第三十一話 悲しみの敗走

俺の目の前に迫りくるゴブリンを前にして、俺は呪いの指輪を外す決意をし左指を口に咥えていた。

しかし、いざ外そうとした所で、ゴブリンの背後に何の前触れもなく立つ人影を見かけた。

その者は全身真っ黒なローブに身を包み、顔も布で覆っていて誰だか分からない。

次の瞬間、俺が苦戦していたゴブリンを背後から突き刺し、倒してしまった。

心臓を貫かれている為、ゴブリンは生きてはいないだろう・・・。

そして、鬼人の女が黒いローブに襲い掛かって来たが、それもあっさりと斬り伏せてしまった。

一瞬アベルが助けに来てくれたのかとも思ったが、剣も動きもアベルとは全く違っていた。

その光景をぼーっと見ていたら、黒いローブの人から怒声を浴びせられた。

「何をぼーっとしている!早く逃げろ!管理者が来るぞ!」

「わ、分かった!」

声色から女性だと思われるが、今はそれより逃げる事が先だな!

「エアリーさん、逃げますよ!」

「は、はい!」

俺はエアリーに声を掛けてから、ヴァームスの所へと向かった。

「ヴァームス無事か?今回復魔法を掛けるからな!」

俺はヴァームスに声を掛けて治癒魔法を使ったが、ヴァームスからの反応は無かった・・・。

「そいつはもう死んでいる!生きている者だけ連れて逃げろ!

それから、森には決して入るな!獣人が待ち構えているぞ!」

黒いローブの人から、ヴァームスが死んでいるという現実を突きつけられた・・・。

薄々は気付いていたが、僅かな可能性に期待していた・・・。

俺はしゃがみ込み、ヴァームスの遺体を収納の魔道具に入れた。

収納の魔道具には、生きている者を入れる事が出来ないから、収納できたと言う事は、ヴァームスが間違いなく死んでいるという事だ・・・。

くっ!

俺は涙を我慢して立ち上がった。

「アリーヌ、勇者を運べるか?」

「大丈夫、やれるよ!」

「頼んだ、飛んで逃げるぞ!」

「分かったよ!」

アリーヌは、倒れている勇者に駆け寄り、背中に背負って飛びあがった。

俺はそれを確認した後、黒いローブの人にお礼を述べた。

「助かりました、俺も逃げます!貴方も早く逃げてください!」

「私の事は心配無用だ、管理者がそこまで来ているぞ!早く逃げろ!」

上空を見ると、すごい勢いでこちらに飛んで来る人影が見えた!

