第十八話 聖女に会う

エアリーと楽しく会話しながら旅を続けていた。

「マティーさんの作る料理は、どれも美味しいですね」

エアリーは、俺が作った昼食を美味しそうに食べてくれていた。

「こんな場所ですから、そこまで大したものでは無いですよ」

「そんな事はありません、どれも味がしみていて美味しいですし、何よりすべて魔法で作られれるのは、素晴らしい事です。

皆様もそう思いますよね?」

「せやな~」

「うむ・・・」

シグリッドとパトリックは、エアリーに会話を振られて一応返事をしているが、二人にしてみれば面白くない状況だよな・・・。

だが、これは戦いなのだ、二人に譲ってやるわけにはいかない!

アベルに言われて、料理を頑張ってきたかいがあると言う物だ。

食事を終えて、移動を開始しても、俺がエアリーが乗る馬の手綱を握り、二人で会話を続けていく。

シグリッドは前を警戒しながら歩く役目だし、パトリックは何故か馬に怖がられているようで、近寄ることが出来ない。

そうして会話を続けていくうち、エアリーの事を色々知ることが出来た。

エアリーは孤児で、教会に保護されてから修道院で生活を続けていて。

治癒魔法が使えた事から、十三歳の時に戦争の医療従事者としてカリーシル王国に派遣されて。

戦争が終わった今、急に聖都に呼び戻されたと言う事だったらしい。

エアリーは現在十五歳、俺より一つ年下だ。

こんな清純で、可愛らしい女性を求めていた俺にとっては、まさに運命の出会いだったわけだ。

俺は何としても、エアリーと仲良くなりたいと思い、旅の間必死にアピールを続けて行った。

そして、楽しかった旅も、ネフィラス神聖国の聖都に着いた事で、終わろうとしていた・・・。

俺達は、聖都に入るために、検問を受ける列に並んでいた。

「ここで皆様ともお別れです、今までありがとうございました」

エアリーが俺達に別れの挨拶をしてきた。

「気にせんでええで」

「うむ、俺達の目的地もここだったのだからな」

シグリッドとパトリックはどうやら、エアリーの事は諦めたようだ。

「エアリーさん、俺は暫くこの国にいますので、また会いに来てもいいですか?」

「勿論です、私は教会にいますので、いつでもいらしてくださいね」

エアリーは俺に微笑みかけてくれた。

よし!エアリーと結婚するためお金を貯めて、定期的に会いに来ることにしよう!

俺はそう心に決めた。

そして、俺達が聖都に入る手続きを受ける番がやって来た。

「エアリー様、お待ちしておりました!馬車をご用意しておりますので、そちらにお乗りください!」

エアリーが身分証を提示すると、門番がエアリーに馬車に乗るよう、指示して来た。

「えっ?」

エアリーもなんだか意味が分からない様子で、困惑しながらも、馬車に乗せられていた。

「お連れの方も、別の馬車を用意しております!こちらにお乗りください!」

俺達も何故か強引に馬車に乗せられ、街の中へと馬車は進んで行った。

「どうなってるんだ?」

「分からへんな・・・」

「さっぱり分からないな、しかし、ここで馬車から降りれば捕まるのは間違いないだろう、大人しく着いて行くしかあるまい」

「せやな・・・」

パトリックが言うように、馬車には護衛の兵もついているため、とても逃げ出す事は出来なかった。

そして、俺達を乗せた馬車は大聖堂へと到着した。

「ここが女神教の総本山なのか?」

「せなや、見たのは初めてや」

「うむ、凄い建物だ」

俺達は大聖堂の内部に連れていかれ、そこで、パトリックとシグリッドとは別々にされた。

「私が、ご案内いたします」

修道服に身を包んだ女性が、俺を部屋へと案内してくれた。

部屋にはソファーにベッド、それに奥には風呂も用意されていて、既に湯気が立っていた。

「身を清めていただきますので、服を脱いでいただけませんか?」

身を清める?確かに旅で汚れているが、何故そのような事をしなければならないのだろうか?

俺が疑問に思っていると、女性が俺の服を脱がそうとしていた。

「えっと、自分で脱ぎますから・・・それで何故身を清める必要が?」

「詳しい事は私にはわかりかねます、ですが、大聖堂内で汚れた格好のままでいられては困ります」

理由は分からないが、とにかく体を洗えばいいんだな。

俺は防具を脱ぎ、下着を脱ぐところで止まった。

「えっと、見ていられると恥ずかしいのですが・・・」

女性は俺が脱いだ服と防具を片付けながら、俺の事を見ていた。

「そうですね、では私も脱がせて頂きます」

そう言うと女性は修道服を脱ぎ、素っ裸になってしまった。

「身を清めますので、下着を脱いでください」

俺は抵抗する間もなく下着を脱がされ、風呂場に連れていかれてしまった。

「お背中をお流しします」

訳が分からないまま、体を洗われて行く・・・。

ここは女神教の大聖堂内部・・・いかがわしいサービスを受けている訳では無いはずだ・・・。

俺はなるべく女性の裸を見ないように努力を続け、体を洗われている間、何とか理性を保つことが出来た・・・。

拷問の様な入浴を終え、用意されていた新しい下着と服に着替えさせられた。

「では、お寛ぎになって暫くお待ちください」

再び修道服に身を包んだ女性は、そう言って部屋を出て行ってしまった。

俺はどうすれば良いのだろう・・・一応部屋の扉を確認したが、外から鍵が掛けられていて出る事は出来ない。

魔法を使えば扉を破って外に出ることは出来ると思うが、街の中、それも大聖堂内で魔法を使ったとなると、間違いなく捕まってしまうな。

俺は諦めて、ベッドで横になって休むことにした・・・。


マティルスが体を洗われている頃、シグリッドとパトリックは別室で、法衣を着た人物と対面していた。

「この報告書に、間違いなはいのだな?」

法衣を着た人物が、二人に問いただした。

「間違いあらへん、炎滅と疾風にえらい鍛えられたんやろうな、魔法の腕はピカイチやで」

「それに、剣の腕前も相当なものだ、今は安物の剣を使っているが、良い剣を持たせれば、剣だけでも戦っていけるだろう」

「そうか、例の件はどうなった?」

「そちらも問題あらへん、マティーはんはエアリーの虜や、エアリーと一緒なら拒みはしまへんで」

「俺もそう思う!」

「ふむ、お前たちご苦労だった、報酬の金板百枚と家は用意してある、それと好きな女性を選んでいくと良い」

「おおきに」

「感謝する!」

二人は部屋を出て、一息ついた。

「ここまで四年半、頑張って来たかいがあったな」

「せやな、マティーはんには申し訳ないけど、任務やったさかいな」

パトリックとシグリッドは、初めからマティルスの監視要員として、ネフィラス神聖国から送られていたのであった。

理由は全て、マティルスの両親が原因だ。

いや、両親が組んでいたパーティ、ドリームチェイサーが原因だったのだ。

前回の勇者が、ネフィラス神聖国に認定されてから二百年以上、勇者は存在しなかった。

そして、ドリームチェイサーは冒険者パーティとして、類稀な強さを誇っていたため、例外ではあるが、パーティ全てを勇者と認める事にした。

しかし、パーティ全員が勇者になる事を断った。

断られると思ってもいなかったネフィラス神聖国は、非常に怒った。

それもそのはず、聖女が女神様からの神託を受け、勇者として認定しているのだから。

それを断られたとなると、神託が嘘であったという事になる。

ネフィラス神聖国はその事が公になってしまっては、信仰その物が揺らぐ事態となる。

その為、ドリームチェイサーを大聖堂から逃がすまいとしたが、強いパーティを捕まえる事は出来ず、国外へと逃亡されてしまった。

その出来事を期に、ネフィラス神聖国は冒険者から勇者を認定する事を諦め、子供を集めて勇者として鍛え上げる事にした。

だが、ドリームチェイサーの炎滅と疾風の子供となれば、話は別である。

ドリームチェイサーの中でも、ひときわ強かった二人の子供だ、どれだけ鍛えられているのか分からない。

そこで、監視を付け、実力が高ければ勇者か、もしくは勇者パーティの一員として、迎え入れる様にしていた。

パトリックとシグリッドの役割は、マティルスの監視と、マティルスに関する情報収集が主な任務だった。

その為、奴隷少女と言う餌で、マティルスから女性の好みを聞き出していた。

勿論、奴隷が売られていない事は承知の上だ。

情報収集も二人がする事で、マティルスに不要な情報が流れない様にしていた。

更に実力も偽っている、パトリックが剣を使えないと言うのも、シグリッドがナイフの扱いに慣れていないのも、全て嘘である。

パトリックとシグリッドは孤児で、女神教の教会に保護されて、勇者候補として子供の時より鍛えられていた。

しかし、勇者にするには実力が足りないと判断され、マティルスの監視役として派遣されていたのだ。

二人にとっては、あれだけの報酬を約束されれば、危険な魔族と戦う勇者より、大金を得て幸せに暮らす方を選ぶのは仕方のない事だ。

「ほな、マティーはんに、お別れを言いに行きますか」

「そうしよう」

パトリックとシグリッドは、マティルスがいる部屋へと向かって行った。


コンコン!

俺はベッドで眠っていた様だ・・・。

扉をノックしている音で目が覚めた。

「どうぞ!」

俺は慌ててベッドから起き上がって、声を掛けた。

「マティーはん、元気にしてまっか?」

「マティー、邪魔をする」

部屋に入って来たのは、シグリッドとパトリックだった。

「お前達、何もされなかったのか?」

「何言うてんのや、ここは大聖堂やで、そないな物騒な事あるかいな」

「まぁそうだな・・・」

二人共元気な様子で安心した。

「マティー、話がある」

パトリックが真剣な表情で俺を見て来た。

「リック、なんだ?」

「うむ、今日を持ってグリードを解散する事にした」

「えっ?」

俺は耳を疑った、もうすぐBランクになれると言うのに、パトリックは何を言っているのかと・・・。

「嘘やあらへんで、二人で相談して決めた事や」

「マティーに相談しなかったのは謝るが、こちらにも事情がある、その事はすぐに分かるだろうがな」

二人共申し訳なさそうな表情を浮かべていたが、意思は固そうだった。

「そうか、理由は教えては貰えないんだな?」

「すまない、俺の口からは言えない」

「分かった、リック、シグ、今までありがとう」

「ワイこそ、今までありがとう」

「マティー、元気でやれよ!」

二人と握手を交わすと、部屋を出て行ってしまった。

残された俺は、呆然と立ち尽くすばかりだ・・・。

どうしてこうなった?

エアリーと仲良くしていたのが悪かったのか?

それ以外に、パーティを解散する理由を見付ける事が出来なかった・・・。

これからどうして行けばいいのだろう。

一人では魔物を狩りに行く事は出来ないし、パーティを見付けるにしても、ビショップを入れてくれる所があるかどうか・・・。

いっその事冒険者を辞めて、何か商売を始める事にするか?

それなりに資金はあるし、田舎なら可能だろう。

一度相談しに、家に戻ってみるのもいいな・・・。

だがその前に、ここを出て行く事を考えないといけないよな。

先程、パトリックとシグリッドが部屋を出て行った際、また鍵を掛けられる音が聞こえた。

ここの人達は、何を考えて俺なんかを閉じ込めているのだ・・・。

そう思っていると、扉が開き、体を洗ってくれた女性が部屋に入って来た。

「大変お待たせしました、これより聖女様にお会いして頂きます、くれぐれも失礼の無い様にお願いします」

「せ、聖女だって?!」

「はい、聖女様です!」

女性は目つきを鋭くして、俺を睨みつけて来た。

「すみません、聖女様ですね・・・なぜ俺のような者に?」

「それは私には分かりかねます、私はただ貴方を聖女様の下へ連れて行くよう言われただけですので」

「分かりました、案内お願いします」

理由は分からないが、聖女に会えるらしい・・・。

まぁ、長い事部屋に閉じ込められて待たされたのだ、聖女の顔くらい見て行く事にするか・・・。

見たいか見たく無いかと問われれば、勿論見て見たいが・・・あまり女神教とは関わりたくは無いな・・・。

これまで女神教に関して聞いた話は、勇者とか神託だとか胡散臭い話ばかりだ。

しかし、各街にある教会では、孤児たちを保護して育てていたりした。

それが善意なのか、信者を増やすためなのかは分からないが、死なずに助かった子供達がいる事も事実だな。

俺には関係無い事だ、聖女に会って、さっさと出て行く事にしよう。

女性の後に着いて、廊下を歩いて行き、礼拝堂へと連れて行かれた。

奥には女神様を模ったような物も見える。

そこには数人の人が並んで立っており、俺もそこの横に並ばせられた。

ふと見ると、俺の横に立っていたのは、エアリーだった。

エアリーは俺の事を見ると微笑み返してくれた。

ここで声を掛ける訳には行かないよな。

暫くすると、法衣を着た人達が入って来て、最後に真っ白で美しい法衣を着た聖女が入って来て、俺達が立っている正面の一段高い場所にきた。

その時横にいた人達が、跪いて頭を下げたので、俺も見様見真似で同じようにした。

「聖女イシスティア様より、お言葉を頂きます、皆の者、面を上げよ」

一番豪華な法衣を着た男性が声を掛け、俺は頭を上げて、聖女の顔を見た。

とても美しく、聖女に相応しい容姿をしていた。

「本日、女神様より神託を受けました」

聖女様は透き通った美しい声で、そう言った。

どの様な神託かは分からないが、今からそれを聞かされるのか?

「ラウドリッグ」

「はい!」

「女神様の神託により、そなたを勇者と任命します」

「謹んでお受けいたします!」

一番端にいる男性が、勇者に選ばれた!

は?

あまりの出来事に、俺の思考は停止した・・・。

・・・。

女神教が勇者を選定している事は知っていたが、なぜ今?そして、なぜ俺はこの場にいるんだ?

「ヴァームス」

「はっ!」

「アリーヌ」

「はい!」

「エアリー」

「はい、聖女様!」

「マティルス」

「・・・」

「マティルス?」

「・・・」

「マティーさん、聖女様に呼ばれてますよ!」

エアリーに声を掛けられ、思考が回復した。

「エアリー、何か?」

「前を向いてください、聖女様が呼ばれています!」

エアリーは、必死に俺に前に向く用に教えてくれた。

俺が前を向き、聖女を見ると、やや顔が引きつっているようにも見える・・・。

「コホンッ、マティルス」

「はい・・・」

聖女に呼ばれたので、思わず返事をしてしまった。

「貴方方を、勇者を支える仲間に任命します」

「「「はい、全力で勇者を支えて行く事を、女神様に誓います!」」」

俺以外の三人が答えていた。

勇者を支える仲間・・・つまり、勇者パーティのメンバーに俺は選ばれたって事か?

冗談じゃない!魔族と戦うとか無理だろ!

そんなの死にに行く様な物だぞ!

俺は断ろうと、聖女に声を掛けようとした時、横にいるエアリーが俺の事を心配そうに見ているのが分かった。

そうだ・・・エアリーも勇者パーティのメンバーに選ばれたんだった・・・。

魔族とは戦いたくは無いが、エアリーが死にに行くのを黙って見過ごせるわけがない!

