第三十三話 ゴブリン 管理地奪還

屋敷で一晩を過ごした翌日、俺達は魔王城へとやって来ていた。

何度見ても、入り口の氷が砕ける仕掛けは美しいな・・・。

さて、俺達はいつもの様に悪魔族に案内されて、会議室へとやって来た。

クリスティアーネがいつもの席に着くと、これもまたいつもの様に、妖精女王のアマーリアがフワフワとクリスティアーネの所へとやって来た。

「クリス、遅かったじゃない!」

「ふむ、いつも通りと言う事だな」

「そうね、と・こ・ろ・で、人に負けたんだって?」

アマーリアは俺の事を見て、ニヤニヤと笑っていた。

からかう気満々の様子だが、俺が全面的に悪いので、アマーリアに頭を下げた。

「はい、魔族として恥ずかしい次第でございます」

「あ、う、うん、分かっていればそれでいいのよ!

次は、負けたりしないように気を付けてね!」

アマーリアは、俺が素直に謝るとは思っていなかったのか、拍子抜けた感じで俺を励ましてくれた。

「はい、心得ております」

アマーリアは俺に手を振ってから、他の管理者の所へと行ってしまった。

「ふむ、アマーリアも心配してくれていたという事かの?」

「そうですね、ありがたい限りです」

それから暫くして、ラモンが会議室へと入って来て、迷いなく俺達の所へとやって来た。

「エルバとベルは、無事だったのか?」

「はいお父様、ご心配をおかけしました」

「エルバを守り切れなかった事、申し訳ございませんでした」

ラモンはエルバの事が心配だったのだろう、怪我が無いか、エルバの体をあちこち見まわしていた。

「お父様、傷は直ぐ元に戻りましたので、ご安心ください」

「そうか、良かったな!」

「ラモン、そこまで心配する事は無いぞ、エルバもわれの眷族になったのだからの」

「それは分かっているのだがな・・・」

クリスティアーネに指摘されて、ラモンは少し恥ずかしそうにしていた。

やはり父親と言うのは、何時になっても娘の事が心配でたまらないのだろう。

それからラモンの表情は厳しい物へと変わり、俺の事を見て来た。

「ベル、お前ともあろう者が後ろから刺されるとは、何があったんだ?」

「はい、魔力では感知できない敵がいきなり背後に現れて、気付いた時には剣が胸を貫通しておりました・・・」

俺は素直に、起こった出来事を話した。

「なるほど、人の中には魔力、音、匂いなんかを消すスキルを持った者がいる。

しかし、それくらい気付けない様では、ベルもまだまだ修行が足りないな!」

「はい、おっしゃる通りです・・・。

ラモン様、どうすればその様なスキルを持った者から、不意打ちを受け無い様に慣れますか?」

「そうだな・・・実際に使っている所を見るのが良いんじゃねぇのか?」

「見るのですか?」

人に頼んで使って貰えばいいんだろうか?

でも、素直に見せてくれるとは思えないな。

「冒険者と一緒に行動しても良いし、遠くから冒険者が狩りをしている所を見ていればいいんだよ」

「なるほど、一段落したらそうして見ます」

「おう、頑張れよ!」

ラモンは俺の肩を叩いてから、自分の席へと向かって行った。

冒険者パーティに入って活動するのは難しいから、遠くから見ているのが良いだろうな。

「お父様は心配し過ぎ・・・恥ずかしかった」

「そうだの、父親と言うのはいつまでも子離れしてくれなくて困るの・・・」

クリスティアーネもエルバと同じ気持ちなのだろうが、男の立場からすると、娘は何時までも可愛い物だと思う。

まだ俺には娘は居ないが、娘が出来たら同じようになると断言できるな・・・。

それから暫くして、管理者全員が席に着いた所で魔王が入出してきて、ブレイヴァンの宣言で会議が始まる事となった。

「これより会議を始めます。

私から現状の報告をさせて頂きます。

補足する点が御座いましたら、その都度お願い致します。

まず最初に、ヴァーリアの管理地に侵攻していたラクシュム王国軍ですが、ラモンの援護を受け、これを撃退しました。

ヴァーリア、ラモン、間違いございませんか?」

「間違いないわ」

「うむ」

ヴァーリアとラモンは、頷き肯定していた。

ドワーフがどれくらい強いのかは知らないけど、ラモンが負ける所を想像できないからな・・・。

簡単に追い返したのだろう。

「次に、スティーラスの管理地に侵攻していたエルフ軍は、ヴァルギールの援護により、ベスフェウス砦を奪還。

更に、エルフの砦を一つ潰したとの事です。

スティーラス、ヴァルギール、間違いございませんか?」

「間違いない・・・」

「うむ、やられた分はやり返して来たぞ!」

「ありがとうございます」

龍族は、敵の砦まで破壊して来たのか・・・。

龍族が本来の姿で戦えば、砦を破壊する事など造作も無い事なのだろうな。

エルフは敵だが、少し同情してしまうな。

「最後に、オルトバルの管理地に侵攻していたローカプス王国軍ですが、クリスティアーネの攻撃により壊滅。

そして、森に侵入していた冒険者達は、オルトバル率いる獣人達によってすべて排除されたとの事です。

オルトバル、クリスティアーネ、間違いございませんか?」

「間違いない!」

「うむ、だが一つ付け加えると、勇者には逃げられてしもうたがの」

「勇者に関しては問題ございません。

我々の敵になるような存在ではありませんでしたので」

勇者は敵では無いか・・・。

確かに、エルバは全く苦戦していなかったからな。

しかし、その仲間にやられた俺としては、あまりにも情けなくて、この場から逃げ出したい気持ちになってしまった・・・。

まぁ、クリスティアーネの従者として着いて来ているのだから、出て行く事は出来ない訳だけど・・・。

「これで、我々の管理地に侵入していた敵は、すべて排除されました。

次は、奪われた管理地の奪還と、今回の事に対しての報復を決めたいと思います。

エミラダの管理地の奪還に関してですが、どなたか立候補して頂けないでしょうか?」

スティーラスが管理者達に促すと、アマーリアが真っ先に立ち上がったと言うか、浮き上がって声を上げた。

「それは、切り札の私が引き受けるしか無いわよね!」

前回の会議で、魔王がアマーリアを切り札と言って諭した事を覚えていた様で、切り札の部分をやけに強調して言っていたな。

しかし、他の管理者達は困ったような表情を見せていた。

それはクリスティアーネも同じで、どのようにしてアマーリアを説得すればいいか考えている様子だ。

「えーっと、アマーリア・・・私の管理地を取り戻すのに協力してくれるのは嬉しいのだけれど、お城を壊されると困るんだけれど?」

エミラダは、アマーリアが無差別に破壊しないか、とても心配している様子だ。

せっかく管理地を取り戻しても、住む場所が無くなったら意味が無いだろうからな。

「お城も敵に占拠されているんだよね?だったら全部まとめて吹き飛ばした方が早くていいじゃない!」

「駄目に決まっているでしょ!お願いだから、私のお城は壊さないでよ・・・しくしく」

「泣かなくてもいいじゃない!分かったわよ、お城は壊さないから、ねっ!

でもそうなると、私ではお城に居る敵の排除は無理なんだけど・・・」

「それは俺が引き受けよう!」

ラモンがお城の奪還を引き受けてくれた。

ラモンなら、兵士の排除なんて簡単に終わらせるだろう。

「じゃぁラモンにお城の敵は任せるわね、それ以外は私が倒していいって事よね!ねっ!」

「ふむ、今回はアマーリアにも活躍の場を与えてやる必要があるかの」

「流石クリス、分かってるじゃない!」

クリスティアーネも、アマーリアにだけ何も役目を与えないのは不味いと思ったのか、渋々了承していた。

それを聞いて、スティーラスが魔王に確認をしていた。

「魔王様、よろしいのでしょうか?」

「うむ、アマーリアに任せる事にしよう、ただし、人の街へ被害を出す事は許さんからな!」

「分かっているわよ!エミラダの管理地だけでしょ!」

「そうだ、エミラダの管理地の奪還は、アマーリアとラモンに任せる!」

「エミラダ、直ぐに取り戻してあげるからね!」

「え、えぇ、お願いするわね・・・」

アマーリアは、仕事を貰えたのが嬉しかったのか、楽しそうに飛び回っていた。

「こほん、報復に関してですが、今回私達で調べ上げた結果。

ネフィラス神聖国が例の魔道具の制作をし、それを各国に配布して、同時に攻め込ませるよう画策した事が判明しました。

つきましては、ネフィラス神聖国に報復を行おうと考えております。

その方法についてですが、クリスティアーネにお願いしようと思いますが、いかがでしょうか?」

「ふむ、やり方は私に任せて貰っても構わんのだな?」

「はい、多少の被害に関しては目を瞑ります」

「分かった、引き受けることにするかの」

「よろしくお願いします」

クリスティアーネがネフィラス神聖国への報復を引き受けたが、どのようにするつもりだろうか?

