第三十話 ゴブリン 兄弟対決!

『あーはっはっはっはっはっ!

われらの領土に無断で踏み込んで来た愚か者どもよ!

これ以上進むと言うのであれば、命の保証はせぬぞ!

大人しく帰ると言うのであれば、見逃してやるからの!

あーはっはっはっはっ!』

クリスティアーネの能力により、周囲にいる敵へと警告が発せられた。

クリスティアーネの声では、いまいち迫力に欠けるのだが、伝えた内容は厳しいものだから、引き返してくれると良いのだが・・・。

『ベルとエルバ、言い忘れておったが、疾風の息子、名はマティルスだったかの、そやつは殺してはならぬからの』

『えっ!そうなのですか?』

『うむ、下手に殺したりして、両親に出て来られては面倒だからの、頼んだぞ!』

『分かりました』

確かに、両親に出て来られると不味いのは分かるな。

でも、殺さない程度に戦いを楽しむ事は許されるだろう。

「ベル、私は手加減が苦手だ、マティルスとか言う奴の事は任せるぞ」

「分かったけど、エルバが勇者と戦う事になるがいいのか?」

「勇者は弱いという事だったからな、あまり気が進まないが仕方ないだろう」

「では、そちらは任せた、弱いからと言って油断するんじゃないぞ」

「勿論分かっている!」

エルバが油断する事は無いと思うが、一応勇者と名乗っているのだから、何か隠された強さがあるのかも知れない。

また怒られるかも知れないが、エルバが危なくなったら、いつでも駆けつけられるようにしておこう・・・。

事前にソフィーラムから、勇者たちは敵軍に入っている情報は伝えられている。

クリスティアーネの警告を無視して出て来るようであれば、きっと彼らだろう。

そのまま軍が侵攻してくるようであれば、クリスティアーネが魔法で攻撃する手はずとなっている。

軍が撤退して行かなくても、同じく魔法による攻撃が行われる。

暫くして、敵の一団から五人の人が俺達の前へとやって来た。

一人は俺達が監視をしていた、マティルスだな。

彼の父親とは、最初に出会った時に戦わなくて良かったと思ったが、今ならいい勝負が出来るんじゃないかと思っている。

そして、その息子と戦えることを楽しみにしていた。

魔力を抑え込まれることにはなるだろうが、それくらいの方が面白く戦えるはずだ。

五人の中から、一人が一歩前に出て来て名乗りを上げた。

「俺様は勇者ラウドリッグ!魔族を討ち滅ぼす者だ!」

・・・。

『なぁ、ベル・・・隙だらけだが、切り捨てていいのか?』

『一応待ってあげた方が良いんじゃないのか?』

正直俺も、剣を掲げて格好よく宣言してやったぜ、という感じで隙だらけで堂々と立っている姿にイラっと来るが、様式美と言う物があるからな・・・。

『あいつが勇者と言う事らしいから、私が相手をする!』

『分かった、俺は向こうの奴と戦う!』

俺はエルバから離れて、マティルスの前に立った。

マティルスは剣と杖を構えているな・・・。

確か職業はビショップだったから、魔法剣士と言う事か?

クリスティアーネみたいに、無詠唱で魔法を撃ってくるようなら面倒な相手になりそうだな。

でも、人は呪文を唱えていたからそれは無いか・・・。

思考を巡らせていると、エルバの方の戦闘が始まった様だ。

エルバの敵は二人・・・いや、後方で弓を構えているのもいるから三人だな。

流石に魔力を抑えられた状態では厳しいか・・・。

『エルバ、手伝った方が良いか?』

『いや、大丈夫!ベルは目の前の敵に集中しろ!』

『分かった・・・』

さて、俺も戦う事にするか。

「そろそろ始めてもいいか?」

「構わないが、一つだけお願いがある!」

「なんだ、命乞いなら既に遅いぞ?」

「後ろの女性には手を出さないで貰えないだろうか?」

後ろに立つ女性は回復役か?

戦いにおいては素人の様な振る舞いだな。

何故そのような女性を危険な場所に連れて来たのか疑問だが、戦いの邪魔をしなければ問題ないな。

「それはいいが、警告を無視した以上逃すつもりは無いぞ!」

「それで構わない・・・」

「お願いを聞いてくれたことには感謝する、しかし、まともに戦って勝てるとは思えないので魔力を抑えさせてもらう!」

やはり魔力を抑え込んで来たか。

でもこれは、普段から街に行っている時と同じ状態になっただけだから、気にはならないな。

龍気の使用回数が一回に制限されるだけだ。

「行くぞ!」

相手から斬りかかって来たな。

動きは少し早い程度で、剣速はなかなか早いが躱せない速度では無い。

俺はスッと横に避けて躱し、刀を振り下ろした。

相手は後ろに飛んで躱したので、俺はそのまま追撃に出ようとした所で魔法が飛んで来た!

「水、氷、刃!アイスショット!」

やけに短い呪文で不意を突かれた感じになってしまったが、何とか魔法を斬り捨てる事が出来た。

これも、クリスティアーネと対魔法戦の訓練をしていたお陰だな。

クリスティアーネの場合、無詠唱で魔法が飛んで来るからな・・・。

呪文を唱えている分、こちらに対処できる時間があると言うものだ。

魔法を斬り捨てた勢いのまま、間合いを詰めて斬り込んだが、素直に受け流されてしまった。

そればかりか、魔法を連打されて、間合いを開けられてしまい、防戦一方となった。

無理やり間合いを詰める事は可能だが、焦る事はあるまい、しばらく様子を窺う事にしよう。

クリスティアーネも、軍の攻撃に向かった様だ。

あちらの心配はする必要は無いだろう。

例え、飛行魔法を使ってクリスティアーネに近づいたとしても、攻撃する前にクリスティアーネに支配されてしまうだろうからな・・・。

クリスティアーネの魔力を押さえ込もうとも、魔力その物を支配できる吸血鬼に勝てるはずもないのだから。

暫く魔法の攻撃が続き、俺に通用しないという事が分かったのか、間合いを詰めて剣で斬り掛かって来たな。

それならば都合が良い、俺の間合いで戦えると言うものだ。

剣の攻撃を受け流し、その流れで斬り返そうと思っていた所に、魔法を体に打ち込まれてしまった!

くそっ!

痛みは無いが、それなりにダメージを受けたようだ・・・。

人が撃つ魔法など大したこと無いだろうと高を括っていたのだが、意外と威力が高い!

クリスティアーネの魔法の威力ほどでは無いが、近い物はあるようだ・・・。

この魔力を押され込まれた状態ではダメージの回復も遅い、そう何度も魔法を受ける訳には行かないな。

そう思っていたのだが、次の連撃からの魔法も食らってしまった・・・。

くそっ!

技が多彩で、受けに回ってはやられてしまうな。

次はこちらから動いて行かなければならない!

そう思っていた所に、エルバが一人倒したのか、叫び声が聞こえて来た。

そして、マティルスも一瞬そちらに気を取られた様だ。

俺はここぞとばかりに龍気を使い、一気に間合いを詰めて、刀を振り下ろした!

「よそ見をしている暇があるのか?」

マティルスは剣で受け止めて来たが、そのような受け方では、俺の刀を受け止めることは出来ないぞ!

俺の思惑通りマティルスの剣を断ち、そのまま右腕を斬り捨てた!

「ぐっ!大地、力、敵!ストーンショット!」

これで決まったかと思ったのだが、思わぬ反撃を受けてしまう事になった。

でもこれで、マティルスの右腕と剣は失われた!

ここで一気に決着を付けさせてもらう!

俺はマティルスが放つ魔法を、体をひねって正面から受けないようにしながら接近した!

しかし、マティルスの目はまだ諦めているようには見えない・・・。

まだ何か隠しているかもしれないな、最後まで気を抜かないようにしなければならない!


≪エルバ視点≫

私の相手は、剣を構えた男二人と弓を構えた女一人の三名だが、苦戦するほどではないな。

この三人の連携は見事で、こちらから反撃する機会が少ないが、戦えない事は無い。

多対一など、訓練でもやって来た事だ、慌てる事なく相手を観察していく事にした。

勇者と名乗った男が最初に攻撃を仕掛けて来て、次の男が隙間を埋めて行き、最後に矢が飛んで来ると言う見事な連携だ。

私は受けに回るのが精いっぱいで、反撃は出来そうに無いな。

しかし、攻撃の起点となるのは勇者からしかなく、その分読みやすい。

そして、この連携の鍵となるのは、二番目の男だな。

この男を倒す事が出来れば、一気にこちらに優位が傾いて来るだろう。

私はその時が来るのをじっくりと待つ・・・。

そして、ついにその時がやって来た!

勇者が焦ったのか、剣を大きく振り上げた。

私はそのがら空きの胴体に目がけて、剣を突き刺して行く。

そして私の狙い通りに、二番目の男が割り込んで来て、私の剣が突き刺さった!

勇者が怒り狂って私に斬り掛かって来たが、二番目の男が居なくなった今となっては、脅威ではない。

私は勇者の剣を躱し、背中に回り込んで斬り付けた!

チッ!

良い鎧を着ている様で、殺す事は出来なかったが、起き上がって来ない所を見ると気を失ったのだろう。

私は飛んできている矢を躱し、ベルの様子を窺った。

どうやらベルも、上手くやっている様だな。

私は安心して、弓矢を構えている女を倒すべく向き直ろうとした時、ベルの背後に立つ者がいる事に気が付いた!

『ベル危ない!』

私は龍気を使い、ベルの所へと急いだ!


≪ベル視点≫


マティルスを目の前にした時、エルバから危険を知らせる念話が届いた!

『ベル危ない!』

マティルスが何かをしようとしているのは分かっている。

だが、それをエルバのいる所から分かるとは思えない。

という事はそれ以外の何かが、俺に迫って来ているという事なのだろうか?

そう思った時、俺の胸から剣が突き出ているのが見えた・・・。

その次の瞬間、剣は引き抜かれ、俺の胸からは血が噴き出して行くのが見えた。

「あっ・・・」

その光景に呆然としていると、次第に力が抜けて行き、そのまま地面へと背中から倒れ込んでしまった。

痛みを感じるのは元々鈍いので辛くは無いが、体全体に力が入らず動けそうにはないな・・・。

「よくもベルを!」

エルバの声が聞こえた方を横目で見ると、怒りの形相を浮かべ、龍気を使って突っ込んでくるエルバが見え。

そして、そのエルバを超える速度で斬り捨てる、全身真っ黒のローブで覆った者と、斬られて倒れ込むエルバが見えた・・・。

「エルバ・・・」

俺はエルバを助けに行こうと力を振り絞っては見たが、それは叶わず、そして俺自身もそこで意識を失ってしまった・・・。

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