第二十六話 お目見えの儀式
ドラゴンゾンビを倒し、名目上管理者リッチも倒した勇者パーティの面々は、飛行の魔道具で大聖堂へと戻って来た。
俺は直ぐにでも部屋へ休みたいと思ったのだが、全員礼拝堂へと連れて行かれた。
そこには、教皇ノライテルを始めとして、法衣を着たお偉いさんたちが多数並んでいた。
これは、勇者がリッチを倒した事を褒めてくれるわけだな・・・。
正直俺には関係無い事だから、さっさと終わらせて欲しい物だ・・・。
それから暫く待たされた後、聖女がやって来て壇上の上に登った。
それから聖女は、ゆっくりと俺達を見渡し、優しく微笑んでから口を開いた。
「勇者とその供の方々、勇者の名に恥じぬ今回の働き、お見事でした。
女神様も、さぞお喜びの事でしょう」
「光栄に思います!」
聖者の言葉に勇者が答えると、聖女は勇者を見て少し微笑んで、それから真剣な表情へと変わった。
「しかし、喜んでばかりはいられません。
魔族との戦いは始まったばかり、これからの戦いはより厳しい物となって行く事でしょう。
ですが、人々の生活を脅かす魔族の排除は。何としても成し遂げねばなりません。
でも、ご安心してください。
我々には、常に女神様が見守っておいでです。
皆さんの窮地の際には、女神様が救いの手を差し伸べてくれる事でしょう。
魔族に臆することなく、戦い抜いてください。
女神様の加護があらんことを」
「はい、女神様と聖女様、そして多くの人達の為、これからも全力を尽くして魔族と戦い抜く事を誓います!」
勇者の受け答えに満足そうに軽く頷いて、聖女は壇上から降りて退場して行った。
これで終わりかと思ったら、教皇が壇上に上がり、俺達の前に立った。
「勇者様、今回の勇者様のご活躍を信者に知らしめなくてはなりません。
つきましては明日、聖女様と共にお目見えの儀式と執り行いたいと思います。
勇者様、よろしいでしょうか?」
「はい!」
「その他の皆様については、お疲れでしょうから、明日はゆっくり静養してください」
どうやら俺達は、儀式に出る必要は無い様だな。
面倒な儀式なんて出たく無かったし、勇者とも顔を合わせる必要が無いので安心した。
教皇はそれだけ告げると退場して行き、それに続いて、法衣を着たお偉いさんたちも退場して行った。
そしてようやく、俺達も部屋に戻る事が出来た。
勿論エアリーと同じ部屋だ。
そしてお風呂と食事を頂き、疲れていたので早々とベッドに横になって眠る事にした。
翌日、朝食を食べた後、エアリーから話しかけられた。
「マティさん、お目見えの儀式を見に行きませんか?」
正直、俺は見に行きたくは無かったが、俺が断ってもエアリーは見に行くのだろう。
それに、エアリーを一人にするのは心配だし、断って嫌われるのは嫌だからな・・・。
「見に行きましょう、ですが、時間も場所も知らないのだけど・・・」
「お目見えの儀式の場所は、大聖堂前の広場になります。
時間は、恐らく午前中だと思いますが、確認して来ますね!」
エアリーはそう言って、部屋の外に控えている修道女に聞きに行ってしまった。
暫くして、時間を確認したエアリーは、笑顔で戻って来た。
「マティーさん、午前中に執り行われるそうです!
ですので、早く行かないと、良い場所が取れません!」
「あ、はい!」
俺が立ち上がると、エアリーは俺の手を引いて、部屋から廊下に出て、更に大聖堂の正面玄関より外へと連れだされてしまった。
俺とエアリーの他に、お世話係兼監視役の修道女も着いて来ている。
いつもは外出を許可してくれない彼女だが、お目見えの儀式を見るとあっては、許可しない訳には行かなかったのだろう。
そして、大聖堂前の広場には、既に大勢の人達が集まっていた。
「凄い人だかりですね」
「はい、マティーさん、あの隅へと行きましょう!」
「分かりました」
大聖堂の玄関から十メートルほど前に鎖が張ってあり、そこからこちらには、人が入らない様に騎士たちが守っていた。
俺とエアリーは、まだ人で埋まっていない端の方へとやって来た。
「ここなら最前列ですね!」
「はい、ですが聖女様は何処に出て来るのでしょう?」
「それは、大聖堂の玄関の上です」
エアリーが指さした先を見ると、大聖堂の玄関の上に、大きく張り出した豪華なベランダが見えた。
しかし、最初に大聖堂を訪れた際に見た時には、あんなベランダなかったように思えたが、俺の記憶違いだろうか?