まさか、街を丸ごと破壊したりはしないよな?

クリスティアーネが、その様な手段を取るとは思えないが、後で聞いて見る事にしよう。

「では、他に何か質問がある方はいらっしゃいますでしょうか?」

スティーラスが、管理者達を見渡したが、特に意見が上がる事は無かった。

「では魔王様、お言葉をお願いします」

魔王はゆっくりと立ち上がり、皆を見渡してから堂々と宣言した。

「管理地の奪還、および、報復に関しては確実に行わなければならない!

我等に歯向かうと、どの様な事になるのかを示さなければ、我等に安寧は無い!

担当する者は心して掛かってくれ!

皆の健闘を祈る!」

魔王の話が終わると、管理者達は真剣な表情で頷いていた。

「それでは皆様、行動に移って下さい!」

スティーラスの言葉で会議は終了し、それぞれ会議場を後にして行った。

俺達も一度屋敷へと戻る事となったが、ソフィーラムが慌てて俺達の所に来て、また一緒に行動を共にすると言うので、屋敷まで着いて来る事となった。

屋敷に戻ると、クリスティアーネが報復の内容を皆で検討すると言うので、食堂に全員集まる事となった。

セレスティーヌとマリーロップが紅茶の準備をしてくれて、全員に行き渡った所で話し合いが開始された。

「さて、ネフィラス神聖国に報復する訳だが、どの様な方法が良いと思うか、皆の意見を言ってくれぬかの」

クリスティアーネの発言を受け、それぞれ自分の意見を言っていく事となった・・・。


≪エミラダ視点≫

魔王城での会議の翌日、私達はラモンと一緒に、魔王の部下マウイヤに転移魔法で、ネイヘル城の私の部屋へとやって来たわ。

そこに、私が住んでいた頃に置いてあった、お気に入りの家具や絵画や装飾品、全て持ち出されたのか無くなっていたわ。

代わりに、武骨なテーブルと椅子が置かれていて、そこに三十人ほどの人が座って会議をしているようだったわ。

「なっ、何だ貴様たちは!」

私達が突然現れた事で、とても驚いていたわ。

「それはこっちのセリフよ!ここはエミラダ様の部屋なんだからね!

