第二十九話 兄弟対決!
夜襲に備えて、神経を尖らせながらの一夜を過ごしたのが、無駄かと思えるほど静かな夜だった・・・。
襲われなかった事は非常に喜ばしいので、それは良しとしておこう。
今は横で眠っているエアリーの寝顔を、心行くまで見ていたい気分だ・・・。
しかし、徐々に明るくなり、周囲の兵士達も起きて来た事から、エアリーを起こさなくてはならない。
俺はエアリーの寝顔を目に焼き付けてから、起こす事にした。
「エアリーさん、朝です、起きてください」
エアリーはゆっくりと瞼を開き、俺と目が合うと少しはにかんで視線をそらし、朝の挨拶をしてくれた。
「マティーさん、おはようございます」
「エアリーさん、おはようございます、俺は外で朝食の準備をしていますね」
「はい、お願いします」
俺はテントの外に出て、二人分の朝食を作り始めた。
勇者達や軍の兵士達は、夕食以外は火を通さなくても食べられる簡単な食事となっていて、周りからの視線が少し痛いが、それより美味しい食事を食べておかないと力が出せないからな。
出来上がった朝食は、エアリーと二人でテントの中で食べ、装備の点検をしてからテントから出た。
兵士達は既にテントの片づけを始めていて、俺が使っていたテントも片付けて貰った。
そして、俺とエアリーは行きたくはないが勇者達と合流した。
「ヴァームス、出立の準備は整った」
「そうか、こちらも今終わって、これから軍団長の所に行くから着いて来てくれ」
「分かった」
ヴァームスの後に続き、ドゥメルの所までやって来た。
ドゥメルは、複数の部下達から報告を受けている所で、こちらには気が付いた様子だったが、そのまま報告を受け続けていた。
そして、全ての報告を聞いてから、ドゥメルはこちらへとやって来た。
「勇者殿、待たせたな、こちらの準備はほぼ整った。
今斥候を出して罠の有無を確認させておる、それが終わり次第進軍を開始する。
それから、敵の襲撃があった際には、勇者殿のお力を頼りにさせて貰うからの」
「うむ、俺様に任せておけ」
「流石勇者殿、頼もしいかぎりだ!
では勇者殿、前の方に移動をお願いしますぞ」
ドゥメルに煽てられて、勇者はとても気分が良さそうにしていた。
ドゥメルとしては、勇者が前面に出てくれれば、軍の被害が少なく済むだろうと考えての事だろう。
勇者ちょろすぎ・・・。
「うむ!ヴァームス、行くぞ!」
「お、おう」
勇者が歩き出し、それをヴァームスとアリーヌが追いかけるようにして歩きだした。
「エアリーさん、行きましょうか」
「はい!」
俺とエアリーも、勇者を追いかけようとしたその時、突然強大な魔力が近くに現れたのを感じた!
「管理者!」
俺は咄嗟にそう感じ取り、急いでエアリーの手を握った。
エアリーは恐怖に震えていて、今にも座り込んでしまいそうな感じだ。
「エアリーさん、大丈夫ですか、気を強く持ってください!」
「は、はい!マティーさんが手を握ってくれたお陰で、気を失わずに済みました」
エアリーは、力強く俺の手を握り返してくれた。
これならば大丈夫だろう、しかし、恐怖しているのはエアリーだけでは無かった。
周りの兵士達も恐怖に怯えている・・・。
でもそれは、仕方のない事だろう。
徐々に近づいたわけでは無く、不意を突かれて強大な魔力に襲われたのだから・・・。
しかし、流石に気絶している兵士は居ないな。
「落ち着けぇぇぇぇ!」
ドゥメルが、大声を張り上げて檄を飛ばすと、兵士達は次第に恐怖に打ち勝っている様だった。
「状況を報告しろ!」
「はっ!斥候からの報告で、我等の前方の上空に、魔族と思われる七人を確認、そのうち二名が地上に降り立ったとの事です!」
「そうか、これだけ存在感のある魔族は、恐らく管理者であろう!
勇者殿を向かわせろ!
そして我が軍は勇者殿が向かい次第、障壁を張りつつ勇者殿の援護を行う!」
「はっ!」
ドゥメルが的確に指示を出し、兵士達の動揺は収まっていた。
「エアリーさん、行けますか?」
「はい、大丈夫です!」
エアリーの震えは止まっていた。
エアリーは、俺の様に鍛えている訳では無いのに、魔族の恐怖心に打ち勝つ強い心を持っている様だ。
こう言った所には、素直に感心させられるし、エアリーの事を凄いと思ってしまう。
「ヴァームス達を追いかけます!」
「はい!」
エアリーはしっかりとした声で、答えてくれた。
本当なら、エアリーは後ろに控えて貰いたい所だが、エアリーも勇者パーティの一員だ。
周りの兵士からもそう見られている為、前線に連れて行かなくてはならない。
それに、俺の近くにいて貰った方が守りやすいからな。
俺はエアリーと手を繋いだまま、ヴァームス達を追いかけようとした時、女性の声が頭に直接聞こえて来た!
