さんさろの呪い

 がっきーのママが死んじゃった。



 今度は朝礼じゃなくて朝の学級会で先生がそう言ったの。だからがっきーはこれからも学校に来れないんだって。パパといっしょにおばあちゃんちに行くんだって。そのまま学校には帰ってこないんだって。そんなの、へんだよ。なんで?がっきーと会えなくなるの嫌だ。へんなのへんなの、なんでかな。

 がっきーは転校しちゃうかもだから、お手紙書いてあげなくちゃって、学期末になったら先生が寄せ書きをがっきーのおうちに届けるからね、だからみんなで書いてあげなくちゃなんだって。先生ひどいよ。そんなのひどいよ。

 難しいことはよくわかんないけど、がっきーのママ元気百倍って感じだったのにへんなの。すごくへんだよね。へんてこだよね。



 学級会で先生がこれからの予定とか今日の宿題についてとかお話してる。だけどアタマの中では別のこと考えてたよ。

 がっきーはね、ママのことあんまり好きじゃなくてママがさけんだり怒ったりするのとかおうちから出してもらえなくなったりするのとかが嫌なんだって話してたけど、だからってママが嫌いなわけじゃなかったと思うんだ。ママがいなくなってとってもとってもかなしいんだ。とってもとってもさみしいんだ。それなのに学校からもいなくなっちゃうなんて………



 クラスの子たちは今日もさんさろのおまじないの話で持ちきり。だからみんな先生たちから隠れながらこそこそ話をした。




──これはきっと、さんさろの呪い──





「なーにが、呪いだよ、そんなもん!そんなもんと人が死んだことがカンケイあるわけないだろ!お前らいいかげんにしろよ!っばーか!」





 けーたくんがカンカンに怒ってみんなの前で教科書でパンパンの机を前に倒して立ち上がって、それに続いて自分が座ってた椅子まで教室の真ん中に投げた。ガタン!ガシャン!ってすごい音がして耳が痛かった。投げられた椅子は誰にも当たらなかったけど、投げられた場所からはドーナツみたいに人がサササーッて逃げた。女の子たちは驚いたり怖がったりして、何人かで固まって隅っこに寄った。もしここにみっちゃんがいたらけーたくんを止めにかかってるだろうな。みっちゃんは女の子たちの中で一番強かったんだ。けーたくんは最後におおきな声を出して、ぷりぷりして教室の扉をバーンって開けて廊下に走っていってしまった。


 先生はすごくあわてて「北原くん─、物に当たるのはよくないですよ!椅子なんか投げて、おともだちに当たったらどうするんですか!」って言って、それから「みんなはこのあと自習しててください!」って、けーたくんのあとを追いかけていった。


 けーたくんなんであんなに怒ったのかなあって考えて、そういえばけーたくんのおうちにはママがいなかったなあって気が付いた。

けーたくんが小学校に入る前、もっとちっちゃかった頃にけーた君のママは病気でしんじゃったんだって、ママから聞いたことがある。けーたくん、けーた君のママのこと思い出したのかな。ママといられないのってさみしいよね。



─キンコンカンコン鐘が鳴る。



 終わりのチャイムが鳴ってもケータくんが昇降口を出てこなかったから職員室のほーにとことこ歩いていったら扉がちょっとだけ開いてて隙間から覗いたら、まだ先生に怒られてた。だけどこっちを見て、先生もこっちを見てびっくりして逃げたけどすぐ捕まった。



「職員室を覗いたらいけませんよ、梶原さん。扉を開けてふつうに入っていらっしゃい」


「えへへ………─けーたくんまだ終わらない?ですか?一緒に帰ろ?いいですか?」


「─そうですね、あらこんな時間…じゃあ気を付けて帰るんですよ。道草食わないでまっすぐおうちに帰ること!」


「っばーか!草なんて食べないよー!」


「あはは、先生さよーならー!」


「ほんとにまっすぐ帰るんですよーーー──!!──!!!」




 ふたりでかけっこみたいに学校を出たから、後ろで先生が何か言ってたけど全然聞こえなくて、けーたくんを見たらけーたくんもそうみたいであははって笑った。

 みんながみんなさんさろの呪いだって言うから、ちょっとこわいなって思ったけど、けーたくんと一緒ならきっとなにが来たってヘーキだよね。だってけーたくんは大人みたいにいろんなこと知ってるもん。物知りなんだよ。けーたくんといたらなんでも出来るんだ。


「ねえ、けーたくん!がっきーのとこ行こーよ!行っちゃダメってママも先生も言ってたけど、友達なんだよ、がっきーのとこ行かなくちゃダメな気がする!」


「うっせーよ!お前も呪いだって言ってたじゃん!」


「だって、がっきーこのまま転校するかもって…!」


「知らねーよ!おれは帰るかんな!」


「──けーたくんひどいよぉ…うえええええん」


「おまっ…泣くなよ、悪かったって、行くから、一緒に行くから泣くなよバカ」


「うっうっ…ひっく…うえええん」


「ほら、一緒に行くって…」



 けーたくんと手をつないでべしょべしょぐすぐすしたままがっきーのおうちについた。おうちはいつもみたいにうるさくなくて、しんと静まり返っていて、いつもと違うになみだは引っ込んだ。ワンちゃんの鳴き声はしない。オリはそのままあったしへんなにおいも相変わらずだけど、先生ががっきーはパパと一緒におばあちゃんのとこ行くって言ってた。もしかして、



「板垣のやつ、もういないんじゃないか?この家にいるのか?外からじゃ、わっかんねえな。もういいやピンポン押しちゃおうぜ」


─ぴんぽーん


「北原ですけど、ともえさんいますか?同じクラスの友達です。梶原も一緒です。ともえさんと話したいんですけど」


 それからややあって、扉がガチャ…って控えめに開いた。出てきたのは真っ赤に泣きはらした顔のがっきーだった。



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