エピローグ

実家に戻ってから半年ほど、エアリーを冒険者としてやって行ける様に鍛えた後、俺とエアリーとシアリーヌの三人でパーティを組み冒険者として活動する事となった。

当初はパトリックの様な前衛と、シグリッドの様な盗賊を仲間に入れようと俺が提案したのだが、シアリーヌによって却下された。

「マティーお兄ちゃんと私が居れば、そんな人達は必要ありません!」

そう言われて、試しに三人のみで魔物を狩りに行く事になってしまった。

シアリーヌの言う通り、前衛は俺とシアリーヌで十分やる事が出来るし、魔物に不意を突かれる様な事も無かった。

アベルに散々鍛えられた俺とシアリーヌは、敵の接近に気付かないはずが無いし、例え気配を消されたとしていても、問題無く敵の存在に気付けるからだ。

それにエアリーも、たった半年間だったが、アベルとシャルに鍛えられた事によって、普通の冒険者以上の動きが出来る様になっていた。

そして、三人でパーティを組んだ事で、呪文圧縮が遠慮なく使えると言う利点が大きかった。

その事で、ほとんどの魔物に近づかれる前に倒せる為、楽に魔物を狩る事が出来て、俺達は一気にお金を稼いでいって、ランクもどんどん上げて行く事が出来た。

気が付けば、Aランクが目の前の所まで来ていた。

「マティーお兄ちゃん、Aランクに成ったら私とも結婚してね!」

「Aランクに成ったら、エアリーと相談して考えるよ・・・」

シアリーヌに冒険者になった時に言われた言葉に、安直に答えてしまった当時の俺を殴ってやりたい・・・。

パトリックとシグリッドの三人で組んでいた時は、Bランクの魔物にも結構苦戦していたため、Aランクなんて成れるはずがないと思っていたからな。

妹と結婚すると言うのは、倫理的に許されない事なのでは無いかと思ったのだが、この世界ではそんな事は無いらしい・・・。

シアリーヌもエアリーと仲良くなって楽しそうに二人でお喋りを良くしているし、俺もシアリーヌの事は嫌いでは無いので、結婚しても良いとは思うのだが・・・。

一つだけ懸念材料があるんだよな・・・。

それは俺達がAランクになって、アベルとシャルに報告するために実家に戻った時の事だった。

二人に三人で結婚する事を報告すると、アベルは武器を手にして、俺は街の外へと問答無用で連れ出される事になった。

アベルは無言で武器を構えて、俺に殺気を飛ばしながら本気で斬り掛かって来た!

