第十六話 ゴブリン 結婚する

俺は久しぶりに、クリスティアーネの屋敷に帰って来た。

留守の間、屋敷の管理はエリミナに任せてきたが、間違いなく埃まみれになっている事だろうな・・・。

俺は意を決して、屋敷の玄関を開け、中に入った。

・・・俺の予想と反し、屋敷の中は俺が出て行った時と同じ状況・・・いや、もっと綺麗になっているな。

エリミナがやったと言う事は無いだろう・・・まぁ大体の予想は出来ている。

俺が龍族の所に修行に行った後、クリスティアーネの眷属が一人増えている。

これは眷属として繋がっているから、何処にいても存在が分かる。

ただ、新しく眷属になった者が、どんな人なのかまでは分からない。

大方、クリスティアーネとエリミナが、家事をするのが嫌で、家事の出来る者を眷属にしたのだろう。

俺も一人でこの屋敷の家事をするのは大変だったので、手伝ってくれる人が増えることは喜ばしい。

「ただいま戻りました!」

俺が声をかけると、エリミナが駆け寄って来た。

「お帰りニャン!」

久々にエリミナの可愛らしいポーズを見たような気がする。

「エリー、ただいま、クリス様はどうしたのだ?」

「今取り込み中ニャン!ベルは先にお風呂に入ってくるニャン!ちょっと匂うニャ!」

エリミナにそういわれて、改めて自分を見ると、確かに汚れていて匂うな・・・。

修行中風呂に入る余裕もなかったから仕方がないが、クリスティアーネの前に出る前に体を綺麗にしておかないといけないな。

「そうだな、先に風呂に入ってくるよ」

「上がったら、食堂に来てニャン!」

俺は直接風呂に向かった・・・脱衣所に洗濯物も溜まってはいないな。

余程いい人を眷属にしたようだな。

俺は気持ちよく汚れを洗い流し、湯船に浸かって、久々にゆっくりと体を休めた・・・。

お風呂から上がり、さわやかな気持ちになった。

エリミナが食堂に来いと言っていたな、帰って来て早々何か作らされるのか・・・まぁそれはいいか、何か材料があればいいけどな。

俺が食堂に近づくと、いい匂いが漂って来た。

俺が作るのではなく、すでに用意されているのか。

食堂に入ると、クリスティアーネとエリミナが席に座っており。

新しく眷属となった女性が、俺の事を見て固まっていた・・・。

いきなりゴブリンが現れれば、固まってしまうのは仕方がないな・・・。

「クリス様、ただいま戻りました」

「うむ、お帰り、無事強くなれたようだの」

「はい、龍族のお陰で、吸血鬼になることが出来ました」

「それは良かった、これからわれの事をしっかり守ってくれよ」

「はい、この命に代えても、クリス様を守り抜きます!」

この世界に転生して来て、クリスティアーネの眷属にして貰っていなかったら、既に冒険者に殺されていたかもしれない。

冒険者となってから知りえた事だが、当時の俺は黒い悪魔として、Bランクの魔物に指定されていた。

どういう訳か、あの時出会った冒険者に討伐された事になっていたのだが、それはそれで好都合だし。

俺が生きていると証明する訳にもいかないからな。

結果として、クリスティアーネの眷属にして貰った事で、命を助けられたわけだ。

その恩には報いるし、何より自由に街に行き来する事も出来るようになった。

ゴブリンとして生活していた頃には、街に行くなんて考えられない事だったからな。

これからも、もっと精進して、クリスティアーネを支えていく事に全力を尽くすことにした。

「うむ、ベルも気付いていると思うが、新しく眷属にした者で、名をセレスティーヌと言う」

「セレスティーヌさん、私はべりアベルと申します、ベルと呼んでください、よろしくお願いします」

俺がセレスティーヌに挨拶をすると、今まで固まったまま動かなかったセレスティーヌが、ビクッとしてようやく動き出した。

「わ、わ、わ、私はセレスティーヌ・・・セ、セ、セレスと呼んで、く、ください!」

セレスティーヌは緊張した面持ちで、俺に挨拶をしてくれた。

「セレスは人であったからの・・・」

クリスティアーネが、俺を見て怯えている?セレスティーヌを庇ってくれた。

それなら、ゴブリンの俺を見て固まったり、緊張するのも分かるな。

それも最初のうちだけだろう、この顔を変えることは出来ないし、セレスティーヌには慣れて行ってもらうしかないな・・・。

「それより早くご飯にするニャン!」

エリミナの言葉で、セレスティーヌが再び動き出した。

「そ、そ、そ、そうでした、た、ただいま準備をします!」

セレスティーヌは慌てて、台所に戻って行った。

俺もそれを手伝おうとしたが、クリスティアーネに止められた。

「ベルも座っておれ、今ベルが向かうと怖がらせてしまうのではないかの?」

「そうですね・・・」

俺は大人しく席に座った。

ゴブリンの俺が近づいては、余計怖がらせてしまって、準備の邪魔になるだけだな。

暫く待っていると、セレスティーヌが俺達の前に食事を運んできた。

肉料理をメインに、煮物、スープ、サラダ、デザートとかなり豪華な食事だ。

準備を終えたセレスティーヌが席に座ると、クリスティアーネの挨拶で食事が開始された。

「これはベルが無事修行を終えたお祝いで、セレスが頑張って作ってくれたものだ」

「セレス、ありがとうございます」

「ど、ど、ど、どういたしまして・・・」

セレスティーヌはまだ俺の事が怖いのか、やや俯き加減でこちらを見てはくれなかった。

「では頂くとしよう」

「頂くニャン!」

「頂きます」

俺達は用意された豪華な食事を食べ始めた。

「これは美味しいですね!」

「そうだの!」

「美味しいニャン!」

かなり時間をかけて煮込んだのだろう、しっかり味がしみていて美味しい。

肉料理もしっかり下味が付けられていて、肉の臭みも消されていて美味しく食べられる。

これなら料理はセレスティーヌに任せた方がいいだろうか?

