第十九話 勇者パーティ
エアリーと旅の準備をする為に街に買い物に出掛けて、エアリーの寝袋やその他必需品を買い、俺達は食料の買い出しをした。
そして、エアリーに何かあってはいけないので、念話の魔道具を買って渡した。
「こんなに高価な物頂けません」
エアリーは断ったが、支給されたお金で買った物だと説得すると、では自分の頂いたお金で買いますと言って、お金を戻されてしまった。
「もし俺が近くにいなくて危険な目に遭ったら、遠慮なく連絡くださいね、すぐに助けに行きます」
「はい、ありがとうございます」
狩りに行った時は大丈夫だが、大聖堂内でエアリーの身に何かあった場合は俺が気付く事が出来ないからな。
まだ俺は信用されてない様で、外に出た今、監視の目が光っていて遠くから見られている、女神教には俺も隙を見せない様にしなくてはならない。
買い物を終え、大聖堂に戻って来た俺達は、飛行の魔道具を使って空を飛ぶ訓練をする事にした。
「マティーさん、結構難しいですね」
「そうですね、ですが、少しコツが分かって来ました。
体の力を抜き、進みたい方向に意識を持って行く様な感じですかね」
「分かりました、試してみます」
基本的に自分が進みたい方向に飛んでくれるのだが、体が置いて行かれてしまい、その分進みたい方角がずれてしまっていた。
だから体の力を抜き、飛んでみると意外と素直に飛んでくれるようになった。
「マティーさん、上手く出来ました!」
エアリーは空から降りて来ると、俺の手を取って、上手く飛べたことを喜んでいた。
思わず抱きしめたくなるが、ここは我慢だ・・・。
「ではもう少し飛ぶ訓練を続けて、慣れる事にしましょう」
「はい、頑張ります」
勇者達は普通に飛んで行くと言っていたから、普段から飛行の魔道具を使って移動しているのだろう。
着いて行けなかったら、文句を言われて嫌な思いをするだろうからな。
その日は結局飛ぶ訓練をするだけで終わってしまった。
翌朝、昨日俺とエアリーが訓練をした所に、勇者パーティ全員集まった。
「これよりレッドドレイクの討伐に向かう、遅れずについて来いよ!」
「はっ」
「「はい」」
俺以外は返事をしていたが、俺は疑問に思った事を聞いて見た。
「ここは街中だが、ここから飛んで行くつもりか?」
通常街の上空は飛行禁止だ、冒険者ギルドにある様な魔法の訓練場の上空や、魔物が攻めて来た際のみ許されている。
そうしておかないと、上空からいきなり街を襲われては、たまった物では無いからな。
「勇者は許されてるんだよ!つべこべ言わず黙ってついて来い!」
これはあれか?勇者なら何をやっても許されると言う、ゲームならではの物だったりするのだろうか・・・。
まぁ勇者は気にせず飛び出して行ったので、俺も後に続いて街の上空を飛びぬけて行った。
一時間ほど南東に向かって飛んでいると、遠くに高くそびえる山々が見えて来た。
確かあの辺りは、龍の管理地だったはず・・・。
まさか山頂に降り立ったりしないよな?
その場合は有無を言わせず、エアリーを連れて逃げよう!
その事は俺の杞憂に終わった。
勇者は山の麓に降りたからだ。
この辺りはまだ木が生い茂っており、見通しも悪い。
「この辺りにレッドドレイクがいるらしい、アリーヌ探してくれ!」
「分かったよ、すぐに見つけるからね!」
ハンターのアリーヌが探索を開始した。
勇者は俺の所に来て、睨みつけて来た。
「いいか、余計な手出しをするなよ!黙って後ろで見てろ!分かったな!」
「分かりました、エアリーと共に皆さんの邪魔にならない様にしています」
「ふんっ!」
それだけ言うと、勇者はアリーヌの後を着けて行った。
「エアリーさん、歩きにくく転んでは危険なので、手を握っていますね」
「はい、この様な所は初めてなので御迷惑をおかけします」
エアリーの柔らかな手を握ると、とても幸せな気分になる。
だが、ここは魔物の住む森、真面目にやらなければいけない。
「構いませんよ、エアリーさんは自分の身を守る事を優先してください。
エアリーさんが倒れてしまうと、他の人の怪我を治す事が出来なくなりますからね」
「はい、分かりました」
「それと、魔物との戦いで誰か傷付いても、魔物が倒されるまで、絶対に近寄ってはいけません」
「それは・・・どうしてでしょうか?」
「先程言った通りです、エアリーさんが魔物に近づくとすぐに倒されてしまうからです、それがたとえゴブリンであったとしても、エアリーさんは勝てませんよね?」
「そうですね・・・分かりました、マティーさんの言う通りにします」
「幸い、私はビショップで、初級のみですが治癒魔法も使えます。
戦闘中必要だと判断すれば、私が治癒いたします。
エアリーさんは戦闘終了後に、私が治せない傷を治癒してください」
「はい、分かりました」
これで良し!
