第24話 受け入れられない真実


 マスラは呆然と『真の世界地図』を見ている。

 トルパスは口を開けて同じように呆然としている。

 オットーはわなわなと震えて修羅コーラを取り出して飲もうとしているが口に入ってくれない。

 オルだけが不思議そうに首を傾げていた。


 『科学』によると世界はお茶碗のような岩塊でその周りを太陽と月が回っている。

 『魔法』によると黒い混沌の海を泳ぐ亀の上に世界がある。

 『武術』によると巨大な巨人が持つ岩の上に世界がある。

 『聖堂』によると混沌の海の中にある世界を光の神が覆っている。


 だがその全てが真実では無かったのだ。


 世界はもっと広がっている。


 シンプルかつ分かりやすい答えが正解だった。

 マスラは震える声で呟く。


「オヤジ……」


 マスラの父親がミーブを越えようとした理由は簡単だった。


 


 たったそれだけの真実に命を賭けて散っていったのだ。

 それに気づいたマスラの目の端から涙が一滴落ちる。


(見たいよな……)


 父親の気持ちが痛いほどわかるマスラ。

 マスラも小さな島国に居たくないから飛び出した口だ。


 ぶっちゃけ、父親の後を追うと言うのはただの方便で、遺跡を探索したかったのだ。


 見たこともない景色。

 聞いたこともない歌。

 触ったことのない物。

 嗅いだことのない香。

 食べたことのない味。


 未知への好奇心がマスラを前へと押していた。

 そして今。


 誰も知らない知識が自分の脳に刻まれた。


 少なくとも一般には知らていない『真実』が。


「……どうすれば良いんだろう? 」


 トルパスがぽつりと呟く。

 この事実をどう扱うか困っている用だった。

 この事実は誰もが知り得ない事実であるが、無限の可能性を秘めた知識である。


 どうすべきか迷うのも仕方がない。


「こいつぁとんでもねぇもんが出てきたな……」


 胸元を修羅コーラでべちゃべちゃにしたオットーが辛うじてそう言った。

 誰がどう見ても一番混乱している。


「え~と……結局それは何なの? 」


 ただ一人、事態がわからないエミナは変な顔になっている。


 とはいえ、コレが普通の反応である。

 一般人にとっては世界なんてものはどうでもよく、日々の幸せが大事なのだ。

 目の前のものがとんでもないお宝であることを気付いてすらいない。

 マスラが苦笑して言った。


「これは『世界地図』だ」

「世界地図? 全然違うじゃない? なんでこれが世界地図なの? 」


 それを聞いてマスラが虚帆大陸の部分を指さす。


「この形には見覚えがあるだろ? 」

「うん。こっちが世界地図だよね? 」


 不思議そうに首を傾げるエミナ。

 だが、そこでようやく気付いた。


「あれ? なんでそんなに小さいの? えっ? えっ? 」


 段々と言われたことが分かってきたエミナ。


「この部分は海でこの変な図形の一つ一つが大陸なんだ。つまり……俺たちが『世界』と思っていたのはこの大陸だけで、他にもっと大きな世界が広がっていたってことなんだ」

「……………………えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 」


 ようやく事態に気付いて驚くエミナ。

 急にあたふたし始めた。

 それを見てようやく三人が落ち着いた。

 最初に声を上げたのはオットーだった。


「さて? どうする? 」


 そう言って世界地図をこんこんと叩くオットー。


「こいつはとんでもないお宝だぞ? どんなふうに扱っても大金を生み出すぞ? 」

「そ、そうだよ! お金が沢山入ってくるよ! 」


 そう言ってトルパスも喜ぶがマスラは苦笑して頭を横に振る。


「これは売れないよ」

「なんでだ? 」


 不思議そうなオットーに悲しそうにマスラが自分が留めたメモを指さす。


「よりによってここが切り取られているんだ。だから、このまま持って行っても二束三文にしかならない」

「なんでだ? 」

「偽造が疑われる」


 考古学に限らず、『学』と名のつくものの論文には偽造や盗作はつきものである。

 虚帆大陸の部分だけが切り取られているので、どう考えても『偽造』が疑われるだろう。


 マスラ達自身は本物と理解しても、それを証明する手段が無いのだ。

 トルパスが尚も食い下がる。


「で、でも、きちんと調べてもらえば……」

「調べてもらうと思うか? これまでの学説を根底から覆すレベルの発見を? 」

「勿体ねぇなぁ……」


 オットーも苦笑する。

 いくら何でもこれまでの学説を覆し『過ぎ』なのだ。

 『学』と名のつく者は互いに影響し合っている。


 歴史上、製作不可能と言われていた道具が実は可能だったり。

 幻と言われた薬がごくありふれた物だったり。

 戦争から様々なものが生まれるなどはよく聞かれる話だろう。


 このように学問は双方向に影響し合うもので、それによって学問体系という物が出来上がっているのだ。


 今回の発見は歴史を根底から覆すものである。


 どんな影響がでるのか計り知れないので、余程の証拠が無い限り、受け入れてもらえないのだ。


「あわわわわわわわ……」


 オルの慌てた声が残念そうなマスラの耳に入る。


「オル。いい加減に落ち着……」


 オルを大人しくさせようとしたマスラの言葉が途切れる。


「また会ったわね」


 狐耳の巨乳お色気美人が刀をオルの首に当てていた。

 思わずマスラが叫ぶ。


「てめぇッ! 」

「とりあえずメモは渡して貰おうかしら? 」


 そう言ってにっこりと微笑んだ。


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