それとも交互にして分担した方がいいかな・・・それはまた後で話し合って決めればいい事だな。

セレスティーヌが俺を怖がって話してくれない可能性もあるが・・・。

その時は、紙に分担を書いて渡せばいいか。

食事を終え、俺は先に休ませてもらう事にした。

肉体的には全く疲れてはいないが、精神的にかなり参っているからな。

今日くらいはゆっくりベッドで横になりたかった。

部屋に戻ると、室内も綺麗に掃除されていた。

セレスティーヌには、明日にでも感謝の言葉を述べないといけないな。

ベッドに横になり目を瞑っていると、ドアをノックする音が聞こえて来た。

「セ、セレスティーヌです」

「はい、今開けます!」

俺はベッドから起きて、ドアを開けた。

そこには、俯いたまま立っているセレスティーヌの姿があった。

「何かありましたか?」

「あっ、い、いえ、何かあった訳ではないのですが・・・」

セレスティーヌは俯いたまま、何か言いたそうな感じだ・・・ここは焦らず、ゆっくり彼女が話してくれるのを待っていた方がよさそうだな。

「・・・あのっ!こ、こ、これを読んでください!」

セレスティーヌは顔を真っ赤にして、俺の顔を見ると、手に持っていた紙束を差し出してきた。

俺はそれを受け取った。

「で、で、では、失礼します!」

セレスティーヌは俺に紙束を渡すと、走り去ってしまった。

俺は部屋のドアを閉め、机の椅子に座り、渡された紙束を見た。

どうやら、数通の手紙のようだな。

俺は一番上の手紙の封を切り、中の紙を取り出して読んだ。

・・・・・・・。

・・・。

全ての手紙を読み終えた後、ベッドに転がり・・・ゆっくり寝るつもりだったが、翌朝まで眠れない夜を過ごすことになった・・・。


私は、今日ベルさんが帰ってくるとクリス様から知らされ、お祝いの料理を頑張って作りました。

「ただいま戻りました!」

玄関からベルさんの声が聞こえてきました。

勿論魔族語ですが、既に会話程度の魔族語は習得済みです。

まだ書くのは苦手ですが、読む事も出来る様になりました。

私は急いでお迎えに上がろうかと思ったのですが、クリス様に止められました。

「セレス、待つのだ、ベルには先に風呂に入って貰おう、どうせ修行で汚れておるだろうからの、エリー、ベルを風呂に入れて来てくれぬか?」

「分かったニャン!」

では私は、料理の最後の仕上げをして待つ事にしますか。

料理が完成した頃、ベルさんが食堂に現れました。

「クリス様、ただいま戻りました」

聞きなれたベルさんの声で話しているのは、黒い肌のゴブリンでした・・・。

そこからの記憶が曖昧です・・・。

皆さんと話した事は、朧気ながらも覚えてはいるのですが、頑張って作った食事の味も良く分かりませんでした。

ゴブリン・・・私も幼い頃から、村を襲ってきたゴブリンを何度か見かけた事があります。

幸い、村には冒険者を引退した人達が守っていたので、被害が出た事はありません。

ですが、死んだゴブリンの顔は怖く、ベルさんの顔を見て当時の事を思い出し、恐怖を覚えてしまいました。

私も吸血鬼となった事で、魔族に対して嫌悪感を持つ事は無くなったのですが、ゴブリンは魔族では無く魔物です。

魔族と魔物の違いは、人の知識で管理地を治める九つの種族が魔族で、それ以外が魔物という事になっています。

エリミナが、猫獣人であるように、ベルさんも何かの魔族だと思っていたのですが、魔物だと知ったショックは大きかったです。

「幻滅したかの?」

クリス様の言葉で、正気に戻りました。

慌てて周囲を見回しましたが、ベルさんは食堂を出て行った後の様です。

「いえ、そんな事はありません!ただ・・・幼い頃に見たゴブリンを思い出していただけです・・・」

私は素直に感じた事を話しました。

「そうか・・・ベルはゴブリンだが、われの大事な家族でもある、仲良くしてやってはくれぬか?」

「それは勿論です!あっ、私ベルさんに失礼な事をしてしまいました!謝りに行かないと!」

いくらゴブリンでも、顔を見て怖がるだなんて、やってはいけない事です!

私は慌ててベルさんに謝りに行こうとしました。

「まぁ待て、そんなに慌てていては、また失敗するぞ!」

クリス様に止められて、思い止まりました。

そうですね・・・謝っては余計に失礼になる事でした・・・。

「クリス様、ありがとうございます、後でベルさんには、改めて挨拶に伺いたいと思います」

「うむ、そうするが良いぞ、では、われは先に風呂に入って来るからの」

「はい」

クリス様は、食後にテーブルで腕枕をして寝ているエリミナを引っ張って出て行かれました。

私は、食事の後かたずけをしてから、ベルさんの所に向かう事にしましょう。

食事のかたずけを終え、お風呂に入って体を綺麗にした後、これまで書き溜めたベルさんへの手紙を携え、ベルさんの部屋の前までやって来ました。

心臓が張り裂けそうなくらい、ドキドキ言っています・・・。

後はノックをして、ベルさんに声を掛けるだけなのですが、手が震えてなかなか動いてはくれません・・・。

ここは一度深呼吸をして、落ち着きましょう。

「スーハー、スーハー・・・」

よし!覚悟を決めました!

