第二十二話 ゴブリン ダークエルフ救援
エルバを連れて、クリスティアーネの屋敷に戻った時。
俺は、もっと非難されるかと思っていたのだが、セレスティーヌとマリーロップは、素直にエルバの事は受け入れてくれた。
それも、クリスティアーネが、鬼人の所に行った俺は、嫁を貰って来るだろうと、事前に二人に言ってくれたおかげだ。
そして、エルバもクリスティアーネの眷族にして貰った。
しかし、エルバは、セレスティーヌとマリーロップとは違い、俺と同じくらい強いから、クリスティアーネに負担を掛ける事となってしまい、申し訳なく思う。
「十年以上は、新しい嫁を連れて来るで無いぞ」
クリスティアーネにそう言われてしまった。
俺も別に自ら嫁を増やしている訳では無いのだが、気を付ける事にしようと思う。
龍族、鬼人族の所に修行に行った俺は、そこで得た技術を研ぎ澄ませていく段階へと移り、屋敷の事は、セレスティーヌとマリーロップに任せて、エルバと修行の日々を送っていた。
勿論、エルバと共に家庭菜園のも作って、そちらの世話も欠かさずやっている。
家庭菜園については、意外にもクリスティアーネも興味があるらしく、手伝ってくれたりしている。
作業自体は、最初のころの俺と同じくおぼつかないのだが、教えたことは間違わずやってくれるので、エルバも褒めていた。
それと皆で街に出かけた際には、例の如く食べ歩き三昧となるのだが。
エルバにとって、どれも食べた事が無い物ばかりだったようで、たいそう気に入ってくれていた。
中でもやはりお酒は、色々な種類が売られていることから買って帰り。
毎晩、晩酌をしているくらいだ。
吸血鬼となったエルバも、お酒で酔う事は無いが、味が分からなくなった訳では無いからな。
他の皆も、エルバに付き合って、一杯は飲むようになった。
そんな幸せに満ちた生活が、一年、二年と過ぎ去ったある日の早朝。
屋敷に、悪魔族のソフィーラムが久しぶりに訪れて来た。
「ベル、久しぶり、クリス様はご在宅か?」
「自室にいると思う、呼んで来るから食堂で待っててもらえないか?」
「分かった」
ソフィーラムは、一時期この屋敷で生活していたので、一人で食堂に向かって行ってくれた。
こういう時は、応接室で対応するのが普通だと思うが、この屋敷にそんなものは無い。
まぁ、この屋敷に訪れて来る人がいないってのが一番の理由なのだろう。
『セレス、お客様を食堂に通したので、お茶を出してくれないか?』
『ベルさん、分かりました』
セレスティーヌは、朝食の準備をしている頃だろうから、丁度よかった。
俺は二階へと上がり、セレスティーヌの部屋の前にやって来た。
「ベルです、クリス様、起きていらっしゃいますでしょうか?」
「うむ、起きておるぞ、入ってまいれ」
「失礼します」
部屋の中に入ると、すでに起きて着替えているクリスティアーネに出迎えられた。
「クリス様、おはようございます」
「ベル、おはよう」
「ソフィーが、クリス様に会いに来ております」
「ふむ、ソフィーが来るとは珍しい、何かあったのかもしれんの」
「はい、食堂で待ってもらっています」
「では、行くとしよう」
クリスティアーネと共に、食堂へと向かって行った。
食堂に着くと、朝食の匂いに釣られて起きて来たエリミナと、家庭菜園の絵入れを終えたエルバ。
そして、ソフィーラムの三人が、セレスティーヌが入れてくれたお茶を楽しんでいた。
セレスティーヌとマリーロップは、朝食の準備をしている所だろう。
「皆、おはよう」
「クリス様、おはようニャン」
「クリス様、おはよう」
「クリス様、おはようございます」
クリスティアーネは挨拶を交わし、席に着いた。
「ソフィー、久しぶりだの」
「はい、お久しぶりです。
今日は魔王様より、緊急の要請をお伝えに参りました」