エアリーが戦闘中突っ込んでいく事は、これで回避できるな。
今回の目標はレッドドレイクだ、どれだけの大きさがある魔物か分からない。
ヒドラでさえ十五メートルはあったから、レッドドレイクはそれ以上だろう。
それを木をなぎ倒しながら突進して来よう物なら、破片が当たっただけでも大怪我をしてしまう。
出来るだけエアリーを魔物から遠ざけておく必要がある。
アリーヌが探索を始めてから、一時間経過した。
「おいアリーヌ、まだ見つからないのか!」
勇者が我慢の限界だと、アリーヌに文句を言っていた。
「ごめんなさい、痕跡も気配も見つからなくて・・・」
アリーヌが勇者に謝ってはいたが、怒る勇者の方が間違っているからな。
Aランクの魔物が大量にいる筈もなく、すぐに見つけられる物でもない。
それにここまで、何体かの魔物を勇者達は倒している。
手際は悪かったが、それなりに戦う事は出来ていた様だ。
ただし、冒険者としては失格だな。
必要以上に魔物を斬り刻んで倒していたから、売り物にはまったくならない。
それでも、成果として勇者は収納していた様だがな。
それからさらに一時間探したが、見つかる事は無かった。
俺は途中から、エアリーを背負って歩いている。
道無き森の中を歩くには、エアリーの体力では無理もない。
「マティーさん、すみません」
「構いません、それより喉が渇きました、水を飲む事にしましょう」
「はい」
俺とエアリーは、こうして定期的に水分を補給している。
脱水症状になっては、魔法でも治せないからな。
俺達が水筒を取り出して水を飲んでいると、勇者がこちらにやって来た。
「俺様にも水を寄こせ!」
「嫌ですよ、魔物が住む領域で飲み水は大切です。
譲る訳には行きません」
「何だと!俺様は勇者だぞ!」
「ここでは勇者とか関係ありません、油断すればすぐ死に繋がりますからね。
それに飲み水を用意するとか、常識でしょう?
昨日一日、準備するには十分な時間があったはずです。
貴方は何をしていたのですか?」
「くそっ!いいから寄こせ!」
勇者が俺に掴み掛ろうとして来た所、ヴァームスがそれを止めた。
「ヴァームス、何をする!」
「ラウドリッグ落ち着け!すまない、俺達は魔物と戦うのが初めてで何も用意して来ていないのだ。
今後は用意するから、今日の所は水を分けてくれないか?」
ヴァームスは俺に頭を下げて来た。
「ヴァームス、いくら頭を下げようと、水を分けてやる事は出来ない。
だから、今日の所は一度街に戻って出直さないか?」
俺の提案に、ヴァームスは暫く考えていた。
水は魔法でいくらでも出せるのだが、今後の事を考えると、彼等には魔物の領域に行く事がどのような物なのかを知って貰わなくてはならないからな。
「分かった、マティルスの言う通り、近くの街に戻って準備をしよう」
「おい、リーダーは俺様だぞ、勝手に決めるな!」
「ラウドリッグ、アリーヌを見て見ろ!今にも倒れそうなんだぞ!お前はアリーヌを見殺しにするつもりか!」
ヴァームスが勇者に怒鳴りつけると、流石の勇者もアリーヌの状況を見て折れるしか無かった様だ。
「分かった・・・貴様覚えて置けよ!」
勇者は俺を睨みつけると、そのまま一人で飛んで行った。
俺はアリーヌに近づき、水筒の水を差しだした。
「飲め、このままでは死ぬぞ!」
アリーヌは俺が差し出した水を見つめて暫く悩んでいたが、俺から水筒を奪って一気に飲み干していた。
「塩も少し舐めておけ」
アリーヌの手の平に、塩を一つまみ置いて舐めさせた。
「これで大丈夫だろう、エアリー、治癒魔法を掛けてやってくれ」
「はい、分かりました」
エアリーの治癒魔法で楽になったのだろう、アリーヌは元気になった様だ。
「ありがと・・・」
アリーヌはエアリーにお礼を述べた。
俺の方には見向きもしないが、別に恩を売りたかった訳では無いからな。
「では近くの街に戻るぞ」
ヴァームスが飛び立ち、俺達もその後に着いて行った。
ヴァームスは、行きに見かけていた小さな街の門前へと降り立ち、街の中に入って行った。
俺達が街中に入って行くと、勇者は街の警備兵と言い争いをしていた。
「俺様は勇者だって言ってるだろ!」
「勇者様なのは分かりました!ですが、街に門を通らず直接入って来る事は許可出来ません!」
警備兵の言う事はもっともだな、ヴァームスも門の前に降りてカードを提示して街へと入った。
一応勇者以外は、そう言う一般常識を身に着けている様だな。
ヴァームスは勇者と警備兵の間に入り、仲裁役をしている。
彼も大変なんだな・・・。
ヴァームスが間に入り、今後二度としないという事で決着が付いた。
「なんで俺様が・・・」
湯者はブツブツと文句をまだ言っているが、ヴァームスは相手にしていない様子だ。
「ヴァームス!俺様は宿屋に先に行く、ちゃんと準備をしておけよ!」
勇者はアリーヌを連れて、宿屋へと向かって行った。
「ヴァームス、良かったのか?」
「あぁ、一緒に来られる方が迷惑だからな」
俺が尋ねると、ヴァームスは肩をすくめてそう答えた。
確かに、勇者がいない方が楽なのには違いない。
「それより、何が必要なのか教えてくれないか?」
「分かった、数日分の水と食料に、一応寝袋とかも用意しておいた方が良いだろう。
後は緊急用に回復薬、火を起こせる魔道具なんかもあったら役に立つかもしれない」
「分かった、しかし、野宿する必要があるのか?」
「無いな、魔物が見付からなければ、野宿をせず、飛んで戻って来た方が安全だろう。
ただし、使わなくても、用意しておけば何かあった時でも対処できるだろ?
準備とは、あらゆる不確定要素にも備えて置く事だ」
「分かった、ありがとう」
ヴァームスは一人で買い物に行ってしまった。
「マティーさん、これからどうしますか?」
「取り合えず、お昼を食べに行きましょうか」
「はい、歩き疲れてお腹が空いていました」
エアリーと楽しく昼食を過ごした後、俺とエアリーは冒険者ギルドへとやって来た。
「ここに入るのは初めてです!」
エアリーは冒険者ギルドの内部を見渡していた。
「少々物騒な所ですからね、エアリーのような美しい女性は絡まれやすいので、俺の傍から離れない様にしてください」
「はい、分かりました」
エアリーはやや顔を赤らめて、俺の後ろに着いて来てくれた。
「こんにちは、魔物の情報を聞きたいのですがよろしいでしょうか?」
俺は受付嬢に、冒険者カードを見せた。
「はい、どの魔物の情報でしょうか?」
「レッドドレイクの情報を知りたいのですが」
俺がそう答えると、受付嬢が眉をひそめてこちらを見ていた。
「Aランクの魔物ですよ、危険ですのでお止め下さい!」
まぁそう言われるよな・・・俺はまだCランクだから無理もない。
「えっとですね、勇者パーティとして討伐してくるよう言われまして・・・」
俺は勇者パーティのカードを見せ、小声で受付嬢に説明をした。
「勇者ですって!!」
受付嬢はとても驚き、大声を出した。
幸い、昼過ぎで冒険者ギルド内に人が少なくて助かったが。
「声が大きいです!」
「す、すみません!」
「それで教えて頂けますか?」
「はい、そう言う事なら教えます、少々お待ちください」
受付嬢は奥に行って、地図を取って来た。
「最近のレッドドレイクの目撃情報は、この辺りになります」
受付嬢は地図を指し示してくれた。
「地図を貰う事は出来ますか?」
「はい、銀板一枚しますが、よろしいでしょうか?」
「お願いします」
俺はお金を支払い、地図を貰った。
コピー機など無いこの世界では、地図は全て手書きだ。
なので、結構な値段がするが、またアリーヌに探して回らせていては、どれだけ時間が掛るか分かった物では無い・・・。
先程の様子を見ていた感じからすると、魔物を探して回ったのは初めての事だったのだろう。
勇者とヴァームスも、魔物との戦いには慣れていなかった様だし、どのような経緯で勇者が選ばれたのか疑問に思う。
まっ、そんな事はどうでもいいか。
俺は自分とエアリーさえ守れればいいのだから。
冒険者ギルドを後にして、エアリーと街の見物をしながら楽しく過ごし、勇者が泊っているいる宿屋へと来た。
俺とエアリーはそれぞれ別の部屋に泊まる事となった。
本当はエアリーを守るために、同じ部屋にしたかったのだが、まだそこまで親密な関係では無いからな・・・。
決してやましい気持ちがあった訳では無いぞ!
