六
「このチャイム勘違いに気づいたとき、私たちが始めて久遠さんと帰ったときの違和感にも答えが出たよ。
あのとき、私たちは久遠さんに予定に間に合うのか聞いたね。チャイムが鳴ったらもう六時だし、六時半に予定があったら多少は焦るはずだ。でも久遠さんは焦ってなかった。あのチャイムが五時に鳴ると思っていたから、一時間以上余裕があると思ったんだね」
そうか。久遠さんは時間にルーズなわけではなかったんだ。すべては小さな勘違いによるものだったんだ。
謎が解け、雰囲気がふっと和らぐ。もうすぐ寮だ。晴れやかな気持ちで二人と別れられるだろう。
……いや、まだひとつ、疑問点がある。
「久遠さん、なんで、廊下に出てチャイムを聞いてたの?」
一歩先を行っていた久遠さんが振り返る。
「えっとね、ちょっと恥ずかしいんだけど、あのチャイム聞いてると、懐かしくなっちゃって。ホームシックなのかな。前の街を思い出す気がして、聴きたくなったの」
沈んだ日の残った光の前で、久遠さんは小さなシルエットだった。
朱に交われば ピクリン酸 @picric_acid
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます