第十七話 Bランク冒険者を目指して

俺達はBランクの冒険者を目指し、最初の一匹目として現在ヒドラの討伐に向け、魔物が住む森の中を慎重に進んでいた。

先頭を歩くシグリッドが合図を出し、進む方向を変える。

皆で話し合って、ヒドラに会うまで出来る限り戦闘を避けて行く事にしたからだ。

今回の目的はお金儲けでは無い事から、ヒドラの所に行くまで体力を温存しておく作戦だ。

何しろヒドラが生息している地域まで、道が無い場所を三日も歩いて行かなければならないからだ。

Bランクの魔物が住む地域の近くに、人が住めるはずもないからな。

そうして三日かけて、ヒドラが住む草原へとやって来た。

「ここが目的の地や」

「それで、ヒドラが来るまで待ち続けるのか、それとも探して歩くか?」

「そうだな、待っている方が安全だろうが、いつ来るか分からないのを待つのは辛い、多少危険でも探し回った方が良いのではないか?」

「せやな、ワイは賛成や」

「ではそうするか」

三人の意見は纏まり、ヒドラを探して草原を移動する事にした。

・・・半日ほど探し回って、ようやくヒドラを見付けた。

ここに来るまで、ワイルドボア、コカトリス、グリーンスネーク等様々な魔物に襲われた。

草原で隠れる場所も無かったから仕方のない事だが、結構疲れている。

幸い、ヒドラはまだこちらに気が付いてはいない様子だ。

「どないしましょ?」

「十五メートルはありそうだな、あれの突撃を受け止めるのは無理だぞ!」

「リックは、ヒドラの頭の攻撃だけを防ぐようにしてくれ」

「分かった、だが、全ては無理だぞ!」

「俺に来た分は、自分で何とかする。

シグは見つからない様に、離れた場所で伏せていてくれ!」

「ワイの事は気にせんと、ヒドラに集中してや」

戦闘となったら、シグリッドに気にかけている余裕は無くなるだろうからな。

俺とパトリックは、姿勢を低くしてヒドラに近づいて行った。

ヒドラの首の数は五つか、まだ若い個体の様だな。

ヒドラは年数を重ねて行くと首の数が増えて行くようで、今の所確認されているのは九つが最高の様だ。

首の数が少ないのは助かる。

俺はパトリックに合図を送り、呪文を唱えた。

「我に集いし力の根源よ、揺らめく炎となり、その姿を矢に変えて敵を貫け!ファイヤーアロー」

放たれた炎の矢は、ヒドラの五つある一つの頭に命中した。

「やったか!」

パトリック、それはフラグですね・・・。

俺は結果を確認するまでもなく、次の詠唱を始めた。

「我に集いし力の根源よ、揺らめく炎となり、その姿を矢に変えて敵を貫け!ファイヤーアロー」

二発とも同じ頭に命中したが、ダメージを受けているだけで、倒せている訳では無い。

「来るぞ!」

パトリックが盾を構えてヒドラを迎えようとしていたが、予想外にヒドラの動きが早い!

「リック避けろ!」

俺が叫ぶと、リックは右側に飛んで避け、俺は左側に飛んでヒドラの突進を交わした。

大型ダンプカーが突っ込んでくるようなものだ、人の身で受け止められる物では無い。

俺は素早く起き上がり、ヒドラが振り返る前にファイヤーアローを撃ち込んだ。

「一本は倒したぞ!」

「マティー尻尾だ!」

首の一本を倒し、次の詠唱をしていると、パトリックが叫んだ!

俺は慌てて後ろに飛びのくと、目の前を太い尻尾が通り過ぎて行った。

危なかった!

「マティー大丈夫か?」

「問題無い!」

「俺が引き付けるから、残りも頼む!」

パトリックはそう言うと、ヒドラに向け突進して行った。

俺はシグリッドが伏せている所から離れるように移動した。

ここなら、シグリッドにもパトリックにも聞かれる事は無いだろう。

俺は呪文の圧縮を使い、三連続で唱えた。

「力、炎、矢、ファイヤーアロー」

三つの炎の矢がヒドラの頭に命中し、二つ目の頭を倒した。

残り三つだが、そこでヒドラを抑えていたパトリックが咥えられ、遠くに投げ飛ばされた。

「うおぉぉぉぉぉ!」

飛ばされただけなので、大丈夫だろう!

パトリックの心配をしている場合ではない、ヒドラが俺に向けて突進してきている。

「大地、力、障壁、ストーンウォール」

俺の前にストーンウォールを出し、ヒドラの視線を切って横に走って逃げた!