俺はエアリーと共に飛びあがり、何とか逃げ出す事に成功した。

上空から見た光景は、地獄絵図の様だった・・・。

ローカプス王国軍は、魔法の攻撃を受けてほぼ全滅しているように見えた。

草原が燃えているのか、それとも人が燃えているのかは分からないが、至る所で火の手が上がっていた。

管理者の力をまざまざと見せつけられてしまった・・・。

シャルでもあの様な事は出来ないだろう。

そもそも、軍にも魔法使いは大勢いて、障壁を張って部隊を守っていただろうに。

それを貫通して被害を与えるとか、普通に魔法使いでは不可能な事だろう。

「マティーさん・・・」

エアリーは、その光景を見て涙を流していた・・・。

俺は何か声を掛けてやりたかったが、いい言葉が思い浮かばず、エアリーの手を握ってやる事しか出来なかった・・・。

管理者は、逃げた俺達を追って来る事は無かった。

恐らく、倒されたゴブリンと鬼人の所にいるのだろう。

追いかけられる前に、逃げ出さなくてはならないな。

さっき見た感じでは、飛ぶ速度は俺達が使っている飛行の魔道具とは比べ物にならないくらい早かったから、追いかけられたら逃げる事は出来ないだろう。

そうなると、森の中に逃げ込みたいが、先程森の中には獣人が居るという事だったので、それも出来ない。

管理者が追いかけて来ない事を願いながら、必死に飛び続けた・・・。

暫く飛び続けた後、気を失った勇者を辛そうに背をっているアリーヌに声を掛けた。

「アリーヌ、あの開けた場所に一度降りよう」

「分かったよ」

本来であれば、俺が背負うべきなのだが、まだ片腕なのでそれは出来ない。

勇者の事は嫌いだが、怪我しているのであれば運ぶ事くらいはやるぞ・・・。

地上に降り立ち、周囲を警戒してみたが、敵も魔物もいない様だ。

「エアリーさん、勇者を治療してやってください」

「マティーさんの方は・・・」

「俺のは後で構いません、傷はふさがっていますので」

「分かりました」

エアリーは勇者の所に行って、治癒魔法を唱えて傷を癒していた。

それからすぐに俺の所に戻って来て、俺の失った右腕へと治癒魔法を唱えてくれた。

「癒しの女神よ、我が力と彼の者を結び、生命を司る根源となりて、全ての傷を癒したまえ、ハイヒール」

エアリーの呪文が完成すると、俺は暖かな光に包み込まれた。

そして、失われた右腕が徐々に復元されて行くと共に感覚も戻って来て、やがて元の俺の右腕となって行った。

俺は戻った右腕の感覚を確かめながら、エアリーに感謝の意を伝えた。

「エアリーさん、ありがとう、助かったよ!」

「はい、マティーさんの右腕が無事に元に戻ってよかったです!」

エアリーは俺の右手を手に取って、元通りになった事を喜んでくれていた。

しかし、実際に失った右腕が元に戻る感覚は、とても不思議な出来事だな・・・。

この世界に転生して来た頃は、電気や機械などが無くて不便に思っていたのだが、今となっては、魔法が無い事の方が不便に思える。

「ラウドリッグ、痛い所は無いかい?」

エアリーから治療を受けた勇者が意識を取り戻したようで、アリーヌが心配そうに声を掛けていた。

「あぁ、問題無い・・・それよりここは何処だ?ヴァームスはどうなった!?」

勇者は周囲を見渡して、ヴァームスを探している様だった。

「そ、それは・・・」

アリーヌは答えにくそうにして、勇者から視線を外していた。

ヴァームスの事は、俺から伝えた方が良いだろうと思い、勇者の前まで歩いて行った。

「ラウドリッグ、ヴァームスはこの中に入っている・・・」

俺は腰に下げている、収納の魔道具を指さした。

「何だと・・・、貴様!ふざけるのもたいがいにしろよ!」

勇者は立ち上がって剣を抜こうとしたが、鞘に剣が入っておらず、そのまま俺に殴りかかろうとして来た。

ラウドリッグの剣も、俺の杖も、回収している余裕が無かったからそのまま置いて来ていた。

「ラウドリッグ、やめて!」

アリーヌが勇者を後ろから抱きしめて、殴りかかろうとしていたのを止めてくれた。

「アリーヌ、放せ!」

「ラウドリッグ、ヴァームスは、ヴァームスは、もう居ないのよ!」

アリーヌは涙ながらに、勇者に訴えかけていた・・・。

勇者も、アリーヌから聞いた事で俺に殴りかかって来ているのを止め、その場に座り込んでしまった・・・。

「ヴァームスは・・・俺を・・・俺を庇って鬼人の剣を・・・」

勇者は俯いてつぶやいていた・・・、

暫くすると、勇者はがばっと顔をあげて、勢いよく立ち上がった。

「鬼人の女!絶対に許さねぇ!おい!戻って倒しに行くぞ!」

勇者は俺に向かって叫んで来た。

「ラウドリッグ、その必要は無い・・・鬼人の女は既に倒された」

「何だと!」

