第14話 竜


 一方、マスラはコーヒータイムを楽しんでいた。

 窓の外をみれば、遠くの森で蝶の翅が生えた5mほどの巨大なリスが飛んでいた。

 トルパスが悔しそうに呟く。


「ランクリットだ……あの翅が高く売れるんだよねぇ……」

「あの時のB級モンスターだな……全然歯が立たなかったな……」

「強かったよねぇ……危うくこっちがやられるところだったね……」


 前に戦ったときのことを思い出す二人。


 モンスターには倒しやすさやそのレア度で色んな階級があるが、D級は危険度が少なく、慣れているなら一般市民でも倒せるモンスター。

 C級は何でも屋であるアリトーが倒しに行くレベルだが、基本は初級モンスターに当たるので、そこまでではない。

 B級は手ごわいモンスターで軍人や専門のアリトーが倒しに行くレベル。

 A級は非常に強いモンスターで熟練の有名アリトーでも気を抜けば死ぬレベル。

 そしてS級はA級以上の強さを持つモンスター全般で危険というレベルではなく、俗に魔王や魔王の眷属であった者たちやそれと同等レベルの強さを持つ。

 そして最後にZ級と呼ばれるモンスターでこちらはレア度が非常に高いモンスター全般を指す。


 マスラ達もこの辺には何度も来ているので、あのリスと戦ったことは多々ある。


(俺たちが殺されかけるような体当たりでもこのビルのガラスには傷一つつかねーんだよなぁ……)


 多くの浄化から生き残ったコロニーは頑強で、S級と呼ばれるモンスターですら壊すことは難しい。

 近代に当たる『混沌時代』の魔王ですら、居城に使用していたと言われている。

 遠くに見える山々を見てトルパスは感慨深げに呟く。


「もうすぐ『未踏地域』に入って探索できるんだね……」


 アリトーの中でも地図を作る『マッパー』や遺跡を発掘する『トレジャーハンター』、A級以上のモンスターを専門に狩る『モンスターハンター』などは『未踏地域』という危険地帯への入ることが許される。


 未踏地域は『混沌時代』に破壊され、『人類』が確認出来なくなった地域の事で、魔王や怪物の繁殖によって、いくつかの地域を制覇していた『大国』も無くなってしまった。

そのため、この世界では各都市が自治を行っている状態である。


 だが、各時代の記録自体は散逸したものの、一部残っているのでそれを手掛かりに大陸の各所を再開発しているのだ。


 当然ながらお宝も多く隠れているので一攫千金の期待も大きい。


 そんな二人が見ている景色が不意に変わる。

 超巨大な竜が遥か遠くから飛んできてランクリットの首筋に噛みついた!


ズズン


 遠くで地響きが起きたとわかるほどの音が聞こえてくる。

 巨大なランクリットが苦悶の表情を浮かべてそのまま森へと消えていった。

 その場所で竜の背びれが蠢いている。

 ランクリットを食べているのだ。


「竜か……」


 大陸最強の種族『竜』


 円環の蛇ミーブの眷属と言われており、流石の光の神も持てあまして海に捨てたとされる竜神の眷属。


 楽園時代から存在しており、楽園の天使でさえ滅ぼすことが出来なかった超種族。

 一時はこの世界を制覇した魔人、機人、修羅でさえ、彼らを滅ぼすことは出来なかった。


(どの種族も竜を根絶やしにせんと目の敵にしていたのに殺し切ることが出来なかった……)


 竜には変身能力があり、怪物としての竜、竜の力がある程度使える『竜人』、そして人間とほぼ同程度の力になる『人間』の形態がある。


 人型に変わる知性とまともに戦っても歯が立たない強さと持つ故に簡単に倒せないのだ。

 トルパスが困った顔でぼやく。 


「あの竜も人に擬態できるんだよね? 」

「いんや。あれは竜の中でも下位に当たるワイバーンだから無理だ。竜種と言っても下位の竜は家畜に当たるからそんな知性は無いぞ」

「あれで家畜なんだ……」


 トルパスが恐れおののいた。

 亜神の眷属にも色んなバラエティがあり、同じ眷属でも上位種と下位種では扱いが違う。

 人間は光の神の眷属だが、どちらかと言えば下位の種族で上位の種族は天使。さらに人間よりも下に当たるのが家畜に当たる馬や牛である。

 もっとも家畜に関しては他の神も馬や牛を下位種に指定したりしてるのでどれが正しいのかはわかりにくいのが実情だ。


「あれを家畜にして食い物にしてたってんだから、竜人や竜がどれだけ強いのやら……」

「絶対に相手にしたくないよね」


 トルパスはコーヒーを飲みながらぼやいた。


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