『あーはっはっはっはっはっ!
われらの領土に無断で踏み込んで来た愚か者どもよ!
これ以上進むと言うのであれば、命の保証はせぬぞ!
大人しく帰ると言うのであれば、見逃してやるからの!
あーはっはっはっはっ!』
「マティーさん、今の声は・・・」
「恐らく管理者からの警告でしょう」
全員の頭の中に声が聞こえたのだろう、兵士達が動揺している・・・。
「落ち着け!我等には勇者殿がついておる!魔族に負ける様な事は無い!」
ドゥメルが檄を飛ばし、必死に兵士達を落ち着かせようとしていた。
逃げるにしても、戦うにしても、ヴァームス達と合流してからだな。
「エアリーさん、行きますよ!」
「はい!」
俺とエアリーは、急いで兵士達の間を抜けて前線まで走って行った。
最前線より少し前で、ヴァームス達が立ち止まっていた。
「来たか!」
ヴァームスは俺達を確認すると、再び前を向き直った。
「ヴァームス、相手は管理者だ、どうするのだ?」
「はっ、倒すに決まってるだろ!てめぇは後ろで俺様の活躍を見ていればいいんだよ!」
ヴァームスに聞いたのに、勇者が偉そうに答えて来た。
「そう言う事だ、俺達は撤退する事は許されていない」
「ヴァームス、アリーヌ、行くぞ!」
「おう!」
「分かったよ!」
勇者達は前へと歩き出した。
先程斥候の報告にあった通り、勇者が進んでいる先には二人の人影が見える。
まだ遠くて何者かは分からないが、俺も着いて行かなければならないだろう。
「エアリーさん、必ず守りますから、出来るだけ俺の傍に居てください!」
「はい、マティーさん!」
俺はエアリーと繋いでいた手を放し、右手に剣、左手に杖を持って、何時でも戦えるようにして勇者達の後を追いかけた。
敵も近づいて来ていて、二十メートル手前で両者が睨み合う形となった。
「鬼人とゴブリンか?」
ヴァームスが不思議そうにつぶやいた。
「はっ!ゴブリンかよ、雑魚じゃねぇーかよ!おいお前!ゴブリンの相手は任せたからな!」
勇者が俺に、ゴブリンの相手をしろと言って来ている・・・。
勇者からすれば、戦うに値しない相手なのだろうが・・・あのゴブリンは・・・。
「黒い悪魔・・・」
俺が幼い頃、アベルが戦わなかった相手・・・黒いゴブリンの進化体じゃないのか・・・。
あの後、黒いゴブリンが出たと言う報告は、冒険者ギルドに入って来ていない。
アベルが言うには、その時現れた管理者の部下にでもなったんだろうという事だったが、まさか・・・。
でも、普通のゴブリンより身長が高くて、全身真っ黒の上に剣を持っている。
似たようなゴブリンが居るのかも知れないが、黒い悪魔だと思って事に当たらなくては、俺が死ぬ事になるな・・・。
しかも、更に進化したのか、背中に翼が生えているし、ゴブリン超越しすぎだろ・・・。
でも、鬼人の女も同じ翼を持っているな・・・と言う事は鬼人の女も進化体なのか?
良く分からないが、二人共強敵だという事は、嫌というほどわかるな・・・。
「ヴァームス、気を付けろ!二人とも強いぞ!」
「むっ、分かった!」
「はっ、ゴブリン相手になにビビってんだよ!
まぁいい!ヴァームス、鬼人の女を倒しに行くぞ!」
「おう!」
勇者とヴァームスは剣を抜き、前に進んで行った。
「エアリーさん、俺から十メートルくらい後に着いて来て下さい」
「分かりました、マティーさん、お気を付けて!」
エアリーは、もっと後ろで待っていて貰いたかったが、前方の上空に管理者と思われる人影が見え、何時魔法が飛んできてもおかしくは無いだろうから、俺が守れる範囲に居て貰う事にした。
勇者、ヴァームス、俺が横に並び、後方にアリーヌとエアリーと言う配置になっている。
敵と十メートルまで迫った所で俺達は立ち止まった。
「俺様は勇者ラウドリッグ!魔族を討ち滅ぼす者だ!」
勇者は剣を高々と上げて宣言した!
