事故

 教頭先生のお話はよくわかんなかった。長いし。ハンカチ出してぐすぐすするし。大人なのにへんなの。


 ほんとうはいつもみたいに一人でおうちに帰るんだけど、一人で帰るの危ないからダメな日なんだって、体育館の中でおうちのある住所ごとに班に分けられて集団下校することになった。

 おうちの人がお迎えに来れない人はお迎え来ない組にまとめられて、先生の誰かと一緒に帰るんだよ。けーたくんはいつもここで一緒の班なんだ。お迎え来ない組で先生たちと帰るの待ってる時に、けーたくんがさっき話してた教頭先生のお話のこと教えてくれた。



 みっちゃんはね、夜にね、おうちを抜け出して、さんさろのとこでひとりで遊んでたら、あっちとこっちからきた車と車にごちーんって挟まってぺちゃんこになっちゃった。もう子供が起きてる時間じゃなかったからみっちゃんのママはみっちゃんはとっくにおうちですやすやしてると思ってたから、いないのすぐにわかんなくて、みっちゃんのママがみっちゃんがいないの気づいたのはみっちゃんがぺちゃんこになったずっとあとだったんだって。

 でもみっちゃんは生きてて死んじゃってなくて今は病院にいるから、お見舞いに色紙みんなで書いて先生が持っていくんだって。ぺちゃんこになったのに生きてるなんて!きもちわるーい。へんなの。


 

「みっちゃん痛かったかな?」


「うええ、そんなのわかんないよ~~」


「自分ちの子がいないのすぐ気づかないとかサイアクだよな」


「けーたくんちもうちも気づかないから遅くまで遊べるんじゃん」


「それなー」



ふたりでしゃべってたら、お迎え来ない組の待機場所にお迎え来る組のがっきーがお迎え来るまでおしゃべりしにやってきた。



「みっちゃん、さんさろのおまじないやったんだと思う。かじちゃんも、けいたくんもさんさろのおまじない聞いたことあるでしょ?」


「うん、みっちゃんから聞いた」


「みとおしが悪いって、事故が起きやすいからあそこ行かないようにって、おれんちの父ちゃん言ってたぜ。でもあそこよくハトとかネコとか死んでて面白いから見に行くんだ、お前らも来れば?」


「えええ、けーたくんそんなこわいの見つけたら大人に言わなくちゃいけないんだよ」


「さいしょはみっちゃんが友達の誰かから聞いて、おれんとこ来てさんさろのこと教えてくれたんだよな」


「そうなんだ?」


「おう、それにあそこ死体がよく出るんだけど、なんかいつのまにか死体が消えてるんだ。片付けんの早えーよ、もっと見たいのに…」


「けーたくん、悪い子だ~~~」


「悪い子~~~」


「あっ、お迎え来た~!じゃあね、みんなバイバーイ!」



がっきーはガッキーのママがいつもみたいに来てばいばいした。それからみんなが帰るのを見送って、けーたくんとお迎え来ない組もぞろぞろして学校を出た。




 下校の帰り道、入っちゃいけませんの赤いコーンがいくつか立ってて、黄色いテープに囲われてるとこ、カーブミラーの下には黒いシミができてたみたいだった。見てたら「そんなの見ちゃダメだ、早く来なさい」って先生が言って、「はあい」って言ってぞろぞろしてる中に戻った。

 ミラーには誰かわかんないけど、見たことある顔の女の子が映ってて、だからばいばいって手を振ったらね、向こうも振り返してたよ。



 でも、あれ、誰だっけ…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る