第二十話 ゴブリン 幸せな結婚生活
「ベルさん、おはようございます」
「セレス、おはよう」
目覚めたセレスティーヌは、俺の体をギュッと抱きしめるのが朝の習慣となっている。
結婚をした俺達は、屋敷の同じ部屋で一緒に楽しく生活をしているのだが、一つだけ心配事がある。
当然夫婦の夜の営みもそれなりにやっていて、果たして生まれてくる子供はどちらなのかと・・・。
ゴブリンが生まれてくれば、不幸になるのは目に見えているし。
人として生まれて来ても、それはまた別の問題となる。
「ベルさん、やはりクリス様に相談した方がいいのではないでしょうか?」
「そうだな・・・」
こうして二人で悩んでいるより、クリスティアーネに聞いた方が早いのは分かっているのだが。
見た目美少女のクリスティアーネに聞いて良いものか、迷っていた・・・。
クリスティアーネの年齢は二百歳を超えているから、俺達なんかより年上なのは頭では分かっているのだが。
普段の行動を見ている感じでは、まだまだあどけない少女の様に思えてしまう。
かといって、考え方とかはしっかりしているので、主として誇らしいところもあったりする。
「よし!聞いて見るか!」
「はい」
俺は思い切って、クリスティアーネに聞いて見る事にした。
「クリス様、相談があります」
「ふむ、二人して相談とは何事かの?」
「はい、私達に子供が出来た場合、ゴブリンの子か、それとも人の子が生まれて来るのか、クリス様はご存じでしょうか?」
「ふむ、二人共最近元気が無いと思っておったが、そのような事で悩んでおったのだな。
だが心配する必要はないぞ、ベルの見た目は確かにゴブリンだが、眷属となった今では吸血鬼になっておるからの。
生まれてくる子供は吸血鬼になるのだぞ」
それを聞いて俺は安心し、セレスティーヌは非常に喜んでいた。
「だが、われら吸血鬼一族はなかなか子供が出来ぬ・・・千年に一人出来ればいい方だからの・・・。
気長に待つのがよかろう」
「そうなんですね・・・」
それを聞いたセレスティーヌは、がっくりと肩を落としていた。
まぁ、不老不死の吸血鬼に子供が沢山生まれても、それはそれで困る事態になるだろうからな。
気長に待つ事にしますかね。
「セレス、二人の時間を長く楽しめると思えばいいじゃないか」
「それもそうですね!今日も一緒に街に出かけましょう!」
セレスティーヌは再び機嫌がよくなった。
最近はずっと、俺とセレスティーヌとエリミナの三人で街に出かけていた。
セレスティーヌとエリミナは姉妹と言う事で非常に仲も良く、そして二人共甘い食べ物が大好きで気も合っていた。
俺はそんな二人の姿を見ているだけで幸せな気持ちになれるので、俺としても三人で街に出かけるのは楽しみだった。
「セレス、すまんの、今日は城に行く事になっておるからの、ベルを借りていくぞ。
セレスはエリーと共に、留守番を頼む」
「はい、分かりました」
セレスティーヌは吸血鬼になったとはいえ、元は人だ。
魔王の城に連れて行くわけにはいかないからな。
セレスが人だったからと言う理由ではない。
単にセレスティーヌが弱く、魔力が強い魔族が大勢いる所に連れて行くと、恐怖で気絶してしまうだろうからな。
それを言えばクリスティアーネも同じなのだが、眷属だから恐怖を感じる事は無い。
俺とクリスティアーネは朝食後、魔王城へとやって来た。
城内に入ると、以前と同じように円卓のある会議場へと通された。
クリスティアーネが席に着くと、妖精女王のアマーリアがフワフワと飛んできた。
「クリス、元気にしてた?」
「うむ、アマーリアも息災のようだの」
「当然よ!と言うか暇で暇でたまらないのよ!何か面白い事は無い?」
「無いかの・・・」
「つまんないわね!」
アマーリアは言いたい事だけ言うと、フワフワと別の魔族の所に飛んで行った。
「相変わらず、騒がしい奴だの・・・」
「そうですが、アマーリア様が皆に話しかけている事で、この場の雰囲気が和みます」
「まぁ、そうだの」
会場に威圧感を与えながら龍族のヴァルギールが入って来て、どかどかと歩いて来てクリスティアーネの隣に座った。
「ヴァルギール、この前はわれの部下が世話になったの」
「ヴァルギール様、その節は大変お世話になりました」
「うむ、気にするな、こちらとしてもいい刺激になったと、ガンドルフ老が言っておったからな、わははははは」
「ふむ、それならばよかったの」
それから暫くして、魔王が入出してきて会議が始まった。
「これより会議を始めます、進行は私、ブレイヴァンが務めさせて頂きます。
先ずは各地の報告からお願いします」
アマーリアから順に、異常が無いと報告されて行き、クリスティアーネの番が回って来た。
「炎滅と疾風の子供は、今冒険者ギルドの訓練所に入っておる。
その前に確認したが、特にわれらの脅威となるような存在では無かったの。
数年後は、どうなるかは分からんので引き続き監視は続けて行く」
クリスティアーネの報告で、全ての魔族の報告が終わった。
「皆様、ありがとうございます。
次に私からご報告させて頂きます。
ネフィラス神聖国ですが、新しい聖女に変わり。
各地より、勇者候補となる者を集め、育成している事が分かりました。
更に、ケルメース王国とカリーシル王国の戦争にも、ネフィラス神聖国が関与しており。
その戦争に、集めた勇者候補達を送り込み、実戦で鍛えている事も分かりました。
すぐに勇者が選ばれると言う訳ではありませんが、数年後に勇者がその中から選ばれる可能性が高いでしょう。
ですので、ネフィラス神聖国に隣接している管理地、リッチのエミラダ様、獣人族のオルドバル様、龍族のヴァルギール様は特に注意をしておいてください」
「勇者ね~、また追い返してあげるから問題無いわよ~」
エミラダは余裕の表情だ。
「獣人族も問題無い!」
「龍族も問題無いぞ、毎日鍛えておるからな、わははははは」
オルトバルとヴァルギールも、余裕の表情だな。
これまで大勢の冒険者を見て来たが、ここにいる管理者達に勝てる様な者には会った事が無い。
俺が一番最初に出会った疾風でさえ、勝てないだろう。
俺も今なら多分勝てるんじゃないかと思う。
しかし、勇者は疾風より強いと考えていた方が良いだろう。
となると、俺もまだまだ鍛えておかないといけないという事だな。
セレスティーヌと結婚したばかりだが、鬼人族の所に修行に行った方が良いのかもしれない。
「私からの報告は以上ですが、何か質問等ございませんか?
・・・特に無い様なので、魔王様。一言お願いします」
「大儀であった!」
今日は魔王は、一言言って終わりの様だ。
「魔王様ありがとうございます!皆さんには食事をご用意しておりますので、場所の移動をお願い致します」
今日もまた、場所を変えて豪華な食事が用意されていた。
クリスティアーネと共に席に着き、食事を始めた。
「ベルと二人で食事をするのは、初めての事かも知れんの」
「そうですね、常にエリーがいましたからね。
たまには落ち着いて摂る食事も、良い物ですね」
「うむ、そうだの」
「ところでクリス様、勇者が選ばれそうと言う事ですので、鬼人族の所に修行に行ってもいいでしょうか?」
「それは構わぬが、セレスが悲しむのではないかの?」
「何年も行くわけではありませんし、今は結婚生活より、強くなって勇者からクリス様を守る事が重要です!」
「ふむ、勇者に負けるとは思わぬが、油断は禁物だの。
食事が終わったら、頼みに行くとしよう」
「はい、ありがとうございます」
その鬼人族のラモンはと言うと、少し離れた場所の席でヴァルギールと一緒に酒を飲みまくっていた。
俺とクリスティアーネが、二人で食事を楽しんでいると、獣人族のオルトバルがやって来て席に着いた。
「少し邪魔をするぞ!」
「ふむ、オルトバルから声を掛けて来るとは珍しいの」
「まぁな、今日はこの前のお礼にとやってきたまでだ、あれ以降獣人族の村が襲われる様な事が無くなったからな。
獣人族を代表して感謝する!」
オルトバルがクリスティアーネに頭を下げた。
「気にするでない、われも仲間が襲われなくなった事、本当に嬉しいからの」
「そこでだ、兎獣人族からと言うか、本人からと言うか、とにかくクリスに恩返しがしたいと言って来ている者がいてな。
幸い、クリスの所には猫獣人もいる事だし、引き取っては貰えないだろうか?」
「ふむ、われの眷属にしろと言うのか?」
「そうだ、迷惑だと言うのなら断ってくれても構わん、俺の方で説得しよう」
「そうだの・・・その者を見てから決めるとするかの」
「そうか、連れて来るから少し待っていてくれ」
オルトバルは席を立ち、部下達が座ってる席に向かい、一人の兎獣人を連れて来た。
「この者がそうだ」
「マリーロップです、クリス様にご恩返しをしたく参りました」
「ふむ、随分と大きくなったの」
クリスティアーネに挨拶した兎獣人は、以前オークション会場で助け出したマリーロップだった。
あの時は可愛らしい女の子だったが、美しい女性へと成長していた。
しかしあれから一年と少ししか経ってはいないが、獣人とはこんなにも急成長する物なのだな。
「それでどうなのだ?」
「ふむ、知らぬ仲では無いからの、我は構わぬぞ」
「そうか、それではよろしく頼む」
オルトバルは、クリスティアーネがマリーロップを受け入れた事に喜び、自分の席へと戻って行った。
「クリス様、ベル様、よろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「マリーロップを眷族にするのは屋敷に帰ってからにするとして、ベル、ラモンに頼みに行くとするかの」
「はい」
俺とクリスティアーネは席を立ち、酒盛りしているラモンとヴァルギールの所にやって来た。
「ラモン、盛り上がっている所済まぬが、少し良いかの?」
「おう、クリスどうかしたのか?」
「うちのベルを、お主の所で鍛えてやって欲しいと思っての」
「なんだ、そんな事ならお安い御用だぜ!
さっきヴァルギールと話してたんだが、龍族の所で強くなったそうじゃねーか。
俺もまた戦って見てーからよ、何時でも来るといいぜ!」
「うむ、数日中にそちらに寄こすからの、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
ラモンは俺を見て、ニヤッと笑みを浮かべていた。
鬼人の訓練がどんな物かは分からないが、以前人に変装した状態でラモンとは戦っている。
俺も再び戦って見たいと思っていたので、鬼人の所に行くのは楽しみだ。
クリスティアーネは、各テーブルを回って管理者達と軽く挨拶を交わした後、俺とマリーロップを連れて帰路へと着いた。
屋敷の前に転移で戻って来た所で、マリーロップにいきなり抱き付かれてしまった。
「ベル様、会いたかったです!」
俺が困惑していると、隣でクリスティアーネがニヤニヤしていた。
「ふむ、やはりベルが目当てであったか」
「はい、いけなかったでしょうか?」
「構わぬぞ、誰かを好きになるのは自然な事だからの。
ベル、われは屋敷に入っておるからの、後の事は頑張るのだぞ」
クリスティアーネはそう言って屋敷の中に入って行った。
そこで俺は、クリスティアーネが言った言葉の意味を知る事となった。
「ベルさん、その女性とはどのような関係なのでしょうか・・・」
そこには、にこやかな表情でこちらを見ている、セレスティーヌの姿があった。
いや、にこやかな表情だが目が笑ってはいない・・・。
今の俺の状況は先程と変わらず、マリーロップに抱き付かれたままだ。
「セ、セレス、紹介するよ、この女性は兎獣人のマリーロップ。
クリス様の眷族としてこの屋敷に来たから、仲良くしてやってくれると嬉しいな・・・」
「そうでしたか、マリーロップさん、初めまして、ベルさんの妻!セレスティーヌと申します」
やけに妻の部分が強調されていたが、この状況では仕方が無いか・・・。
「私は、ベル様に命を助けて貰ったマリーロップです、セレスティーヌさん、よろしくお願いします」
二人の間で挨拶が交わされたが、この緊迫した雰囲気の中にいるのは非常に辛い・・・。
セレスティーヌとは結婚しているし、俺がマリーロップを好きだという気持ちは無い。
確かに、助けた当時可愛かったし、今も美しくなっていて、こうして抱き付かれている事は非常に嬉しい事だが、浮気をしている訳では無いからな。
かと言って、強引に引き剥がすのは可哀そうだし、俺が結婚している事を説明すれば、マリーロップも分かってくれるだろう。
「と、取り合えず、屋敷の中に入らないか?」
「そうですね、では参りましょう」
セレスティーヌが、マリーロップとは反対側の腕を取り、俺は二人に引きずられる様な形で屋敷の中へと入って行った。
俺はそのまま、食堂へと連れて行かれた。
食堂には、クリスティアーネとエリミナがお菓子を食べていた。
「えーっと、お茶を入れようか・・・」
「いえ、ベルさんは座っていてください、妻の私が入れますので!」
セレスティーヌは俺の腕から離れて、お茶を入れに行ってくれた。
「マリーロップ、座ろうか」
「はい、ベル様」
マリーロップを席に座らせ、俺もその隣へと座った。
「相変わらず、ベルはモテモテニャン!」
エリミナが変な事を言うから、マリーロップが驚きの表情をしていた。
「エリー、俺は一度もモテた事は無いぞ!」
「それはベルが気付いて無いだけニャン!」
「そんな事は無いと思うが・・・」
俺がエリミナに反論した所で、セレスティーヌがお茶をテーブルに持って来てくれた。
「マリーロップさん、ベルさん、お茶をどうぞ!」
セレスティーヌはガチャンと音がするほど、雑に俺の前にティーカップを置いた。
「ベルさんは、私とエリーがいる時にも、冒険者ギルドの受付嬢や、アイスクリーム屋の店員を口説いていますからね!」
確かに二人と出かける時でも、情報を聞くために話しかけてはいるが、決して口説いている訳では無いと反論したい所だが、この状況では言い訳にしか聞こえないだろうから、沈黙を保つ事にした。
「そうだニャ、この前も受付嬢と仲良さそうにしていたニャン!」
「そうだの、われといる時も・・・」
クリスティアーネ、エリミナ、セレスティーヌの三人は、如何に俺が女性を口説いているかで、話が盛り上がっていた・・・。
マリーロップも三人の会話を聞きながら、俺の事を非難するような目で見ていた・・・。
一通り話終わった所で、クリスティアーネがマリーロップに問いかけた。
「マリーロップ、ベルはこの様な男なのだが、それでもかまわののか?」
「はい、構いません」
何やら、クリスティアーネとマリーロップの間で話が進んでいるようだ。
クリスティアーネに意見が通るとは思わないが、一応当事者なので口を挟んで見る事にした・・・。
「クリス様、私は既にセレスと結婚しているのですが・・・」
「そんな事は分かっておる、別に嫁の一人や二人増えた所で問題あるまい?」
えっ、良いのだろうか・・・?
俺はゴブリン顔の吸血鬼だから人では無いし、重婚とかそう言うのはこの世界では無いという事かな・・・。
「セレス?」
俺はセレスティーヌが嫌なら断ろうと思い、声を掛けてみた。
「はぁ~、ベルさんは強くて、街ではモテますからこうなる日が来る事は分かっていました。
マリーロップさん、よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。
それと、私の事はマリーと呼んでください」
セレスティーヌが受け入れたので、俺が断る理由は無くなってしまったな。
マリーロップは美しい上に、ウサ耳が非常に愛らしい。
恋愛感情と言うのはまだ無いが、それはセレスティーヌの時も同じだったから、これから育んで行けばいい事だな。
しかし、ゴブリンに転生した時は絶望していたが、クリスティアーネに部下にして貰ってからは、良い生活を送っていると思う。
改めてクリスティアーネに感謝し、どんなことがあってもクリスティアーネを守って行かないといけないな。
勿論家族であるエリミナもそうだし、妻であるセレスティーヌとマリーロップも同じだ。
「マリー、これからよろしくお願いします」
「はい、ベル様、よろしくお願いします」
この後、クリスティアーネがマリーロップを眷族にして、正式に俺の妻となった。
「今夜の夕食は、少し豪華な物にするかな」
「それでしたら、私に作らせてください」
「セレス、お願いするよ」
「はい、腕に寄りを掛けて美味しい料理を作りますね」
「あの、私も手伝います!」
「では、一緒に作りましょうか!」
「はい!」
セレスティーヌとマリーロップは仲良く調理場へと入って行った。
邪魔しては悪いと思い、席に着いて待つ事にしたが・・・。
ガッチャーン!
お皿の割れる音が聞こえ、俺は慌てて調理場へと入って行った。
「大丈夫か?!」
「ベル様、ごめんなさい~」
マリーロップは涙目になって、足元の割れた皿の破片を拾い上げようとしていた。
「怪我をするから触らないで!」
それを慌てて、セレスティーナが止めた。
「俺が片付けるから、その場を動かない様に!」
俺は掃除道具を取りに行き、割れた皿の破片をかたずけた。
「これで良し、しかし、何で料理も出来ていないのにお皿を出していたんだ?」
まだ調理は始まったばかりで、材料を切り分けている所だった。
「それが・・・」
セレスティーヌが言いにくそうにしていた。
「ごめんなさい、私が何も出来なかったから・・・」
「えーと、もしかして、マリーは料理が出来ない?」
「・・・はい」
一年前は少女だったから仕方が無いのか?
「分かった、手伝ってくれるという気持ちは嬉しいが、怪我をしてしまっては意味が無い。
今日はセレスが料理しているのを見学して、ゆっくり覚えて行けばいいよ」
「・・・分かりました」
「セレス、後は任せていいかな?」
「はい、大丈夫です」
「マリー、別に料理が出来なくても嫌いになったりしないからな」
「はい・・・」
俺は優しく声をかけてやったが、マリーロップの表情が明るく成る事は無かった。
その後は、セレスティーヌが作った料理をマリーロップが運んできてくれて、皆で楽しい夕食となった。
そして、セレスティーヌとマリーロップが話し合って、交互に俺と一緒に寝る事となった。
流石に俺も、三人で一緒に寝る度胸は無かったので良かったと言うべきなのだが、少しは期待していた所もあったのは内緒だ・・・。
「ベル様!」
マリーロップは、俺がベッドに横になると抱きしめて来た。
俺は優しく頭・・・と言うか、長い耳を興味本位で撫でてみた。
「くすぐったいです」
「すまない、嫌だったか・・・」
「いえ、私が寝るまで続けてください」
俺はそのままマリーロップの耳をなで続けていると、すやすやと寝入ってしまった。
見た目は大人になってはいるが、まだまだ子供なのだな・・・。
俺もマリーロップの寝顔を見ながら、穏やかな気持ちで眠ることが出来た。
翌日、皆で街に出かける際、マリーロップにもクリスティアーネが変装の魔道具を渡し。
蝙蝠の翼を出して浮かび上がったマリーロップを見て、セレスティーヌが不満を漏らしていた・・・。
