六
「このチャイム勘違いに気づいたとき、私たちが始めて久遠さんと帰ったときの違和感にも答えが出たよ。
あのとき、私たちは久遠さんに予定に間に合うのか聞いたね。チャイムが鳴ったらもう六時だし、六時半に予定があったら多少は焦るはずだ。でも久遠さんは焦ってなかった。あのチャイムが五時に鳴ると思っていたから、一時間以上余裕があると思ったんだね」
そうか。久遠さんは時間にルーズなわけではなかったんだ。すべては小さな勘違いによるものだったんだ。
謎が解け、雰囲気がふっと和らぐ。もうすぐ寮だ。晴れやかな気持ちで二人と別れられるだろう。
……いや、まだひとつ、疑問点がある。
「久遠さん、なんで、廊下に出てチャイムを聞いてたの?」
一歩先を行っていた久遠さんが振り返る。
「えっとね、ちょっと恥ずかしいんだけど、あのチャイム聞いてると、懐かしくなっちゃって。ホームシックなのかな。前の街を思い出す気がして、聴きたくなったの」
沈んだ日の残った光の前で、久遠さんは小さなシルエットだった。
朱に交われば ピクリン酸 @picric_acid
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