翌日、青に昨日のあれからのことを聞いてみた。

「昨日、私が別れたあと、久遠さんは大丈夫だった? 用事に間に合った?」

「なんとか六時半には家に着いたけど、だいぶ急いだね。彼女、腕時計をしない人なんだね。私が時計をみて六時十五分だって言ったら、そのとき初めて時間がないって気づいたみたい」

そんな話をしていると久遠さんがこちらに向かってきた。

「昨日はありがとう。あのあとちょっと急いだけど、なんとか用事には間に合ったよ。時間にルーズだったかな。今度、腕時計を買うよ」

「その方がいいよ。きっとそっちの方が楽だ。今日は放課後何かあるのかい?」

「ごめんね。私、今日クラス係の仕事があって、まだ勝手がよくわからないから時間かかりそうだし、待ってもらうわけにもいかないから」

 クラスの仕事は全員に割り振られる。転校してきたばかりの久遠さんも例外ではない。放課後に残って雑務、というのもよくあることだった。かくいう私も、今日は図書当番であった。

「私も、今日は図書当番があるから一緒に帰れないや。青、ごめんね」

「そうなの。そうだな、どうせなら、ちょっと待ってようかな」

私たちを待って下校するつもりらしい。青がしそうもないことだ。

「ちょうど今日は文庫本があるし、これを読み終わるまで、待ってようか。読み終わったら帰ろう」

 素直に待とうとしないのは、青らしい、かもしれない。


 放課後、私は図書室に向かった。青も本を読むのなら、と図書室に誘ったが、どうも図書室は嫌いなようである。騒がしいから、だそうだ。

 久遠さんは先生から配布プリントのコピーを頼まれていた。三階北側から二つ目のコピー室は図書室とは反対方向だ。青もその奥の空き教室で待つそうだ。三階北側奥の教室は校舎の隅だ。人通りもなく静かだろう。


 図書当番の仕事は六時半には片付いた。青はまだ待っているだろうか。三階を目指す。久遠さんがまだいるのか気になって、コピー室をのぞいてみる。コピー機が次々と紙を吐き出している。久遠さんはまだ印刷をしているようだ。

「久遠さん、どう? 終わりそう?」

「もう少し。やっとやり方がわかってきたところ。コピー機って、わざわざ使い方を複雑にしているようで、嫌になっちゃう」

「青はもう帰ったのかな?」

「どうだろう、廊下を通るのを私は見なかったけど、印刷していたら気づかないから」

隣の空き教室をのぞいてみる。青は居なかった。帰ったようだ。コピー室に戻って久遠さんを待とう。

「青、帰っちゃったみたい。もうすぐ終わるんでしょ、待ってるよ」

「ありがとう、すぐ終わらせるから」

久遠さんの作業を待ち、七時前には学校を出た。

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