第2話

 事件の概要はこうだ。

 まず、被害者はこの国全ての人間である。確認はとれていないが、全国、いや世界でも影響があるのかもしれない。まだ正確な規模はつかめていないが、すでに出ている被害届が今後さらに増えるのは確かだ。

 そして肝心の被害の内容だが、『3時が盗まれた』とのことだ。

 もう一度言おう。『3時が盗まれた』のだ。これは比喩でも何でもない。時間が2時59分59秒になったら、1秒後に4時00分になっているのだ。あらゆる書類やデータから3時に起こったことの記録がなくなっていることもわかった。特に被害が大きなところは「2時の次は4時でしょ」「なんか時計の文字盤の2と4の間によけいなものが付いているなあ」といったように、人々の頭から3時の概念そのものが消え去っていることもあった。一部では3時に出生したと思われる人々の行方が分からなくなっている、という通報もある。

 そしてこの事件には首都の時間管理警察犯罪捜査官――通称『時捜』のほとんどである総勢200名以上が動員された。まだ立ち上がったばかりの組織であるため、余分ともいえる人数配置には各所から常々非難が上がっていたが、ここで初めてその数を活かした規模の捜査が開始されたのだ。

 この男、タカヤマも今回召集された時捜の一人である。所内の中庭にある喫煙スペースで最近止めようと思っている煙草をふかしている彼は、今回の事件の捜査にかなり気合を入れているらしい。先日は何かの拍子で別の時代に飛ばされた飼い猫を探す際に、出来心で拾ったキセルをこっそり持ち帰ったことがバレて、かなりの始末書を欠かされたらしい。この一服はそんな自分との決別だ、というのが彼の言い分である。なんせ事件の規模が規模である。個人の時間をいじくるならまだしも、下手をすれば国家規模にまで及ぶ事件は前代未聞である。加えて犯人が単独犯なのか組織的犯行なのかも分かっていない。

 そこからの緊張感もあるが、やはり時捜の一人としては一刻も早くこの事件を解決し多くの皆様に時間的安全をお届けする、という使命感がこの男にはたぎっているのだ。

「……おっしゃ」

 男タカヤマ32歳。くたびれたスーツの襟を正せるだけ正し、喫煙スペースの扉を開けるのだった。

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