いざとなったら、呪いの指輪を外して、エアリーを抱えて逃げればいいか。

俺は覚悟を決めて、聖女を見つめた。

「私も、勇者を支えて行きます」

「期待していますよ」

聖女は、柔らかな笑みを浮かべ、俺達を見つめていた。

「勇者とその仲間達には、それぞれ、最高の装備と十分な資金を提供する」

高価な法衣を着た男性がそう述べると、聖女様は退場して行った。

「エアリーは、この事を知っていたのですか?」

「いえ、知りませんでした、ここに来て初めて教えられましたから。

ですが、マティーさんとご一緒出来るなら安心ですね、またよろしくお願いします」

エアリーはそう言って、俺に微笑みかけれくれた。

「勿論です、私もエアリーさんと一緒で安心できます」

エアリーを全力で守って行かなくてはならないな。

他の三人は、俺の事を見下すような目で見ている。

訓練所で散々投げかけられた視線だからよく分かる。

あまり関わらない様にしよう・・・。

「それでは皆様、明日装備をお渡ししますので、本日はゆっくりお過ごししてください」

俺たち一人一人の所に、修道服を着た女性が付き、俺はまた先程の部屋に戻されてしまった。

そして部屋に食事が運ばれて来て、一人寂しく食べる事となった。

いや、俺を洗ってくれた女性は横で待機しているのだが、無駄な事は話してくれないんだよね。

食事が終わると、また体を洗ってくれると言ってくれたのだが、もう身を清める必要は無いだろうと、自分で洗うと言って断った。

手を出せない女性の裸が、いかに凶悪なのかを思い知らされたからな・・・。

そして、寝る時も添い寝をしてくれると言ってくれたのだが、丁重にお断りをして部屋を出て行って貰った。

もしかして、手を出しても構わなかったのだろうか・・・しかし、ここは大聖堂の中だ。

俺に信仰心が無いとしても、ここで致す事ははばかられた。

それに、エアリーの事もある、もし、俺が修道女に手を出した事がばれたら、間違いなく軽蔑されるだろう。

やはり、手を出さなくて正解だな。

寝る前に、一応母親のシャルに報告をしておいた方が良いだろう。

俺は念話の魔道具に触れ、久しぶりに連絡を入れる事にした。

『ママ、聞こえますか?』

『聞こえるわよ、マティー久しぶりね、元気にしてたかしら?』

『はい、元気にしていました、それで報告があるのですが・・・』

『何かしら?』

『えーと、色々あって、勇者のパーティに入る事になりました』

『えっ、あっ、そ、そうなの』

珍しくシャルが、狼狽えている様だった。

『いけなかったでしょうか?』

『いえ、いけなくは無いわ、ただ少し驚いてしまっただけよ』

勇者のパーティーに入ったと聞けば、驚きもするか。

『勇者がどんな人物なのか、仲間がどんな人たちなのかも分からないのですが、大聖堂に連れて来られて、聖女から勇者の仲間に成れと言われました』

『そう、もうパーティから抜ける事は出来ないのね?』

『はい・・・』

『分かりました、魔族と戦うという事は非常に危険です。

ですので、アベルに渡された指輪は、魔族と戦う際には外す事を許可します。

全力で逃げなさい!分かったわね!』

『はい、必ず生きて戻って来ます』

『よろしい、後、女神教には気を付けなさい』

『はい・・・』

出来れば、ネフィラス神聖国に入る前にその事は聞きたかったです・・・。

指輪を外す許可をくれたという事は、やはり相当危険なのだな・・・。

全力で逃げるよう言われたし、遠慮する事は無いな。

何時でもエアリーを連れて逃げられるよう、準備をしておく事にしよう。

それにしても、パトリックとシグリッドは、俺が勇者のパーティに選ばれることを知っていてパーティを解散したのだろうか?

それとも、女神教から解散するよう迫られたのだろうか・・・二人に会って聞いて見れば分かる事だろうけど・・・。

最後に会った時、あの二人はいつもの装備を付けた状態だった、つまり俺が着替えさせられたような事は無かったのだろうから、この大聖堂にはいない事になるな。

これまでBランクを目指して頑張って来たのに、あまりにも悲しすぎるな・・・。

Bランクに上がったら、あの二人を信用して、呪文圧縮の事を話そうと思っていたのに・・・。

俺はあふれ出て来た涙をぬぐい、布団を頭までかぶって眠りについた・・・。


マティルスとの念話を終えた私は、困惑の表情を浮かべていたようです。

「シャル、どうかしたのか?」

「えぇ、ちょっと困った事になったのよ・・・」

私の表情を見て、アベルが心配そうにしていました。

「困った事?」

「今マティーから念話が入って、どうやら女神教に騙されて、勇者パーティに入れられたらしいのよ」

「何だと!そいつは不味い事になったな・・・」

「そうなのよ、どうしたらいいのかしら?」

「そうだな、でも心配する事は無いだろう、それくらい乗り越えられるよう鍛えたつもりだ!

マティーを信じて、帰って来るのを待ってればいいさ!」

アベルはそう言ってたけど、表情は心配そうにしていますね。

とは言え、私達に何か出来る事は無いのかもしれないですね。

いえ、一つだけありますね。

何もしないよりはましでしょうから、やって見る事にしましょう。


翌朝、いつもの様に夜が明ける前に目が覚めたが、鍵がかけられていて、部屋からは出る事が出来ない。

仕方が無いので、お風呂で体を洗う事にした。

また、女性から洗われてはたまらないからな・・・。

お湯は魔道具で出せてとても便利だ。

やはり、宗教関係にはお金が集まるのだろう。

この部屋の装飾類やベッドも、かなり高級品だしな・・・。

風呂に浸かって、これからの事を考える事にした。

俺の勇者パーティでやるべき事は、俺とエアリーの命の確保だ。

それ以外の者は知った事では無い。

勇者パーティをエアリーと抜けて逃げられればいいのだが、女神教シスターのエアリーがそれを望まないだろう。

と言う事は、魔族との戦闘中に逃げるしかないが、かなり難易度が高そうだ・・・。

しかし、そうしなければ勇者パーティを抜けることは出来ないだろう。

となると、俺が戦闘に参加するような事態を避けないといけない。

出来るだけエアリーの傍で、守るれるような立ち位置がベストだ。

エアリーは治癒魔法を使え、戦った事は無いと言っていたから、後方で待機している場所だろう。

俺がその場所にいるためには、攻撃魔法を使う訳にはいかない。

魔物も馬鹿では無いから、攻撃魔法を使えば襲って来るからな。

そうなるとエアリーを危険にさらしてしまう事になるし、エアリーから離れなければならなくなる。

勇者ともう一人の男は、体つきからして恐らく前衛だろう。

もう一人いた女は、魔法使いには見えなかったから、ナイフか弓を使うのではないだろうか。

となると、攻撃魔法を使うのは俺だけになるな。

これは、俺が攻撃魔法をまともに使えない役立たずだと、他の三人に思い込ませるしかないな。

わざと魔法を外すか、呪文を途中で間違えて失敗すればいいな。

よし、それでいこう!

もしそれで、勇者パーティを外されるような事になっても好都合だし。

その時は無理やりにでも、エアリーを連れて逃げよう!

エアリーには嫌われるかもしれないが、無駄死にさせるわけにはいかないからな。

考えがまとまったので風呂から上がり、着替えて待っていると朝食を持ってきてくれた。

朝食を食べ終えると、次に装備を持ってきてくれた。

俺が昨日脱いだワイバーンレザーアーマーは、俺が聖女に会っている間に回収されていてなかったからな。

「こちらが新しい装備となります、ご確認ください」

俺は受け取った装備を確認する。

今まで使ってたワイバーンではないな・・・これはもしかして、アベルが着ていた竜の鱗か?