ドアをノックし、声を掛けると。

ベルさんが出て来てくれました。

私は手に持っていた手紙の束を渡し、走って自室まで戻り、ベッドに転がって布団をかぶりました。

私の手紙を読んで、ベルさんはどの様に思ってくれるでしょうか・・・。

ベルさんの顔はゴブリンでしたが、話した時の印象は変わっていませんでした。

明日の朝が勝負ですね!

しっかりと自分の気持ちを伝え、ベルさんと結婚して貰わなくてはいけません。

ベルさんを待っている間に、更に一つ歳を重ねましたし・・・私に残された時間は少ないのです。

この張りのあるお肌の内に、ベルさんを射止めて見せましょう!

明日の事を考えると、今夜は眠れそうにありませんね。

私は期待と不安を胸に、一夜を過ごす事となりました・・・。


セレスティーヌは、俺が冒険者となった時に侍を勧めてくれた、受付嬢のマリアーネだった。

クリスティアーネの眷族となった事で、髪の色が変わったのだろう、手紙を読むまで気が付かなかったな・・・。

そんな事があったので、マリアーネの事はよく覚えている。

いつも笑顔で、親切に何でも教えてくれたからな。

俺はゴブリンだから、恋愛なんて無関係だと思い、意識して来る事は無かった。

今になって思い返してみると、マリアーネは他の受付嬢より、親切に接していてくれたのだと分かる。

俺の事を想い、好きだと言うのは手紙の内容を読めば誰にも分かる事だろう。

しかし、俺はゴブリンで、クリスティアーネの部下だ。

マリアーネ・・・いや、セレスティーヌの気持ちに応えてやる事は出来ないだろう。

エリミナと同じように、家族として接するのは問題無いが、結婚となるとどう考えても無理だな。

こう言うのは早い方が良いだろうから、明日の朝、セレスティーヌにきっちりお断りの返事をしよう。

そして翌朝、いつもの様に庭に出て、素振りを始めた。

龍族の所で修業して強くなったが、日々の研鑽を怠っていい訳がない。

俺が素振りを続けていると、屋敷からセレスティーヌが出て来るのが分かった。

クリスティアーネの眷族としてお互い繋がっているので、見なくても分かる。

セレスティーヌは離れた所から俺の素振りを見ているだけなので、素振りを続ける事にしたが、邪念が入って集中する事が出来ない。

俺は仕方なく素振りを止め、セレスティーヌの所に歩いて行った。

「セレス、おはようございます」

「ベルさん、おはようございます」

セレスティーヌは、昨日の様に俺を怖がっている様子は見受けられない。

俺は思い切って、昨日考えた返事を言う事にした。

「セレス、昨日の手紙は読ませて頂きました。

お気持ちは非常に嬉しいのですが、私はゴブリンで、クリス様の部下です。

ですので、セレスの気持ちに答えてあげる事は出来ません・・・」

俺の返事を聞いたセレスティーヌは、顔面蒼白となり、非常に落ち込んでいた。

それも当然だろう、俺と結婚するために、クリスティアーネの屋敷で働く事を決意し、結果的に眷族になったのだからな。

しかし、ここで俺が甘い言葉をかけてやる事は出来ない・・・。

その様な事をすれば、更にセレスティーヌが落ち込むのが目に見えているからな。

俺はセレスティーヌの言葉をじっと待つ事にした・・・。

セレスティーヌは顔を下に向け、嗚咽を漏らしている。

ドコーーーーーン!!

その時、俺はとてつもない衝撃で、その場から吹き飛ばされてしまった。

セレスティーヌに吹き飛ばされた!?

俺は訳が分からず、飛ばされた所から立ち上がり、様子を窺うと。

屋敷の二階の窓から、クリスティアーネが蝙蝠の翼を出し、目を赤く光らせて、ゆっくりと降りて来るのが見えた。

なるほど、俺はクリスティアーネに吹き飛ばされたのか・・・。

しかしなぜ?

意味が分からず、クリスティアーネの所に近づこうとした所、激しい殺気をクリスティアーネから受けた。

俺は慌てて蝙蝠の翼を出し、刀を抜いて身構えた!

龍族の所で修業を積んだ成果だろう、クリスティアーネの恐ろしさが嫌と言うほど分かる。

周囲の魔力は、全てクリスティアーネに持って行かれて、俺に集まる事は無い。

更に、俺の体内の魔力さえコントロールしようとしている。

これが、吸血鬼なのだな・・・。

俺は何とか、クリスティアーネがコントロールしようとしている俺の体内の魔力を、自分の物として支配するので精一杯だ。

「ほう、われに抵抗するとは、ベルも強くなったものだの!」

「龍族のおかげですね・・・」

しかし、クリスティアーネにどうしても勝てないのは目に見えている・・・。

俺は自分の体内にある魔力を使い果たした時点で、行動不能となり負けが確定する。

このままだと負けるので、魔力を龍気に変え、一気に勝負に出て見るか?

それもあっさり防がれてしまうだろうな・・・しかし、やらなければ殺されてしまう。

それだけ強烈な殺気を、クリスティアーネから感じていた。

しかし、殺される前にその理由くらい聞いておかないと、死ぬに死にきれないな・・・。

「クリス様、どうして私は殺されなければならないのでしょうか?」

「分からぬのか?」

「はい・・・」

クリスティアーネの表情が厳しくなった・・・俺は返答を間違えてしまったのか!