「ラウドリッグ、本当だよ!真っ黒いローブを着た人が突然現れて、ゴブリンと鬼人を倒して私達を助けてくれたんだよ!」

勇者は、俺の言葉は信じようとしなかったが、アリーヌに言われては信じるしか無かった様だ。

「そうか・・・俺はヴァームスの仇を討つ事すらできないのか・・・」

「ローカプス王国軍も全滅させられた、今は大聖堂に戻って、ヴァームスを弔ってやるのが先だろう」

「分かった・・・帰る事にしよう・・・」

勇者は力なくそう言うと、アリーヌと共に飛び立って行った。

「エアリーさん、俺達も帰りましょう」

「はい・・・」

エアリーも、ヴァームスが亡くなった事を悲しんでいる様子で、目に涙を浮かべていた。

それから何度か休憩を取ったり、魔道具に魔力を補充したりしながらして、夜遅くに大聖堂へと戻って来る事が出来た。

俺は出迎えてくれた神官たちにヴァームスの遺体を預けてから、エアリーと部屋に戻った。

部屋に戻ってからも、特にエアリーと話をするわけでもなく、食欲も無かったのでそのままベッドに転がって眠る事にした・・・。


翌朝、お風呂に入って体を綺麗にした後、修道女が朝食を持ってきてくれたので、エアリーと食べる事にした。

流石に昨日の夕食を食べていなかったので、お腹は空いていた。

いくら気持ちが落ち込んでいるとはいえ、食べない訳にはいかないからな・・・。

そして、修道女から、今日の午後にヴァームスの葬儀を執り行う事を知らされた。

朝食を食べた後は、何もやる気が起きなかったので、テーブルの椅子に座ったまま、ぼーっと外の風景を眺めていた・・・。

「マティーさん、訓練に行きましょう!」

エアリーは突然席を立って、俺の腕をつかんで立たせようとしていた。

「こういう時は、体を動かしていた方が良いんですよ!」

エアリーに強引に部屋から連れ出されて、訓練場までやって来た。

訓練などやる気力は無かったのだが、ここまで来た以上何もしない訳にはいかないし、エアリーの気遣いを無駄にしてはいけない。

エアリーだって、ヴァームスが亡くなって、悲しくないはずも無いのだから。

それに、訓練しなければいけないのは確かな事だ。

俺は昨日の事で、明確に管理者と敵対してしまったからな・・・。

正直、ローカプス王国軍の惨状を見た後だと、どれだけ訓練した所で勝ち目が無いように思える。

しかし、エアリーを守ると約束していた事を思い出し、真剣に訓練へと打ち込んだ。

そして午後、ヴァームスの葬儀のため、礼拝堂へとやって来た。

礼拝堂には棺が置かれており、中には沢山の花に囲まれたヴァームスが安らかに眠っていた・・・。

・・・。

俺は手を合わせて、ヴァームスの冥福を祈った。

そして参列の席に向かい、勇者とアリーヌの横にエアリーと並んだ。

暫く待っていると、教皇たちに続いて、聖女も入出してきた。

聖女はヴァームスの前で立ち止まり、祈りを捧げていた・・・。

それから祭壇へと上がり、言葉を述べた。

「人々の為、勇敢に魔族との戦いに挑んだ英雄ヴァームス。

彼の者は、われらの誇りであり、そして、女神様の敬虔な信者でありました。

彼の者は、志半ばで倒れはしましたが、悲しむ必要はありません。

彼の者は、女神様の使途として、新たに生まれ変わったのです。

そして、女神様と共に、私達を温かく見守ってくれる事でしょう。

私達は、女神様の信徒として祈りを捧げる事により、彼の者と供にあり続ける事が出来るのです。

私達はこれからも人々の為、彼の者が行った事を無駄にしない為にも、魔族との戦いを継続して行かなければなりません。

しかし、今日は彼の者の為、祈りを捧げる事とします。

女神様のご加護があらん事を」

聖女様のお言葉が終わると、全員目を瞑り、女神様に祈りを捧げていた。

俺は女神教では無いが、ヴァームスの為に黙とうをささげた・・・。

それから、ヴァームスの棺は神官たちの手によって担ぎ出されて行き、大聖堂の裏手にある墓地へと埋葬されて行った。

勇者はただ黙ってその光景を見つめていた・・・。

アリーヌは勇者にすがって泣き崩れていた。

エアリーも涙を浮かべていたが、最後までヴァームスの棺を見守っていた。

俺は後悔の嵐に襲われていた。

俺がもったいぶらずに、早く呪いの指輪を外していれば、ゴブリンを素早く倒して、ヴァームスを助けられたのでは無いか・・・。

少なくとも、ヴァームスが刺された時点で呪いの指輪を外して、治癒魔法をヴァームスに掛けてやれば助けられたのでは無いか・・・。

俺が意地にならずに、勇者とも折り合いをつけていれば、別々に戦う事も無かっただろう・・・。

何度も、あの場面を思い返しては見た物の、ヴァームスがそれで生き返って来る訳では無い・・・。

くそっ!

ヴァームスが死んだのは、俺が原因じゃないかよ!