宿屋の食堂で、夕食もエアリーと二人で食べた。
勇者達は部屋まで食事を運ばせたらしい。
勇者としては、もっと豪華な宿屋に泊まりたかった様なのだが、この様な小さな街にそんな物は無い。
でも冒険者から見れば、風呂もあるし上等の宿屋なのだがな・・・。
風呂に入ってスッキリした俺は、寝袋を取り出し、エアリーの部屋の扉の前で壁にもたれながら眠る事にした。
俺が眠りかかった頃、予想通り勇者がエアリーの部屋へと近づいて来た。
「貴様、そんな所で何をしている!」
「見て分かりませんか?寝ているのですが?」
俺は寝袋から出て、起き上がった。
「だから、何で廊下で寝ているのかと聞いている!」
「それは勿論、盛った犬からエアリーを守る為ですが?」
「何だと!」
俺の挑発に、勇者は激怒していた。
「面白い!貴様のようなゴミが守れる物ならやってみるんだな!」
勇者は俺に殴りかかって来た。
俺はそれを躱し、足を掛けて勇者を転ばせた。
「貴様ぁぁぁぁ!」
勇者はすぐに立ち上がってこちらに向き、収納から剣を取り出して俺に斬りかかって来た!
だが、アベルの・・・いや、シャルの剣より遅い斬撃を躱すのは容易だな・・・。
勇者の剣を躱した俺は、背後に回って背中を蹴り飛ばしてやった。
勇者は前に転がりながら倒れて行った。
流石にこれだけ暴れれば、宿に泊まっていた他の人達も出て来て、眠れないから騒ぐなと文句を言って来た。
勇者もこんなに人が見ている前で、俺に斬りかかって来る事は出来なかった様だ。
「チッ!いつか必ず殺してやるからな!」
勇者は捨て台詞を残して自室に戻って行った。
俺は再び壁にもたれて眠ろうとしたら、エアリーがゆっくりと扉を開けて出て来てくれた。
「マティーさん、ありがとうございます」
「気にしないで下さい、エアリーを守るのが俺の役割ですからね。
それより早く寝ないと、明日に響きますよ」
「それはマティーさんも同じなのでは・・・廊下で眠っていては疲れてしまうでしょう」
「いえ、俺は野宿とかで慣れていますから大丈夫です」
「ですが・・・マティーさん、私の部屋で眠って下さい。
その・・・マティーさんが廊下で寝ていると思うと、私も落ち着いて眠れませんから・・・」
エアリーはそう言うと、俺の手を引いて部屋の中に招き入れてくれた。
「すみません、では床で寝ますね」
部屋は俺と同じで、ベッドとテーブルが置かれているだけだ。
俺が床に寝ようとすると、エアリーに止められた。
「あの、よければ一緒にベッドで寝ませんか?」
エアリーは顔を真っ赤にして、俺をベッドへと誘ってくれた。
「いえ、流石にそれは・・・」
「マティーさんの事を信じていますから、一緒に寝ましょう」
エアリーから、やや強引にベッドに寝かされた。
「マティーさん、おやすみなさい」
「エアリーさん、おやすみ」
エアリーは目を瞑り眠ってしまったが、狭いベッドにエアリーの体が密着している状態で眠れるわけがない。
エアリーの寝息を隣で感じている状態は非常に幸せだが、手を出せないこの状況は非常に辛かった・・・。
信じていると言われたからな・・・ここで俺が手を出してしまっては、勇者と何も変わらない。
これなら廊下で寝ていた方が、まだましだったのでは無いだろうか・・・。
結局、朝まで一睡も出来ず、幸せながらも辛い時間を過ごして行く事となった・・・。
「マティーさん、おはようございます」