「ならば、もう一度死んで考え直すんだな!」

クリスティアーネの目が更に光った。

俺は魔力を龍気に変え、何時でも斬りかかれるよう準備をした。

「クリス様、お待ちください!」

その時、クリスティアーネに、セレスティーヌがしがみついた。

セレスティーヌがしがみついた所で、クリスティアーネが止まるとは思わなかったが、なぜかクリスティアーネの殺気が収まった。

「良いのか?われはセレスの事を思って、ベルにお灸を据えようと思ったのだがの・・・」

なるほど、俺はセレスティーヌの申し出を断った事で、クリスティアーネに殺される所だったのか・・・。

しかし、断った理由はセレスティーヌとクリスティアーネの事を思ってなのだが・・・。

誰もゴブリンと結婚したいと思わないだろう?

少なくとも俺が女だとしたのなら、絶対に嫌だと思う・・・。

クリスティアーネも、部下同士で結婚されては迷惑なのではないか?

あれ?・・・セレスティーヌの事を思って俺の事を怒ったのであれば、問題は無かったのか?

俺が考え込んでいると、クリスティアーネはセレスティーヌを振りほどいて、俺の傍に近寄って来た。

「ベルは、セレスの事が嫌いか?」

「いえ、正直に申し上げますと、ゴブリンの俺は、女性を恋愛の対象として見て来ませんでしたので、好きでも嫌いでもありません」

「ふむ、なるほどの」

「それに、私はクリス様の部下ですので、恋愛や結婚などするつもりはございません」

俺がそう答えると、クリスティアーネは眉をひそませていた。

「われがベルを眷族にした際、好きにしていいと言わなかったか?

それには恋愛も結婚も含まれておるのだぞ!」

確かに、好きにしていいとは言われたような気がする・・・。

「しかし、俺はゴブリンで、この顔では誰も好きになってくれるはずが無いでしょう!」

「ふむ、ベルは馬鹿だの・・・昨日この屋敷に戻って来てから、ベルは人の姿になったのか?」

「いえ、なっていませんが・・・」

「それなのに、セレスはベルに手紙を渡した・・・この事の意味が分からぬとは言わせんぞ!」

・・・確かに、セレスティーヌはゴブリンの俺の顔を見て手紙を渡してくれた。

最初は人に変装している時の俺を好きになってくれたのだと思っていたが、それなら昨日わざわざゴブリンの俺に手紙を渡す必要は無いな・・・。

「申し訳ございません・・・」

「謝る相手が違うのではないかの?」

「そうですね・・・」

俺は不安そうにこちらを見ている、セレスティーヌの前に行った。

「セレス、申し訳ありませんでした。

私の勘違いで、貴方を傷付けてしまったようです。

それで、先程の返事を訂正させてください」

「はい・・・」

セレスティーヌは真剣な表情で、こちらを見ている。

「今まで私は、セレスの事を、単なる受付嬢としてしか見て来ませんでした。

ですが、これからは恋愛の対象として見て行く事にし、お互いの事を良く知る為に、婚約と言う形にして頂けないでしょうか?」

俺がそう答えると、セレスティーヌは少し困惑していた。

「えーと、はい・・・ですが、私は二十三歳でして・・・あまり時間がありません、出来れば早めに結婚したいので、婚約の時期を短くして頂ければと思います・・・」

あれ?セレスティーヌは眷族になっているから、年齢は関係無いと思うのだが・・・。

もしかして、クリスティアーネが説明していないのか、多分そうなのだろうな。

「セレス、あのですね、クリス様の眷族となった事で、私達は不老不死となっていますから、老いる心配はありませんよ」

「そうなのですか!」

セレスティーヌは非常に驚いていた。

「うむ、そうだぞ、われが死なぬ限り大丈夫だの。

それとベル!婚約などと生ぬるい事を言わずに、結婚するのだ!

これからお互いの事を知りあう時間は、いくらでもあるのだからの!」

「確かにそうですが・・・」

クリスティアーネが言う事はもっともだが、眷属としてずっと一緒にいるわけだし、仲が悪くなったりしたくない。

そう思ったのだが・・・そうならないように、俺が努力していけばいい事か。

「・・・分かりました!」

俺はセレスティーヌの正面に立った。

「セレスティーヌ、ゴブリンの俺ですが、結婚してください!」

「はい!」

セレスティーヌは涙を浮かべて、柔らかな衝撃と共に、俺に抱き着いてきた。

「うむ、セレス良かったの」

「はい、クリス様、ありがとうございます」

「良かったニャン!」

いつの間にか、エリミナが近くに来ていた。

クリスティアーネから殺気が発せられていたからな、流石にエリミナも目を覚ましてきたのだろう。

「ここではなんだからの、中に入ってゆっくり話す事にしよう」

「そうですね、では少し早いですが朝食にしましょう」

俺達は屋敷の中に戻り、朝食を食べる事にした。

「ベルさん、私が作ります!」

「いいのか?俺が作ってもいいのだが・・・」

「いえ、これは妻となった私の役目です!」

「それなら今日の所は頼むよ」

「はい」

セレスティーヌは優しく微笑んで、朝食を作り始めた。

俺は、他の二人と共に食堂の席に座って待つことにした。

しかし、ゴブリンの俺が結婚するとは、思ってもみなかった事だ。

生前にも結婚できなかったのにな・・・。

しかし、結婚したからと言って、何か贈り物をしたり、結婚式を挙げたりするのだろうか?

