第三十五話 ゴブリン 女神教の終焉
ネフィラス神聖国への報復手段を皆で話し合った結果、女神教のお偉いさんだけに責任を取って貰う事になった。
エルバは、街一つ潰してしまわないと、また同じことが繰り返されるだろうと言う意見を出し、それにエリミナとマリーロップも賛同したのだが、無関係な人達を巻き込む事はクリスティアーネが賛成しなかった。
エルバの意見も間違いでは無いのだが、俺とセレスティーヌもクリスティアーネと同じ気持ちだ。
それでは、お偉いさんを暗殺するのかと言う話になったのだが、俺が以前奴隷市場の調査を行った際に、クリスティアーネが操って情報を話させた事と同じ事が出来ないかと提案した所、クリスティアーネもそれは良い案だと了承してくれた。
それでその案を、ソフィーラムから魔王に伝えて貰って、了承を得る事が出来た。
これで、他の管理者から軽すぎると文句を言われたとしても、魔王に責任を押し付ける事が出来るはずだ。
そして翌日、俺達はネフィラス神聖国の聖都へとやって来た。
「良い街並みだの」
「そうですね、街の人が毎日清掃しているのか、ゴミ一つ落ちていなくて綺麗だな」
「ここが聖都ですか、初めて来ましたが、落ち着いた雰囲気でいい所ですね」
聖都の街並みは、綺麗なレンガ造りの建物が整然と立ち並んでいて、人は大勢いるのだが、どこか落ち着いた雰囲気のある街並みだった。
「では早速、目的地の大聖堂へと向かいましょうか」
俺が歩き出した所で、背後からエリミナに服を引っ張られて止められてしまった。
「待つニャン、先に何か食べに行くニャン!」
「エリー、今日は遊びに来た訳では無いのだけれど?」
「パフェ食べ放題、約束したニャン!」
「確かに約束はしたが、今日は無理だろ・・・」
今日はソフィーラムもいる事だし、そんな事をしている余裕は無いだろうと思い、皆を見渡したが、何故か目をそらされてしまった。
「別にそこまで急ぐものではないからの、ソフィーはどうかの?」
「そ、そうですね、特に敵が逃げる訳では無いので、食事を摂るくらいの余裕はあると思います」
「ベル様、私もパフェを食べに行きたいです!」
・・・どうやら、皆パフェを食べに行きたい様だな・・・。
クリスティアーネも甘い物は大好きだから分かるが、ソフィーラムまでとは思わなかった。
口には出さないが、セレスティーヌとエルバも、じっと俺の事を期待した眼差しで見ているからな。
「分かった、先に食べに行く事にしましょう」
「そうと決まれば、早く行くニャン!」
「では、私が案内します」
ソフィーラムが、案内役として先に歩き始めた。
と言うか、ソフィーラムは最初からパフェを食べに行く気満々で調べていたという事なのだろうか?
まぁいいけどな・・・。
魔王の所に戻ってからは、こうして自由に街に出歩く事なんて出来ないのだろうから、今日くらいはかまわないかとも思った。
お店に入って席に着き、エリミナが店員に「メニューの端から端までニャン!」と、いつもの様に注文していた。
店員は少し驚いた様子だったが、直ぐに注文を確認して戻って行った。
それから暫くして、次々とパフェが俺達のテーブルに運ばれて来て、皆で勢いよく食べて行く事となった。
今までと違う所は、ほとんど食べない俺を除いて六人居るという事だな。
だから、食べる速度も今までに無いほどに早く、お昼前には店の全ての材料が無くなりましたと、店員から告げられて終わりとなった。
俺は料金を支払い店の外に出ると、エリミナを除いて満足した表情を見せていた。
「食べる量が少なかったニャン・・・」
「皆と食べられて楽しかったでは無いのかの」
「楽しかったけど、もっと食べたかったニャン!」
「また今度食べに来ればいいさ」
「そうするニャン!」
エリミナからすれば、人数が増えた事によって食べられる量が減った事は、嬉しくなかったのかも知れない、
しかし、クリスティアーネが言った通り、皆で食事が出来る事は非常に楽しくて、とても幸せを感じる事が出来た。
やはり、一度死んだと思ったからだろうか、こうして皆と一緒に過ごせるのが、何よりも幸せな事だと思う。
「では、大聖堂へと向かいましょう」
「うむ、そうするかの」
俺達はやっと本来の目的地へと向かう事になった。
そして、大聖堂の前の広場へと辿り着いた。
「あれが大聖堂かの」
「はい、女神教総本部の大聖堂となります」
「ベルさん、大聖堂は壊さないんですよね?」
「その予定だけど、セレスは壊した方が良いと思っているのか?」
「違います、あの綺麗な大聖堂を壊すのは勿体ないと思ったまでです」
「そうだな、俺もそう思うよ」
大聖堂が女神教の重要な施設だという事は分かっているから、壊した方が信者にダメージを与える事にはなるだろう。
しかし、逆に魔族が更に恨まれる恐れがあるから、今回は破壊しない事に決めていた。
壊すのは、クリスティアーネの魔法で何時でも壊せるという事なので、次にまた同じような事を繰り返すようなら、破壊する事になっている。
そうならない様、今回女神教には痛い思いをして貰う予定だ。
俺達が立ち止まって、大聖堂を見ていると、こちらに女性が一人走って近寄って来るのが見えた。
一瞬身構えたが、女性からは悪意を感じなかったので、そのまま様子を窺う事にした。
「クリス様、エアリーです!覚えていらっしゃいますか?」
女性はクリスティアーネの前で立ち止まり、笑顔で話しかけて来た。
「うむ、覚えておるぞ、大きくなったものだの、あーはっはっはっは」
「はい、クリス様のおかげで、元気に成長する事が出来ました。
そして、今は勇者パーティの一員にもなったんですよ!」
「ほう、凄いでは無いか、相当努力した様だの、あーはっはっはっは」
「ありがとうございます、でも、治癒魔法しか使えないので、たいして役には立ってないかも知れないんですけどね」
エアリーと名乗った女性は、クリスティアーネに自分が成長した姿を見て貰い、褒めて貰ってとても嬉しそうにしていた。
『ベルよ、この前戦った時にエアリーは居たのかの?』
『はい、戦闘には参加していませんでしたが、確かにあの場所には居ました』
『そうか・・・』
『クリス様のお知り合いで?』
『うむ、以前助けてパトリシアの教会に預けた娘だの』
『なるほど、そうでしたか・・・』
以前、奴隷商人から買った少女マリリアを預けに行った所だな。
クリスティアーネは、他にもたくさんの子供達を保護してはあの教会に連れて行ったいた様だから、この様に出会う事はあるだろう。
しかし、最悪な形で出会ったものだな・・・。
クリスティアーネも、どう対応したらいいものか迷っている様子だ。
それに比べて、エアリーは楽しそうにクリスティアーネに話しかけている。
今から俺達がやる事を考えると、クリスティアーネも心苦しい事だろう。
そう思っていると、俺と戦ったマティルスもこちらへとやって来た。
あの時の俺の顔はゴブリンだったため、変装している今は気付かれる事は無いと思うが、目を合わせたくは無いな・・・。
そのマティルスは、クリスティアーネと挨拶を交わした後、何故だか俺にも挨拶をして来た。
俺が戦った相手だと気付いたのかとも思ったが、そうでは無い様子だ。
俺は落ち着いて返事をしたのだが、投げかけられた言葉に驚いてしまった。
「兄貴、俺は悠希です。広樹兄さんでしょうか?」
とても懐かしい日本語で話しかけられた。
しかも、悠希だと言うじゃないか。
俺が変装した時の顔は、生前と全く同じだったから、悠希が俺と同じくこの世界に来ているのだとしたら、話しかけて来るだろうと期待はしていた。
悠希と出会えたことは非常に嬉しい事だし、俺も広樹だと名乗り出たいが、今の俺と悠希の置かれている立場が悪すぎた・・・。
ついこの間、生死を賭けて戦った相手なのだから。
しかも俺は、悠希の右腕を斬り落としている。
今は治癒魔法で元の状態に戻っているが、斬られた悠希からすると、俺を許せる事では無いだろう。
それに俺も、悠希の前で背後から突き刺されると言う、恥ずかしい失態を犯しているからな。
堂々と名乗り出る訳には行かなかった。
「何を言っているのかは分かりませんが、私の名はベルです」
平静を装い咄嗟に返事を返したのだが、心の中の動揺は隠せなかった様で、余計な事を話してしまった。
その事は悠希にも伝わったようで、余計怪しまれる事になった。
「兄貴、俺の見た目は転生して変わったけれど、悠希だよ!」
くっ!
必死に話しかけて来る悠希の姿を見て、思わず俺も広樹だと言いたいが、今は敵同士・・・俺にはどうする事も出来なかった。
俺が返答に困っていると、エアリーが助けてくれた。
皆には分からない日本語で話していると、変に思われること間違いないよな。
俺の奥さん達も、気になっている様子だ。
『ベルさん、あの方は何を話していらっしゃるのでしょうか?』
『セレス、後で説明するよ』
『はい、分かりました』
今は落ち着いて話す余裕がない、それに、今はクリスティアーネの仕事を優先しなくてはならない。
悠希の事は、ひとまず置いておく事にするしか無いな・・・。
悠希とエアリーは昼食に行く様なので、この場を逃れられる事が出来て安堵した。
『ベルも、あのマティルスと知り合いだったのかの?』
『あ、いえ、その事はお役目が終わった後、皆にお話しします』
『ふむ、分かった、では行くとするかの』
『はい』
クリスティアーネも気に掛けてくれたが、今はどうする事も出来ないからな。
俺達は広場を進み、大聖堂前までやって来て、大聖堂に入ろうとした所で二人の衛兵に止められた。
「本日は一般公開をしておりません、お引き取りをお願い致します」
当然そうなるよな。
しかし、吸血鬼のクリスティアーネにはそんな事は関係無いからな。
クリスティアーネは目を赤く輝かせ、衛兵に命令を下した。
「お主は、われをここで一番偉い人の所に案内してくれぬかの」
「承知しました、ご案内いたします」
二人の衛兵は虚ろな眼差しで、クリスティアーネの命令に従っていた。
俺達は衛兵に案内されて大聖堂の奥へと進み、豪華な扉の前まで案内された。
「こちらになります」
「うむ、ご苦労」
衛兵が扉を開き、クリスティアーネに続いて俺達も部屋の中に入って行った。
「突然許可も無く入室して来るとは、君達は何者かね?」
室内には、何名かの法衣を来た人達がいて、俺達が突然入って来た事に驚いていた。
しかし、一番奥に居る人物が冷静な態度で訊ねて来た。
「そなたがこの大聖堂で一番偉いのかの?」
「はい、私は教皇のノライテルです」
クリスティアーネが目を赤く光らせて尋ねると、素直に答えてくれた。
クリスティアーネの能力に抵抗出来る者など、よほど精神力を鍛えていないと無理だろう。
俺でさえ、最近ようやく抵抗出来る様になったくらいだからな。
「そうか、ではお前達は、この建物内にいる全ての人達を前の広場に集めてくれぬかの」
「「「承知しました」」」
クリスティアーネが、教皇の周囲にいた者達に命令を出すと、実行に移すため部屋から出て行ってしまった。
「教皇よ、女神の神託に必要な物は何か教えてはくれぬかの?」
「はい、女神様の御心と聖女のティアラです」
女神から伝えられる神託が嘘だという事は、悪魔族の調査によって判明している事を、ソフィーラムから事前に教えられていた、
念話の魔道具を改良しただけの、簡単な物だろうという事だった。
「それは今ここにあるのかの?」
「女神様の御心はございますが、聖女のティアラは聖殿にございます」
「そうか、では女神様の御心をわれに渡してくれ」
