第4話 All That Jazz
今回は短くおさめよう。というか、なんて感想を言っていいのかよくわからない。この映画を観たことがある人だったら、もしかしたらこれに賛同してくれるのかもしれないけれど。
All That Jazzという題だから何かしらジャズに関係のある映画と思われるかもしれないが、実際はミュージカルに関する映画と言ったほうがいい。もっと鮮明な言及をすると、死に関する映画である。もちろん映画の端々の多様なジャズ音楽が登場していたけれども、これもミュージカルのために挿入されただけだ。そもそもAll That Jazzは「~などなど」とか「なんでも」という意味だから、むりやりジャズに関連付ける必要はないのだろうけれど、それでも日本人としてはタイトル詐欺臭い。(それでも劇中の音楽およびダンスには見聞き惚れた)。
ジャズに関する映画と言えば、最近ではラ・ラ・ランドとかセッションとか(いずれもデイミアン・チャゼル監督)があるけれども、このような映画を想像して観ると肩透かしというか猫だましというか、そのあたりを食らわせられることになるだろう。ジャズとは何たるか、などということは全く考えないし、かと言って人間関係のドラマを描くわけでもない。
では何を描いたのか? それは死と孤独である。
なんだかこれで見る気が失せそうな人がいそうだから一応補足しておくと、めちゃくちゃ暗い映画ではない。むしろラストの10分間くらいは視聴者を置いてきぼりにしそうなくらい底抜けに明るい。そこではジョー・ギデオン(主人公)が今まさに死のうとする瞬間をミュージカルによって表現する。もちろん現実の描写ではない。ギデオンの頭の中か象徴の空間の中で行われるミュージカルなのだ。それまでに登場したほぼすべてのキャラクターがミュージカルを鑑賞して、ラスト近くではスタンディングオベーションで祝福する。まるでTV版エヴァンゲリオンの最終話のアレ(おめでとう! おめでとう!)みたいなかんじだ。そして黒人のボーカルは繰り返しギデオンが死のうとしていることを歌い上げ、急に画面が切り替わったと思うとギデオンの死体が映る。それで終わり。
重大なネタバレを行ってしまったように思えるかもしれないけれど、そんなことはこれは別に結末で感動させるようにはできていない。どちらかといえば、結末に至るまでの映画の過程で、どれだけギデオンの内面を深く描写できるのか、というところにこだわっているように思える。
では内面描写にどのようなものがあったかを書こう。
ひとつは、劇中ころころと挿入されるどこかの舞台裏の空間。そこは現実のどこか、ではなく、演出上のギデオンの頭の中だ。そこにはギデオン以外にもう一人女性がいる。彼女は白いドレスを着ている。こいつが誰なのか、何を示唆しているのかは劇中でずっと謎だった。それが映画のラストで明らかになる。死と救いあるいは死と非・孤独である。
ギデオンは死と孤独を恐れていた(まあ当たり前だけどね)。しかし医者に止められても酒とたばこ、ドラッグが止められずに病床に縛り付けられる。それは彼が孤独の恐怖を紛らわすために致し方なかったことなのだ。彼は死と孤独による挟み撃ちになっていた。死を避ければ孤独になり(舞台を行えず、病室に幽閉される)、孤独を避ければ死ぬ(その結果がこの映画だ)。ここで、注意しておきたいのは「孤独」という言葉は祝祭・パーティの対義語としての意味で使っている。つまり、(ミュージカルみたいな)どんちゃん騒ぎができなくなるということだ。
さて、まさにギデオンが死に至る瞬間、舞台裏の長い廊下を歩いていくと先の白いドレスを着た女(アンジェリーク)が待っている。これが、死と非・孤独を意味している。つまり、死んだ先でも、彼は祝祭的催しを続けることができるというわけだ。この映画が実在した振付師ボブ・フォッシーによる自伝的映画であることも踏まえると、この結末は頷ける。
このようなミュージカルを取り入れた、メタファーとしての内面描写のうまさがある。
次に、演出としていいな、と思った点について。
映画の約一時間がたった辺りに注目。新作の舞台がようやく整い、初の脚本の読み合わせが行われたシーンが流れるが、舞台を主演する女性(ギデオンの元妻)がセリフを言い始めてすぐ、音声が切れる。ギデオンの動作に伴う音だけが流れ、本来しゃべっているはずの役者たちの声がミュートになるのだ。ここで一気にギデオンの内面が具現化して現れてくる。彼は死・孤独への急激な傾斜を滑りはじめるわけだ。ぼくはこのシーンがみれただけで、この映画を観てよかったと思ってしまった。
内容に関する感想は以上の二つだ。
あとは個人的によかったと思った点。
まず、ギデオンの娘がかわいい。彼女はバレエをやっており、ときどき父親に稽古してもらう。その場面が一度だけ劇中現れるが、ここのバレエのポーズを決めながらの会話が小気味いいし、何より美しかわいい少女の姿はずっと見ていられそうだった(レオンに出てくる少女みたいなものです)。
さらに、なんと、新作の舞台の一場面も観ることができます(まるで通販番組の宣伝みたいだな)。これが相当エッチな内容となっており、家族で観ることはおすすめできませんが、見惚れることには間違いないでしょう。(やっぱり家族で観るならマンマ・ミーアです)
といったところ。
最近はアニメ、実写によらず、ジャズを正面から扱って作品やミュージカルものが多くなってきているので、そこらに興味を持った人は観てみればどうでしょうか。
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