しかもその一撃は、俺には全く見えずに殺されたと思ったのだが、寸止めされた事で何とか生き永らえた・・・。

「次は止めねーからな!」

俺は慌てて呪いの指輪を外し、剣を構えた。

アベルはいつの間にか指輪を外していた様だ・・・。

それから数時間、アベルの本気の攻撃を受け、俺はボロボロにされてしまった。

アベルは何時でも俺の事を殺せただろうに、俺が治癒出来る程度の怪我で済む所までしか、斬り付けて来なかった。

結局アベルが剣を下げてくれるまで、俺は一撃も入れる事は出来なかった・・・。

「まっ、ギリギリ合格ってとこだな!シアの事もちゃんと可愛がってやるんだぞ!」

「それは勿論です!」

死ぬ思いをして、シアリーヌとの結婚を認めて貰う事が出来た・・・。

しかし、アベルは想像以上に強かった。

アベルなら管理者にも勝てるのだろう。

ただ、管理者は九人いるし、エアリーの恩人である吸血鬼は人を操る事が出来ので、どう足掻いても勝てないのは分かっている。

やはり、魔族とは対立しない方が利口な生き方だな。

あれから、兄貴とは会ってはいない。

俺が冒険であちこち移動していたせいだろうけどな。

兄貴の噂は冒険者ギルドでたまに聞く事はあるから、元気にしているのだろう。

俺達が治癒院を開けば会いに来てくれる事だろうから、心配はしていない。

そもそも、不老不死の兄貴の心配をするだけ無駄と言うものだな。

それから俺達は、エアリーの生まれ故郷のソプデアスの街に治癒院を開いた。

この街は、俺が冒険者訓練所に通った馴染みの街でもあったし、弟のロティルスも魔道具店で働いているから都合も良かった。

治療は主にエアリーに任せて、俺とシアリーヌで受付や食事などの雑事を受け持つ事となった。

定期的に、三人で貧しい生活をしている人達の所を回って、無料で治療を行ったりもしている。

お金に関しては、シアリーヌが少しだけでも貰うべきだと主張したが、エアリーがどうしてもと言う強い希望に寄って貰わない事となった。

その代わり、週に最低一日は魔物を狩りに行く事でシアリーヌを納得させた。

シアリーヌとしては、やはりまだまだ冒険を続けたかったようだ。

俺も冒険は嫌いでは無いし、エアリーも楽しんでいる様だったから問題は無かった。

俺はエアリーとシアリーヌの三人で仲良く平和に暮らしていければ、それで構わない。

そろそろ二人からは、子供が欲しいとせがまれる事もあるが、もう暫く三人での生活を楽しんで行きたいと言って我慢して貰っている。

俺も子供が欲しいと思う事はあるが、モテなかった時期が長かったため、夫婦の甘い生活を長く楽しみたいという気持ちの方が強かったからだ。

それもいつまで続くか分からないが、今はエアリーとシアリーヌとの甘い生活を楽しんで行こうと思った・・・。


≪ゴブリン≫」

クリスティアーネが女神教の教えが嘘だったと暴露してから、ネフィラス神聖国及び女神教は衰退していくかと思われた。

しかし、聖女を中心として新たの教義を作り、レアカトル神聖国、聖守教と名前を変えて存続していた。

聖守教は、人々の生活を様々な苦難から守る事を目的としているそうだ。

俺達魔族側からすれば、混乱が起きずに良かったという事だな。

最悪の場合、ネフィラス神聖国の周辺国が一気に攻め込んで領土を奪い取る事も想定していたのだが、そうはならなかった。

北のラクシュム王国のドワーフ達も、東のローカプス王国も今回の戦いで兵を消耗していたし、南のケルメース王国もカリーシル王国との戦争で同じ状況だったため運が良かったと言うべきなのだろう。

人同士の争いがどうなろうと、俺達魔族としては関与する事は無い。

いつも通り街に繰り出して、魔族に対して危険な存在が居ないか様子を探っていくだけだな。

最近一組だけ強力な冒険者パーティが現れたが、マティルスだったため問題は無い。

俺も冒険者としてエルバと二人で活動して、人達のスキルを盗み見たりしている。

また背後から剣を突き刺されたくは無いからな・・・。

冒険中は、セレスティーヌとマリーロップの二人は留守番とクリスティアーネのお世話をして貰っている。

二人も魔物に負ける様な事は無いのだが、元々戦う事が好きでは無い様だから無理はさせられない。

その代わり、クリスティアーネのお供として街で食べ歩いている様だが、その事で太る心配も無いしお金にも困ってはいないので問題は無い。

ただし、アイスクリーム屋だけは、数日前から予約してからご来店してくださいと言い渡された様だ。

お店としては売り上げが上がるから良いだろうが、他の客からの苦情でそうせざるを得なかったという事だ。

あれだけ食べ尽くせば、当然の反応だよな・・・。

それから一年は平和に過ごせていたのだが、セレスティーヌが身ごもり、無事に男の子を出産した事で生活様式ががらりと変わる事となった。

男の子はゴブリン顔では無く、セレスティーヌによく似た可愛らしい顔だったのでほっと一安心した。

髪の毛もセレスティーヌやクリスティアーネと同じ黒髪で、本当に吸血鬼として生まれた事がよく分かった。

男の子の名前は、俺とセレスティーヌの希望で、クリスティアーネに付けて貰う事にした。

「ふむ、よき名前を考えてやるからの」

クリスティアーネはそう言ってから一週間ほど、あーでは無いこーでは無いと悩んでから「ティルベルト」と名付けてくれた。

俺の時はそんなに悩まなかったのにと思ってしまったが、いい名前を付けてくれたので良しとしよう・・・。

俺は子育てに忙しくなる事は全く無く、むしろティルベルトを抱く事すら出来なかった・・・。

ティルベルトのお世話は、意外にもエリミナがほとんどやってくれていた。

何でも、クリスティアーネが生まれた時のお世話も、エリミナがやっていたという事だった。

そしてティルベルトは、クリスティアーネとエリミナにほとんどの時間抱きかかえられていて、セレスティーヌも授乳の時以外は抱けないありさまだった。

それで俺は何をしていたのかと言うと。

昼間は家事を中心に忙しく働き、夜はマリーロップとエルバに子供をねだられて、子作りに励んでいた・・・。

しかし、吸血鬼は子供が出来にくいという事で、二人が妊娠する事は無かった。

クリスティアーネ曰く、セレスティーヌが人だったため妊娠しやすかったのでは無いかという事だった。

まぁ、焦る必要は無いと思うのだけれどな・・・・。

しかし、クリスティアーネが魔王城で行われる会議にティルベルトを連れて行ったことで、ラモンから孫はまだかと脅された・・・。

ラモンにはもう既に、大勢の孫が居る筈なのにな。

それと、オルトバルからもマリーロップの子供が出来たら、兎獣人の所に連れて来る様にも言われた。

俺はただ、授かりものですから気長に待ってくださいという事しか出来なかったのだけどな・・・。

会議では、何も問題が無い事が確認された。

エルフも、ヴァルギールが追い返してからは、全く攻め込んで来る事は無かったそうだ。

龍族が本気で攻め込めば、エルフを滅ぼす事も簡単だろうからな。

当分は安全だろうと、スティーラスが笑顔で報告していた。

獣人の所も、ローカプス王国軍と冒険者を全滅させた事で、不用意に管理地に入って来る者は居なくなったという事だ。

エミラダの所は、ネフィラス神聖国軍をアマーリア率いる妖精達が全滅させた事で、更なるアンデッドが大量に発生し、それを狩りに来る冒険者が増えたそうだが、元々冒険者は受け入れていたので問題は無い様だ。

こうして、魔族の管理地の安全が確認できたと言う事で、暫くは平和に暮らせると言う事だ。

例の、魔力を抑える魔導具に関しては、悪魔族が対抗できる魔道具を作っている段階だ。

俺としては、魔力を抑えた状態でも十分戦える様に、今後は力を付けて行くつもりだ。

その考えは、ラモンやヴァルギールも同じの様で、また修行に来いともいわれた。

でもそれは、子育てと子作りが一段落してからの話だな。

不老不死の俺には時間が無限にあると思うが、皆と共に日々の生活を大事にしながら生きて行きたいと思う・・・。

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転生したら、弟冒険者で兄ゴブリン!? よしの @yoshino009

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