「緊急の要請とは、穏やかでは無いの」
寝起きで緩いんでいたクリスティアーネの表情が、引き締まっていた。
「はい、クリス様におかれましては、エルフからの襲撃を受けている、ダークエルフの救援に向かって頂きたいとの事です」
「ふむ、分かった、しかし、ダークエルフに救援が必要なのかの?」
「はい、いつもの事であれば必要無いのですが、今回は少々事情が違うようでして・・・。
詳しい事はまだ分かっていないのですが、スティーラス様より、魔王様に救援要請がありして、こうしてお願いに来た次第です。
それとは別に、ラクシュム王国軍が、メデューサ、ヴァーリア様の管理地に進軍しておりまして、私達はそちらの方に助けに行ってる次第です。
更に、ネフィラス神聖国軍も、リッチ、エミラダ様の管理地に進軍してる状況です」
「ふむ、大変な事になっておるの」
「はい、ですのでお願いに来た次第です」
三国が同時に、別々なところに攻め込んでいる状況と言うのは、三国間に何かしらの約束事があると言う事だろう。
偶然にしては、出来すぎている。
しかし、それを今考えた所で始まらない、まずは行動してからだろうな。
「私の所、鬼人の管理地は無事なのか!?」
エルバが、心配そうにソフィーラムに尋ねていた。
「はい、鬼人の管理地に隣接している、ヴァルハート王国とケルメース王国に動きはありません」
「良かった・・・」
エルバはそれを聞いて、心底安心した様子だ。
俺も安心したが、鬼人の管理地に攻め込んだとしても、簡単に追い返せるのではないかと思うのだがな。
ラモン達が人に負けるなど、想像できないんだよな・・・。
「ふむ、では朝食を食べた後、準備をして行くとするかの」
「よろしくお願いします」
こちらの話が一段落するのを待っていたセレスティーヌとマリーロップが、朝食をテーブルに並べてくれてた。
「では頂くかの」
「「「頂きます」」」
食事を用意してくれた二人が席に着いてから朝食が始まり、俺はその二人に話しかけた。
「セレスとマリーは、留守番を頼む」
「嫌です、ベルさんに着いて行きます!」
「私もベル様に着いて行きますからね!」
いつもは素直に留守番してくれる二人が、今回は何故だか断られてしまった・・・。
断られると思っていなかった俺は、次の言葉に窮した・・・。
今回は戦争に行くわけだから、二人には安全なこの場所にいて欲しかったのだが。
二人の俺を見つめて来る目は、真剣そのもので、再びお願いする事を言い出せなかった・・・。
俺がどのようにして二人を説得しようか悩んでいると、ソフィーラムに話しかけられた。
「ベル、私の知らない人が三人いるが、紹介してくれないか?」
「あぁ、そうだな、こちらからセレスティーヌ、マリーロップ、エルバ、三人とも俺の妻だ」
「そ、そうか、ベルはモテるからいつかはこうなると思っていたが、三人とは驚きだ・・・。
私は魔王様直属の部下、ソフィーラムと言う、ソフィーと呼んでくれ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「ソフィー様、よろしくお願いします」
「よろしく」
それぞれ挨拶を交わした。
「ベル、先ほどの話だが、こちらとしては一人でも多く来てくれると助かる」
「そうかもしれないが、セレスとマリーは戦闘には向かないのだが・・・」
「そんな事はありません、これでも魔法は上達しました!」
「そうです!ベル様と一緒に戦いたいです!」
二人が、クリスティアーネに指導されて、魔法がかなり上達しているのは知っているが、実践となると話は別だろう。
確かに魔法だけで戦う分には問題ないのかもしれないが、実践ともなれば、敵は近づいて来るし、俺も二人を守りながら戦うのはかなり厳しい。
「ふむ、ベルよ、二人を連れて行っても良いのではないか?
それに、ここも安全では無いのかもしれんしの」
「そ、それは・・・」
クリスティアーネにそう言われて、よく考えてみれば、三国同時に攻め込まれている状況で、この地が安全かと言われたら、そうとは言い切れないよな・・・。
「分かりました、セレスとマリーは、最前線には出ないようにしてくれ」
「ベルさん、分かりました」
「はい、ベル様」
二人は一緒に行ける事になって、二人で喜び合っていた。
「ニャッ!もしかして、私も行かないといけないニャ?」
留守番をする気満々だったエリミナが、慌てて尋ねて来た。
「そうだの、一人だけ屋敷に残っていても、食事は食べられないぞ!」
「それは嫌ニャ、仕方ないから着いて行くニャン!」
セレスティーヌとマリーロップが行く事になったので、必然的にエリミナも行く事になって、申し訳なく思う。
無事に戻って来た時には、パフェ食べ放題にでも連れて行ってやった方が良いかも知れないな・・・。
朝食を食べ終えた俺は自室に戻り、出掛ける為、鬼人族の所で貰って来た服に着替えた。
戦争に行く為、執事服を汚したり破いたりしたく無いのと、この服の方が動きやすいという理由だ。
後は刀を腰に差して、準備は終わりだ。
食料とかは収納の魔道具に入っているし、特に食べる必要も無いからな。
簡単に準備を終えた俺は、玄関の外に出て行った。
そこにはソフィーラムが待っており、他はまだ出てきてはいない。
「ソフィー、待たせてすまない、まだ皆準備に時間が掛るようだ」
「構わない、急がせたのはこちらだからな」
「所でソフィー、少し話を良いか?」
「ベル、何だい?」
「ネフィラス神聖国が動いたという事は、勇者が選ばれたという事なのだろうか?」
「その通りだ、まだ大々的に発表はされていないが、我等の同志が勇者が選ばれた事を掴んでいる」
「そうか・・・それなら、エミラダ様の方が危険では無いのか?」
「あぁ、エミラダ様の所にも、援軍は送っているから、心配する必要は無いぞ」
「それなら、安心だな」
今は、ダークエルフを助ける事に集中しておこう。
俺とソフィーラムが話をしていると、屋敷内から準備を終えた順にみんな出て来てくれた。
「ソフィー、待たせたの」
「いえ、では皆様、ダークエルフの街にお送りします」
ソフィーラムの転移魔法で、ダークエルフの街の入口へと辿り着いた。
そこは俺の想像とは全く違い、普通の城塞都市の様な感じだった。
エルフと言うからには、森の中で樹上生活しているのかと、勝手に想像していたのだが・・・。
やはりダークだからなのか、森とは懸け離れた生活を送っている様だ。
周囲を見回してみたが、敵となるエルフの姿は見えない。
ここまでは侵攻して来ていないと言う事だろう。
「こっちだ」
ソフィーラムが門の方へと歩いき、俺達もそれに着いて行った。
「何者だ!」
「私は魔王様直属の部下ソフィーラム、この度スティーラス様の要請を受け馳せ参じた。」
「これはお待ちしておりました、スティーラス様は王城にてお待ちです!」
俺達は門の中に通され、王城まで案内されて行った。
街は平和そのものと言った感じで、多くのダークエルフ達が生活をしている様子が伺えた。
王城は、高い尖塔が幾つもある、とても美しい物だった。
「ベルさん、綺麗なお城ですね」
「そうだな、魔王城も美しかったが、ここも負けてはいないな」
「そうなんですね、今度魔王城も見に行きたいです」
「ふむ、暇になった時にでも、魔王城見学にでも行くとするかの」
「クリス様、お願いします」
王城の感想を話していると、城門へとたどり着いた。
そのまま城の中に案内されて行き、扉の前まで連れていかれた。
「スティーラス様、お客様をお連れしました!」
「入れ!」
「はっ!」
