第6話 町工場の女
自由都市オブニーコスは大陸の中央にあって、最も雑多な人が集まる都市でもある。
人口は一千万を超えており、中心部では金融機関やオブニーコス自治政府の主要官庁が並ぶ。
その周りには高級住宅街があり、さらにその周りには繁華街や一般住宅街があり、そして西の一番端にある『ダチア区』は下町情緒が残る地域である。
貧民街と言うほど治安が悪いわけでも無く、かといって一般と言うには品が無い地域性から、雑多な人種が集まる地域でもある。
オブニーコスは東に突き出た半島状の都市国家なので必然的に主要なのは港による海運ゆえに、陸路に繋がる西側は若干収入が低い連中が集まるのだ。
そんなダチア区なので雑多な人種が路地を歩いている。
さきほどのおじさんのような角の生えた六本腕の修羅族。
鉄などで出来たからくり仕掛けで動くヒューマノイドロボットは機人族。
頭にぴょこんと繊毛を一本垂らしている様々な動物の顔は魔獣族
耳が尖り、綺麗な顔立ちをした子供にしか見えない小人の魔人族
そして我らが人間族
大陸5大種族と呼ばれる人種は元より、他にも様々な亜人種が歩いている。
二人は契約している月極駐車場に車を停めて荷物を持って外に出る。
ここから下宿先までは歩かないといけない。
二人は家に帰る人たちで一杯のダチアの街並みをのんびり歩く。
「ねぇマスラ? 何で角をあっちで売ったの? 『漆黒の男』なら2百万で売れたんじゃない? 」
トルパスが不思議そうに尋ねる。
『漆黒の男』は医薬品を取り扱う
角は持ち運びも簡便で比較的高値で売りやすいし、大概のアリトーはそうしている。
だが、マスラは言った。
「ああいうのは下手に動き回って売るよりもあっちで売った方が恩に着せられるだろ? その分、次の仕事でも高値で買ってくれるんだから、そっちの方が良いじゃん? 」
「そんなもんかなぁ? 」
「まあ、人に寄るけどな。オットー爺さんはそう言ったことを義理堅く考える性質だから、その辺を上手くしてくれる。他の人ならやらないよ」
「なるほどね」
あの修羅のおじさんは割と人が良く、義理堅いところがあるので信用できるのだ。
その辺も加味してマスラはそうやっていたのだ。
「それにああやっておっちゃんに角を売るとどうなると思う? 」
「さあ? 」
「おっちゃんの社内での立場が良くなる」
「……それがどうしたの? 」
「そうなると上客である俺たちに融通利かせてくれるようになるだろ? そう言うことだよ」
「ああ! なるほどね! 」
世の中はこうやって要領よく立ち回ることが大事なのである。
そうこうしている内に自分達の家に辿り着く。
『アニャンゴ工房』
看板にそう書かれてある。無造作に工房の扉を開いて入る二人。
ゴシゴシ
工房での仕事は終わったのか、褐色肌に赤髪ショートカットの女性が白いツナギ姿で工房の床をブラシでこすっていた。
年齢は20超えたばかりの女性だが、最も目を引くのはその胸!
大人の頭ほどもある爆乳である。
白いつなぎは作業用で色気が皆無なのだが、彼女が着けると胸がこぼれそうになるので色っぽい。
「ただいまエミナ」
「お帰りー。どう? うまく行った? 」
「ばっちり」
「わお! こんど奢ってね♪」
そう言ってぴょんぴょんと飛び跳ねるエミナと呼ばれた赤髪褐色の女性。
ツナギ姿なのに特大の胸が大きく弾む。
彼女の名前はエミネムア=アニャンゴ
このアニャンゴ工房の社長の娘さんだ。
この世界にはこういった中小企業も多々あるのだ。
大手の下請けをすることもあるのだが、アニャンゴ工房の主な仕事はアリトー用の仕事道具の作成である。
何しろ多種多様な仕事を受けることの多いアリトーはその都度、道具を借りたり作ったりすることも多い。
そう言った便利な仕事を請け負って暮らしているのだ。
そんなエミナに申し訳なさそうに自分の刀を差しだすマスラ。
「あー……申し訳ねーんだが、刀が曲がっちまってな。これ直すのにどれぐらいかかる? 」
言われて刀を見るエミナだが、それを見てその顔が歪む。
「どんな使い方してんのよ……これ20万はかかるよ? 」
当り前だが……刀の整備は金がかかる。
ましてや使用しているとなれば何本も折るのが当たり前である。
「それから、この前試験受けに行ったから金が無くて……」
「下宿代は払えるんでしょうね? 」
「そっちは払える! 」
「なら良いわ。この刀は私が直しとくから! 」
そう言って不機嫌に床に力を入れてこすり始めるエミナ。
トルパスが小声でマスラに囁く。
(一気に機嫌が悪くなったよ)
(触らぬ神に祟りなしだ)
そう言って二人で不機嫌に床をこするエミナをそっとして奥へと向かう。
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