「クリス様、私はこの世界で結婚について詳しく知らないのですが、何か特別な事をしないといけないのでしょうか?」

「ふむ、吸血鬼一族では魔族を集めてパーティを開くが、われはまだ参加したことが無いの・・・。

だが、眷属の結婚で何かをすると言う事は無いな」

「なるほど、エリーはどうなんだ?」

「ニャ?家族でお祝いをするだけニャン!」

「そうか、何かを贈ったりするわけではないのだな・・・」

「そういう事は、直接セレスに聞いた方が早そうだがの」

「そうですね」

俺は朝食の準備をしているセレスが来るのを待って、話を聞いて見る事にした。

「では頂くかの」

セレスティーヌが準備してくれた朝食を食べながら、先ほどの事を聞いて見た。

「セレス、とても美味しいよ」

「はい、ありがとうございます」

「所で、セレスとは結婚したわけだが、人の結婚と言うのは、何か特別な事をしたりするのだろうか?」

「あっ、そうですね・・・家族でお祝いをして、後はお互いに記念になる贈り物をします。

しかし、私はベルさんと結婚できただけで幸せですので、特に何もしなくても構いません・・・」

セレスティーヌはそう言うが、物欲しそうな表情をしている。

「分かった、贈り物は考えておくことにする、お祝いは・・・何か美味しい物を食べに行く事で構わないだろうか?」

「はい!ありがとうございます」

「ふむ、それはわれらも行っていいのかの?」

「勿論です、私達は家族なのですから」

「それもそうだの」

「美味しいもの食べに行くニャン!」

「食べに行く場所はまた後で決める事にして、今日はセレスに贈る物を買いに行く事にしますね」

「うむ、われも着いて行ってやろう」

「えぇ、お願いします」

俺達は朝食後、街に出掛ける事となった。

勿論セレスティーヌも一緒だ。

玄関を出て、人の姿に変装した。

セレスティーヌも変装したのだが、髪の色は違うが、何故かエリミナと同じ顔だ・・・。

「セレス、なぜその顔に?」

「エリーとは姉妹ですから、この顔にしたのですがいけなかったでしょうか?」

「そんな事は無い、なるほど、確かに姉妹だな」

「そうニャン!セレスは可愛い妹ニャン!」

二人で仲良さそうにしているのを見ると、間違いなく姉妹だな。

「では行くとするかの」

「クリス様、出来れば私の知り合いが多いソプアデスの街以外にして頂きたいのですが・・・」

「ふむ、ならネイナハル王都で構わぬか?」

「はい、ありがとうございます」

顔と名前を変えても、知り合いに合いたく無いのは分かるな。

行先も決まった事で、クリスティアーネが転移魔法で、ネイナハル王都近くの森にやって来た。

そこから歩いてネイナハル王都へと入った。

「セレスにも、冒険者登録して貰わねばの」

セレスティーヌはまだ冒険者カードを持っていなかったため、銀貨一枚を支払って街に入った。

「クリス様、もう少し強くなってからではいけませんか?」

「それは構わぬぞ、銀貨一枚など、大した金では無いからの」

「ありがとうございます」

セレスティーヌがどれほど強いのかは知らないが、夫となった俺が守ってやるから強くなって貰わなくても構わないがな・・・。

さて、何を贈ったらいいのだろう?

やはり指輪だろうか・・・。

そんな事を考えていると、エリミナから話しかけられた。

「ベル、約束を覚えているかニャ?」

約束?何かエリミナと約束をしただろうか・・・。

あっ!

「勿論覚えている、だが、それはセレスが綺麗にしていたのでは無いのか?」

「そうニャン!だけど、屋敷は綺麗だったニャ!ベルは他の人に手伝って貰ったらだめとか言って無かったニャン!」

・・・記憶を思い出しても、その様な条件は付けて無かった気がするな。

「分かった、では先にエリーとの約束を果たしに行こうと思いますが、クリス様、よろしいでしょうか?」

「うむ、構わぬぞ、われも食べたいからの」

クリスティアーネも甘い食べ物は大好きだから、ニコニコと笑顔で許可してくれた。

俺達はアイスクリーム屋に来て、席へと座った。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「メニューの端から端までニャン!」

