐いた。


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