勇者は格好よく決まった!と言わんばかりの表情を見せているが、鬼人の女とゴブリンは顔を見合わせて、どうするこいつ?みたいな感じの表情を浮かべているぞ・・・。
やがて鬼人の女が勇者の方へと進み、ゴブリンが迷いなく俺の前へとやって来た・・・。
正直戦いたくはなかったが、鬼人の女とゴブリンからは殺気を向けられている。
まぁ、先ほど頭の中に聞こえた警告を無視して来たのだから、見逃してくれるはずもないよな・・・。
俺は気合を入れてゴブリンを見据えた!
「ヴァームス、行くぞ!」
その時、先制攻撃という感じで、勇者は魔道具を使って鬼人の女の魔力を抑えてから、斬りかかって行った!
しかし、鬼人の女は動かず余裕の表情を浮かべ、二人の攻撃を剣で受け流していた。
俺の正面に立っているゴブリンも、鬼人の女が気になるのか、横目でチラチラと戦況を見ている・・・。
しかし、俺がゴブリンに斬りかかれそうな隙は見当たらない。
ゴブリンをよく見ると、刀を構えていた。
前の勇者が、色々な文化を伝えていることから、刀があっても不思議ではないが、それをゴブリンが持っているのは違和感がある。
力任せに振れば、すぐに折れたり曲がったりするだろうからな。
ゴブリンはまだこちらに攻撃を仕掛けてくる様子は見られないから、鑑定して見る事にするか。
ムラマサ : 純魔精鋼製、名工ウォルベックが勇者のために精魂込めて制作した一品。
・・・ムラマサって勇者が名前を付けたのだと一発で分かるな・・・。
それに、純魔精鋼製って、俺の剣で太刀打ちできるのだろうか?
やばい、実力でも劣っているのに、武器でも勝てそうにないんだが・・・。
俺が焦っていると、ゴブリンが話しかけて来た。
「そろそろ始めてもいいか?」
初めていいか悪いかと問われれば、悪いと答えたいが、ゴブリンは刀に魔力を込め、何時でも斬りかかってきそうな感じだった。
「構わないが、一つだけお願いがある!」
「なんだ、命乞いなら既に遅いぞ?」
「後ろの女性には手を出さないで貰えないだろうか?」
「それはいいが、警告を無視した以上逃すつもりは無いぞ!」
「それで構わない・・・」
ゴブリンがエアリーに手を出さないのであれば、安心して戦うことが出来る。
俺も剣に魔力を込めて構えを取った。
「お願いを聞いてくれたことには感謝する、しかし、まともに戦って勝てるとは思えないので魔力を抑えさせてもらう!」
俺は魔道具を使い、ゴブリンの魔力を抑え込んだ。
しかし、ゴブリンは動揺すること無く平然としている。
鬼人の女も勇者たちと普通に戦っているから、問題にはならないのだろう。
「行くぞ!」
俺は一気に間合いを詰め、ゴブリンに斬りかかった!
しかし、ゴブリンは俺の攻撃を素早くかわし、逆に俺に斬りつけてくる!
俺はそれを後ろに飛び去りながら躱した。
勿論そのままでは浮き上がった無防備な体を斬りつけられるので、躊躇なく呪文圧縮を使う!
「水、氷、刃!アイスショット!」
俺に追撃を掛けているゴブリンに向けて、意表を突いた形で放った魔法だが、あっさりと刀で魔法が打ち消された・・・。
杖のお陰で威力も上がっている俺の魔法なのだが、あっさりと打ち消された事には落胆してしまった。
しかし、落ち込んではいられない。
ゴブリンは、ススッとすり足で間合いを詰めて斬りかかって来た。
ギャリン!
剣で何とか受け流したが、まともに受け止めていたら剣が斬り飛ばされていただろう・・・。
刀と言う事だけあって、切れ味が凄そうだ。
「風、我、刃!ウインドカッター!」
魔法を目くらましに使い、間合いを一気に離す。
俺は魔法使いであって、剣士では無いのだからな!
接近戦に付き合う必要は無い!
「力、炎、矢、ファイヤーアロー!」
「大地、力、敵!ストーンショット!」
俺は魔法の属性を変えながら、次々と撃ちだして行った。
属性を変えているのは、ゴブリンにどの属性が有効なのか確かめる為だが、全て斬り伏せられている為、どれが有効なのかは分からなかった・・・。
それでも構わず魔法を撃ち込み続ける。
こうしている間は、ゴブリンも俺に近寄れず、間合いを十分に取れている。
俺はシャルの訓練を受け、一日中魔法を使い続ける事が出来るから、魔力の心配をする必要は無い!
そうする事で、勇者たちの様子を見る余裕も多少は出て来た。
勇者、ヴァームス、それから隙を見てアリーヌが鬼人の女に向け矢を放っている。
三対一で戦って、ようやく五分と言う所だろうか・・・。
一人でも欠けると、一気に持って行かれそうだな。
勇者がどうなろうと構わないが、ヴァームスとアリーヌは助けてやりたいからな。
となると、俺がこのゴブリンを倒すか、隙を見て逃げ出すしか無いのだが、前者は無理だろう・・・。
俺がはめている呪いの指輪を外せば、隙を作って逃げ出す事は可能だろう。
しかし、まだ外すのは早い。
それは最後の手段に取って置かないと、まだ管理者と言う強力な敵が残っている。
それから逃げる時に外す事にしよう。
そう言えば管理者がいつの間にか居なくなってる!
ズドーン!
その時、後方に布陣している軍の方から、ものすごい音と地響きが伝わって来た。
もしかして、管理者が軍に攻撃を始めたのだろうか?
しかし、後ろを気にする余裕は今の俺には無い。
魔法の詠唱を止めた途端、ゴブリンが俺に斬りかかって来る事は間違いない。
一発でも魔法が当たってくれれば、こちらが有利になるのだが、全て斬り捨てられているから、それは望みが薄い。
このまま続けていては埒が明かないから、こちらから間合いを詰めて、魔法を無理やり当てに行くか?
それしか無いな・・・。
「水、氷、刃!」
呪文を途中で保留して、一気に間合いを詰め、剣を振り下ろすと同時に、魔法を放った!
「アイスショット!」
剣は受け流されたが、魔法の氷は、ゴブリンの腹部に深くめり込み、ゴブリンは魔法に押されて少し後ろに下がった!
効いたか!
「水、氷、刃!アイスショット!」
確認している余裕は無い!俺は続けて魔法を撃ち出した!
しかし、当たったのは一発のみで、その後の魔法は再び斬り捨てられている。
だが、これを繰り返して行けば、いつかは倒れてくれるんじゃないのか!
アイスショットで、ゴブリンの体に傷を与えられる事は無かったが、それはどの属性を使っても同じ事では無いのだろうか?
だとすると、吹き飛ばす事を優先した方が良さそうだな。
「大地、力、敵!」
俺は再び、先程と同じように間合いを詰め剣を振り下ろした。
しかし今度は、ゴブリンに剣を躱され、魔法を迎撃するべく構えている。
でもそれは織り込み済みだ!
俺は振り下ろした剣を、力一杯上に斬り上げた!
ギン!
ゴブリンは咄嗟に俺の剣を受け止めた!
「ストーンショット!」
そして、保留していた魔法を放つと、見事にゴブリンの腹部に命中し、その威力でゴブリンは後方へと押し戻されていた。
良し!行ける!行けるぞ!
アベルとシャルに教わった事は、このゴブリンにも通用する!
しかし、ゴブリンの表情は全く変わって無いな。
少しは痛がってくれたり、動揺してくれたりすると、こちらが有利に進められていると分かるのだが・・・。
あーそう言えば、冒険者訓練所で、ゴブリンは痛覚が鈍いから完全に止めを刺すまで気を緩めるなと教えられたな・・・。
でもいいか、ゴブリンが倒れるまで攻撃を続けるのみだ!
その時、勇者達の方から叫び声が聞こえて来た!
「ぐあぁぁぁぁ!」
「ヴァームス!!」
勇者達の方を見ると、鬼人の女の剣がヴァームスの体を突き刺している所だった!
くっ、ヴァームスに治癒魔法を使わないと!
「よそ見をしている暇があるのか?」
一瞬視線をそらした隙に、俺の目の前にゴブリンの刀が迫って来ていた。
俺は慌てて剣を振り上げ、ゴブリンの刀を受け止めた!
キンッ!
甲高い音と共に俺の剣は真っ二つに斬れ、そしてゴトリと音を立てて、俺の肩から下の右腕が地面に落ちた・・・。
泣き叫びたいほど痛い!
だが、冒険者訓練所でナディーネ毎日刺された事によって、痛みには慣れているから我慢だ!
「ぐっ!大地、力、敵!ストーンショット!」
何とか痛みに耐えて、ゴブリンに魔法を撃ち込み後ろに飛びのいた!