注文を聞きに来た店員は、エリミナの注文に困惑していたが、再度確認してから戻って行った。

「ベルさん、私パフェを食べるのは久しぶりです」

「そうなのですね、確かソプアデスの街にもあったと思いますが・・・」

「勿論ありましたが、私が食べると太るので・・・主に胸が・・・」

「なるほど、でも、今からは気にしなくても大丈夫ですよ、今日は好きなだけ食べてくださいね」

「はい、分かりました!頑張って大きくしますね!」

セレスティーヌは笑顔で応えた、俺は太らないからいくらでも食べていいと言ったのだが、何を大きくすると言うのだ・・・。

間違いなく胸の事だと思うが、今でも目のやり場に困るくらい十分大きいです・・・。

とても甘くて美味しそうなパフェが、テーブルに次々と並べられていく。

それを三人が幸せそうな笑みを浮かべながら、次々と食べて行っている。

「ベルさんは甘いのはお嫌いですか?」

「いや、甘い食べ物は好きだが、単に意地を張っているだけで気にしないで下さい・・・」

「はい・・・」

セレスティーヌが俺がパフェを食べていない事を不思議に思ったのだろう。

俺もいい加減意地を張るのを辞めてもいいと思うのだが、まぁこうして三人が美味しそうに食べているのを見るだけで、俺は幸せに思うからこのままでも構わないな。

「すみません、もう今日の分の材料が無くなりました・・・」

俺の予想通り、昼過ぎには、店のパフェを食べ尽くしてしまった。

俺はお金を支払い店を出た。

「美味かったの!」

「美味しかったニャン!」

「はい、あんなに食べたのは生まれて初めてで、とても幸せでした!」

三人とも喜んでいるので、俺も嬉しくなってくるな。

「クリス様、私はセレスに贈る物を買って来ますので、ここで別れてもよろしいでしょうか?」

「む?一緒に買いには行かんのか?」

「はい、セレスに贈る物は、一人で決めたいと思いますので」

「そうだの、セレスは我が守っておるから、行って来ると良い」

「ありがとうございます、それと、セレスに食事の時に着るドレスを買って置いて貰えませんか?」

俺はクリスティアーネに耳打ちした。

「うむ、分かった、ベルもセレスのドレスに合うような服を買っておくのだぞ!」

「分かりました」

俺は三人と別れて、別行動をする事にした。

分かれる際、セレスティーヌが寂しそうな表情を見せていたが、結婚記念として贈る物は秘密にしておきたいからな。

取り合えず、服をどうにかしないといけないな。

この様な安物の服だと、貴族が使うような高級店には入りずらい。

洋服店を探す事しばし、流石王都だな、看板に王家御用達と書かれた、使用人の服専門店があった。

俺はその店に入り、体に合う執事服を数点買い求め、その場で着替えさせて貰った。

執事服なら、高級店に入っても文句を言われる様な事は無い。

俺は迷わず宝石店へと入って行った。

「いらっしゃいませ~」

腰の低そうな店員が、笑顔で俺に近づいて来た。

まぁ、目は執事一人で何しに来たんだという様な感じだが・・・。

「お客様、何をご希望でしょうか?」

「お嬢様に贈る指輪を見せて貰えないか?」

「畏まりました、こちらへいらしてください」

自分の妻に贈る物だと言えば、相手にしてくれないかも知れないから嘘をついた。

店員はカウンターへと行き、カウンターの奥から幾つか箱を持ち出して、中を開けて見せてくれた。

どれも美しい装飾の指輪だった。

しかし、メイドのセレスティーヌが普段付けているには、少し邪魔になるな。

「すまない、お嬢様はあまり派手なのを好まない、値段は高くても構わないが、もう少し装飾の少ない物を見せてくれないか?」

「承知しました」

店員はカウンターの奥から別の箱を持って再び見せてくれた。

俺はその中から一つ選んだ。

「これを貰えないだろうか」

「これはお目が高い!こちらの指輪は希少なピンクサファイヤを使用しております。

大きさは小さめですが、若いご婦人たちには人気が高い商品となっております。

その分お値段はお高く、金板三十枚となっておりますが、いかがでしょうか?」

店員は払えるのか?と疑いの目を俺に向けて来ている。

俺は金板三十枚を収納から取り出し、店員に支払った。

「ありがとうございます、お包みしますので少々お待ちください」

店員は指輪を別の高級な木箱に移し、俺に渡してくれた。

もっと高く付くかと思ったが、意外と安かったな・・・。

いや、普通の冒険者が買う事は出来ないか・・・。

普段食べる事以外にお金を使う事は無いし、お金を稼ぐ事も簡単だから、感覚が麻痺していたのかもしれない。

それも、クリスティアーネが、奴隷のオークションで金板二千枚使ったのがいけないのだ・・・。

あれで何か感覚が麻痺していたのだと思う。

俺は宝石店を出て、貴族が使う洋服店へとやって来た。

そこに飾られている服は、どの服も派手な刺繍が施されていて、俺はその中から、出来るだけシンプルな服を一着買った。

後は、食事をする所を予約すればいいだけな。

その前に、クリスティアーネに状況を聞いて見た方が良いな。

『クリス様。セレスの服は決まりましたでしょうか?』

『うむ、美しい服を買ってやったぞ、しかし、セレスは胸が大きいからの・・・仕立て上がるまで五日掛る』

『分かりました、では食事をする日は、一週間後に予約を取って置きます』

『うむ、頼んだぞ!』

『はい、予約を取りましたら、そちらに合流します』

俺は貴族が宿泊する高級宿屋へ行き、一週間後に一泊する予約をした。

結婚記念日となるのだから、この日は屋敷に戻らず、ゆっくりしたいと思ったからな。

それと馬車も、王都の入り口まで来て貰えるよう手配して貰った。

ドレスを着て街を歩く訳には行かないだろうからな。

宿屋を出た後、クリスティアーネに連絡を取り合流した。

案の定クリスティアーネ達は、買い物を終えた後、甘味処で美味しそうにお団子を食べていた。