「ドッカーン!」

案の定俺のストーンウォールはバラバラに砕け散り、ヒドラを受け止める事は出来なかった。

「力、炎、矢、ファイヤーアロー」

その隙に、もう一個の頭を潰した。

後二個!

残り二本になった所で、残った頭が倒れた首を食べ始めた!

俺の位置からは、視線が斬れていて頭を狙う事が出来ない。

「力、炎、矢、ファイヤーアロー」

苦し紛れに、胴体に打ち込んでみたが、焦げた程度で大したダメージは無さそうだ。

「足を狙え!!」

起き上がって来たパトリックが、大声で指示してきた。

俺は右後ろ足に向けファイヤーアローを撃ち込んだ。

「「ギャァァァァス!」」

二体の首が叫び声を上げ、こちらを向いた。

「元に戻っている!」

ヒドラの首が、四本に戻っていた。

五本に戻った訳では無いが、また減らさなければならないのか・・・。

気落ちしている場合では無い、俺は気合を入れなおして、こちらに向かって来るヒドラを見据えた。

「マティー、足だ!まずヒドラの足を止めてくれ!」

パトリックが、こちらに近づいて来ながら、そう叫んだ。

足か、確かに再生する首を狙うよりかはましだな。

俺は呪文を唱えながら、突進して来るヒドラを横に飛んで躱し、すれ違いざまに足に向け魔法を放った。

「「「「ギャァァァ!!」」」」

ヒドラは痛みに叫びながらも、一体の首が俺に向かって噛み付いて来た。

何とか躱そうとしたが、左足を噛みつかれてしまった。

「ぐあぁぁぁ!」

ボキボキと骨の折れる音が聞こえて来る。

「力、炎、矢、ファイヤーアロー」

痛みを堪えて、噛みついている頭に向け魔法を放つと、噛み付いている足を離してくれた。

「マティー、俺が守っている間に、傷を治せ!」

パトリックが俺を守る様に、ヒドラとの間に入ってくれた。

「癒しの女神よ、我が力を用いて、傷を癒したまえ、ライトヒール」

治癒魔法を唱えると、痛みが和らぎ、足も動かせるようになった。

俺は慌てて立ち上がり、ヒドラとの距離を離した。

ヒドラは、パトリックに次々と襲い掛かっている。

グズグズしては、パトリックが危ない!

「大地を覆いし小さき者達よ、我にその強固な力を貸し、敵を打倒せ!ストーンショット」

パトリックの背後から、ヒドラの足に向け次々と魔法を撃ち続けた。

「マティー、ヒドラが足を止めた!首を狙って止めを刺してくれ!」

パトリックの指示に返事をする時間も惜しい、俺は呪文を唱える事に集中し。

パトリックが倒れる前に、ヒドラの首をすべて倒す事が出来た。

ズズーン!

大きな音を立て、ヒドラの巨体が横に倒れた。

「リック、今治療するからな!」

俺はパトリックに駆け寄り、治癒魔法を何度も掛けた。

「マティー、もう大丈夫だ、ありがとう」

「リック、こちらこそ、ありがとう」

パトリックがボロボロになりながら、ヒドラの攻撃を防いでくれていなかったら、まだまだ戦いは続いていただろう。

「もう大丈夫でっか?」

シグリッドが恐る恐る近寄って来た。

「確認する!」

パトリックが、倒れているヒドラに近づいて行った。

「もう大丈夫だ、収納するぞ!」

「頼む」

パトリックは、ヒドラを収納し、こちらに戻って来た。

「お二人共、お疲れさん」

「危なかったが、何とか倒せたな・・・」

「そうだな、しかし、マティーはよくかまれた状態で呪文を唱える事が出来たな」

パトリックが不思議そうに俺に尋ねて来た。

「あぁ、訓練所でナディーネに散々斬り刻まれたからな・・・」

「マティーはんがマゾやっちゅー、噂になとった事やな」

「冗談かと思ってたが、本当に斬り刻まれてたんだな」

二人は俺を、可哀そうな物を見るような目で見ていた。

「そのお陰で死なずに済んだ、ナディーネには感謝しておかないとな」

「せやな」

「「「わははははは」」」

三人で大笑いをした。

「ほな戻りましょか」

「そうだな、こんな所にいてはまた襲われてしまう」

「急いで草原を出よう!」

シグリッドに先導して貰い、足早に草原を抜け、森の中で安全を確保して野宿する事にした。

それから三日かけ、ハリスの街に戻って来た。

皆疲れていたので、冒険者ギルドには向かわず、宿屋に直接戻って来た。

食堂に行き、夕食を食べながら、話し合いを行う。

「次はワイバーンや」

「そうだな、だが少し、防具を修理する時間が欲しい!」

パトリックの装備は、ヒドラとの戦闘でボロボロだ。

「提案がある、パトリックの防具を、ヒドラを売ったお金でより良い物にしないか?