「エアリーさん、おはよう」
寝起きのエアリーに挨拶され、眠気など吹き飛んでしまうくらい、幸福に包まれた。
「部屋に戻って着替えてきますね、その後朝食を食べに行きましょう」
「はい、お待ちしています」
俺はエアリーの部屋から出て、自分の部屋に戻って着替えを済ませ、再びエアリーの部屋の前に来て彼女が出て来るのを待ち構えた。
それから二人で朝食を済ませ、宿屋の前で待っていると、勇者達がやっと出て来た。
勇者は俺と視線を合わせる事無く、街の外へと歩き出した。
「出かけよう」
ヴァームスが俺に声を掛け、勇者の後に着いて行った。
俺はヴァームスに、昨日買った地図を渡し、勇者に聞こえない様な小声で話した。
「この辺りでレッドドレイクの目撃情報があった様だ、やみくもに探すよりもましだと思う」
「そうか、だがなぜ俺に?」
「俺からの情報だと、勇者は素直に聞き入れないだろ?」
「そうだな、分かった、俺から説明しよう」
「頼んだ」
ヴァームスは快く引く受けてくれて、街から出て飛び出す前に勇者に説明してくれた。
そして、俺が渡した地図の場所へとやって来た。
そこは少し山に登った場所で、森から抜け、大小様々な岩がゴロゴロとしている場所だった。
「今日こそは見付けるからね!」
アリーヌがレッドドレイクの探索を開始した。
俺は昨日と同じように、エアリーの手を握って着いて行った。
それからお昼頃までアリーヌが探索を続けたが、レッドドレイクを見付ける事は出来なかった。
「何故見つからない!」
「ごめんなさい」
勇者は、アリーヌに怒鳴りつけていて、とても見ていられなかった。
「取り合えずお昼ご飯を食べましょう、お腹が空いていてはレッドドレイクを見付ける事も、戦う事も出来ません」
「そうだな、少し休憩を取ろう」
俺の意見にヴァームスも同意し、休息を取る事となった。
勇者は面白くなさそうにしていたが、お腹が減っていたのか、特に文句を言って来る事は無かった。
俺はいつもの様に鍋を取り出し、魔法で水をいれて、魔法で火を点けて沸かした。
そして、事前に切って用意していた、肉や野菜を入れて沸騰させ、味付けをして完成だ。
それをエアリーと二人で分けて食べる事にした。
その光景を他の三人は、羨ましそうな目で見ている。
勇者達が食べているのは、街で売っているお弁当だな。
あれはあれで美味しくていいのだが、熱々の料理とは比べる事は出来ないよな。
「マティーさん、今日のお料理も美味しいです」
「それは良かったです」
俺達が美味しく昼食を食べていると、先に食べ終えた勇者が俺の所にやって来た。
「おい、貴様!先程魔法で水を出していただろ!」
あっ・・・失敗したな、しかし、見られたのはどうしようもないな。
「それがどうかしましたか?」
「どうしたもこうしたも無い!なぜ昨日水を俺様求めた時に出さなかったのだ!」
「その必要が無いと判断したからです、貴方は私に余計な手出しをするなとおっしゃいましたよね。
ですので、私は貴方達に何かをしてやることはありません」
「ふざけるな!貴様は何のためにここにいるのだ!」
「それは勿論、エアリーさんを守る為ですが?」
俺の受け答えに、勇者はブチ切れてしまった。
「分かった、俺様のパーティにやはり貴様は必要ない!今ここで殺してやる!」
勇者は剣を抜き、問答無用に剣を振り下ろして来た!