「エアリーさん、最初にここを訪れた際には、あんなのは無かったと思ったのですが?」
「はい、普段は全て閉ざされていて、お目見えの儀式の際にしか開かれません」
「なるほど、そうだったのですね」
エアリーは嬉しそうに、笑顔で説明してくれた。
お目見えの儀式を、早く見たくてたまらない様だな・・・。
聖女なら昨日も会っているのだが、儀式ともなるとまた違うのだろうな。
それからエアリーと話しながら待つ事一時間・・・。
人はどんどん増えて行き、大聖堂前の広場は人で埋め尽くされてしまった。
その時を見計らった様に、ベランダに法衣を着た人達が姿を見せ、最後に勇者と聖女が現れた。
「聖女様!」「聖女様!」「聖女様!」
人々は口々に聖女様名を呼び、祈りを捧げていた・・・・。
当然横にいるエアリーも同じだ。
ぼーっと立って見ているのは俺だけで、おかげで非常に居心地が悪く、この場を立ち去りたい気分だ。
やがて、教皇が軽く手を挙げた所で、一斉に静まり返った。
そして聖女が一歩前に出て、優しい微笑を浮かべ、ゆっくりと人々を見渡してから口を開いた。
「信者の皆さん、本日はとても良い知らせがあります。
今まで私達を苦しめ、日々の生活を脅かして来た魔族リッチを、女神様の神託により選ばれた、勇者ラウドリッグが討伐しました」
聖女に紹介された勇者も一歩前に出て、手を挙げていた。
「勇者!」「勇者様!」「勇者ラウドリッグ様!」
「あれが勇者様!、格好いい!」「リッチを倒しただなんて、今まで誰も無しえなかった事だぞ!」
「勇者様、凄い!」
人々から、勇者を称える歓声が巻き起こった!
勇者はいつもと同じ鎧を着こんでいて、背中に真っ赤なマントを羽織っている為、確かにかっこよく見えるのは間違いないな。
勇者も皆から称えられて、とても満足そうな表情を浮かべている。
勇者からすれば、危険な魔族と戦っているのだから、称えられて当然だろうけど、あいつの強さを知っている俺からすると、単なる客寄せパンダにしか見えないな・・・。
今回リッチが逃げてくれたのは、間違いなく魔導具のおかげだ。
魔族側が、この魔導具に対抗できるものを用意出来れば、直ぐにでも管理地を取り戻し、報復として攻め込んでくることは間違いないだろう。
そう考えると、勇者パーティから一刻も早く抜け出した方が良いのだが、エアリーを説得する算段がまだ見つかっていない・・・。
エアリーを無理やり連れだすのは簡単だが、嫌われるのは間違いないし、それでは意味が無いからな。
如何にエアリーに嫌われずに、勇者パーティを二人で抜けだすか・・・。
上手く抜け出せたとしても、エアリーと一緒になれるかは別だが、そこは今まで真摯に対応してきたことが実を結ぶだろう。
再び人々が静まりかえった所で、聖女の表情が真剣な物へと変わった。
「しかし、喜んでばかりもいられません。
まだまだ、魔族に苦しめられている数多くの地域があります。
勇者の戦いは始まったばかりなのです。
皆さんが女神様を信じている様に、勇者を信じましょう。
そして、皆さんの祈りが、勇者の支えとなるのです。
勇者が進む先に、女神様の祝福があらんことを」
聖女が祈りを捧げると、集まった人達も一斉に祈りを捧げていた・・・。
あ~、やっぱりここに来るんじゃなかったな・・・。
生前も、特に宗教に関心は無かったからな。
ここまで真剣に、何かを信じで祈りを捧げる気持ちを、理解する事は出来ない。
でも、居心地が悪い時間も、もう終わりかな・・・。
聖女が再び優しい微笑を浮かべて、人々を見渡してから、ベランダから姿を消して行った。
それに続いて、勇者や教皇と言ったお偉いさんたちも次々と退場して行き、広場に集まった人達も解散して行っていた。
俺とエアリーは、鎖を抜けて行けばいいだけなので楽なのだが、折角外に出られたので、美味しい物を食べに行きたいな・・・。
そこで俺は、俺達の後ろにいる修道女に許可を求めた。
「すみません、外に食べに行きたいのですが、駄目でしょうか?」
「食事なら、お部屋にお持ち致します」
「いえ、そうでは無く、たまには外で好きな物を食べたいと思いまして・・・」
「ご用意した食事は、お気に召さなかったのでしょうか?」