用事が済んだので屋敷に戻り、家事をする事にした。

その日から、家事はセレスティーヌと一緒にやる様になり、そこで俺の事を色々話して行った。

俺が転生者である事や、ゴブリンに転生してから、沢山の人を殺した事がある事も、包み隠さず話した。

しかし、それでもセレスティーヌは驚きはしたものの、俺の事を嫌いにはならなかった様だ。


そして一週間後、俺達は午後からネイナハル王都の宿屋に一泊するための準備をしていた。

俺は服を着替えて終わりだが、女性達の準備が中々終わらない。

俺が手伝ってやることも出来ず、こうして待つ事しか出来ない訳だが、これで正式にセレスティーヌと結婚するのかと思うと、そわそわして気持ちが落ち着かない。

まぁ、夕食の時間に間に合えばいいので、慌てる必要は無いのだが、手持ち無沙汰だな・・・素振りでもして時間を潰すか。

俺がそう思っていると、ようやく三人が俺の待っている食堂へと姿を現した。

「どうだ、美しいであろう!」

クリスティアーネは、いつものゴスロリ服では無く、黒いドレスを着ていた。

確かに美しいが、まだまだ可愛いと言った方が合っているな。

「クリス様、とてもお美しいです!」

そう思っていても、主を立てなければならないからな。

「私も綺麗だニャン!」

エリミナもピンクのドレスを着ていて、いつものポーズをしている。

そのポーズが無ければ、素直に綺麗だと思うが、実に惜しい。

「エリーも綺麗だよ!」

そして俺の妻であるセレスティーヌは、廊下から顔を半分覗かせているだけで、食堂には入って来ていない。

「セレス、何時まで恥ずかしがっておるのだ!早くベルにその姿を見せてやらぬか!」

クリスティアーネがセレスティーヌを急かして、ようやく姿を俺に見せてくれた。

・・・。

俺は余りの美しさに言葉を失ってしまった。

純白のドレスで、胸元が大きく開いており、セレスティーヌの大きな胸が強調されている。

「あの・・・恥ずかしいので、あまり見ないで下さい・・・」

おっと、俺が胸を見ていた事がばれたようだ。

「すまない、とても美しかったので見惚れていた」

いくら綺麗でも、女性の胸を見るのは失礼だな、なるべく見ない様にしよう・・・。

とは言っても、どうしても開いた胸元に視線が行ってしまうのは、悲しい男の性だな。

「では出かけるとするかの」

全員の準備が終わったので、クリスティアーネの転移魔法でネイナハル王都へとやって来た。

街の入り口には、用意して貰った豪華な馬車が俺達を待ち構えていた。

俺達は馬車に乗り込み街中を移動していた。

「こんな豪華な馬車に乗れるなんて、お姫様になったような気分です!」

セレスティーヌは馬車に乗ってからはしゃいでいた。

俺も転生してから初めて馬車に乗るが、車と違ってサスペンションなど付いて無いから、地面からの衝撃が直接伝わって来て、乗り心地は良くない。

それでもセレスティーヌが喜んでくれているので、用意して貰ってよかったな。

馬車は宿屋へと着き、豪華な部屋に案内された。

「うわぁ~、凄く豪華な部屋ですね!」

「うむ、そうだの」

「落ち着かないニャン・・・」

クリスティアーネの屋敷も豪華な造りではあるが、派手な内装では無いからな。

エリミナが言ったように、俺もなんだか落ち着かない。

「扉の前に待機しておりますので、御用の際はベルを鳴らしてお呼びください」

部屋に案内してくれたメイドが一礼をして出て行った。

「夕食まで時間がありますので、ゆっくりと過ごす事にしよう」

「そうするかの」

「はい!」

「ベッド、ふかふかニャ~!」

エリミナはさっそく寝室に向かって、ベッドに寝転がっていた。

クリスティアーネはソファーに座り、置いてあったベルを鳴らしてメイドを呼びつけていた。

俺もソファーに座ると、隣にセレスティーヌが寄り添うように座って来た。

「お呼びでしょうか」

「うむ、紅茶を頼む」

「畏まりました」

メイドは俺達三人に紅茶を入れると、部屋を出て行った。

「たまには、こうしてゆっくり過ごすのも良いものだの」

「そうですね、訓練の際には休む暇もありませんでしたから」

俺とクリスティアーネは、紅茶を飲みながらゆっくりしていたが、セレスティーヌはこのような部屋に慣れないのか少し落ち着かない様子だ。

「ベルさん、この部屋はお貴族様が泊まるような所ですよね・・・一般庶民の私が泊まってもいいのでしょうか?」

「お金さえ払えば、宿屋としては問題ないはずです。

それに、今の私達は貴族ですよ、何も気にする必要はありません」

「そうですね・・・」

セレスティーヌは自分のドレス姿を見て、自分に私は貴族と自己暗示をかけているようだった。

「そうだ、今のうちに贈り物を渡しておきましょう」

俺は収納から、セレスティーヌに贈る木箱を取り出した。

「クリス様、私のもお願いします」

「うむ、これだったの」

クリスティアーネも、俺のより少し大きめの木箱を取り出し、セレスティーヌに手渡した。

まずは俺がセレスティーヌに木箱を手渡した。

「開けて見てくれ」

「はい」

セレスティーヌは、ゆっくりと木箱を開け、中の指輪を見ると喜びの表情を見せていた。

「綺麗~!ベルさん、ありがとうございます!」

「俺が指輪をはめてやろう」

俺は箱から指輪を取り出し、セレスティーヌの左の薬指にはめた。

「セレス、よく似合っているよ」

「ありがとうございます!私のも開けてください」

セレスティーヌに促されて、受け取った木箱を開けると、金のネックレスが入っていた。

「セレス、ありがとう」

「はい、でも本当は、私も指輪を贈りたかったのですが、ベルさんは刀を使いますので、邪魔になるかと思いそちらにしました」

「その気遣いは嬉しいよ、付けてくれるかい?」

「はい!」

セレスティーヌは木箱からネックレスを取り出し、俺の首に付けてくれて、そのまま抱き着いてきた。

「ベルさん、とても幸せです!」

「俺も幸せだよ」