俺は久々に鑑定して見た。

ドラゴンレザーアーマー : 物理防御強、魔法防御強。

やはりそうか・・・魔族と戦えというのだから、これくらい用意して当然だよな。

俺はドラゴンレザーアーマーを着用し、着心地を確かめる。

問題ないな、恐らく俺が装備していたワイバーンレザーアーマーのサイズを見て、調整したのだろう。

「着心地はいかがでしょうか?」

「問題ない」

「こちらが剣と杖でございます」

剣と杖も渡された、俺が使う武器も把握済みと言う訳だな・・・。

ミスリスロングソード : 刃の部分に魔精鋼が使用されており、魔力を流すことで一時的に強度を増すことが出来る。

エルダートレントスタッフ : 威力増大。

武器も良いものだな。

「飛行の魔道具と収納の魔道具です、収納の魔道具内には支度金として金板百枚も入っておりますので、ご自由にお使いください。

なお、お金が足りなくなった場合は、この大聖堂か、各王都にある教会へと申し出てください」

「分かりました」

金板百枚を用意するとか、恐ろしいな・・・。

このお金は出来るだけ使わずにいよう、何かあった場合は返せばいいからな。

「最後にこのカードは勇者パーティの証です、無くさないようお願いいたします」

俺は真っ白なカードを受け取った。

カードには、礼拝堂に在った女神像が描かれていて、裏に俺の名前が書いてある。

エアリーが、街に入る際に使っていたカードによく似ているな。

女神教徒が使っている身分証なのだろう。

つまり勇者は、お金を稼ぐ必要もなく冒険者でもない、魔族と戦うだけの存在と言う訳だな・・・。

分かってはいたが、徐々に恐怖が込み上げて来た・・・。

そんな俺の気持ちなど関係ないかのように、女性が俺に声をかけて来た。

「準備も整いました様ですので、皆様の所へ向かいましょう」

「はい・・・」

俺はローブを羽織り、女性の後ろについて部屋を出て行った。

今回は礼拝堂では無く、会議室のような場所に大きな丸テーブルが置かれていた。

「こちらに座ってお待ちください」

まだだれも来ていない席に俺はぽつんと座った。

それから昨日会った勇者パーティのメンバーが一人、また一人と集まり、最後に勇者が着て全員がそろった。

そこで勇者が立ち上がり、自己紹介を始めた。

「俺様が勇者のラウドリッグだ!このパーティのリーダーはもちろん俺様だ!今後俺様の命令には従ってもらう、そのつもりでいてくれ!」

精悍な顔をした、勇者ラウドリッグは言いたい事だけ言うと、ドカッと席に座った。

「俺は戦士のヴァームス」

屈強な体つきのヴァームスは、それだけ言って黙り込んだ。

不要な事は言わないタイプなのだろう・・・。

「あたいはハンターのアリーヌ、弓の腕前なら誰にも負けないよ!」

金色のポニーテールに筋肉質の体つきのアリーヌは、アマゾネスのような感じだな。

「私はシスターのエアリーです、治癒魔法が使えます」

エアリーはしっかりとした口調で話した。

女神さまから与えられた使命だと思っているのだろうな。

「俺はビショップのマティルス、魔法は初級魔法しか使えません」

俺がそう自己紹介すると、勇者とアリーヌが笑い出した。

「わははははは、ビショップで初級魔法しか使えないやつが、何でここにいるんだよ!」

「さぁ、俺にも分かりません・・・」

俺がそう答えると、勇者は笑いを止め、俺を睨みつけて来た。

「俺様のパーティに使えないやつはいらねぇ、出ていけ!」

おっと、いきなり首にされるとは好都合だな。

「そうですか、では失礼します」

俺は立ち上がり、部屋を出て行こうとしたが、ヴァームスに止められてしまった。

「まて、ラウドリッグ、聖女様がお選びになったのだ、それを反故にする訳にはいかん!」

「ちっ!いいか、俺様の邪魔をするようだったら、その時は殺すからな!」

ラウドリッグは俺を睨みつけた。

やれるものならやって見ろと言い返したいが、ここはぐっと我慢だ・・・。

このまま俺が使えない奴だと、知らしめなければならないからな。

エアリーは、俺の事を心配そうに見ている。

エアリーの事を忘れていた・・・ヴァームスに止められていなかったら、本当に部屋を出て行く所だった、危ない危ない。

俺は黙って、ラウドリッグの睨みつけているだけだった・・・。

しかし、ここに集まった三人は、とても強そうには見えないな。

俺と同じように装備は一流品を支給されている様だが、果たして魔族と戦えるだけの技量があるとは俺には思えなかった。

アベルと戦っても到底勝てそうにも無いし、下手をすると魔物にも勝てないんじゃないだろうか?

俺がそんな事を考えていると、この部屋に法衣を着た男性が入って来た。

「勇者様、自己紹介は終わりましたかな?」

「はい、終わりました!」

ラウドリッグは先程の横柄な態度から一変して、素直に答えていた。

偉い人には媚を売るタイプか・・・最悪だな。

「私は女神教の教皇、ノライテルと申します。

勇者パーティの皆様には、これより魔族と戦って頂く訳ですが、その前に仲間との連携を整える事が必要でしょう。

ですので、魔物レッドドレイクを狩って来て頂きます」

レッドドレイクと聞いて俺は驚いてしまった。

レッドドレイクは、Aランクの魔物でいわゆるドラゴンと呼ばれる魔物だ。

細かく分けるとドラゴンとは別なのだが、似たような物だな。

そんなのをいきなり倒して来いとは、魔族と戦う前に死ぬんじゃないのか?

「頑張って倒して来ます!」

「全力を尽くす」

「あたいも頑張るよ!」

三人は張り切っている様子だが、エアリーは不安な表情を見せていた。

エアリーは非戦闘員だからな。

「それと勇者様には、この魔導具をお渡ししておきましょう。

これは、魔族や魔物の強力な魔力を抑え、人並みにする魔導具です。

これを使えばどんなに強い魔族と言えども、倒せるはずです」

教皇は、指輪型の魔道具を手渡していた。

「ありがとうございます」

「では今日は準備をして、明日レッドドレイクを倒しに行ってください」

そう言って教皇は部屋を出て行った。

「俺様にかかれば、こんな魔導具が無くとも余裕で倒せるけどな!」

勇者は、手の平でポーンポーンと受け取った指輪を投げて遊んでいた。

「準備はどうする?」

「そんなもん必要ねーだろ?飛行の魔道具で飛んで行って、倒して帰って来るだけだ!」

「それもそうだな」

ヴァームスが勇者に尋ねたが、必要無いと斬り捨てていた。

「じゃぁ今日は、ゆっくり過ごせるね!」

「そうするか」

アリーヌが勇者の腕に抱き付くと、二人で部屋を出て行った。

「俺も失礼する!」

続いてヴァームスも部屋を出て行き、俺とエアリーだけが残された。

「マティーさん、どうしましょう?」

エアリーはどうしていいのか迷っている様子だ。

何しろエアリーは、狩りとか行った事無いのだからな。

「取り合えず、街に必要な物を買いに行きましょう」

「はい、よろしくお願いします」

エアリーは笑顔で応えてくれた。

何としてもこの笑顔を守り切らなければならない、そう決意して二人で街に買い物に出掛けて行った・・・。

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