「端的に言えばそうですね・・・用意された料理は豪華で美味しいのですが、元々俺はそんな料理を食べていなかったので、口に合わないと言うか・・・」
俺は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「・・・分かりました、私も着いて行きますが、よろしいでしょうか?」
「はい、勿論構いません、ありがとうございます」
その事が効を奏したのか、修道女は許可を出してくれた。
「エアリーさんも行きましょう!」
「はい、所でマティーさん、何を食べに行くのでしょう?」
「そうですね・・・エアリーさんは辛いのは食べられますか?」
「いえ、辛いのは苦手です・・・」
「そうですか、ではラーメンにしましょう!」
「はい、私ラーメンを食べた事は無いので、楽しみです」
カレーとラーメン、どちらにしようかと迷ったが、エアリーが辛いのは苦手という事でラーメンにした。
以前訪れたカレー屋には、甘口も用意されていたからエアリーを連れて行っても大丈夫だとは思うが、甘口のカレーはカレーじゃないよな!
単に俺がそう思って食べていないだけで、甘口のカレーも美味しいのかも知れないけど、今回はラーメンだ。
カレーは次の機会にしよう。
エアリーと修道女を連れて、ラーメン屋へと入って行った。
店内は、お目見えの儀式の後だからなのか、結構な賑いを見せていた。
俺達は、奥に一つだけ空いていたテーブル席へと座った。
俺の横にエアリー、その向かいに修道女と言う位置だ。
俺達が席に着くと、メニューを持って女性店員がやって来てくれた。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
女性店員は俺達にメニューを渡すと、慌ただしく次のお客の所に向かって行った。
「色々ありますね・・・マティーさん、どれがお勧めでしょうか?」
「そうですね、みそ、しょうゆ、塩、どれも美味しいとは思いますが、一番最初は豚骨をお勧めします」
「わかりました、では豚骨ラーメンをお願いします」
「はい、えーと、そちらは何を召し上がりますか?」
修道女はメニューも見ないで、ただ座っているだけだった。
「私は食べませんので結構です」
「そう言われても、席に座った以上は何か食べないと、お店に迷惑をかける事になりますよ?」
「そうですね・・・では私も豚骨ラーメンをお願いします」
「分かりました、すみませーん、豚骨ラーメンを三つお願いします!」
「はーい」
俺が大声て注文すると、遠くにいた女性店員が元気よく答えてくれた。
しかし、周囲の視線がこちらに向けられているな・・・。
俺が大声をあげたからではなく、修道服を着たエアリーたちが居るからだろう。
「えーと、普段外食とかはされないのでしょうか?」
俺は正面に座っている修道女に尋ねた。
「はい、私達の食事は用意されておりますし、お金も持っておりませんので・・・」
「私も同じです、戦場からネフィラス神聖国に帰って来る時に初めてお金を頂きましたから」
「そうだったのですね」
この周囲の視線は、修道服を着た者がここで食事をしている姿が珍しいという事だったのだな。
女神教の下で働いている分には、衣食住は整っているのだろうから、お金も必要無いという事か。
しかし、俺は金板百枚も貰ってしまっている。
魔族と戦い危険手当だと思えば安いような気もするが、目の前に座っている修道女には、申し訳ない気持ちになってしまうな・・・。
そう思っていると、女性店員がラーメンをもってやって来た。
「お待ちどうさま、豚骨ラーメン三つね!」
「ありがとうございます」
俺はラーメンを受け取り、皆の前に置いた。
「頂きます」
「「頂きます」」
俺はテーブルの上に置かれている割り箸を取り、ラーメンを食べ始めた。
「美味い!」
俺が食べるのを見て、二人もフォークで食べ始めた。
余程ラーメン屋に通っている者で無いと、箸を使う事は出来ないだろうからな。
周りを見渡しても、箸で食べている人は極僅かだ。
「マティさん、これはとても美味しいですね」
「気に入って貰えたのでしたら、よかったです」
エアリーは、熱いラーメンを冷やしながら、美味しそうに食べていた。
修道女も、表情には出ていないが、黙々と食べている事から、口に合わなかったという事では無い様だな。
そして、全員がラーメンを完食し、お金を支払って店の外へと出た。
「マティーさん、とても美味しかったです、これはまた食べたくなりますね」
「そうでしょう、私も大好きですからね」
「あの、御馳走様でした」
「いえ、私が無理を言って付き合って貰ったのですから、構いません。
では、大聖堂に戻りましょうか」
「はい、お願いします」
街を見て回りたかったが、ここは修道女の顔を立てて、直ぐに帰る事にした。
次があるかは分からないが、俺が逃げない事が分かって貰えれば、また外食の許可を出してくれるかもしれないからな。
大聖堂に戻り、午後の予定は何も無いので、エアリーと共に魔法の訓練をして過ごした。
そして翌日、朝から呼び出しがかかった。
「マティルス様、エアリー様、教皇様がお呼びです」
「分かりました」
俺とエアリーは、修道女に連れられて、ある部屋の前までやって来た。
「教皇様お連れしました」
「入って下さい」
どうやら教皇の部屋の様だ。
修道女が扉を開き、俺とエアリーは室内へと入って行った。
教皇の執務室なのだろう、横には大きな棚が置かれていて、沢山の書物が並べられていた。
教皇は奥の机の椅子に座っていて、その前には勇者、ヴァームス、アリーヌの姿もあった。
俺とエアリーは勇者たちの横に並んだ。
「勇者様方に集まって貰ったのは他でもありません、次の魔族との戦いの場所へと赴いて頂くためです。
今回は、ローカプス王国のエーオバルの街へと赴いて頂き、そこでローカプス王国軍と合流して、獣人族の管理地へと攻め込んで頂きます。
勇者様方の休日が一日しか無かったのには心苦しいのですが、今は時が惜しいのです」
「分かりました、直ぐにでも出立致します」
教皇の言葉に、勇者が張り切って答えた。
魔族側に時間を与えたくないのはよく分かるが、いきなり隣国まで行けと言うのは流石に辛いぞ・・・。
飛行の魔道具を使って、空を飛んでの移動は確かに楽だが、長距離となるとやはり疲れてしまう。
教皇からしてみれば、名誉と装備と金を与えているのだから、その分は働けという事なのだろう。
やはり、早くエアリーを説得して、勇者パーティから抜け出さないといけないな。
「勇者様に地図を渡してください」
「勇者様、こちらが地図になります」
教皇の隣にいた人が、勇者に地図を渡した。
「教皇様、勇者の名を汚さぬよう、全力で戦い、獣人族を滅ぼしてまいります!」
「勇者様、よろしくお願いします。女神様の加護があらんことを」
俺達は教皇の執務室を出て、そのまま中庭までやって来た。
勇者はそのまま出かける様だな。
相変わらず、準備とかそんなの気にしない奴だ・・・。
まぁ、俺も何時でも出かけられるよう準備してきたから問題は無いのだが、何か納得が行かない。
「ヴァームス、案内を頼む」
勇者は地図をヴァームスへと渡した。
全部他人任せだから、準備とか関係無いんだよな・・・。
「ふむ、今回は結構遠いから、ラートヴァンの街で一度おりて魔力を補充する必要がありそうだな。
マティルス、頼めるだろうか?」
「あぁ、分かった」
「では出掛けよう、俺に着いて来てくれ!」
ヴァームスは飛びあがり、俺達もそれに着いて行った。
俺とエアリーは、勇者達三人とは少し距離を置いているけどな。
勇者も俺が近くにいるのを嫌っているし、俺も同じ気持ちだ。
でも、そのお陰でエアリーと楽しく話ながらの空の旅となって、俺には非常に都合が良かった。
この時間を利用して、エアリーを何とか女神教から離れさせたいものだ。
という事で、エアリーについて色々話を聞いて見る事にした。
「エアリーは、どうして女神教へと入ったのですか?」
「そうですね、少し長くなりますがよろしいでしょうか?」
「はい、時間はたっぷりありますからね」
「そうですね、ではお話します。
あれは私がまだ幼かった頃、母が病気になり、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
父は私が物心付いた頃からいませんでしたし、私の家は貧乏でしたので、母を魔法で癒して貰う事は出来ませんでした。