「女神、力、癒し、ライトヒール!」
治癒魔法を使い、流れ出る血は止められたが、俺の魔法では失われた右腕を元に戻す事は出来ない。
エアリーに後で治して貰えば元に戻るが、ゴブリンから生きて逃げられる確率が急激に下がったな。
「マティーさん!今治療します!」
「来るな!来ないで下さい!」
背後からエアリーの声が聞こえて来たが、今エアリーが治療に来ると、間違いなくゴブリンはエアリーを攻撃するだろう。
ヴァームスの事も気になるが、目の前のゴブリンを何とかしない事には、助けに行く事は出来ない!
しかし、右手を無くした状態でこのゴブリンと戦えるだろうか?
無理だ・・・。
剣で刀の攻撃を受け流す事が出来なくなったから、全ての攻撃を躱すしかないが、そんな事出来るはずもない!
くっ!ここは魔法を撃ち続けて、ゴブリンに近寄らせない様にしながら、何か対策を考えなければならない!
「大地、力、敵!ストーンショット!」
しかしゴブリンは、俺の魔法を食らいながら間合いを詰めて来た!
ここまでか!
ゴブリンの刀が目の前に迫って来ている。
俺は杖を捨て、左指にはまっている呪いの指輪を口にくわえて、外す事を決意した!
≪ヴァームス視点≫
俺とラウドリッグは、孤児院に居た頃からの付き合いだ。
何をするにも二人でつるんで行動していた。
女神教の訓練施設に行ってからも、それは変わらなかった。
お互いに競争し合って、剣術を高めあったものだ。
その甲斐あって、勇者候補に俺とラウドリッグは選ばれた。
他にも数人の勇者候補がいたが、そいつらより俺とラウドリッグの方が強かった。
そして、戦場に勇者候補達と一緒に送られた。
そのころアリーヌとも知り合い、三人で戦場で活躍して行く事となった。
そして、その功績が認められ、ついに、ラウドリッグが勇者となり、俺とアリーヌも仲間という事となった。
俺は勇者にはなれなかったが、それでいいと思っていた。
実際ラウドリッグの方が俺より強かったし、俺は攻撃より防御の方が得意だったからな。
しかし、調子に乗っていた俺達より、強い者がいることを知らされた・・・。
それは、俺と同じ勇者の仲間になったマティルスだ。
彼は魔法使いの癖に、俺やラウドリッグより剣の腕が高い。
実際、ラウドリッグは何度か戦いを挑んで、軽くあしらわれていたからな。
その強いマティルスが、鬼人の女とゴブリンを目の前にして、真剣な表情で俺に注意を促して来た。
「ヴァームス、気を付けろ!二人とも強いぞ!」
鬼人の女はともかく、ゴブリンがそんなに強いのか疑問だったが、マティルスが言うのだから間違いないのだろう。
幸い俺とラウドリッグの相手は鬼人の女だ、アリーヌも援護してくれるだろうから、何とかなるだろう。
ラウドリッグが鬼人の女に斬り付け、俺がその隙を埋めていく。
時にはラウドリッグを守り、時には鬼人の女に斬り付けて行く。
そこに、アリーヌの矢も飛んで来る。
戦場では、この連携攻撃を躱せる者はいなかったし、この鬼人の女も全てを躱す事は出来ないだろう。
そう思っていたのだが・・・。
鬼人の女は、全ての攻撃を受け流したり躱したりして、俺達の攻撃は一つも当たる事は無かった。
そして鬼人の女は、何故だか反撃をして来ない・・・。
暫く攻撃を繰り返して行くうちに、ラウドリッグが攻撃が当たらない事に苛立って来て、大振りで雑に斬りかかり始めた。
ラウドリッグの悪い癖だ・・・。
短気な所を無くせれば、もう少し強く慣れたのでは無いかと思う。
でも、それだからだろう、俺の防御が得意になったのは。
俺は剣を振り切って、死に体となったラウドリッグを、守る様に剣を振るって行く。
そんな事がしばらく続いたからだろう。
ラウドリッグも俺も、疲れて息が切れ始めて来た・・・。
「くそっ、当たりやがれ!」
ラウドリッグが大振りに剣を振り上げた。
鬼人の女は、その隙だらけになったラウドリッグの胴体目がけて、剣を突き出していた!
俺は咄嗟にラウドリッグに体当たりをした・・・。
気が付けば、激しい痛みと共に、俺の胸に突き刺さった剣から俺の血が噴き出していた。
「ぐあぁぁぁぁ!」
「ヴァームス!!」
鬼人の女が俺に突き刺さった剣を引き抜くと、さらに大量の血が噴き出した。
俺は力が抜けて、その場に倒れ込みながら意識を失った・・・。
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