足りない様であれば三人で出し合おう、そうしないと今後より危険な目に遭った時、俺達は死ぬだろう」

俺の提案を受け、二人は考え込んでいた。

「ワイは賛成や、リックはんがおらんかったら、全滅するのは目に見えてるさかい」

「・・・いいのか?自分の金で新しい防具も買えるが?」

「構わない、いくらお金を貯めても、俺達が欲しい物は買えないからな」

「わははは、そうだな、それなら遠慮なく新しい防具を買って貰う事にする!」

「明日は、買い物と休息でええんやな?」

「そうしよう」

食事を終え、風呂で汗を流した俺達は、すぐにベッドに倒れ込んで眠った。


翌日、冒険者ギルドでヒドラを換金し、パトリックの防具を買いに行った。

三人で色々迷った結果、その店で一番いい防具と盾を買う事に決まった。

どちらも魔精鋼が所々に使われており、埋め込まれている魔石に魔力を流すと、強度が上がると言う素晴らしい物だった。

重量も、今まで使っていた物より軽く、動きやすくなったとパトリックは満足していた。

パトリックに魔石に貯める魔力は無いから、それは俺がやる事になっている。

大抵前衛を務める者には、魔力が少ない者が多いから、後衛の者が魔力を供給してやるそうだ。

その分高くて、鎧と盾二枚で金板十一枚掛かったが、すぐ取り戻せるだろう。

何しろ、ヒドラを売ったお金は、金板一枚と金貨五枚になったからな。

流石Bランクの魔物だ、肉も皮も魔石も高く買い取って貰えた。

装備を揃え、ゆっくり休息をとった俺達は、ワイバーン、キマイラと順調に倒せる事が出来た。

やはり、パトリックの防具を揃えたのは正解だった様だ。

パトリックも、鎧の性能に驚いていたくらいだからな。

ケルメース王国にいるBランクの魔物三種類を倒し、情報を集める為、ケルメース王国の王都へと俺達は向かった。

王都に着くと、街はお祭りの様に大賑いしていた。

「何かあったんだろうか?」

「この時期に、お祭りがあるとは聞いてへんな」

「冒険者ギルドで聞いて見れば分かるだろう」

冒険者ギルドに行き、話を聞くと。

カリーシル王国の王都に攻め込み、王を討ち取ったとの事だった。

ついに戦争に決着が付いたんだな。

それなら街のお祭り騒ぎも、納得できるものだ。

俺達は宿屋を取り、それぞれ別行動をして情報を集める事となった。

俺はいつもの様に市場へと向かい、食料の買い出しだ。

戦争に勝ったという事で、いつもより安く売っていたため、多めに買ってしまった。

まぁBランクの魔物を狩りに行くと、最低一週間はかかるから、多い分には問題は無い。

その後は街をぶらぶらして、久々にラーメンを食べて満足し、宿屋へと戻った。

その夜、いつもの様に三人部屋を借りた俺達は、集めた情報の共有を行う事にした。

最近稼いでいるから、一人部屋を借りても問題は無いのだが、三人一緒の部屋で寝る事に慣れてしまったので、別々の部屋を取る必要も無くなった。

野宿の時はさらに近い位置で寝るからな・・・。

「まず、ワイから話しましょ。

カリーシル王国が戦争に負けたせいで、あの地での活動は厳しい物になってもーた。

理由はヴァルハート王国や。

カリーシル王国の敗戦が濃厚になって来た時、ヴァルハート王国に近い位置にある貴族達を囲い込み、ケルメース王国がまだ奪っていない所を占領してしまったんや。

囲い込まれたケルメース王国の貴族達は、そのままやったら殺されてまうからな、それならヴァルハート王国で地位が下がったとしても、領地を売った方がええちゅー話やな。

それで、ケルメース王国とヴァルハート王国の間でにらみ合いが続いとるさかい、向かう事は出来へんのや」

「なるほど、それならネイナハル王国に戻るのか?」

「そうやない、ここから一番近いネフィラス神聖国に向かうのが楽でええねん。

ネフィラス神聖国の西には、リッチが治める管理地があるねん。

そこにはアンデッドが仰山おって、冒険者のいい稼ぎ場やねん。

そしてそこに、Bランクのバンシー、デュラハン、コープススパイダーがおるねん。

最後のコープススパイダーだけは、アンデッドやないが、その他の魔物には治癒魔法がよう効くんや」

「しかし、管理者が出て来るんじゃないのか?」

「いや、管理者のリッチは人が入って来る事を歓迎してるんや、何故なら、新たなアンデッドとなってくれるさかい・・・」

「なるほど・・・」

「アンデッドは、死体と魔力がある程度集まれば、自然と産まれて来るからな・・」

「せやねん、そこで三種類を倒したのち、ネフィラス神聖国の北にあるラクシュム王国、通称ドワーフ王国に向い。

バジリスクとサイクロプスを倒せば、晴れてBランクや」

「ふむ、俺はその案で構わないが、マティーはどうだ?」

「そうだな・・・カリーシル王国であった場所が難しいとなると、このまま北に進むしか無いか・・・分かった、それで行こう。

ドワーフ王国にも興味があるからな」

「そうだな、俺も興味がある」

「なら決まりやな」

ドワーフはまだ見た事が無いが、やはり背が低くて髭が生えているのだろうか?

楽しみだが、アンデッドを倒してからだな。

「俺からの情報は戦争に関しての事だが、先程シグが言った通りだ。

付け加えるなら、ネフィラス神聖国が送り出した勇者候補者達の活躍で、戦争が終わったという事だな。

おそらくその者達の中から、勇者が選ばれるのだろう」

「勇者か・・・俺達には関係のない話だな」

「せやな」

「そうでもない、勇者のパーティに入る事が出来れば、金と女に困る様な事にはならないぞ」

俺とシグリッドは、女に困らないと聞いて、にやりと笑った。

「でも、パーティに入れたの話しだろ、Cランクの俺達にはやはり関係が無い様に思える」

「せやな・・・」

夢が潰えた俺達は、女に飢えていた・・・。

だが誰でも良いと言う訳では無い、それならお金がある今となっては、娼館に行けば、いい女を好きなだけ抱けるのだから。

俺達三人は、いまだに童貞だ。

二人が童貞か確認した事は無いが、多分そうだろう、こうして行動を共にしていて、誰も夜抜け出したりしないのだからな。

それにやはり最初は、好きな女性とやりたいと俺は思う。

その女性を手に入れる為、こうしてBランクを目指し、そしてさらに上を目指したいと思っているのだから。

「ほな、明日からネフィラス神聖国に向かうのでええな?」

「「構わない」」

「また歩いて行くんか?」

「「その通りだ」」

シグリッドの問いかけに、パトリックと俺は声を合わせて答えた。

歩いての移動は、いい鍛錬になる。

魔物と戦うのはいい経験になるが、体を鍛えると言う意味ではあまり効果が無い。

唯一体を鍛えられる時間と言うのが、街を移動する間だけだからな。

シグリッドは嫌そうな顔をしているが、今までもずっと一緒に歩いて移動していたから問題は無い。

話し合いも終わり、明日に向けて就寝となった。


翌朝、ネフィラス神聖国の聖都に向け旅立った。

日程は一ヶ月の予定で、急いでいる訳では無いので、今回は宿屋に泊まりながらゆっくり行くつもりだ。

街を出て一時間くらい歩いた所で、シグリッドが足を止めた。

「前方に殺意を持った集団がおるで」

「盗賊か?」

「分からへんけど、避けて行きまっか?」

俺達が悩んでいると、女性の悲鳴が聞こえて来た。

「キャァァァァァ!!」

俺は迷わず走り出した!