それで、独りになった私は、食べる為に働こうと思ったのですが、幼い子供を雇ってくれる所も無く、母が持っていたお金をすべて使いきってしまいました。
それからも仕事を探しては見ましたが見つからず、ついに空腹で道に倒れてしまいました。
丁度そこに、冒険者の方が通りかかって私を助けてくれました。
その方はとても親切で、食事を食べさせて貰い、私を教会の孤児院に預けてくれました。
そこで女神教と治癒魔法を教えて貰いました。
私は他の人より治癒魔法に優れていたため、大聖堂へと呼ばれて行き、そこでさらに治癒魔法の訓練を受け、今に至る訳です」
「そうでしたか・・・」
エアリーは寂しそうな表情を見せていた。
恐らく治癒魔法がもっと早く使えていたなら、母親を救えたのでは無いだろうか、そう思っているのだろう。
「すみません、聞かない方が良かったですね」
「いえ、母を助けられなかったのは残念に思いますが、今は多くの人達を助けられるようになって良かったと思っています。
それに、マティーさんにもこうして出会う事が出来ましたからね」
エアリーは俺を見て、にっこりと笑ってくれた。
それって俺が好きだって事か!?
いや・・・まだ早まってはいけない!
多分だが、俺が親切かつ紳士に対応しているからだろう、きっとそうに違いない!
生前を含め、今まで俺はモテなかっただろう。
冒険者訓練所で何人もの女性に振られたのを、忘れた訳ではあるまい!
取り合えず落ち着こう・・・。
スーハー、スーハー、よし!
「エアリーさんは、この戦いが終わった後、何か予定がありますか?」
「そうですね・・・強いて言えば、今後も誰かを救って行きたい、そう思います」
「それでしたら、俺とどこかの街で治癒院を開きませんか?
貧しい人達は、料金を安くしたり、あるいは貰わなくたっていい。
それで、生活に困る様だったら、俺が魔物を倒して稼ぎますから・・・駄目ですかね?」
俺が話すと、エアリーは暫くきょとんとしていた。
そして突然笑い出した。
「ふふふっ、それはいいかも知れませんね・・・」
あー、失敗しちゃったか?
俺と一緒にとか言わなければよかったな・・・。
これは間違いなく、断られるパターンだろ・・・まだエアリーは笑っているし。
俺はがっくりと肩お落とした。
「・・・マティーさんは、この戦いで生き残れると思っているのですね?」
笑い終えたエアリーは、真剣な表情をして尋ねて来た。
「勿論生きて帰るつもりです、エアリーさんは違うのですか?」
「そうですね・・・マティーさんはお強いですから生き残れるのでしょう。
ですが、私は毎日自分が死ぬ事しか想像が出来ません。
私は治癒魔法しか使えませんし、当然戦う事も出来ません。
女神様はどうして私の様な者を、勇者のお供として選んだのでしょう・・・」
エアリーは涙を浮かべて泣いていた・・・。
そうだよな・・・。
戦った事が無い者が、魔族との戦いに赴く事になったのだから、当然の気持ちだろう。
俺も転生では無く、転移していきなり魔族と戦えと言われたら、それは泣きたくもなるし、死ぬイメージしかわかないだろう。
それでもエアリーは、女神様に選ばれたのだから、断れず着いて来ている訳だ。
「エアリーさん、泣かないで下さい。
以前にも言った通り、エアリーさんは俺が守ります。
どの様な事があっても、決して死なせませんから!」
俺は必死にエアリーに訴えかけた。
しかし、エアリーが泣き止む事は無く、俺はただ、エアリーが泣き止むのを待つ事しか出来なかった・・・。
暫くして泣き止んだエアリーは、赤く腫れた目で俺の事を見て、ゆっくりと話してくれた。
「・・・ここまでマティーさんには、助けられてばかりでしたね・・・。
思えば、私はこれまでずっと誰かに助けられる事で生きながらえてきました。
ですので、私は他の誰かを助けたいと思っていました・・・。
先程のマティーさんの提案・・・私には非常に魅力的に思います。
・・・信じても・・・良いのでしょうか?」
「はい、俺を信じてください!」
そこで再び、エアリーは目に涙を浮かべていた。
「ありがとう・・・ございます・・・」
エアリーは、笑顔で俺に答えてくれた・・・。
俺はエアリーに、生きる希望を与えたのだ!