俺も剣を抜き、それを正面から受け止めた。
近くに、エアリーがいる為、こうするしか無かったのだが・・・。
意外と勇者は力が無いのだな。
俺は片手で勇者の剣を押し返し、弾き飛ばした。
「なっ!」
勇者は一瞬驚いたが、再び怒りの表情を見せ、剣に魔力を流して強化した!
俺も同じ様に剣に魔力を流して強化したが、勇者の剣の方が性能は良さそうだな。
勇者が再び俺に斬りかかろうとした所で、アリーヌがそれを止めた。
「ラウドリッグ待って!レッドドレイクがこっちに来てる!」
ズシン、ズシンと地響きを上げながら近づいて来るレッドドレイクが、俺の目でも確認できた。
「ちっ!あれを倒した後はお前の番だ!覚悟しておけ!」
勇者とヴァームスは、レッドドレイクを倒しに向かって行った。
「エアリーさん、私達は後ろに下がっていましょう」
「はい、ですがよろしいのでしょうか?」
「いいのですよ、前にも言った通り、戦えない者はあの巨大な魔物の近くいるだけで、被害を受けてしまいますからね」
「そうですね・・・」
エアリーは、巨大なレッドドレイクを見て怯えていた。
俺がエアリーを連れて後ろに下がろうとしていると、アリーヌが声を掛けて来た。
「あんた強いんだろ?頼むから、ラウドリッグを助けてやってくれ!」
「俺は勇者から手を出すなと言われています」
「そうだけど、あんな魔物と戦ったら、ラウドリッグが死んでしまう!
あたいら、人と戦った事しか無いんだよ!」
アリーヌが必死に訴えて来るが、俺は助ける気は全く無かった。
「マティーさん・・・」
だが、エアリーからも懇願するような目に見られては、折れるしかなさそうだ・・・。
「分かった、アリーヌはエアリーさんを守っていてくれ!」
「分かったよ!」
「エアリーは後ろに下がって、ホーリーシールドで身を守っていれくれ!
決して前に来ては駄目だからな!」
「マティーさん、分かりました」
「では行って来る!」
俺はエアリーとアリーヌが後ろに下がるのを確認して、勇者とヴァームスの所に向かった。
「ラウドリッグ、あれを使え!」
ヴァームスが指示を出し、勇者は指輪の力をレッドドレイクに向け使った。
「効いたぞ!今だ!」
レッドドレイクは魔力を抑えられて、動揺していた。
その隙を突き、勇者とヴァームスが斬りかかったが、レッドドレイクの硬い表皮に弾かれ、傷を付ける事が出来なかった。
「ラウドリッグ、一度離れろ!」
「構うかよ!そのまま斬り続けろ!」
正気を取り戻したレッドドレイクは、足元にいる勇者を前足で跳ね飛ばした。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
勇者は吹き飛ばされ、ゴロゴロと岩場を転がって行った。
レッドドレイクの魔力や力を抑えたとしても、質量が変わるわけではない。
勇者は押しつぶされなかっただけましだったのだろう。
ヴァームスは慌てて勇者の下に駆け付けようとしたが、レッドドレイクがそうさせてはくれない。
ヴァームスにも前足の攻撃が迫り、何とか後ろに飛び去りながらそれを躱した。
強い、本当にこんな魔物に勝てるのか?
ヴァームスは不安に思った、だが俺達は勇者とその仲間だ!
こんな魔物に勝てないはずはない!
ヴァームスは再び勇気を振り絞り、レッドドレイクの正面に立った。
「助けが必要か?」
俺はヴァームスの後ろから声を掛けた。
「すまない、ラウドリッグを助けてやってくれないか?」
「いや、それより目の前の魔物を倒すのが先決だ!」
俺はレッドドレイクに照準を合わせた。
勇者が吹き飛ばされていたのは見ていたが、良い防具を着ているから死んではいないだろう。
「どうすればいい?」
「防御に徹して、出来るだけ注意を引き付けてくれ!」
「分かった!」
さて、俺の魔法がレッドドレイクに通用するだろうか・・・。
シャルを信じてここまでやって来たのだから、大丈夫だ!
俺は気合を入れて呪文を唱えた!
「大地を覆いし小さき者達よ、我にその強固な力を貸し、敵を打倒せ!ストーンショット」
俺が放った岩の塊は、レッドドレイクの右後ろ足に命中した。
「ギャオォォォォ!」
レッドドレイクは痛みで叫び、俺に顔を向けて来た!