中から声が掛かり、扉があけられた。
室内は長いテーブルが置かれてあり、そこには数名のダークエルフが席についていた。
スティーラスは、クリスティアーネを見ると立ち上がり、挨拶をしてきた。
「クリス、よく来てくれた・・・」
「うむ、魔王からの要請だからの、それでどのような状況になっておるのだ?」
「取り合えず席に座ってくれ・・・」
クリスティアーネは席に着き、俺達はその背後に立った。
「クリス、状況を説明する。
昨夜、エルフの襲撃を受け、最前線の砦を落とされた・・・」
スティーラスは、テーブルに置かれた地図を指して説明してくれた。
「エルフの襲撃はいつもと同じでは無かったと言う事だな?」
「その通り、エルフが動いていることは事前に察知し、兵を送り込んでいたのだが、こちらの防御があっさり破られ、甚大な被害を受け砦が陥落した・・・。
生き残った兵の話によると、変装の魔道具を使った時の様に、魔力が抑え込まれたとの事だ・・・」
「ふむ、それならば、砦が落とされたのも致し方なしと言った所かの・・・」
「魔法での戦闘を得意とする我等にとって、魔力を押さえ込まれてはなす術がない・・・」
なるほど、周囲にいるダークエルフを見回しても、直接戦闘出来る様な体格を持った者はいないな。
それにしても、魔力を抑え込まれると言う事は、よく考えると今までやられてこなかったのが不思議だよな。
実際に俺達は、魔力を抑える魔導具を使って、人の住む場所へと行っている訳だから、それがこの様な形で使われても不思議ではない。
そんな事を考えていると、突然この部屋のドアが開けられ、慌ただしく一人のダークエルフが入って来た。
「ご報告します!アシャリア砦にエルフの軍勢が押し寄せてきています!」
「そうか・・・」
「ゆっくり話をしておる暇は無さそうだの、ソフィー、その砦まで行けるか?」
「はい、問題ありません」
「では、スティーラス、われは行くからの」
「クリス、待ってくれ!俺も行こう・・・」
「ここは良いのか?」
「アシャリア砦を落とされると、次はこの街だ、何としても食い止めなければならないからな・・・」
「なら一緒に行くとしよう、ソフィー、頼んだぞ」
「はい、転移いたしますので近寄って下さい」
クリスティアーネは席を立ち、スティーラスも俺達の傍へとやって来た。
「ロヘル、後は頼んだぞ・・・」
「スティーラス様、お気を付けて」
ソフィーラムの転移により、砦の門の前へと一瞬でやって来た。
「上は結界を張っているので、門から入るぞ・・・」
スティーラスが門の前に行くと、姿を確認したダークエルフの兵士が、慌てて砦の門を開いた。
「急いで入ろう・・・」
俺達はスティーラスに続いて、急いで砦内部へと入ると同時に、門も再び閉じられた。
「状況を説明しろ・・・」
「はっ、エルフ軍は砦より北、一キロ先に軍を集結中です。
もう間もなく、こちらに攻め込んでくると思われます」
「分かった・・・」
「ふむ、われらはこの砦を守ればよいのかの?」
「頼む、敵を殲滅する必要は無い・・・」
「分かった、では城壁の上に行くとするかの」
クリスティアーネは、蝙蝠の翼を出し浮かび上がり、俺達もそれに続いて飛び立ち城壁の上に降り立った。
「ベル、左側を頼む、我は右側を守るでの」
「畏まりました、エルバ、一緒に着いて来てくれ。
セレスとマリーは、クリス様と一緒にいてくれ」
「分かった」
「ベルさん、分かりました」
「ベル様・・・」
マリーロップは俺と一緒に居たかったようだが、セレスティーヌが引き連れて行ってくれた。
今は説得している暇も無いので、セレスティーヌには感謝しなくてはな。
『エリー、万が一の場合は、クリス様を連れて逃げてくれ!』
『分かってるニャン!セレスとマリーはどうするニャン?』