エアリーを何としても守り抜き、絶望させる様な事があってはならない!
しかし、それを成し遂げる為には、エアリーの協力が必要だ。
その為には、俺の考えをエアリーに伝えておく必要があるだろう。
例えそれで、エアリーに嫌われたとしても、エアリーを絶対助けると約束したのだから。
俺は意を決して、エアリーに話す事にした。
「エアリーさん、俺の考えを正直に話します。
怒らないで、最後まで聞いてください」
「はい」
「大前提として、俺は管理者に勝てるとは思っていません。
第一の理由として、このパーティの連携が全く取れていないからです。
俺と勇者が仲が悪いのが原因ですが、それ以外にも、急遽集められた即席パーティだという事も問題です。
魔族は人より優れた能力を持っています、それに対抗するためには、仲間同士の協力が必要不可欠なのです。
協力が出来る体制が出来ていたとしても、直ぐに連携できるはずもなく、ある程度長い期間一緒に戦って経験を積んで行かなくてはなりません。
それがこのパーティには無いので、勝つ事は出来ません。
第二の理由として、情けない話ですが、俺が全力で戦っても管理者には勝てないのです。
何故なら、俺の両親はAランクの元冒険者だったのですが、その両親も管理者には勝てないと戦いを避けました。
俺はまだ、Cランクの冒険者です、勿論未だに両親を超えたとは思っていませんし、実際に戦っても負けるでしょう。
その両親に勝てない俺が、管理者に勝つ事が出来るはずもないのです・・・。
ですから俺は、管理者を前にした際には、全力で逃げるつもりです!
その時には、エアリーさんも俺と一緒に逃げてくれませんか?」
エアリーは俺の話を真剣に聞いてくれていた。
・・・。
エアリーは暫く考えるこんでから、答えてくれた。
「・・・戦いから逃げると言う事は、女神様の神託に背く事になりますよ?」
「そうですが、俺は女神教を信じていないので、関係ありませんね」
俺が笑顔で応えると、エアリーも笑顔で応えてくれた。
「ふふっ、私はまだ見ぬ誰かを助ける為、マティーさんに仕方なく着いて行く事にします。
置いて行かないで下さいね!」
「はい、絶対に置いて行ったりはしません!」
「約束ですよ!」
エアリーが笑顔になってくれて本当に良かった。
それと一緒に逃げてくれると言ってくれた。
後は何時逃げるかだな・・・。
今すぐにでも逃げだしたい所だが、それをやると、間違いなくネフィラス神聖国から追手が掛る事だろう。
女神様の神託に泥を塗った事になるからな。
戦いの最中にやられた振りをするか、あるいは勇者達が全滅した際に逃げ出すか・・・。
いや、俺を殺そうとした勇者がどうなろうと構わないが、ヴァームスとアリーヌまで見捨てるのは気が引けるな。
そんな事をすれば、エアリーに嫌われる以前に、人として駄目だろう。
難しい判断になりそうだが、状況をを見定める必要があるな。
そんな事を考えていたら、ヴァームスが降下して地上に降り立った。
どうやら、中間地点のラートヴァンの街に辿り着いたようだ。
そこで昼食と、飛行の魔道具に魔力を補充してから、再び飛び立ち。
夕方に、目的地のエーオバルの街へと辿り着いた。
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