教皇は本棚へと向かい、何か操作すると、本棚が横に移動して、本棚の裏に隠れていた隠し扉が現れた。
そこに、懐から取り出した鍵を使って扉を開き、中から箱を取り出して来た。
教皇は箱のふたを開け、その箱の中に入っていた物を取り出して、クリスティアーネへと渡した。
「これが女神様の御心かの」
「はい、その通りでございます」
女神様の御心と呼ばれた物は、小さな女神像だった。
石で作られたと思われるその女神像は、真っ白で美しかったが、念話の魔道具だと思うと、ありがたみが無くなってしまうな。
「これを使えば、聖女に神託を与えられるのかの」
「はい」
「ふむ、、では聖女の所に連れて行ってくれぬかの」
「承知しました」
教皇はクリスティアーネの命令を受け、廊下に出て俺達を聖女の住まう所へと案内してくれた。
その場所は、大聖堂の裏から出て、更に奥まった所にあった。
周囲は高い塀に囲まれており、中には白いドーム状の建物と、その周りには色鮮やかな草花が咲き誇っていて、ここだけ別世界のような印象を受けた。
「聖女様は、聖殿の中におられます」
「では、聖女に聖女のティアラを付けさせて連れて来てくれぬかの」
「承知しました」
教皇は聖殿に入って行き、暫くして、美しいティアラを付けた聖女と共に俺達の所へと戻って来た。
「お連れしました」
「うむ、そなたが聖女かの、あーはっはっはっは」
「はい、そうです・・・貴方は誰なのでしょうか?」
クリスティアーネは聖女には能力を使ってはいなかったんもで、聖女が不安そうに俺達の事を見つめていた。
「われの名はクリス、今日はそなたに用事があってな、しばらく付き合って貰うからの。
では教皇、大聖堂の玄関まで案内してくれぬかの、あーはっはっはっは」
「承知しました」
聖女は俺達の事を不信がっている様だが、教皇がしたがっているので、大人しく着いて来てくれた。
そして、大聖堂の玄関に着くと、クリスティアーネの命令で外に出された大勢の人達が集まっていて、一斉に視線をこちらに向けられた。
それでも、クリスティアーネは堂々としていて、その人達全員に念話で話しかけた。
『あーはっはっはっはっは、これより魔族に逆らった愚か者に処罰を下す!』
魔族と言う言葉を聞いて、集まった人達からどよめきが起き、それと同時に皆が助けを求めるような視線を聖女に向けていた。
聖女は皆を安心させるためなのか、祈りを捧げていた。
『安心するが良いぞ、処罰を与える対象は、ここにおる教皇のみだからの、あーはっはっはっは。
では教皇、われら魔族の管理地に攻め込んだのは、お主の指示で間違いないかの?』
『はい、間違いございません、ラクシュム王国、エルフと協力し、三国同時に攻め込む様指示を出しました。
そして、ローカプス王国とも協力し、獣人の管理地へと攻め込ませました』
クリスティアーネに操られている教皇は、スラスラと自分がやった事を話してくれた。
しかし、それを聞いていた聖女が、大きな声で否定してきた。
「今の教皇のお話は全くのでたらめです!
私が女神様から神託を受け、それを教皇へとお伝えしたのです!
魔族の言葉に惑わされてはいけません!」
聖女の言葉を受け、集まっていた人達も俺達の事を非難してきた。
「魔族の言葉なんかに騙されたりしないぞ!」
「聖女様のお言葉を信じるのです」
「魔族は皆嘘つきだ!」
集まった人達を代表してなのか、一人が前に出て来て剣を抜いて構えていた。
「勇者の俺様が、魔族をぶっ殺してやるぜ!」
エルバに倒された勇者か・・・。
クリスティアーネに害を与えられる存在だとは思わないが、俺が押さえておく必要があるな。
俺は前に出ようと思ったが、クリスティアーネに止められてしまった。
『ベル、出るでない!われらが危険な存在だと思われてしまうでは無いか』
『ですが・・・』
「そこのお前達、あの者を押さえ込み大人しく話を聞かせてもらえぬかの、あーはっはっはっは」
クリスティアーネは衛兵たちに命令を下し勇者を捕らえさせ、大人しくさせてしまった。
なるほど、俺が出るより確実で、誰も傷付かずに済むな。
それに、集まった人達からの反感を受けなくて済む。
まぁ、勇者は散々暴れて文句を言っている様だが、衛兵を傷つける訳にもいかず、最後には衛兵に従って大人しくなってしまった。
『さて、女神の神託であったな、教皇、女神の神託のからくりについて説明してくれぬかの、あーはっはっはっは』
『はい、女神様の神託は、私達女神教の最高指導部の数名で決定を致し、それを女神様の御心を使って、聖女様に神託としてお伝えしておりました。
ですので、聖女様がお聞きになっている女神様のお言葉は、魔道具によるものなのです』
教皇の言葉を聞いた聖女は、真っ青に青ざめて、驚愕の表情を見せていた。
『それはこんな声では無かったのかの、あーはっはっはっは』
クリスティアーネは、女神様の御心を手に持って、聖女へと語りかけていた。
酷い事をしているとは思うが、真実を知ってもらうためにはこの方法しか無いからな。
「嘘・・・嘘よ・・・女神様のお言葉が・・・・」
聖女はその場にしゃがみこみ、頭を手で抱えて込んでしまっていた。
女神の言葉が、魔道具で伝えられていた物だと知れば、そうなったとしても仕方のない事だろう。
集まっていた人達も、言葉を無くしているからな。
『ふむ、女神の神託とやらは嘘だった訳だが、われら魔族は女神教の全てが悪だとは思ってはおらぬ。
各地にある教会では、人々の病気や怪我を癒し、孤児を引き取って育てたりしておるからの。
これを期に、女神教には正しく人を導く組織に変わって欲しいものだの。
それから、われら魔族は、人の住む領域に侵攻する意思は今までも、そしてこれからも決してないと約束しよう。
お主らも、自分が住む場所に入り込まれるのは嫌であろう?
われら魔族とて同じ事、魔族は人が生まれる遥か昔から住んでいる土地を守っているだけなのだからの。
ただし、今回の様に、われらの管理地に侵攻して来るようなら容赦はせぬぞ。
われら魔族の全力をもって排除してやるからの、あーはっはっはっはっは』
クリスティアーネの演説が終わると、集まっていた人達がざわめきだした。
「女神様に守られていると言うのは嘘だったのか・・・」
「魔族は侵攻して来るつもりがない!?」
「俺達が信じていた女神教は、嘘だらけだったのか・・・」
「教皇が全ての元凶なのか?」
「これから俺達は何を信じたらいいのか・・・」
「教皇様、嘘だと言って下さい!」
「聖女様、お導きを!」
人々は、困惑し、怒り、悲しんでいた。
『ソフィー、後の監視は悪魔族に任せてよいかの?』
『はい、お任せください』
『では、帰るとするかの』
今回の事で、女神教がどうなるかは分からないが、少なくとも、教皇が今の立場を追われる事になるのは間違いないだろう。
クリスティアーネに操られていた教皇も、今は解除されて正気に戻っていて、顔面蒼白となり両手を地面について項垂れていた。
今回は記憶を消してはいない為、クリスティアーネに操られていた時の事も覚えているからだ。
教皇がどうなろうと、興味が無い事だな。
しかし、マリリアを預けている教会には、様子を見に行った方が良いかも知れないな。
必要なら、俺達が寄付を続けて行かなくてはならないだろう。
それは、クリスティアーネと相談して決めればいいか。
さて、俺達は大聖堂の玄関から中に入って、帰路に着こうとしていた時、広場の方から騒ぎ声が聞こえて来た。
『クリス様、少し様子を見て来てもよろしいでしょうか?』
『ふむ、先程のマティルスとのやり取りで、気になる事でもあったのかの?』
クリスティアーネに言い当てられて、驚いてしまった。
『はい、その通りです、詳しい話は帰ってから致します』
『では、われらも様子を見に行くとしよう』
『はい、ありがとうございます』
俺は悠希の事がどうしても気になり、再び大聖堂の玄関へと出て行った・・・。
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