第19話 世界の形
その夜
マスラは一人、ビールを飲みながら不思議なメモを見ていた。
(何もねぇよなぁ……)
裏に書かれてあったのは古い時代の世界地図で世界に一つしかない大陸が書かれてある。
右下に『虚帆』と古代楽園文字で書かれてあるだけだ。
ただ……
(しいて可能性があるとすればこの『線』か……)
縦横に入っている謎の線が4つある。
縦に二本、横に二本で、間隔は等間隔だが、何故か偏って入っている。
(うん? )
よく見ると線に薄く何かが書かれてある。
(何だ?……丸しかわからんな……)
縦線と横線に沿うように何かが書かれてある。
(二文字か……右側は丸のようだがゼロか?……)
左側にも何か書いてあるが読めない。
(あきらかにかすれてるな……元々こういう文字じゃない)
丸は印刷されたかのように正確に書かれてあり、縦横ともに綺麗にそろえてある。
(ふむ……とはいえ、やはりこれは違うな……どういう訳か大陸の一部を切り取ったように線を入れている……)
切り取りに意味があるのかと思ってみてみるがどうも違う。
折り目のような物に思えるのだ。
(暗号……じゃないな。むしろ最初からそう言った形に線が入っている……)
切り取りに偏りがあり過ぎるが、規則的過ぎる。
こういった形に線が入っているようだ。
(あーわからん……)
マスラは端末を広げて『世界』の情報を見てみる。
ビコビコ♪ ギコギコ♪ ギュー♪ キキ~♪
テクノ音楽が流れているそのサイトには『世界』の形がCGで表現されている。
宇宙に浮かぶお茶碗のような形の岩塊の上には虚帆世界が描かれており、大陸の周りに円環の蛇ミーブがぐるぐると回遊している。
その岩塊の周りを太陽と月が回っている。
これは『科学』における世界の姿だ。
科学は混沌の海とは何もない宇宙空間だという主張をしているので、このような形になっている。
次は別のサイトを開いてみる。
デロデロ♪デーン♪
今度は怪しい音楽が流れるサイトで黒い混沌の海を泳ぐ亀の上に虚帆世界が描かれている。
これは『魔法』による世界の姿だ。
再び違うサイトを開く。
ジャジャジャーン♪
勇壮な音楽が流れるサイトで、こちらは巨大な巨人が描かれており、その周りは『混沌の大地』があって、巨人が辛そうに虚帆世界支えており、巨人の腰まで混沌の海に浸かっている。
これは『武術』による世界の姿だ
再び違うサイトを開く。
プォーン♪プカーン♪
パイプオルガンによる聖歌が流れる中、光の神が手のひらで覆っているのは虚帆の世界で、その周りには混沌が蠢いており、太陽と月が光の神の手のひらを通っている。
こちらはアルブム大聖堂の考える世界の姿である。
このように各陣営の考え方で世界の考え方が違うのである。
(単純に考えれば、この地図はアルブム大聖堂の世界の考え方だろうな……)
アルブム大聖堂はかつて楽園時代にこの世界を統治した天使たちの都だ。
遺跡が楽園時代である以上、天使の考えで世界を考えているだろう。
(だとしたら、この線は何を意味してるんだ? )
困った顔でメモと大聖堂の世界を見比べている。
(あーわからん! )
結局投げ出してメモをバインダーに閉じるマスラ。
そして、明日のことを考えて襲撃者の事を考える。
(しかし、どこでメモの話を聞いたのか……二個しかないな)
マスラがその話をしたのは大学でジンダと話したときと、お店でメモを貰った時だけである。
翌朝に出発しているので他に機会が無い。
(大学で聞いたのなら、怪しいのはあの美人かジンダだな……というよりはあの美人以外はなさそうだ)
ジンダなら『一緒に行こう』で終わるだろう。
実際、マスラも三人だけで向かうのは心もとないので、ジンダが行くと言えば一緒に行くつもりだった。
(ふーむ……)
何となく気になって大学のサイトに行って教授と研究室のメンバーの写真を覗いてみる。
大学の関係者を名乗る詐欺が横行した時期があったので、こうやって主要な人物を写真で公開しているのだ。
そういった大学の写真を一つずつ確認してわかったことが一つ。
(居ないな……)
確実にあの美人が居ない。
髪を染めている可能性も考えたが、あの美人は居なかった。
(となればあそこにいたトレジャーハンターの一人だが……)
次に『太古の達人』のメンバー写真も確認する。
最新のメンバーの所に自分の名前があって誇らしくなるが、これも勝手にトレジャーハンターを名乗る詐欺を減らすためである。
(……こっちにも居ない)
明らかにどっちにも居ない。
(何者なんだ? )
きな臭さを感じるマスラ。
するとドアのノックが聞こえた。
「マスラ~御飯にしよ? 」
トルパスの声が聞こえたので御飯にすることにしたマスラだった。
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