セレスティーヌの背中に手をまわして、優しく抱きしめた。

ずっと、セレスティーヌの柔らかさと温かさを感じていたいと思った・・・。

「あ~、そう言うのは二人きりの時にやってくれぬかの・・・」

クリスティアーネに指摘されて、俺達は慌てて離れた。

「「クリス様、申し訳ございません」」

二人そろって謝った。

確かに他人がイチャイチャしている所は、あまり見たくないよな・・・出来るだけ気を付ける事にしよう。

「うむ、それより二人共おめでとう、これは、われとエリーからの贈り物だ」

クリスティアーネは、セレスティーヌに収納の魔道具を贈っていた。

「こんな高価な物を、ありがとうございます」

「可愛らしい物では無いがの、そう言うのはベルに勝って貰うと良い」

「はい!」

何を買わされるのか分からないが、また稼いでおいた方が良さそうだな・・・。

それから暫くして、メイドから夕食の準備が整いましたのでお運びいたします。

と声を掛けられ、次々と隣の食堂に食事が運ばれてきた。

匂いに釣られて、エリミナも起きて来たので、皆で席に座り、夕食を頂く事にした。

「ベル、セレス、結婚おめでとう!」

「結婚おめでとうニャン!」

「「ありがとうございます」」

二人に祝福されて、食事が始まった。

次々と運ばれてくる、豪華なコース料理に舌鼓を打つ。

「美味いの」

「美味しいけど、量が少ないニャン!」

「ベルさん、とても美味しいです!」

「そうだな、俺もこの様な味付けが出来ればいいのだが・・・」

やはり、家庭料理とプロの料理人が作る料理では、差が大きく出てしまうものだな。

「いえ、ベルさんの料理もとても美味しいですよ!」

「それを言うなら、セレスの料理も美味しくて俺は好きだぞ」

「ふむ、どちらの料理も美味い事には変わり無いの」

「そう思うニャン!」

四人で楽しく会話しながら食事を終え、風呂に入って、いざ寝る事となった。

「二人は一緒のベッドで寝ても構わないぞ」

「二人で仲良く寝るニャン!」

クリスティアーネとエリミナが、寝室にあるダブルベッドを指して、一緒に寝るように言って来た。

寝室にはダブルベッドの他、シングルベッドが四つあるから、一人ずつ寝ても問題は無い。

俺は最初からセレスティーヌと一緒に寝るつもりは無く、この様に皆で寝られるような部屋を取った訳だ。

それは何故かと言うと、俺の覚悟がまだ出来ていないのもあるが、今は変装していて、お互い本来の姿では無いからな。

俺の顔は、変装していた方が良いと思うが、セレスティーヌの方は見た目がエリミナなので遠慮したい。

エリミナが嫌いなわけでは無く、エリミナの顔で至ってしまうと、エリミナの顔をまともに見れない様な気がしたからだ。

一緒に寝る様に勧められたセレスティーヌはと言うと、顔を真っ赤にして、俺と一緒に寝ていいのか迷っている様だった。

しかし、ここで一緒のベッドで寝ないと、またクリスティアーネの怒りを買ってしまうかも知れないな・・・。

「セレス、一緒に寝ようか・・・」

「・・・はい」

俺が声を掛けると、セレスティーヌはさらに顔を真っ赤にして、ゆっくりと頷いた。

二人で一緒のベッドに横になったが、心臓はドキドキと高鳴っていて、とても寝られる状況ではない。

それはセレスティーヌも同じの様だが、こちらをじっと見つめて来ている。

「ベルさん・・・手を握ってもいいですか?」

「あぁ、構わない・・・」

セレスティーヌは俺の手をそっと握って来た。

「ふふっ、温かいです」

セレスティーヌは穏やかな笑みを浮かべていた。

「このまま寝ますね、ベルさん、おやすみなさい」

「セレス、おやすみ」

セレスティーヌはそう言って目を閉じて眠った。

俺も目を閉じ、寝ようと思ったが、多分朝まで眠れないんじゃないかと思う・・・。


結局、俺は一睡も出来ず朝を迎えた。

隣には、可愛い寝顔のセレスティーヌが寝ている。

いつもなら起きて素振りをしている時間だが、今日はそう言う訳には行かない。

手も握られているから、もう暫くセレスティーヌの寝顔を見て過ごす事にしよう。

それから暫くすると、セレスティーヌが目を覚ました。

「ベルさん、おはようございます」

「セレス、おはよう」

俺達は朝の挨拶を交わし、起き上がった。

「セレス、クリス様を起こしてくれないか、俺はエリーを起こす」

「はい」

俺はエリミナのベッドの横に行って声を掛けた。

「エリー、朝食が来るので起きてください!」

「ご飯かにゃ~」

朝食はまだなのだが、食べ物で釣らないとエリミナは起きないからな・・・。

目を擦りながら、エリミナがゆっくりと起き上がった。

「エリー、おはよう」

「おはようニャン!」

エリミナが起きた頃には、クリスティアーネも起きて来ていた。

「俺は出ていますので、朝食が来るまでに寝間着から着替えてくださいね」

俺はそう言って、寝室を出た。

俺もそこで着替えて、ソファーに座って皆の着替えを待つ。

皆が着替え終えて出て来たので、メイドを呼び、朝食を手配して貰った。

朝食を食べ終え、宿屋を後にした。

帰りも馬車で、街の外まで送って貰い。

転移魔法で、屋敷に帰って来た。

「夢のような一日でした」

「そうだの、われは城にいた頃を思い出したの」

「ご飯美味しかったニャン!」

食堂で紅茶を入れていると、皆それぞれ感想を述べていた。

「機会があれば、また行きましょう」

「ベルさん、本当ですか!」

「一年に一度くらいは、あのような贅沢をしても構わないでしょう」

「うむ、そうだの」

「嬉しいです!」

セレスティーヌはとても喜んでいた。

宿屋の値段も、一人金貨一枚だったからな。

薬草を納品すれば、すぐ稼げる値段だ。

クリスティアーネも認めてくれた事だし、また機会を作って行く事にしよう・・・。

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