「ドラゴンブレス!」
俺は慌てて、その場から横に飛びのいて避けたが、足にドラゴンブレスを受けてしまった!
痛みを堪えて立ち上がり、呪文を唱える。
「癒しの女神よ、我が力を用いて、傷を癒したまえ、ライトヒール」
そしてお返しにと、再びストーンショットを右後ろ足に放った!
レッドドレイクの硬い表皮を斬り裂くのは難しいだろうが、内部に衝撃を伝えるのには問題無い様だな。
そしてレッドドレイクは、ヴァームスを跳ね除け、俺に突進してきた。
「魔力を抑えられていて、その速度で走って来るのかよ!」
避けられないと思い、剣に魔力を込めて、後ろに飛び去りながら剣で受け止めた。
俺は十メートルほど吹き飛ばされたが、上手く着地する事が出来た。
距離が離れた事だし、遠慮なく魔法を撃ち込み続けた。
ドラゴンブレスを再び準備している様子だったので、自らレッドドレイクに近づき、レッドドレイクの周囲を周り込むような感じで、魔法を撃ち続けた。
そこに勇者とヴァームスも戻って来た。
「貴様がなんで戦っている!」
勇者が何か言っている様だが、相手にしている暇は無い。
そしてやっと、レッドドレイクが右後ろ足を使えない様になり、動けなくなった。
「後は任せたぞ!」
「分かった!ラウドリッグ止めを刺すぞ!」
「ちっ!分かったよ!」
俺は後ろに下がり、二人が戦う様子を見る事にした。
レッドドレイクが動けなくなったとはいえ、前足による攻撃とドラゴンブレスがある。
しかし、これくらい倒せなければ、魔族と戦うとか無理だろう。
それにしても、この杖の威力はすさまじいものがあったな・・・。
今まで使っていた安物の杖とは比べ物にならない。
こんなに違うのであれば、防具より先に杖を買っておくべきだったな・・・。
今更後悔しても遅いのだが、杖を先に買っていれば、もっと楽に狩りが出来ただろう。
そんな事を考えていると、勇者とヴァームスは苦労しながらも、何とかレッドドレイクを倒す事が出来たようだ。
しかし、レッドドレイクは傷だらけだな・・・皮が非常に高いのに、魔石と肉しか使えそうにないな。
そんな事より、エアリーの所に向かわないと。
俺は振り返って、エアリーの所に向かおうとしていると、勇者に止められた。
「待て!先程言った様にここで貴様を殺す!」
俺は振り向き、勇者を見据えた。
「ラウドリッグ待て!それは俺が許可しない!」
ヴァームスは勇者を止めたが、それを聞くようなやつでは無いな。
「うるさい!何ならお前もここで死ぬか!」
ヴァームスは黙り込んでしまった。
「ヴァームス、俺は構わない!この先ずっと狙われ続けるのも嫌だから、ここで決着をつけておく!」
「はっ!ぶっ殺す!」
勇者は剣に魔力を込め全力で俺に突っ込んで来た!
俺も同時に突っ込み、勇者の剣を躱して懐に潜り込み、鳩尾に剣の柄を撃ち込んだ!