『二人は俺の妻だからな、俺が何とかするよ』
『分かったニャン!』
何も言わなくても、エリミナならそうしてくれるとは思ってはいたが、俺が心補く戦うために確認した。
「エルバ、俺は敵の魔法の防御に徹するから、敵が接近してきたら攻撃してくれ」
「分かった」
「恐らく、魔力を押さえ込まれるのだろうから、蝙蝠の翼は出したままにしておいてくれ!」
「うっ、まだ出したままで戦うのには慣れていないが、仕方があるまい・・・」
俺は龍族の所で訓練した際になれたが、エルバは未だに翼に違和感がある様で、出したままの状態になれてはいない。
こんな事なら、エルバにも翼を出したまま訓練をさせて置くべきだったと思ったが、今となってはどうしようもないな。
『ベル、来たぞ』
『はい、多くの魔力が近づいて来るのが分かります』
『もし出来る様であれば、敵が使っている魔道具を回収してくれぬか?』
『分かりました、クリス様、お気を付けて』
『ベルもの』
クリス様から連絡を受けてすぐ、こちらに飛んで来るエルフの軍勢を目にする事となった。
「多いな・・・」
「ベル、大丈夫か?」
「守るだけなら問題は無いが、全ての場所を守れる訳では無いからな、ある程度したら、こちらからも出て行かないといけないだろうな」
「そうだな、その時は私の出番という事だな!」
「まぁ、暫くは守って様子見だ」
エルバはやる気満々の様子だが、流石にあの軍勢に一人で突っ込ませる訳には行かない。
エルフの軍勢が、魔法の射程圏内に入った所で、周囲のダークエルフ達から声が上がった。
「魔力を押さえ込まれた!このままでは結界を維持できない!」
草していると、俺も魔力を押さえ込まれ、変装の魔道具を使った時と同じ魔力となってしまった。
「ベル、私の魔力も抑えられた」
「俺もだ、だがエルバも、これくらいで戦えなくなるような事は無いだろ?」
「勿論だ!だが、近づかないと厳しい・・・」
「敵が近づいて来るまでは、俺の後ろにいてくれ」
「分かった」
俺はこの刀があるから、魔法も斬る事が出来るが、エルバの剣では龍気を使わない事には厳しい。
この魔力を抑えられた状況では、龍気が使えるのは一瞬のみ。
蝙蝠の翼を出して魔力を回復しているとはいえ、連続で使う事は出来ないからな。
俺は刀に魔力を流し込み、エルフの魔法に備えた。
その時、エルフ側から、魔法が一斉に放たれた。
魔法の数発は、結界が受け止めていたが、数の暴力には勝てず、結界を破った魔法が俺達の所に降り注いできた。
「皆他の所の援護に行ってくれ、ここは俺が守る!」
俺は魔法を斬り裂きながら、ダークエルフ達に指示を出した。
俺とクリスティアーネがいる所は守れて入るが、他はエルフによる魔法攻撃を受けている。
何故ならエルフは、砦を囲い込む形となり、魔法を撃ち込んで来ているからな。
このままでは、俺も背後から魔法を撃ち込まれる事になってしまう。
クリスティアーネなら大丈夫だろうけど、俺は全方向から撃たれた魔法を防ぐ事は不可能だ・・・。
『クリス様、討って出ようと思いますが、構いませんか?』
『構わぬぞ、思いっ切りやるとよい』
『分かりました』
「エルバ、打って出るぞ!」
「分かった」
「エルバは、敵を攻撃する事に集中してくれ、エルバの事は俺が守る!」
「ベル、頼んだぞ!」
「では行くぞ!」
俺とエルバは、砦から飛び立ち、魔法を撃ち込んで来るエルフ達に向かって行った。
だが、エルフも馬鹿では無い、俺達が近づくと離れて行く。
そのお陰で隊列は乱れて、砦への攻撃は収まった訳だが、俺達に向けられる魔法が前後から飛んで来る。
俺はエルバを左手で抱えて、右手で魔法を斬り裂きながら、必死に避けて行く。
『ベル、このままでは落とされるぞ!』