「私はかなり苦労したのに・・・」
マリーロップは獣人としてもそれほど魔力を持っている方ではないが、それでも人と比べれば多い方だ。
そして、吸血鬼となった事でも魔力が増えているため、飛ぶくらいの事は楽にできるわけだ。
俺も吸血鬼になってすぐ飛ぶことは出来たからな。
マリーロップが吸血鬼としての能力を使う事を確認出来たので、クリスティアーネの転移魔法で、ネイナハル王国の王都へとやって来た。
クリスティアーネの屋敷から一番近くのソプデアスの街は、セレスティーヌがまだ行きたがらないからな。
「今日はお祝ニャン!」
「そうだの、マリーが家族となったお祝いだの」
「となると、あの場所ですかね?」
「勿論あそこニャン!」
エリミナ、クリスティアーネ、セレスティーヌの三人は、迷わずアイスクリーム屋へと向かって行った。
俺は、初めて来た街に戸惑っているマリーロップの手を引き、三人の後を追いかけるようにアイスクリーム屋へと入って行った。
ざわ、ざわ・・・。
俺達が店内に入ると、店員たちがざわめきだした。
それもそのはず、前回訪れた時、パフェの材料が無くなるまで食べ尽くしたからな・・・。
でも今日は、その様な事にはさせない。
「今日は一人、二種類までにします!」
「どうしてニャ!今日はお祝いニャ!」
「確かにお祝いですが、ご褒美ではありませんからね」
「そんニャ~」
俺がきっぱりと言うと、エリミナはがっくりと肩を落としていた。
「うむ、あまり食べ過ぎても飽きてしまうからの」
「そうですね、ではじっくり選んで決めたいと思います!」
クリスティアーネとセレスティーヌは、メニューを真剣な表情で眺めていた。
「ベル様、私この様な所は初めてで、どうしたらいいのでしょうか?」
「そう言う時は店員にお勧めを聞くといいよ」
「分かりました」
皆の注文が決まり店員に伝えると、ほっとした表情で店員は戻って行った。
やはり、食べ放題は店側の利益には問題無いが、パフェを食べるのを楽しみにしてきた他の客の迷惑にはなるよな・・・。
今度何かのご褒美でやる時には、事前に予約とかした方が良さそうだな。
「ベル様、こんな美味しい物食べたの初めてです!」
マリーロップは口元をべたべたに汚しながら、貪る様に食べていた。
「喜んで貰えたなら良かったです、口の周りを拭きますので動かないで下さいね」
俺はマリーロップの口元を拭いてやると、マリーロップは、えへへと可愛らしい笑顔を浮かべていた。
やはり妻と言うより妹といった感じだが、まぁそれも可愛いので構わないな。
皆食べ終えたので、店を後にして、王都見学を行った。
そして帰る時に、俺は一人だけ別行動をする事にした。
「クリス様、私は用事があるので先に帰って貰えますか?」
「ふむ、分かった」
「ベルさん、早く帰ってきてくださいね」
クリスティアーネとセレスティーヌは、俺が何をしに行くのかは分かっている様子で、素直に聞き入れてくれた。
俺は、セレスティーヌに送った指輪を求めて、宝石店へとやって来た。
流石に同じデザインの指輪は無かったが、出来るだけ似たような指輪にした。
あまりにも違い過ぎると、喧嘩の元になったりするからな・・・。
指輪を買った俺は、クリスティアーネに先に帰って貰ったので飛んで帰る事となった。
龍族の所で訓練をした俺は、本当の意味で吸血鬼となり、飛ぶ速度も以前とは比べ物にならないほど早く飛ぶ事が出来る様になった。
とは言え、セレスティーヌが準備している夕食に間に合えばいい事なので、空から見える景色を楽しみながら帰って行った。
夕食時に、マリーロップに買ってきた指輪を渡した。
「ベル様、こんなに綺麗な指輪を、ありがとうございます~」
マリーロップの指にはめてやると、泣きながら抱き付いて来た。
俺もマリーロップを抱きしめ、幸せを感じていた。
「さて、ベル達は放っておいて、食べるとするかの」
「お腹空いたニャン!」
「はい、頂きましょう」
他の三人は食事を始めたが、俺はマリーロップが離れてくれるまで、二人で抱きしめ合っていた・・・。
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