怒りがこみあげて来るが、自分が悪いだけに何処にもぶつける事が出来なかった・・・。

ヴァームスの埋葬が終わり、部屋に戻ろうとしていると神官に呼び止められ、教皇が報告を求めているという事を伝えられた。

勇者とアリーヌも呼ばれていたが、今は話す気分じゃないと言って戻って行った。

俺もそんな気分ではなかったが、報告をする必要はあるだろう。

今までヴァームスがそれを行っていたため、仕方なく俺が向かう事にした。

エアリーも着いて来ると言ったのだが、先に部屋に戻って貰った。

「失礼します」

教皇の執務室へと案内されて、部屋の中に入って行った。

「こんな時に呼び立ててしまい、申し訳ありません。

しかし、どのような状況になったのかを、把握しておかなくてはなりません。

教えて頂けませんか?」

「はい、ローカプス王国軍と共に、獣人族の管理地の奥地にある平原まで向かった所で、管理者の襲撃を受けました。

私達は軍とは別に管理者側の敵と戦い、敗れました・・・。

しかし、殺されるかと思った所で、黒いローブを身にまとった人に助けられ、何とか逃げ出す事が出来ました。

逃げ出す際に、ローカプス王国軍の方を確認しましたが、管理者の魔法によって全滅させられていました。

恐らく、生き残ったのは、私達四人だけかと思います・・・」

「そうでしたか・・・その黒いローブの人は知人だったのでしょうか?」

「いえ、顔にも布を巻いていたので、誰だか分かりませんでした。

少なくとも、私の知人では無かったと思います」

俺が知らないと答えると、教皇は暫く考え込んでいた。

今の内に、俺の意見をはっきりと伝えておこう。

「教皇様、お願いがあります。

俺とエアリーは、勇者パーティを抜けさせてください。

もう、仲間が死ぬのには耐えられそうにありません・・・」

俺がお願いすると、教皇は一瞬焦ったような表情を見せたが、直ぐに元に戻って話しかけて来た。

「大切な仲間を失ったのですから、お気持ちはよく分かります。

ですが、私の判断でそれを許可する事は出来ません。

何故なら、勇者とその従者の皆様は、女神様によって選ばれたのですから」

女神様か・・・俺は信者でも何でもないんだから関係無い事だ!

こうなったら逃げ出すしか無いのだろうか?

いや、それはまだ不味いよな、どうにか交渉してうまく抜けられる様にしなくてはならない。

「正直に話します。

今回戦ったのは管理者では無く、その部下でした。

それでも、勇者を始めとして、私達は負けてしまいました。

今後も勝てる見込みはありませんし、もう二度と戦いたくはありません。

俺は女神教の信者では無いので、女神様に選ばれたと言われても信じていません。

ですので、また戦えと言われれば、力づくでも抜けさせて貰います!」

俺の言葉を聞いて、明らかに教皇は動揺を見せていた。

「わ、分かりました、ですが、次の女神様からの神託がもたらされるまで、待っては頂けないでしょうか?」

「神託は何時頃になるのですか?」

「分かりません、それは女神様のお心次第ですので」

「そんな、何時貰えるかも分からない神託を待っているつもりはありません。

ですが、十日はここで待ちます、それ以上になる様であれば、ここを出て行く事にします!」

俺が真剣な表情で訴えると、教皇は暫く考えてから納得してくれた。

「・・・分かりました、ですが、女神様の神託がもたらされた場合は、神託を優先してくれる事を望みます」

「その神託の内容次第ですね・・・では、失礼します」

俺は十日と言う条件を付けて、教皇を説得する事に成功した。

しかし、次の神託がどんな物かは分からないが、俺に都合が悪い物なら無視させて貰う事にする。

もう、管理者との戦いなんて、二度とごめんだからな。

俺は部屋に戻って、エアリーと共に十日後には勇者パーティを抜ける事を伝えた。

エアリーも、勇者パーティを抜けられる事を聞いて、心から安心している様子だった。

それからは、エアリーと少し話ながらゆっくり過ごす事が出来た・・・。

お風呂と夕食を頂いた後、ベッドに入り寝ようとしていた所に、シャルから念話が届いた。

そう言えば、シャルに報告するのを忘れていたな・・・。

『マティー、無事なのかしら?』

『ママ、無事です、報告が遅れてしまってごめんなさい』

『無事であればいいのよ、それより腕は大丈夫なの?』

『えっ?』

どうしてシャルが、腕の事を知っているんだ?

『私はマティーの事なら、何でも知っているのよ!』

『そうなのですか・・・』

『まぁ、それは冗談だけれど、マティーを助けに来てくれた人が居たでしょ、その人に教えて貰ったのよ』

『あの助けてくれた人は、ママの知り合いだったのですね』

なるほど、それなら俺を助けてくれた事も、あの強さにも納得できた。

『そうなのよ、でも次は無いからね、あの一回だけ昔の借りがあったから手伝ってくれたのよ』

『分かりました、勇者パーティも十日後には抜けられそうです』

『それは良かったわね、どうしても抜けられない様だったら、家に逃げて来なさい!

女神教でも、ここまでは追っては来れないからね!』

『そうなのですね、でもママに迷惑を掛けたく無いですから、それは最終手段にします』

『まぁ、どの様な事になってもマティーは守ってあげるわよ、ただし、アベルには殴られるかもしれないわね!』

『パパに殴られると死んでしまうので、出来るだけ穏便に抜けられるようにします・・・』

『ふふっ、そうした方が良いかもね』

『また何かあったら、直ぐに連絡しなさいね』

『分かりました』

『マティー、おやすみなさい』

『ママ、おやすみなさい』

ふぅ~。

助けに来てくれた人は、シャルの知り合いだったのか。

そうだよな・・・目の前に現れる時まで、近づいて来た事を気が付かなかったからな。

シグリッドも気配を断つ事は得意としていたが、近づいて来れば俺には分かる程度だった。

ゴブリンでさえ、刺される瞬間まで気づいていなかった様だし、相当な使い手なのだろう。

今度会った時にはお礼を言っておかないといけないな、って名前すら聞いてなかったな。

今度シャルに連絡する時に、聞いておこう・・・。


≪ラウドリッグ視点≫

ヴァームスが死んだ・・・。

原因は間違いなく俺にある。

戦場では、いつもヴァームスが俺の事を守ってくれた。

だから俺は攻撃に専念することが出来て、数多くの敵を打ち倒してきた。

勇者となってからもそれは変わらない。

俺はヴァームスが居て、初めて強さを発揮できるのだという事も理解していた。

だから、ヴァームスが居なくなった今となっては、勇者なのと名乗る資格は無い・・・。

いや、それ以前にマティルスにも、スケルトンナイトにも、鬼人の女にも勝てない俺が勇者のはずもない・・・。

何故女神様は、俺を勇者だと認めたのだろうか?

勇者と認めて貰った時は天にも昇るほど嬉しかったが、今となっては勇者の肩書が重くのしかかってきている。

だが俺は、勇者を辞める事は出来ないだろう。

となると、ヴァームス抜きで戦って行かなくてはならなくなる。

しかし、そうなっては死にに行く様な物だ・・・。

俺はまだ死にたくない!

だがどうする?

マティルスに頭を下げて、一緒に戦って貰える様にお願いをするか?

・・・無理だ!

俺はあいつの事が殺したいほど嫌いだし、あいつも同じ気持ちだろう・・・。

となると、残された方法はただ一つ・・・。

今以上に強くなるしか無い!

そうと決まれば早速訓練をしに行こう。

俺は部屋を出て訓練用の剣を借り、訓練場で素振りを始めた。

元々訓練は嫌いでは無かった、ヴァームスと一緒に強くなって行けるのが楽しかったからな。

今までの様に、一撃で敵を倒す様な大振りでは無く、細かく素早く振る練習だ。

ヴァームスが居たことろ同じでは、誰にも勝てないだろう。

マティルス!

当面の目標はあいつを倒す事だ!

それを成し得るまで、勇者として活動するつもりは無い!

俺はただひたすら、剣を振り続けた・・・。


≪ノライテル教皇視点≫

ローカプス王国軍に潜り込ませていた密偵からの連絡もありません。

マティルスの報告は間違いない様です。

リッチを倒した勇者に、期待をし過ぎたようです。

エルフとドワーフに関しても、管理者側の増援により押し負けている様ですし、この辺りが潮時ですか・・・。

幸いな事に我が神聖国は、領土を増やす事が出来ました。

今は獲得した不毛の大地の浄化に、力を注いだ方が良さそうです。

しかし、マティルスには困りました。

あれだけの戦力は手放すのには惜しい・・・。

生意気に期限を区切って来ましたから、それまでに新たな神託を出して何とか繋ぎ止めておきたいですが、良い案は何かないか?

・・・聖女を守る近衛騎士の名誉を与えれば、繋ぎ止めておけるかもしれません。

後は、家と身の回りの世話をする女性を二、三人付けてやれば、言う事を聞いてくれるはず。

期限まで十日在りますから、マティルスの好みの女性を選んでおくとしますか。

それと、勇者には新たな仲間を付けて、不毛の大地の浄化作業に当たって貰う事にしましょう。

神託は、マティルスに与える女性が決まり次第出す事にしましょう。

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