『大丈夫だ、龍気を使い一気に距離を縮めるから、それに合わせてエルバも龍気を使ってくれ!』
『分かった、ベル、頼んだぞ!』
俺は周囲の魔力の動きに集中する・・・。
・・・あの辺りだな、俺かエルバの魔力を抑えているのは。
『エルバ、行くぞ!』
俺はエルバをしっかり抱え込んで龍気を使い、一気に加速して、エルバを撃ち出すように前に押し出した。
エルバも俺に合わせて龍気を使い、一瞬のうちにエルフ達との間合いを詰め、剣で斬り倒していく。
エルバは、一気に七人のエルフを斬り倒し、斬られたエルフ達は地上へと落ちて行った。
俺はエルバの下へ急いで駆け付け、エルバに向けられて放たれた魔法を体で受け止めた。
「ベル!」
エルバが悲鳴にも近い声で叫びをあげた。
「俺は大丈夫だ、それより前から来た魔法は何とか躱してくれ、後ろは俺が守る・・・」
「分かった・・・」
エルバは俺に背を向け、俺達を取りか組んでいるエルフ達と対峙してくれた。
さて、エルバに強がっては見せた物の、左半身の感覚が鈍いな・・・。
魔法を受けたダメージは、殊の外大きかった様だ。
痛みを感じない体と言うのは、どれくらい自分の体が壊れたのか分からなくて不便だ。
しかし、刀を持っている右半身は動くため、何とか正面から来た魔法は打ち消せるだろう。
どうしようもない時には、また体を張って、エルバを守るだけだな・・・。
俺がそう思っていると、一斉に俺達を囲んでいるエルフ達から魔法が放たれた!
「エルバ!」
「ベル!」
俺はエルバを守る様に抱きしめ、自らの体を盾に、エルバを守る事にした!
・・・。
しかし、いくら待っても俺の体に魔法が当たる衝撃が来なかった。
「あーっはっはっはっはっ!」
その時、よく知る笑い声が聞こえて来た。
「ベル、諦めるのが早いのでは無いかの?」
声がした方に目を向けると、クリスティアーネが目を赤く光らせて、俺達を守る様にしてエルフと対峙していた。
魔力が抑えられたからと言って、クリスティアーネの能力である、周囲の魔力のコントロールする力まで抑えられた訳では無いからな。
クリスティアーネに近づく魔法は、ことごとく打ち消されていた。
クリスティアーネは、エルバを眷族に向かえた事で弱体化していて、エルフの自由を奪うまでは出来ていない様だ。
それでも、魔法を主体とするエルフの攻撃は、クリスティアーネには一切効く事は無い。
「クリス様、申し訳ありません」
「まぁ良い、ベル、エルバ、エルフに止めを刺すぞ、あーっはっはっはっ!」
この戦場には、不釣り合いの笑い声が響き渡ると、エルフ達はクリスティアーネから一気に距離を離し、逃げ出して行った。
「クリス様、城壁は大丈夫なのですか?」
「うむ、セレスとマリーが守っておるぞ」
クリスティアーネにそう言われて城壁の方を見ると、二人が障壁を張り、エルフからの魔法を必死に受け止めている姿を確認できた。
「助けに行かないと!」
俺は慌てて、城壁に向かおうとしたが、エルバに止められた。
「二人は大丈夫だ!」
「しかし・・・」
「ふむ、もうその必要も無くなったの、エルフは撤退を始めた様だぞ、あーっはっはっはっ!」
クリスティアーネが言う通り、エルフ達は纏まって撤退を開始していた。
「ふむ、魔力が元に戻ったの」
「私も元に戻った」
クリスティアーネとエルバの抑えられていた魔力は元に戻った様だが、俺はまだ戻ってはいなかった。
「ベルは戻っておらぬの・・・」
「はい、私のは恐らく、エルバが倒した者が持っているのかと思います」
「なるほどの」
クリスティアーネは、エルバが倒したエルフ達の所に降りて行った。
俺も向かおうとしたが、エルバに止められてしまった。
「ベルはこっちだ!」
エルバに引きずられるような形で、セレスティーヌとマリーロップの所まで連れて行かれた。