「っ!!!!!」
勇者は声にならない叫びをあげ、その場に崩れ落ちた。
「ラウドリッグ!」
ヴァームスが慌てて駆け寄って来た。
「心配するな、気絶させただけだ。
ヴァームスは勇者を背負って飛べるか?」
「あぁ、気遣い感謝する!」
ヴァームスが勇者を背負っている所に、アリーヌとエアリーが駆け寄って来た。
「ラウドリッグ、無事なの!」
アリーヌは、ヴァームスが背負っているラウドリックに寄り添い、心配そうにしていた。
「気を失っているだけだ、それよりアリーヌ、レッドドレイクを収納して来てくれ」
「・・・分かったよ!」
アリーヌは渋々ラウドリッグから離れて、レッドドレイクを収納していた。
「マティーさん、ご無事でしょうか?」
「俺は大丈夫だ、それよりヴァームスと勇者を治療してやってくれないか?」
「分かりました」
エアリーはヴァームスと勇者に治癒魔法を掛けた。
あぁ、俺も掛けて貰えばよかったと後から思ったが、今更かけてくれとは言えないな・・・。
別に怪我は治っているのだが、何というか、エアリーから優しく治癒魔法を掛けて貰いたいと思うだろ・・・。
次からはかけて貰う事にしよう・・・。
「では帰ろう!」
ヴァームスが声を掛け、聖都に飛んで戻って行った。
大聖堂の庭に降り立つと、ヴァームスは勇者を背負ったままどこかに行ってしまった。
当然アリーヌも付いて行った。
「お帰りなさいませ」
そこに、何時も俺の案内をしてくれている女性がやって来た。
「すまないが、エアリーと一緒の部屋にして貰えないだろうか?」
俺が彼女に提案すると、すんなりと受け入れてくれて、エアリーと一緒の部屋に案内された。
エアリーと同じ部屋にするのは、帰って来る間にエアリーと念話で話し合って決めた事だ。
またいつ、勇者が襲って来るかも知れないからな。
それは良いとして、なぜダブルベッドなのかは深く追求しない事にしよう・・・。
風呂に交互に入って、運ばれてきた夕食を食べた俺達は、二人でベッドに潜り込み、また一緒に寝る事となった。
完全に俺の事を信頼しきっているエアリーに、手を出す訳には行かない・・・。
少なくとも、きちんとお互いの気持ちを確認するまではと自分に言い聞かせ、無理にでも眠るよう努力をした・・・。
私が勇者に言い渡したレッドドレイクの討伐は、見事終えて戻って来たようですが、少し様子がおかしいですね。
私はヴァームスを呼び出し、事情を聴く事にしました。
「教皇様、レッドドレイクは無事にラウドリッグと私で倒しました、しかし、マティルスの協力が無ければ勝てなかったでしょう・・・」
「そうでしたか、でもそれでいいのですよ、勇者パーティなのですから、協力して倒すのは当然の事」
「はい、ですが、ラウドリッグとマティルスの中は最悪です。
今日も二人で戦っていました・・・」
「ふむ、ですがそれも必要な事だったのでしょう、女神様はその様な事も見通して、皆さん達を選んだのですから」
「はい・・・ですが、マティルスは勇者のラウドリッグより強いのです!
女神様は勇者となるべき者を、お間違えになったのではないでしょうか?」
「その様な事を申してはいけません、女神様のお言葉は絶対なのです。
それに、もし仮に勇者がマティルスだったとしたら、真剣に魔族と戦うような人物に思えますか?」
「それは・・・思いません、マティルスは勇者パーティとしてやって行く気力を感じませんから」
「そうでしょう、強いだけでは勇者とは呼べないのです。
勇気を持ち、魔族と戦っていく、それが勇者なのです。
今後二度とその様な事は申してはいけません」
「はい、分かりました」
ヴァームスが退出してからしばらくして、勇者ラウドリッグが部屋を訪れて来た。
「勇者様、どうかなさいましたか?」
「教皇様、どうかあのマティルスを、パーティから外してください!」
「全ては女神様のお示しになられた通り、それを曲げる事は出来ません」
「ですが、あいつは俺の言う事を聞きません!
とても仲間だとは思えないのです!」
「そうですか?今回の討伐にも同行し、レッドドレイクとも戦ったと聞き及んでいますよ。
言う事を聞かないのであれば、討伐にも着いて行かないのではないでしょうか?」
「それはそうですが・・・」
「勇者とは自らの行いによって、仲間を引き連れていく者です。
今後、勇者様が率先して戦っていく事で、自ずと着いて来てくれるようになるでしょう」
「・・・分かりました」
勇者ラウドリッグは納得はしなかったようですが、退出して行きました。
勇者の育て方を間違えたようです、技術だけではなく、心も鍛える必要があったという事ですね。
今回の失敗は次の勇者育成に生かせばいい事、ですが、今回の勇者にはそれなりに活躍して貰わねばなりません。
不確定要素が多いですが、マティルスと言う強力な駒も手に入れました。
彼には、両親の分も働いて貰わなくてはなりません。
それに他の準備も整って来ましたし、何とか成果を上げて欲しい物です。
私は念話の魔道具に触れ、次の準備に取り掛かる事にしました・・・。
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