第18話 修羅の老人
幾度となく世界を襲った唯一神の『浄化』だが、地下への影響は少なかった。
そのため、最初に『浄化』を食らった魔法文明の遺物は地下にしか残らなかった。
マスラ達がオットー爺さんについて行った先は地下の魔法型コロニーだった。
町が丸々一つ入る程の巨大な空洞の天井には魔法で出来た人口太陽が光を調整するコロニーで、元は農業用コロニーである。
オットー爺さんはそこの裏路地の安ホテルへと向かい、チェックインしたので、三人もそのホテルに泊まった。
「ここは俺の古い友人のホテルでな。口が堅いから安心できる」
「爺さんもひょっとしてアリトーだったのか? 」
「まぁな」
そう言ってオットーは持っていた『修羅コーラ』を飲む。
修羅は水代わりに酒を飲むような連中だが、それでも酩酊はする。
そのため、酔ってはいけないときは『修羅コーラ』と呼ばれるノンアルコール炭酸ジュースを飲む。
「ふぅ……」
「爽やかになるひと時♪ 」
マスラが修羅コーラのキャッチコピーを言って茶化す。
だが、オットーは仏頂面で答える。
「修羅が酒を飲めなくて悪いか? 」
「全然悪かねぇよ。飲酒で事故る馬鹿に比べれば」
修羅は酒好きの種族として知られており、酒が飲めない修羅は馬鹿にされがちである。
そんな修羅のためにも修羅コーラという飲み物があるのだ。
オットー爺さんがマスラに尋ねる。
「そんなことよりも何があったんだ? 」
「実は……」
かいつまんで説明するマスラ。
だが、それを聞いて訝しむオットー。
「随分けったいな話だな。酒場で出会った裸のおっさんの持っていたメモを取ろうとするとは……」
「俺も正直不思議なんだ……」
そう言って端末に撮っておいたメモの写真を見せるマスラ。
「このメモはどう見てもただのメモで、紙には何もしかけは無かった」
「なのにこのメモを取ろうと色んな奴が現れたか……」
不思議そうなオットー。
「俺がアリトーしていた時もそんな話があったなぁ……」
「まじか? 」
少しだけ驚くマスラ。
「ああ、たまたま貰ったメモの先に行くとでっかいお宝があったって話しだ」
「へぇ! 」
嬉しそうなマスラ。
「じゃあ、これもひょっとして……」
「そうかもしれねぇな。もっとも、こういったほら話も多いから当てにならんがな」
実際、アリトーの大半がその日暮らしの人間が多いのでそういう嘘や伝説も多い。
都市伝説に近いもので、実際には単なるうわさで終わっているものも多い。
オットーは嬉しそうに言った。
「折角だから俺も一緒に行ってみるか? 」
「おっ? 爺さんのアリトーの血が騒いだか? 」
「よせやい。近くだから一緒に行くだけだ」
そう言って六本腕をひらひらさせて笑うオットー。
「イサナ村なら、こっから地下道を通って行ける」
「行った事あるの? 」
「あそこはああ見えて歴史の古い村として有名な村なんだぞ? 」
「そうなの? 」
不思議そうに尋ねるマスラ。
ちなみに地下に自動車道が多数あるのもこの世界の特長である。
「ああ、実は楽園時代からある村でな。一回も浄化の影響を受けなかったらしい」
「そいつはすげえ! 」
「ただ、昔から貧乏な村でな。大したもんは残らなかった」
「……ひょっとしてただ単に貧乏だから、どの文明からも遠かったってこと? 」
「その通りだ。何しろ隘路になっていてな。村の先には山が二つあるんだがそこを越えるとコ―ゴールとリデックがあるし、どっちも行くのなら海からも陸からも別ルートの方が安全だからな。ついでにリデックとコ―ゴール同士は別の陸路通るし……」
集落が発展するために必要なのは交易路である。
道路は色んな土地を繋げる役割を持ち、基本的に大都市へのアクセスが簡便であればあるほど栄える。
何故か知らないけど全然栄えない土地はどこにでもあるのだ。
嫌な予感がして、マスラが尋ねる。
「ひょっとして……なんも無いのか? 」
「ああ、特に特産物も無いし、ただの農村だな」
それを聞いて微妙な顔になるマスラ。
一緒に聞いていたオルも微妙な顔になる。
「どうする?それでも行く? 」
「何も無さそうだね……」
エミナもトルパスも微妙な顔だ。
それを聞いてニヤニヤ笑うオットー。
「どうすんだ? 」
「折角ここまで来たんだから行ってみる。それに……」
「それに? 」
「本当に偽物なら襲撃なんてないはずだからなぁ……」
それを聞いて訝しげなオットー。
「そこだけがわからん。確かにあの村はなんもねえ。はっきり言って遺跡も一切無かったし、遺物らしいもんも無かった。俺がアリトーの時に行ったのも怪物退治の依頼でまだ魔王大戦の影響が大きかった時代だ。今のあそこは大都市三つに挟まれているからよほどのことが無い限り大物が現れることも無いだろう」
大都市に挟まれると大都市の兵力や財力で危険な怪物は根絶やしにされる。
必然的に危険な怪物は減るのだ。
オットーは修羅コーラをぐいっと飲んでにやりと笑った。
「中々楽しい休日になりそうだな」
その笑顔を見たマスラは苦笑した。
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