「ベルさん!」
「ベル様!」
俺とエルバが城壁に降り立つと、セレスティーヌとマリーロップが駆け寄り、俺の体を丹念に見回していた。
「すぐ治療します!」
「あっ、別にしばらくすれば元に戻る・・・」
俺が言い終わる前に、セレスティーヌによって傷付いた体は癒されて行った。
「他に痛む所はありませんか?」
「無い、セレス、ありがとう」
セレスティーヌにお礼を言っていると、エルバが鬼の形相で睨んで来て、思いっきり殴られた・・・。
痛くは無いが、なぜ殴られたのか、意味が分からなかった・・・。
「ベル、なぜ私を庇った!」
「あの時はあれが最善だと思ったんだよ・・・」
「あのくらいの魔法で、私が傷付くとでも思ったのか!」
「いや、そうじゃないけど・・・」
鬼人族は、龍族までとは言わないまでも、それなりに魔法に対する耐性があるのは知ってはいるのだが。
目の前で、エルバに魔法が当たるのを、黙って見ている事など出来ないよな・・・。
「もう二度とこのような事はしないでくれ・・・」
エルバが涙を流して訴えて来た。
「すまなかった・・・」
エルバが泣くとは思わなかったので、素直に謝って、優しく抱きしめてやった。
しかし、またエルバに敵の攻撃が当たりそうになったら、身を挺してでも守るのだろうと思う・・・。
「ふむ、エルバの言う通りだの、ベルが魔法を受けた事によって、その後の攻撃を防げなくなっては、共倒れになっただけだの」
しかし、戻って来たクリスティアーネにそう指摘されて、何も言えなくなってしまった。
確かに、エルバに魔法が当たったとしても、俺が無事ならその後の敵の魔法は防げただろう・・・。
目の前でエルバが傷付く所を見たくは無いが、状況を冷静に判断して対応して行く事が必要だな・・・。
「クリス様の、おっしゃる通りです。
クリス様に助けて貰わなければ、今頃二人共ここにいなかった事でした・・・」
「分かればよろしい、ベルの魔力を抑えておった魔導具は見付けたぞ」
クリスティアーネの手の平の上に、魔石の付いた指輪が乗せられていた。
「これがそうですか」
「うむ、今から解除して見るぞ」
クリスティアーネが魔道具を操作すると、今まで抑えられていた魔力が解放された。
「元に戻りました、この魔導具の解析をして対策を立てない事には、今後も厳しい戦いを強いられますね」
「そうだの、ソフィーに頼むとするかの」
丁度その時、スティーラスとソフィーラムが、俺達の所にやって来た。
「クリス、助かった、ありがとう・・・」
「うむ、気にする事は無いぞ、われらは仲間だからの」
「そう言って貰えると助かる、王城に部屋を用意するから、今日の所はそちらで休んでくれ・・・」
「すまんの、しばらく厄介になる事にする」
「あぁ、またエルフが攻めて来た時には頼む・・・」
「うむ、ソフィー、これを魔王に渡して解析するよう頼んで貰えぬかの?」
「これが、魔力を抑えていた魔道具ですか?」
「そうだの、運よく一個回収できたからの」
「分かりました、至急解析して、対策を見付けて貰う事にします」
ソフィーラムは、クリスティアーネから魔道具を受け取り収納した。
「スティーラス様、王城への転移先は、どちらによろしいでしょうか?」
「城門前に頼む・・・」
「畏まりました、では皆様、転移いたしますので近づいてください」
ソフィーラムの転移魔法に寄り、王城へと戻って来た。
「私は一度、魔王様の所に報告に行って参ります」
「うむ、頼んだぞ」
ソフィーラムは転移して行き、俺達は王城の客間へと通され、その日はゆっくりと過ごす事となった・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます