三叉路

 放課後、がっきーの部屋、けーたくんと3人で。がっきーは真っ赤な顔してた。がっきーのパパはいろいろ手続き?に忙しくしてて、構ってくれないんだって。今はおうちには居るけど、ママの寝てる部屋に閉じこもってて出てこないからお客さんが来ても帰ってもらうつもりだったけど、来たのがふたりだったから開けちゃったって控えめに笑った。笑ってるのに笑ってない。おなかの奥がきゅうってなる嫌な感じがした。それを言ったら、けーたくんは「それお腹じゃなくて胸だろ」ってさ。



「わたし…おまじないしにさんさろに行ったの…みっちゃんもわたしもおまじないしてからすぐ怖いことあったでしょう?わたし、さんさろの呪いだと思うの…お願い、ふたりはおまじないしに行かないで…!きっと怖い事が起こる、きっとよくないことが起こるよ…」


「考えすぎだって、呪いなんかないよ。人が死ぬのに呪いなんてカンケイないね」


「けいたくんはそう思うんだね…だけど、だけどわたしおまじないしたの!お願い事したの!」


「がっきー、どんなお願い事したの?」


「ママのこと…ママが、ママが…」


「死ねばいいって?」



ひゅって息を呑んだ。息が止まったみたいに言葉が出てこなかった。けーたくんは怖い顔してた。がっきーはまた泣きそうだった。だけど、



「───そんな、わけない…!」



「だったら、呪いなんてない!板垣は何にも悪くない!なんにも!!!」




 けーたくんは教室で怒った時みたいにすごく怒ったけど、がっきーのこと悪くないって言ったのでびっくりした。がっきーはママのことおまじないしたから、がっきーは自分のせいだって思ってたの?そんなわけないじゃん…。呪いなんて噂だ…ただの噂…?



「わたし、ママのこと、こんなはずじゃなかった…」



「誰だって…おれだって、母ちゃんが死ぬの、こんなはずじゃなかったって思ったよ。板垣は悪くない、誰も悪くないよ。怒鳴ってごめん…ごめんな」



 なんだか、おなかの奥がきゅうっとしたままだ。けーたくんが真面目な顔で、がっきーと見つめ合ってるのを見て、へんな気持ちになった。なんでだろう、なんでそんなこと思ったんだろう。がっきーを心配したんじゃない。がっきーと遊べなくなるのが嫌だったんだ。遊ぶ子がいなくなってつまらないじゃない。だけど、がっきーと遊べなくてもいいかなって思ってた。けーたくんがいるから、けーたくんが仲良くしてくれるから、



「がっきー、転校するってほんとう?」



「お前なー、なんかいっつもズレてるんだよなー…」



「え?だって気になるんだもん、がっきーと遊べないの嫌だよ…これからも仲良くしてくれる…?」



「うん、もちろん…いまはわたしも元気ないけど、みっちゃんも、わたしも、元気になったらまた一緒に遊ぼうね、かじちゃん」



「うん!ありがとう!」



「きっとお手紙書くからね…!待ってて…!」



「約束だよ!」



 約束いつも破るくせに、と思った。おなかは痛いままだった。なんでがっきーなんかとけーたくんが仲良くしてるの。行きたいって言ったのはけーたくんじゃなかったのに。お別れの前にお話したかっただけなのに。けーたくんけーたくんけーたくんけーたくんけーたくん

 その日はけーたくんと途中まで一緒に帰った。また明日ね明日も一緒に遊ぼうねだってこれからはずっと一緒にいられるみんなみんないなくなったもんねうれしいな一緒に遊ぼうあそぼうあそぼうあそぼうあそぼうショウキャクロで遊ぼう先生も大人もいないさんさろで遊ぼう




 だけど、けーたくんはおうちには帰れなかった。

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