ジャスティン、ランス、あたいと一緒に敵を排除するよ!」

「「承知した!」」

私の三人の部下が、敵の排除をしようとした所で、ラモンが止めに入ったわ。

「待て!そいつは俺の役目だろ、お前達はエミラダを守っていろ!」

「あ、う、お願いします・・・」

ルリリは、ラモンに気圧されて、私の所に戻ってきてくれたわ。

「ルリリ、私達はラモンが倒してくれるのを待ちましょう~」

「はい、エミラダ様、その後の処理はあたいに任せてくださいね!」

「えぇ、お願いするわね~」

ラモンが作ってくれた死体の処理は、ルリリに任せておけばアンデッドに変えてくれるわ。

その後は、自分たちで各地に散らばってくれることでしょう。

「お前たちの相手は俺だ!死にたい奴からかかってこい!」

「魔族の分際で偉そうに、これでも食らえ!」

ラモンに、例の魔力を抑え込まれる魔道具が使われたけれど、そんなものは関係ないと言わんばかりに、次々と斬り倒して行ったわ・・・。

一分もかかってはいないかしら・・・ラモンはこの部屋にいる全ての人を倒してしまったわ。

「流石ね~」

「こんな弱者を倒したところで、褒められる事では無いな・・・。

それより、この城内に居る敵の排除をやってくる」

「お願いね~、ランス一緒に着いて行って、ラモンを案内してあげてね~」

「承知しました」

ラモンは、ランスの案内で部屋を出て行ったわ。

「エミラダ様、死体の処理を開始しますね!」

ルリリは、さっそく死体の処理を始めてくれたわ。

私の部下に出来そうな強い者は居なかったから、冒険者の良い餌となる事でしょう。

「ねぇ、マウイヤ、取り合えずゆっくりくつろげるベッドにソファー、後テーブルとイスにティーセットも用意して貰えないかしら~」

「承知しました、城に戻って用意してまいります」

「お願いね~、お金は後で魔王に支払うからね~」

マウイヤは私のお願いを聞いてくれて、転移魔法で戻って行ってくれたわ。

お気に入りの家具を奪われたことは残念だけれど、また新たに街で見つけてくればいい事よね。

ラモンに任せておけば、城にいる敵をすべて排除してくれるでしょう。

後は、私の管理地を浄化して回っている敵の排除を、アマーリアがやってくれるだけなんだけれど、やりすぎないか心配よね。

私は窓から上空を見上げて、ため息をついたわ・・・。


その頃地上にいるネフィラス神聖国軍は、エミラダの管理地の各地に散らばり、魔物の排除と土地の浄化作業に当たっていた。

一人の兵士が、ふと空を見上げると、遠くからこちらに近づいて来る、色とりどりに光り輝く雲を見つけた。

「あの雲は何だ!?」

兵士が声をあげると、他の兵士達も空を見上げて雲を見上げた。

「雲・・・虫の大軍か?」

「いや、あれは・・・妖精だ!」

徐々に近づいてきた雲の正体は、空を埋め尽くすほどの妖精の大軍だった。

「皆、準備はいい!私達の強さを見せつける時が来たよ!」

妖精集団の中央にいるアマーリアが声をあげると、妖精たちは嬉しそうに声を上げた!

「いつでもいけるよ!」

「遠慮しないでいいんだよね!」

「全部やっつけちゃおう!」

「魔法いっぱい撃ちまくるぞ!」

「皆殺しだ!」

「皆殺しっ!皆殺しっ!」

「「「「おぉ~!」」」

「よ~し、皆気合十分だね!あっ、でも一つだけ注意ね!お城には私の友達が居るから、壊さないようにね!」

「「「は~い」」」

「それじゃ~、攻撃開始!」

アマーリアの号令で、妖精たちは一斉に、それぞれが得意とする魔法を、地上に向けて撃ちだして行った。

火の玉、氷の刃、岩の塊、風の刃等、様々な魔法が次々と地上に着弾して行く。

妖精たちは、特に狙いを定めて撃ちだしている訳では無い、それぞれが好きな場所に好きなだけ魔法を撃ち続けているだけだ。

しかし、空を覆うほどの数の妖精たちから撃ちだされる魔法の数は計り知れない。

地上では、そこにいた兵士も魔物も関係無く、魔法の餌食となって行った。

中には障壁を張って防いでいる者もいるが、数の暴力には勝てず、いずれは障壁が耐えきれずに砕け散り、妖精の攻撃の前に倒されて行った。

妖精たちが通過して行った後には、生存者は無く、地形も大きく変わって行った。

元々、不毛の大地と言われていただけに、草木も生えぬ土地だったため、被害があるわけではないのだが、せっかく浄化された土地も、全てまた元通りとなってしまった。

それは、エミラダにとっては都合が良い事なのだろう。

「さ~て、調子に乗って来たよ!まだまだいっぱい敵は居るからね!どんどん行くよ!」

「「「おぉ~!」」」

アマーリア率いる妖精軍団は、エミラダの管理地を丸一日飛び回り、蹂躙して行った・・・。

その結果、被害を受けたのは、ネフィラス神聖国軍の兵士達より、魔物の方が圧倒的に多かったのだが、アマーリアは気にしない。

と言うより、妖精たちに兵士だけを狙ってねと言っても、皆から文句を言われるのは目に見えている事なので、言わないし言えない。

それに、アマーリア自身もいっぱい倒して遊びたかったから、そんなけち臭い事は言わない。

妖精たちの眼下にいるのは敵では無く、単なる遊び相手だ。

他の管理者達も、アマーリアが動くと、どの様な惨状になるかよく分かっている為、あまり仕事を与えないでいた。

しかし、今回は場所が良かった。

魔物の殆どがアンデットだから、倒されたとしても、しばらくすればまた復活して来るので、問題にはならない。

しかしこれが他の管理地だった場合、自然が破壊されてしまうので、絶対に許可は下りていなかっただろう。

「日も暮れて来たし、皆帰るよ!」

「「「は~い」」」

散々魔法を撃ちまくって、破壊の限りを尽くしたアマーリア達は、日暮れと共に自分たちの領地へと帰って行った・・・。


「やっと満足した様だな」

「そうね~、約束通り、お城は壊さないでいてくれたから助かったわ~」

ラモンとエミラダは、ネイヘル城の窓からその光景を目にして、安堵していた。

「それじゃ、俺も帰る事にする!」

「ラモン、ありがとうね~、このお礼はまた後でするわ~」

「良いって事よ」

ラモンは、マウイヤの転移魔法で去って行ったわ。

私はアマーリア達に殺された者達をアンデッドとして復活させるべく、魔力を集中させていく事にしたわ。

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