第10話 朝ごはんは大事


翌朝……


 マスラは自室にてベッドの上で目を覚ました。


「う~……あたま痛ぇ……」


 Tシャツにジーンズの半ズボンというラフな格好で起きるマスラ。

 大きなあくびをして辺りの様子を見る。


 薄汚れた6畳ほどの広さの部屋で、床は古い畳敷きである。

 元はアニャンゴ工房の泊まり込み用の部屋だっただけに生活に必要なものは一式揃っている。


 このアニャンゴ工房は魔王大戦が終わってからエミナの爺さんが起した会社で、俗に言う『戦後特需』で儲けた会社でもある。

 最盛期には従業員が百人も居て、その時に倉庫を改造して泊り込める環境を作ったのだが、少しずつ景気が悪くなり、今は10人ほどしか居ない。


 現在は泊まり込むほどの従業員は居ないのでマスラ達が下宿している。


 窓を見るとすでに太陽がかなり上まで上がっている。

 マスラは寝ぼけまなこで昨日貰った合格通知を確認して……目を見開いた。


「ええっと……合格講習は……げっ! 今日の三時かよ! 」


 慌てて時計を確認するが時刻は午前10時。

 まだ余裕で間に合うと気づいてほっとするマスラ。


 とはいえ、昼食を食べて、講習会場に向かうのに相応の時間はかかるので身支度は整えなければならない。


「ふん……くくく……ふぅ……」


 背伸びして軽く体を動かすマスラ。

 布団から出ると布団を畳んで押し入れにしまい、クローゼットから服を取り出す。


 掛けてあるジーパンに足を通し、Tシャツを外出用の小奇麗なものに着替え、甚平を取り出す。

 本来、甚平は上下セットなのだが、下を破いてしまったので上だけをボタンシャツ代わりに羽織る。

 実はこうするのにも、ちょっとした理由がある。


(やっぱ着物を羽織らないとしっくりこないんだよなぁ……)


 生まれてからずっと着物で暮らしていたので、日常的に着物を着ないとしっくりこないのだ。

 だが、着物は自分の島だけの特産品なので手に入りにくい。

 なので、こうやって折衷案として自分のトレードマークにしている。


 髪型を整えるのにスリッパを履いて部屋を出る。


 ガチャリ


 ドアを開くとそこは20畳ほどの居間になっており、左手に台所が有り、その奥に風呂、さらにその奥には洗面所兼脱衣室兼洗濯機置き場がある。


『続いてのニュースです。大雨による影響でアルパテル周辺各地で土砂崩れが起きています……がけ崩れによって高速道路の一部が閉鎖されており……』


 テレビからはニュースが流れている。

 一方で台所ではトルパスが朝食を作っている。


 普通にIHレンジを使って目玉焼きを作っているところだ。

 トルパスは服を着けておらず、マッパで料理をしている。

 トルパスなどの魔獣族にとって、服は邪魔なだけである。

 だが、服を着けないと野蛮人扱いされるから着けているだけで、本来は裸の方が楽なのだ。


「おはようマスラ」

「おはよう……」


 そう言ってマスラは顔を洗いにトルパスの後ろを通り、洗面所に入る。


がちゃり


 洗面所には洗濯機が置いてあり、左のドアは風呂、右のドアはトイレになる。


 洗面所の蛇口をひねって水を出して顔を洗い、整髪料を水で調整してから髪につけて寝癖を直す。


「なーんでこんなに爆発しやすいんだろ? 」


 ツンツン頭に直した後、トイレ(ウォッシュレット付き)を済ませ、居間に戻る。


 トルパスはすでにちゃぶ台に朝食を並べていた。


 今日は目玉焼きにトーストというごく普通の朝食である。

 トルパスはトーストにオリーブオイルを塗りたくって美味しそうに頬張っていた。


「オリーブオイル好きだよなあ……」

「自然志向だからね」


 マスラはそのままちゃぶ台に座り、マーガリンとジャムを塗って食べる。


「甘いの好きだねぇ」 

「甘味志向だからな」

「なんだよそれ」


 そう言って苦笑するトルパス。


「今日はどうする? 」

「とりあえず、講習が三時からあるから、大学の方へ行ってくる。それから冒険の準備だな」

「なんか用意しとくもんある? 」

「洞窟用の装備一式出しといてくれ。それから無いと思うけど、何日か泊まる可能性もあるから、洗濯だけやっといてくれないか? 」

「了解」

「後は……」


 そう言って明日の冒険への準備を始める二人だった。

 だが、彼らはこの時知らなかった。


 この冒険が予想以上に危険な旅になり……世界の真実を知ることになるとは思わなかった。


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