「マティー俺も行く!」

俺を追いかけるようにパトリックも付いて来た。

「シグは隠れていてくれ!」

「言われんでも分かってます」

シグリッドは道端の茂みに隠れ込んだ。

暫く走って行くと、馬に乗った一人の女性を数人の男性が囲んでいた。

「あれはホーリーシールドだな、リックはホーリーシールドが切れた場合、女性を守ってやってくれ」

「分かった、マティーは大丈夫か?」

「大丈夫だ!」

そうは言った物の、人に攻撃するのは初めての事だ・・・。

訓練では、アベルと毎日戦っていたため問題は無いだろう、しかし、死をかけた戦いとなると別だ。

俺は気合を入れて、呪文を唱えた。

「全ての命の根源である水よ、我の元に集いて氷結し、氷の刃となりて敵を撃て!アイスショット」

俺が撃った魔法は、女性を取り囲んでいる男の体を貫通し倒れた。

氷を使った為血は流れていないが、多分死んだのだろう・・・。

「仲間がやられたぞ!魔法使いを先に狙え!」

女性を襲っていた者達は、一斉に俺の方に向かって来た。

五人か・・・全員剣を持っている所を見ると、魔法使いはいない様だな。

俺は右手に構えた剣で、相手の剣を受け流し、呪文を唱える。

「全ての命の根源である水よ、我の元に集いて氷結し、氷の刃となりて敵を撃て!アイスショット」

もう一人に命中し、動かなくなった。

「こいつ強いぞ!仕方が無い、逃げるぞ!」

残った三人が逃げ出したが、ここで盗賊を逃がすと、また新たな犠牲が生まれてしまう。

「逃がすかよ!」

パトリックが盾を振り回して、逃げた三人を倒し。

俺は倒れた相手に向け、剣を突き刺して止めを刺した。

「はぁはぁ・・・」

全員を倒し、一息ついた所で体が震えて来た・・・。

初めて人を殺してしまった・・・今まで盗賊に襲われた事は無かったからな。

男三人の冒険者を襲う盗賊がいなかったと言うだけの話であって、盗賊の噂は各地で聞いた事がある。

盗賊に捕まった者は、身ぐるみはがされて殺されるか、奴隷として売られて行く。

襲われる側からすれば、たまったものでは無いし、冒険者ギルドからも盗賊を見かけた際には、殺すか捕らえるかするように言われている。

殆どの冒険者は殺している様だ、捕まえて街まで運ぶ苦労を考えると、その場で殺した方が楽だからな。

「マティー大丈夫か?」

パトリックが心配そうにしていた。

「あぁ、大丈夫だ」

「そうか、それなら死体を燃やしてくれ」

「分かった」

盗賊の死体は、パトリックが既にまとめてくれていた。

「我に集いし力の根源よ、荒れ狂い燃え盛る炎となり、その力を集結し敵を燃やし尽くせ!ファイヤーボール」

俺の魔法によって、死体が焼ける匂いが立ち込めて来る。

俺はその光景を見ない様に背を向けた。

そこに、襲われていた女性が駆け寄って来た。

「助けて頂いて、ありがとうございます。

ですが、殺してしまう事は無かったでしょうに・・・」

女性はそう言うと、燃えている死体の前に跪き、祈り始めた。

「女神様、どうか迷える魂をお導き下さい」

女性は祈り終えると、立ち上がってこちらに来た。

「私の名はエアリー、襲われている所助けて頂き、ありがとうございました」

「大したことではありません、ですが、なぜ一人で旅をしているのですか?」

女性の一人旅はとても危険で、普通は乗り合いの馬車で移動するものなのだが。

「聖都に緊急の要件で行かなくてはなり、馬車の都合と合いませんでしたので仕方なく・・・」

「そうですか、それでも冒険者ギルドで護衛を雇うとかした方が良いですよ」

「そうなのですが、先立つ物が無くて・・・」

エアリーは申し訳なさそうに答えてくれた。

「マティーどうする?」

パトリックが小声で話しかけて来た。

「こんな可愛らしい女性をほっとけると思うか?」

「思わないな・・・」

二人の意見は纏まった。

「俺達もネフィラス神聖国の聖都に向かう所だったので、一緒に行きませんか?」

「本当ですか!是非ご一緒させてください!」

「構いません」

「これも女神様のお導きですね」

エアリーは再び祈りを捧げていた。

「マティはん、その女性と一緒に行くんでっか?」

「シグは反対か?」

「そんなことあらへん、むしろ歓迎や!」

「そうだよな」

俺達三人の意見は一致した。

「自己紹介をしておこう、俺はマティルス、マティーと呼んでくれ」

「俺はパトリック、リックで頼む!」

「ワイはシグリッド、シグでええで」

「私はエアリーと申します、マティーさん、リックさん、シグさん、聖都までよろしくお願いしますね」

エアリーは優しく微笑んでいた。

俺はその微笑に見惚れていた。

いや、俺だけじゃ無いな、二人も同じ様に呆けている。

今まで女運が無かった俺達にも、ようやく運が向いて来たのだろうか?

俺達三人にエアリーが加わり、四人でネフィラス神聖国の聖都まで楽しい旅をする事となった・・・。

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