第22話 不穏な屋敷
今にも崩れそうな廊下を歩くマスラ達だが……
子供を探す一方でその異様さに気味悪そうに歩き始めた。
エミナがぽつりと呟く。
「なんだろこの屋敷……」
所々にある絵画の大半は『竜』が主人公と思しき内容で竜が人間を食べたり、人間を倒すシーンが多い。
また、竜の銅像も転がっているのだが、そばにある台座には『竜王グラスノイ』などの何かしら魔王めいた名前が書いてある。
「うわっ! なんか動いた! 」
慌ててトルパスに飛びつくエミナだが、その様子を見て苦笑するオットー。
「よく見ろ。ただの鏡だ」
「あれ? 」
呆れるオットーに言われて恥ずかしそうに鏡を確認するエミナ。
「でもこの鏡……気味が悪いね」
「そうだな。何で枠の所に竜をあしらった彫刻がしてあるんだか……」
オットーも不思議がっている。
マスラも不思議そうにする。
「こんな気味の悪い屋敷に住んでても平気な奴ってどんな奴なんだ? 」
マスラが不思議がるのも当然で、遺跡とは本来「生活で実用した建物」である。
トラップが山盛りある遺跡は大概『元々が重要な物を扱う建物』だっただけであり、そういった遺跡を発掘するためにトレジャーハンターが居るのだが……
「魔法型の建物でもこんなに悪趣味な屋敷にはならんぞ? 」
屋敷のありように訝しむマスラ。
魔法型はオカルトチックなので割と薄気味悪い建物になっているので、それを思い出すマスラ。
トルパスも蜘蛛の顔で不思議そうに辺りを見る。
「何というか……『竜』を信仰してるみたいな家だね」
「……楽園時代に闇の神の眷属を信仰している家があったとは……」
マスラも驚いている。
唯一神を信仰するアルブム大聖堂では竜を『最大の敵』として名だたる竜は全て高額懸賞の対象になっている。
また、竜はこの世界で随一の強さを誇る亜神の眷属で、それ自体が神がかっていると言える。
すると、オットーが苦笑する。
「竜を信仰すること自体は珍しくないぞ? この村も竜信仰の村だしな」
「えっ? そうなの? 」
オットーの言葉に驚くマスラ。
「アルブム大聖堂も今は大きな力を持っているが、修羅時代までは全然力が無かったからな。俺がガキの頃はまだそんなに勢力が無かった」
「爺さんの子供の頃って……まだ魔王が居た頃じゃん! 」
修羅時代が『浄化』により、混迷すると次に現れたのは『魔獣族』だったが、魔獣族が大陸を治めることは無かった。
この時に『魔王』と『怪物』が大量に現れたのだ。
この魔王が現れて大陸が混乱を極めた時代を『魔王大戦』と呼ばれており、今でも大戦の傷痕は各所に残っている。
オットー爺さんが子供の頃はまだ魔王が猛威を振るっていた時代である。
だが、オットー爺さんは苦笑した。
「おいおい。俺は『戦後生まれ』だぜ? 魔王が全て倒されて間もない頃の話だ」
「あれ? そうなの? てっきり竹槍で魔王を追い払ったとばかり……」
「たまにそう言うネタは使うが俺は戦後生まれだっての」
六本腕をひらひらさせて笑うオットー。
竹槍で魔王を追い払ったは老人の鉄板ネタでもある。
「まあ、お前ら若いのにはわからんだろうが、戦後すぐはひもじい思いもしたもんだ。俺なんか魔王大戦で親を亡くしたから大変だったんだぞ? 」
「戦災孤児だったのか……」
魔王の猛威は凄まじいものでその災厄は『浄化』を遥かに凌ぐレベルであった。
浄化は地上を破壊したのだが、魔王は文明を破壊した。
万の種族が居るとされたこの世界も、魔王によって半分以上は消されたとされている。
特に魔王が生み出したとされる怪物は繁殖力が強く、どんなに駆逐してもいつの間にか繁殖している。
今なお、ほとんどの集落がコロニーの中で暮らしているのもここに起因する。
そこまで考えた所でマスラはある疑問に辿り着いた。
「そう言えば、この村って特にコロニーじゃないけど、どうやって怪物から守ってるの? 」
マスラ達は地下道を通ってここに来たが、外壁や結界などの怪物対策が為されていないように見えた。
だが、オットーは苦笑する。
「見た目は広く見えるが、崖の上に有るんだ。さっきの田園風景もじつはそんなに広くなくてな。田んぼの先はすぐ崖なんだよ。地下道があるから楽に来れてるだけで、結構険しい所なんだぞ? 」
「あー道理で……」
「つまり、天然の要塞なんだ? 」
マスラとトルパスが口々に呟く。
オットーは笑って答えた。
「そういうことだ。まあ、だからこそ貧しい暮らしをしているともいえるんだが……」
基本、城などの要塞は世界のどこでも交通が不便に出来ている。
まあ、侵入を防ぐためのものなので、交通が不便で無いと困るのだ。
その一方で交通に不便な土地は栄えにくい。
何事も一長一短なのである。
そんな話をしながらも一行は各部屋を見て回った。
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