第4話

じゃんけんで勝ったのは彼女。


彼女から交互にYesかNoで答えられる質問をする。


たったそれだけだったが、彼女は躰が締め付けられるような緊張に襲われていた。



「その人は君より身が低い?」


「多分そうだよ。じゃあ身長、俺以上?」


「そうだね」



彼は女子の半数以上より高い。


あまり絞れる質問では無かったのは無意識。


彼女の隠れた本心からだろうか。


その後も質問は続く。


祭りの出店通りの端から始まり、もう反対側に辿り着こうとしていた。




彼女は質問の回答を待っていた。

朝の、のしかかってくるような低く厚い雲はもう跡形もない。




晴れた空に視える薄浅葱色。


夕日近くの鉛丹色。


薄い雲に夕焼けが映った朱鷺色。




ビー玉にしたらさぞ美しいだろう。


藍がそんな、絵具では作ろうとしても作れない空を侵蝕し始めている。


ビー玉に差し込む光を妨げてゆく。



彼女は巨大なビー玉に見惚れて彼からの返答を聞いていなかった。


彼への質問は文化部か否か。


思い切った質問だった。


以前から彼はある人と噂が立っていた。


そのある人は吹奏楽部だった。






「ちがうよ、驚くだろうけど」






彼は否定した。


陶酔から目を醒まし、頭を働かせる。


噂される子は彼女と特徴が似ていた。


三年間クラスが同じ。


今までの質問でその子と異なる点は最後だけだった。


彼女は陸上部だ。





だとしたらもしかして、とずっと否定し続けた可能性が彼女の思考を占める。


自惚れ過ぎだろうか。




彼が今年、自分と別のクラスになってから業間ごとに廊下に出ていることも。


何故か去年より会話する回数が増えていることも。


何故か人気がない委員会で彼と同じになったことも。


何故か今、彼の耳が少し紅く染まっていることも。



何故か……。






これらは一切関係ないというのだろうか。


全てたまたまの偶然であり、夕焼けが魅せる虚像なのだろうか。


わからない。


可能性はゼロではない。
























まだ、橋は渡れない。

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